4−33:恩田、第4層の本当の攻略方法を知る
「あそこだ」
「やァッ!」
――ドシュッ!
「「キィッ!?」」
俺が指差した方へ、ハートリーさんが水弾を放つ。水弾は寸分の狂いなく、ブラックバットへと命中し……その姿を魔石へと変えていった。
「ヤァ〜、やっぱり調子いいネ♪」
「まったく、そんな気はしてたけどな……」
ハートリーさんに詳しく聞くと、やはりと言うべきかアメリカでもパーティメンバーが索敵をしてくれていたようだ。その人がモンスターのいる方向を細かく指示してくれたので、ハートリーさんは歩きながらその方向へ攻撃を放つだけで良かったらしい。
……ただ、さらなるダンジョン奥地への到達を目指すのであれば、このままではマズいとそのパーティのリーダーは考えたようだ。ハートリーさんに『日本式の細やかな探索を学んでこい』というような言葉で言いくるめて、横浜ダンジョン留学へと送り出したらしい。ハートリーさんの日本語はその準備期間中に、ひたすらアニメや動画などを見聞きして覚えたそうだ。凄すぎる……。
正直に言わせてもらえば、そのパーティリーダーに"お前らでちゃんと教えろよ"と文句の1つも言いたいところだが……1度こうしてハートリーさんに関わった以上、見捨てるのはやはり寝覚めが悪い。
それに、短期間であれほど日本語で会話できるようになるというのは、並大抵のことではない。日本に少しでも馴染めるよう、ハートリーさんなりに相当な努力を積んだのだろう。その心意気に免じて、俺から何かを教えるというのは個人的にやぶさかではない。
「………」
「………」
……ただ、第3層に入ってからなぜか時折、背筋に氷柱でも入れられたかのような悪寒を感じるようになった。風邪でも引いたか? ちょっと気を付けないとな……。
第3層をサクッと抜けて、第4層への下り階段までたどり着く。ここを下りれば、モンスターだらけの地獄の階層だ。
「第4層は……まあ、さすがに大丈夫だろう?」
「はい、問題ありません」
「ダイジョウブヨ〜!」
さすがは一流の探索者だな。第2層で自信を深めた三条さんをはじめ、誰もが自然体でそこに立っている。
……そして、ハートリーさんはとても機嫌が良さそうだ。第3層でのやり取り以降、楽しそうにずっと俺の近くにいるようになった。俺の目の錯覚かもしれないが、彼女から犬の尻尾が生えてフリフリと揺れているように見えてしまう……いや、いかんいかん、それはさすがに失礼すぎるだろう。
「それじゃあ、いつものようにサクッと走り抜けてしまおうか」
「あ、日本モそうやって攻略するノネ!」
「アメリカでもそうなんですか?」
「そうネ〜。あのモンスター数、相手する疲れるネ……」
「……えっ?」
走り抜ける、だって? どういうことだ?
……しかし、周りの反応を見るにそれが正攻法らしい。危なくないか、万が一転んだらモンスターに囲まれるんだぞ?
「……えっと、恩田さん。なんだその"えっ?"っていうのは。もしかして、恩田さんの第4層攻略法は俺らと違うのか?」
「まあ、はい」
「なんか聞きたいような、聞きたくないような……でも、ちゃんと聞いとかないとなぁ。一応聞くけど、どんな方法なんだ? 第4層を走り抜ける以外に、どんな攻略方法があるんだ?」
どんな攻略方法か、ねぇ。一言で言うなら……。
「そりゃもちろん、モンスターを全部倒すんですよ。やりましょうか? 第4層が魔石だらけになりますけど」
「……え、それ本気で言ってんのか?」
嘉納さんが若干引いている。あのモンスター軍団をどうやって殲滅するのか分からず、困惑が極まっているのだろう。
だが、俺は実際にそうしているのだ。
「延べ50回以上、その方法で第4層を乗り越えてきたものでして。これ以外の方法を俺は知らないんですよ」
「……おいおいなんだこれ、恩田さんは人間びっくり箱か何かなのか? ここまで驚くようなことばかりだったが、まさか第4層の攻略法まで違うとは。なあ、遥花はできるのか?」
「やろうと思えばできるけど、ちょっと消耗が大きすぎるわ。その後のダンジョン探索に支障が出かねないから、割に合わないわね」
「あのモンスター、全部倒ス? ミスターオンダ、そんなことできルノ?」
「……ふふ」
三条さん以外は半信半疑の様子だな。あの300体以上は居るモンスター軍団を、消耗を抑えながら倒すのにどんな戦い方をしているのか疑問に思っているのだろう。一方で、三条さんは俺が第4層で戦っている姿を実際に見ているからか、ニコニコしながら小さく頷いている。
もっとも、あの時は三条さんパーティがいたので繊細な戦い方をせざるを得ず、消耗がかなり多くなってしまったが……今回は、いつも通りの大雑把な戦法を採ることができる。
ただし、そのためには……。
「できますよ。ただ、第4層に留まっている探索者が居ないことが条件になりますが」
「いや、いるわけないだろ、あんなモンスターの巣窟に長時間滞在する物好きなんてさ」
「それが、いるんですよねぇ……亀岡ダンジョンには」
最近の亀岡ダンジョンには、俺たちが第4層の掃除をした後のタイミングで、立ち入ってくる探索者パーティがいる。
……あの時出会った、とてもガタイの良い大学生の連中だ。その連中は第4層のモンスターポップ率が高いことを知っているようで、第4層に留まってモンスターを狩り続けドロップアイテムを掻き集めていた。俺たちが第13層まで行って戻ってきても、まだ第4層でモンスターを狩り続けていたこともあったっけな。
人数が多いから互いに死角をフォローでき、交代で休憩しながら狩り続けられる。下手に深い層へ行くよりも、稼ぎの効率は良いだろう。
もっとも、今は俺がいないがどうしているのだろうか。九十九さんなら俺と同じことができると思うが、九十九さんの場合は明らかに威力過多だから魔力の無駄が非常に多い。彼女の火力は、もっと強いモンスターにぶつけるべきものなのだ。
「まあ、それはともかくとして……お見せしましょうか? 俺の第4層攻略法を」
「……まあ、せっかくだしな。今日はお試しってことで、恩田さんに任せるわ」
よし、言質は取ったぞ。
「それでは、第4層の手前まで行きましょうか。そこからは俺に任せてください」
5人で階段を下りていく。さて、腕が鳴るな。
第4層へは、当然ながらすぐにたどり着く。ここでへばってしまうような人はここには居ないのだ。
「では皆さん、決してここから動かないように。そして、俺が第4層に飛び込んだら、皆さんしっかりと目を閉じておいてください。別に目を開けていてもいいですが、後で痛い目をみても知りませんからね」
「「「了解」」」
「りょーかいネ〜!」
そう言ってから、第4層のフロアに飛び込む。
第4層に蔓延るモンスター共の視線が、一斉に俺の方を向く。この瞬間だけは、何度やっても緊張するな……。
「フラッシュ!」
――カッ!!
もっとも、その緊張感さえも最近は心地良いものだがな。なにせ、このタイミングでこうやって閃光を放ってやれば……。
「「「「ギャッ!?」」」」
「「「「ギィィィィッ!?」」」」
「「「「キィィィィッ!?」」」」
ほらね、モンスター共の動きが一斉に止まっただろう? 遠くのモンスターは光が遮られて届かなかったが、これで第4層モンスター共は全滅が確定した。
……少しの溜めの後、魔法を発動する。
「"ライトニング・ボルテクス"」
我ながら手慣れたものだ、もはや流れ作業の感さえある。
――ドドドドドドドドドドドド!!
「「「「ギャァァァ!?」」」」
激しい雷撃音に、モンスターの断末魔が掻き消されていく。それをバックに階段を上ると、微妙な顔をした嘉納さんと菅沼さんに迎えられた。
「こりゃすげえわ……第4層のモンスターごときに、恩田さんはこれをポンとくれてやるのか」
「恩田さん、魔力はどれくらい残っていますか?」
「まだ8割以上残っていますよ」
8割以上とは言ったものの、この申告にはビューマッピングなどで消費した分が含まれている。ライトニング・ボルテクスで消費したのは、全体の2%未満に過ぎない。
……探索を始めた頃は、ビューマッピングを10回も使えば魔力が尽きていたものだが。今はもう、使ってもあまり魔力が減ったような感覚を覚えなくなってきた。
魔力の総量が増えたのもそうだが、最初の頃に比べると魔力の自然回復速度が上がったような気がするのだ。おかげで、大技を連発しても魔力が尽きないくらいに継戦能力が高くなった。
……強いて言うなら、魔法の威力不足が俺の弱点と言えるか。俺の大技の威力 < 九十九さんの通常魔法の威力、というくらいには威力に大きな差があり、それが魔力消費量が少ない理由の一端となってはいるのだが……別途高火力魔法を作ろうとしても、なぜかうまくいかないのだ。
このままだと、下層の手強いモンスター相手にいつか魔法が通じなくなってしまうかもしれない。足を引っ張ってしまう前に、どうにかしなければな……。
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