4−35:白の石板
第4層を探索して見つけた、石製の宝箱。その中から出てきたのは、白い色をした謎の石板だった。
ハートリーさんが石板を何度かひっくり返して観察している。その様子から察するに、どうやら彼女にとっても未知の物体であるようだ。
「ン〜……ナニコレ? 変な絵書いてるヨ〜?」
「確認は階段でやろう、ハートリーさん。ここはモンスターポップ率も高いし、危険だ」
「オウ、そ〜だったネ! これ、リュックに入れるヨ〜!」
自身のリュックに、ハートリーさんが石板を入れる。それを背負い直したのを確認してから、また5人固まって下り階段へと移動を開始した。
◇
「よし、ここで少し休憩しようか。恩田さんも、あれだけ強力な魔法を放つとなると疲れてるだろう?」
「ええ、それではお言葉に甘えますね」
第5層への下り階段に入ってすぐ、ステップに座って休憩する。実際のところ、ビューマッピングをそこそこ使っていて魔力残量はだいぶ減っていたからな……ここで休憩を入れてもらえるのはありがたいところだ。
「よっト。ン〜……」
俺の右隣に座ったハートリーさんが、石板を取り出して念入りに確認し始めた。さっき彼女が言っていた"変な絵"とやらが、白い石板の謎を解く鍵になればいいのだが……。
「ところで、どんな絵なんだ?」
「ん〜と、ブイ、ピラー……かナ? セミサークルとウェイビーライン、クロスマークとあるヨ」
ハートリーさんの肩越しに、一緒に石板の絵を眺めてみる。
「ああなるほど、こりゃローマ数字の6だな」
「ローマスウジ? ロク?」
「ああ、そうだ」
"Ⅴ"と"Ⅰ"が合わさって"Ⅵ"と書かれていたら、俺にはもうローマ数字の6以外思い付かない。ブイとピラー……確か、柱だったっけな? なるほどハートリーさんにはそう見えるわけか。
「で、こっちの波線は……絵の雰囲気的に川を指してるのかな? そうなると、この半円みたいなのは階段の入り口と考えるのが自然だろう。それなら、×印はおそらく……」
……まあ、これは以前権藤さんにも報告したし、局長級会議で周知したって言ってたからな。この場で言っても問題は無いだろう。
「……試練の間がある位置を指している、かな?」
「「「「試練の間?」」」」
「ええ」
「きぃ」
ずっと出番が無く静かだったヒナタが、ここでようやく声を上げる。まだ随分と緊張しているみたいだが、横浜ダンジョンに慣れるまではあと少し時間が必要みたいだな……とまあ、それはそれとして。
「ヒナタを仲間にできたのも、試練の間を攻略したことがきっかけでした。無知ゆえにとんでもない目に遭いましたけど、今となっては良い思い出ですよ」
「きぃ」
ヒナタを撫でつつ、そう答える。試練の間攻略からの特殊モンスター戦はかなりハードだったが、おかげでヒナタが仲間になったのだ。その後の探索において、大きなプラスになったのは間違いない。
「試練の間とやらの存在は、亀岡ダンジョン局長から情報を聞いたと持永局長が言っていたが……やっぱり、情報源は恩田さんだったのか。それを聞いて、ここでも試練の間探しが流行った時期があったよ。全然見つからなくて下火になったけどな」
「しかし、この石板が指し示す場所を探せば、あるいは……」
菅沼さんが、どこか物欲しそうにじっと石板を見つめている。
……試練の間を攻略したことで、俺はヒナタ、朱音さんはアキという仲間を得た。2回分しか実例が無いが、ここでも同じような結果を得られる可能性は高いと思う。
「ちなみに、この"Ⅵ"は第6層を指しているのだと思います。ラッシュビートルを倒せることが条件になりそうですが、探索してみる価値はあるかと。ああ、それと……」
これは非常に大事なことなので、きちんと伝えておかなければ。
「もし試練の間へ行くつもりでしたら、十分に覚悟してください。俺は2度経験しましたが、どちらも攻略難易度は非常に高かったです。
……矛盾しているかもしれませんが、命を賭けて行動しなければ命を落としかねません」
「「「「………」」」」
あえて低めの口調で話したからか、4人は少し驚いているようだ。
……だが、試練の間に挑んだことがあるのは、この場では俺とヒナタだけみたいだからな。その危険性は、ちゃんと伝えておかねばなるまい。
「……そんなにヤバいのか、試練の間ってのは?」
「ええ。最初に俺1人で挑んだ試練の間では、第10層の例のアレよりも遥かに強いモンスターに追い回されましたからね。頑張れば勝てるとかそういう次元の相手ではなく、本気で人生の終わりを覚悟しました。
……おかげさまで、今では大抵のことには動じなくなりましたよ。どんな特殊モンスターと対峙しても、例のアレが出てきた時も、"試練の間で出てきたアイツよりは弱いな……"といった感じでしたから。そういう経験を積みたいのでしたら、1度行ってみるといいかもしれません。
……というわけで、早速チャレンジしてみますか? 試練の間に」
「「「「………」」」」
やはり、皆悩んでいるな。特に嘉納さんと菅沼さんは、トップ探索者だけあって試練の間挑戦には慎重な姿勢のようだ。
言ってしまえば、試練の間はハイリスク・ハイリターンのギャンブルだ。掛け金は自らの命という、コスパ最悪のな。あるいは、某野球ゲームを嗜む人にとっては◯イ◯ョーブ博士の強化手術みたいなものかもしれない。
「………」
もっとも、試練の間によって難易度はかなり変動するみたいだけどな。1回目 (真紅竜に追い回された時)は逃走することそのものが試練になっていたので途中リタイア不可だったが、2回目 (モンスターとの連戦)はいつでも試練を打ち切って逃げることができた。明らかに1回目の方が試練内容が厳しく、その分得られた物も良いものだった。
……アイテムボックスに入れっぱなしな博愛のステッキ、どうにかすれば再利用できそうな気がするんだよな。そうでなければ、使った時点で消滅していてもおかしくないし。あの時は持っていたくなくて、すぐアイテムボックスに放り込んでしまったが……亀岡ダンジョンに戻ったら、色々と試してみようかな。
まあ、それはともかく。
「……もし、それが本当に試練の間であるなら、私は挑戦してみたいです」
最初に答えを出したのは、三条さんだった。
「命を賭けてでもか?」
「はい。私はパーティリーダーとして、メンバーを守る義務がありますから。そのための力を得られるのであれば、挑戦してみたいと思います。
……それにもし、私が試練の間で命を落としたとしても、それは私がそこまでの人間だったというだけの話です」
「……私モチャレンジするヨ!」
続けて声を上げたのは、ハートリーさんだった。
「ハートリーさん、危険かもしれないんだぞ?」
「モトより危険なんてノープロブレムヨ! 私コレしか無いんだかラ、負けるわけにはいかないのヨ!」
それは、まさに魂の叫びだった。メンツとかプライドとかそういうチンケなものではなく、後の無い人間が見せる死にもの狂いの行動というか……とにかく、並々ならぬ気迫をハートリーさんから感じた。
「……ああ、2人の覚悟は十分伝わった。というわけで、嘉納さん、菅沼さん。明日辺り、2人を連れてこの場所を探索してきますね」
「……あ、ああ、任せたよ恩田さん」
「道は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。第4層までの地図はもう作ってありますし、第5層は適当に抜けていきますんで」
「そうですか……え、いつの間に?」
困惑している菅沼さんには申し訳ないが、これは【空間魔法】が大きく絡むことなので教えることはできない。
「そこは、企業秘密ということにしておいてください」
「……分かりました」
さて、明日以降は大変になるな。今日はしっかりと寝て、万全の状態を整えておかなければ。
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