4−34:散らばった物を拾い集めるのって、普通に考えて大変すぎるよな
「……さて、そろそろ雷がやんだ頃ですかね」
雷撃音が聞こえなくなってから、30秒くらいはフロアに入らずに待つ。やんだと思っていても、居残りの雷が落ちてきたことが亀岡ダンジョンでは時折あったので、少し待ってから第4層のフロアへと足を踏み入れた。
そんな俺の少し後ろを、4人がゆっくり付いてくる。普段は一気に駆け抜けているらしいので、こうやって第4層に立ち入ることに慣れていないのだろう。
そして……。
「きれいですね……」
「ワァ〜! スゴい! スゴいヨ、ミスターオンダ!」
「すげぇな……」
「すごいわね……」
床一面に散らばる、大量の魔石と装備珠。色とりどりの石に光が反射し、幻想的な光景を辺りに映し出していた。
まあ、俺としては見慣れたものだ。今さら感動もへったくれもない。朱音さんたちも最初はその光景にいたく感動していたが、最近はアイテムボックス・収納を催促するほどに慣れたからな。いくら美しい光景とはいえ、見ていてもダンジョン探索は進まないので当然と言えば当然だがな。
「………」
しかし、このタイミングでアイテムボックスを使うのはちょっと良くない。1個2個をこっそり拾うだけならバレないかもしれないが、100個単位で何かがごっそり消えればさすがにバレてしまう。
「三条さん、風の魔法を使ってドロップ品を集められるか? 亀岡ダンジョンだと、最近は試作品の掃除機みたいなので集めてたからまだ楽だったけど……今は持ってないからさ」
「えっと……はい、できると思います」
三条さんに問いかけてみると、可能との返事だった。それなら、三条さんに任せてみようかな。
ちなみに、ドロップ品収集用機器についてだが……これ、嘘っぽいように聞こえるかもしれないが、実は本当の話だ。
亀岡ダンジョンの探索者が増えたためか、日々様々な要望が権藤さんの元に集まってくるらしいのだが……その中に『魔石や装備珠をしゃがんで拾い集めるのが大変なので、立ったまま手軽に集められる物が欲しい』という要望があったんだそうだ。
権藤さんもそのキツさは理解していたようで、どうにかしようと色々考えて俺にも相談がきていたのだが……どこでその話を聞きつけたのか、某電機メーカーから権藤さんに連絡があったらしい。曰く『ドロップ品収集機のサンプルを作ったので、1度試してもらえないか』と。
しかも、メーカー担当者が亀岡ダンジョンまで直接訪れて、実機を用いながら権藤さんにプレゼンするほどの本気ぶりだ。その熱意に押された権藤さんを介して、俺にサンプル品の試用を依頼されたのが大体2週間くらい前だったはずだ。
で、その実機を見てみると、一言で言えばハンディ掃除機だった。当然ながらコードレス式で、本体とヘッドをつなぐ管の部分が伸び縮みしてコンパクトに収納できるタイプのものだった。俺が今まで出会った通常モンスターに限れば、どのモンスターの魔石も吸うことができそうなくらいに口は広かった。
一見すると、よくできているように見えたのだが……。
「あ、ソレ見たヨ! すっごい吸引力だったネ!」
「ここでも話題になってたな。亀岡ダンジョンの動画配信で、なんかテレビショッピングみたいなことをやってるって」
「ライブ配信にしなかったのは、何か理由があったのですか?」
「……吸引力自体は十分あったんですけどね。探索者目線で使ってみると、それ以外の課題点がいくつか出てきてしまいまして。それらを悟られないために、動画配信の形式にしました」
課題点が露わになることで、サンプル品やその後の完成品に対するイメージダウンに繋がる。それだけでなく、ほぼ確実に出てくるであろう類似品や模倣品は、最初から課題点を克服した物が出てきてしまう。課題点をうまくごまかして紹介することで、サンプル品を宣伝しつつそれらの問題をクリアする、というのが狙いだったわけだ。
ライブ配信は、その辺が全て一発勝負になってしまうので避けた。そのうえで、どうすれば良い塩梅になるのかを某電機メーカー担当者とも打ち合わせ、作成した動画を確認してもらったうえで亀岡ダンジョンチャンネルで配信させてもらったのだ。
既に俺が気付いた課題点は伝えてあるので、しばらくすれば完成品が亀岡ダンジョンに届くだろう。
「"風刃"」
――ビュッ!
――ズバッ!
「「「ギッ!?」」」
三条さんが刀を振り抜き、風の刃を高速で飛ばす。少し離れた位置でポップしたゴブリン3体が、真空波によって切り裂かれ魔石に姿を変えていった。
……凄まじい反応速度だな、俺の検知とほぼ同時だったぞ。
「とりあえず、この大量のドロップアイテムを集めてしまいましょうか。"トルネード・コレクトネス"」
――ゴウッ!!
「うおっ!?」
三条さんが魔法を唱えると、三条さんを中心に小さな竜巻が渦巻き始める。その竜巻に引き寄せられるように、強い風が第4層内の足元にのみ吹き始めた。
……なるほどな。高い所に風を吹かせる必要は無いのだから、風の範囲を限定して魔力消費を抑えているわけか。
――ゴロゴロゴロ……
「ドロップアイテムが集まってくる……」
「すごいわね……」
「菅沼さんなら、同じことができるんじゃないですか? ほら、【賢者】のギフトをお持ちですし」
良いタイミングだったので、ずっと気になっていたことを菅沼さんに聞いてみることにした。【賢者】という響きからして、魔法系ギフトの最高峰であるように聞こえてしまうのだが……違うのだろうか?
「私のギフト【賢者】は、言ってしまえば攻撃魔法一辺倒なんです。属性の縛りは一切無いのですが、魔法でドロップアイテムを集めたり、傷を癒したりといったことは全くできないんです」
「あ〜、なるほど……」
某国民的RPGのような、万能型魔法職のイメージではないということか。同じゲームで例えるなら、どちらかと言うと"魔法使い"のようなギフトなのだろう。
……なるほど、だからフラッシュや回復魔法のような、補助的な効果をもたらす魔法を菅沼さんは使えないのか。まあ、属性縛りが無いだけでも、【賢者】が優れたギフトであることに変わりは無いけどな。
「集め終わりましたよ」
「ありがとう、拾うのは俺らに任せてくれ。三条さんには周囲の警戒をお願いしたい」
「はい、心得ました」
足元にできたドロップアイテムの山を、4人でひたすら拾ってリュックに収めていった。
やがて、ドロップアイテムが全てリュックの中に収まった頃。
「……お?」
「……あら?」
俺と三条さんが、ほぼ同時に気付く。
「ど、どうしたデスカ?」
「宝箱が1つあるな。あと、台座も。やっぱりここにもあるのか」
「確かに、宝箱の存在は私にもすぐ分かりましたが……この、不思議な形をしたものが台座ですか?」
「ああ。低ランクの装備珠10個を使って、1つ上のランクの装備珠を得られる。色は揃える必要があるし、仕様がどのダンジョンも同じならランク3までしか上げられないけどな」
「へえ……」
「「「………」」」
第4層を駆け足で抜けてしまっていたからか、台座の存在にはやはり誰も気付いていなかったようだ。これをうまく使えば、第4層の時点でランク3の装備を得られるんだけどな……。
装飾品は必要数が多いので揃えるのは難しいが、武器と防具だけなら必要数も少なくて済む。特に、ランク3武器があればラッシュビートルにも楽にダメージを与えられるので、俺個人としてはおすすめだ。
……まあ、第4層のモンスターをなんとかして全滅させないといけないので、他の人たちからしたらハードルは高いのかもしれないけどな。
「とりあえず、宝箱を開けに行ってみましょうか」
「そうしましょう」
5人で固まって、宝箱がある場所まで移動する。
……近付いて見てみると、宝箱は石製だった。下から2つ目のランクで、どうやらそれなりの物が入っているようだ。
「誰が開ける?」
「では――」
「ハイハイ! 私が開けたいデ〜ス!」
三条さんが手を上げようとするのを遮って、ハートリーさんが大きく前に出る。その姿を、三条さんがどこか微笑ましいものを見るような笑みで……いや、よく見ると目が笑ってねえな。
あの〜、頼むから仲良くしてね?
「……分かった、今回はハートリーさんに任せるよ」
「イエス! 良いの引くヨ〜!」
張り切っているハートリーさんには申し訳ないが、これが銀製以上の宝箱だったらハートリーさんには開けさせなかった。銀製以上の宝箱には罠が仕掛けられている可能性がある、という情報がネット上にいくつもあり、ある程度信頼性の高い情報であろうと俺は判断しているからだ。
かと言って、木製や石製の宝箱が絶対安全かと言うと、必ずしもそうとは言い切れないのだが……まあ、ここなら何かあってもフォローできる。何かあればすぐ防壁を展開できるよう、後ろで構えておこう。
「いくヨ〜!」
――ガチャッ!
予想通り、ハートリーさんは罠になんら警戒することなく宝箱を開けた。
……ただ、やはり罠は無かったようだ。ハートリーさんが宝箱の中に手を入れる。
「……ナニコレ?」
そこから出てきたのは、白い石板だった。
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