4−30:恩田の早業
「……え?」
「な、なにが起きたんだ?」
洞窟内を悠々と飛んでいた、ラッキーバタフライと思しき透明なモンスター。それを討伐してドロップしたのは、魔石と装飾珠、そしてポーションの3つだった。
「……"アイテムボックス・収納"」
皆が唖然としている間に、取り急ぎポーションだけは確保する。こっそりアイテムボックスの中に放り込んだが、誰か気付いてるだろうか?
……ちょうど、ポーションだけが俺の目の前くらいに落ちてきたからな。俺の影になって見えていなかった可能性が高いとは思うが……。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。恩田さん、モンスターを倒したのか? 魔石と装備珠が落ちてるけど……遥花、何かいたか?」
「う、ううん、何も見えなかったわ。お2人はどう?」
「わ、私は全く気付きませんでした……」
「ミスターオンダ、気付いたラ、電撃投げてタネ。何も見えなかったヨ……」
……どうやら、誰も気付いていないようだ。よし、これでポーションの在庫を確保できたな。
「ええ、モンスターが飛んでいたので……魔法で倒しました」
「俺には、何もいなかったように見えたが……」
「目では見えない、透明なモンスターというのがダンジョンには存在するんですよ」
オートセンシングの存在を、明言はしないが暗に示しておく。俺としてはモンスターに対応するための魔法であると同時に、こちらへ害をなしてくる人間に対処するための魔法でもあるからな。秘匿することで効果を発揮するタイプの魔法なので、詳細は決して明かさないつもりでいる。
「透明なモンスター……もしかして、恩田さんはステルスネークも見つけられるのか?」
「ステルスネーク?」
なんだなんだ、その某名作ステルスアクションゲームの主人公っぽい名前のモンスターは?
……とまあ、そういうツッコミはおいといて。実は俺、ネット情報からそのモンスターの存在だけは知っている。出現階層まで到達していないので、戦ったことは1度も無いけどな。
ステルスネークが出現するのは、第15〜19層。そこは森林地帯が広がっていて、生い茂る木々の合間からオークやリザードマン、ダイブイーグルやフォレストスパイダーといったモンスターが襲ってくるそうだ。森の中なので視界が悪く、木の根に足をとられてモンスターと戦うのも一苦労なんだとか。
その中でも厄介なのがステルスネークで、居場所を捉えるのが非常に難しいそうだ。体が迷彩柄になっていて森の風景に違和感無く溶け込み、音もなく忍び寄り不意の一撃を入れてくるという。噛まれるとたまに麻痺してしまうこともあり、その状態で他のモンスターと遭遇してしまうと、生命の危機に直結しかねない恐ろしさがある。
特に、森林階層の後半は強敵グリズリーベアが出てくる。それもあって、索敵にはことさら気を使わざるを得ないのだとか。
……あんな怪物と体が動かない状態で遭遇するとか、どんな罰ゲームよりも恐怖だろ……。
ただし、嘘か本当かは分からないのだが……他のモンスターとの戦闘中、あるいは戦闘直後にステルスネークに襲われる率が圧倒的に高いらしい。普通に歩いていて、いきなり攻撃されることはほぼ無いそうだ。
これが何を意味しているのかは不明だが、ネットの情報をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。ちょうど嘉納さんも教えてくれそうだし、1回聞いてみてから判断しようかな。
「そうか、恩田さんはまだそこまではたどり着いてないのか……。
ステルスネークは、第15層から出てくるモンスターだな。見えないわけじゃないんだが、気配を隠すのが異様にうまくてどうしても奇襲攻撃を受けやすいんだよ。名前に"ステルス"と名が付くだけのことはあるモンスターだな」
「私たちが第20層に到達できていないのも、ステルスネークの影響が多分にありますね。戦闘中や戦闘後に不意打ちを受けるパターンが多いので、どれくらい消耗するかが読めなくて撤退することが多いんですよ……」
「なるほど、それは厄介な……」
いつ来るか分からない攻撃に備え続けるのは、精神的にもすごく大変だし……万が一見過ごして実害が出るなら、常に気を張って防がないといけなくなる。ダンジョンという極限環境下ならなおさらだ。
……そういう意味で、嘉納さんと菅沼さんから良い情報を聞けたな。
少ない情報から推測するに、多分だけど……ステルスネーク、普段はノンアクティブモンスターっぽいな。もし普段からアクティブモンスターなら、普通に歩いていても襲ってくるはずだ。
近くで戦闘が起きるか、あるいは流れ弾か何かを食らった時にアクティブモンスターになるのかもしれない。戦闘中や戦闘後に不意打ちが集中するのも、ステルスネークがそういう仕様のモンスターだから、というので説明が付くし。
まあ、確定じゃないのでまだ話せないけどな。検証が進めば、2人にも共有しようと思う。
さて、だいぶ話が逸れてしまったが……。
「装備とかで補完できたらいいんですがね」
話を戻すため、ドロップした装飾珠をチラッと見る。ラッキーバタフライがドロップした装備珠なので、多分だがランク5の装飾珠だろう。それくらいのランクになれば、モンスターを認識外から察知できるようになるような、そんな特殊効果を持った装飾品も出せそうな気はする。
手のひらサイズの巨大な魔石と一緒に、装飾珠も拾う。装飾珠を覗き込んでみると、中に浮かぶ"5"の数字……やはり、ランク5の装飾珠だな。
「これ、誰か使ってみます? ランク5の装備珠みたいですけど」
「え、ランク5ですか?」
「Oh……」
「マジか」
「………」
ランク5と聞いて皆が驚き、そして尻込みしている。嘉納さんと菅沼さんも同じ反応なのには驚いたが、特殊モンスターでさえもヘラクレスビートルやらゴブリンキングやら、特に強いヤツらしか落とさないランクの装備珠だからな。とんでもない貴重品なのだろう。
「驚いたな、俺でも装備の最大ランクは4なのに、それよりも上のランクの装備珠か。
……というか、あまり驚いてないところを見るに、恩田さん、もしかしてランク5の装備品を装備してたりするのか?」
「ええ、装備してますよ。もう聞いてるかもしれませんが、第10層の例のアレに巻き込まれましたからね」
「ああ、アレか……大変だったんだな」
「得るものは多かったですが、もう2度と戦いたくありませんね。ちなみに、この帽子がランク5の装備です」
「へえ、これが……」
帽子を脱いで皆に見せる。本当はラッキーバタフライがドロップした装飾珠で入手しているのだけど、建前上そういうことにしておいた。
それに、多分だけど……この盾のほうが、もっとずっとヤバいやつのような気がしているのだ。
朱音さんが使っているランク5の盾と比べても格段に高性能なので、この盾は少なくともランク6以上であるのは確定している。ヘラクレスビートルのファイナルアタックも、ゴブリンキングのファイナルアタックも……この盾で防いで、俺たちは生き残ってきたわけだしな。なぜこんな高ランク装備品を得られたのかは未だに謎だが、ビギナーズラックにしては出来過ぎな気もするな。
「それで、この装飾珠はどうしますか? モンスターを倒したのは俺とはいえ、今はそこまで必要としていないので……どなたか使いませんか?」
なにせ、一番高価なポーションはしっかり確保できてるからな。欲をかきすぎると碌なことにならないし、ここは譲っておいた方がいいだろう。
「「「「………」」」」
4人が互いに顔を見合わせるが……嘉納さんが小さく頷いた。
「恩田さんさえよければ、だけどな。それ、三条さんに使ってもらった方がいいんじゃないか?」
「えっ、私ですか!?」
「ああ、そうだ」
まさか自分に話を振られるとは思っていなかったのか、三条さんが見るからに驚いた様子で声をあげる。
……どうやら、嘉納さんがそう考えた理由を教えてくれるみたいだ。少し言いにくそうにしている、ということは理由はおそらく……。
「……大変申し訳ないけど、あえて言わせてもらうな。このメンバーの中で、誰が探索者として一番弱いかと言われれば……間違い無く、三条さんだ。それは自分でも分かっているな?」
「……はい、確かにその通りです」
「俺が見た感じ、三条さん以外はランク3以上の装備品しか身に付けていない。第10層を突破できる探索者というのは、遅かれ早かれそうなっていくものだ。そこを比べれば、ランク2の装備を身に付けている三条さんが探索者として劣ることは否定できない。それを埋めるためのコレだ」
「………」
……残念ながら、それは事実だろうな。菅沼さんと嘉納さんは当然として、ハートリーさんもおそらく第10層を突破しているのだろう。そこと比較すれば、三条さんはまだこれからの探索者と言える。
さて、三条さんの答えは――
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