4−29:お手並み拝見……のつもりだったけど、見つけてしまったものは仕方ないな
「はぁ〜、驚いたな。まさか、ブルースライムにそんな特殊ドロップがあったなんてよ」
「ホーンラビットにモ、変わったドロップあるナラ、ブルースライムも、当然あるヨネ」
「恩田さんは、いつ特殊ドロップの存在にお気付きになられたのですか?」
「特殊ドロップの存在に気付いたのは、第4層で初めてモンスター軍と戦った時だな。【光魔法】でレーザーを撃ったら、たまたまホーンラビットの角を切り飛ばしてたみたいでドロップしたんだよ。それからは、他のモンスターと戦う時にも特殊ドロップを探すようになったな」
横浜ダンジョン第1層を歩きながら、皆と会話を交わす。さすがにブルースライムの特殊ドロップ情報は初耳だったのか、全員が驚きながらも目を輝かせていた。
……ただ、特殊ドロップに関しては、俺はこう思うわけだ。
この前のライブ配信で、偶然とはいえホーンラビットの角がドロップしたところを見せている。その情報をもとに"他のモンスターにも特殊ドロップがあるかもしれない"と考える人が一定数居ても、なんらおかしいことではないのだ。
そして、あの配信はとても多くの人が見ている。その中に"ブルースライムの核"という答えへたどり着いている人が、横浜ダンジョンにも既にいると思うんだよな。情報を独占すれば自分だけが得できるので、見つけた本人が広めようとしていないだけなのだろう。
俺も当初はそうだったし、何かしらの情報を自分の中だけに押し留めているのは今も一緒なので、理由としては十分に納得できるけどな。もっとも、こういう情報は鮮度が大事なので、先行者利益を十分に享受したあとはさっさと売り飛ばしてしまった方がいいとは思うが。
だから、最近の俺は情報の出し惜しみをあまりしなくなった。特殊モンスター討伐の経歴に特殊ドロップ、スキルスクロールだってたくさん入手してきたし、なんだかんだでそのことを公開してきた。アイテムボックスの存在自体も、基本的には秘密にしているものの、絶対に隠し通したいものではなくなってきている。
……そんなものよりも、本当に隠したい情報がいくつもあるからな。アイテムボックスが表沙汰になっても【空間魔法】スキルは知られたくないし、その入手先も教えたくはない。あとはアイテムボックスの中にある、ポーションや博愛のステッキの存在とかは絶対に知られたくない。
そういう本当に隠したい情報を隠すために、相対的に価値が低くなった情報を意図的に公開する……それを繰り返して、情報を積極的に公表する人物だというイメージが定着すれば疑われることも少なくなる。そう踏んでの、俺なりの情報戦略だといえるな。
「これで、少しはブルースライムの討伐価値も上がるといいのですが」
菅沼さんがそう言うが、残念ながら簡単に真似できることでもない。俺が最初にやった時は、酸で手が灼けてしまったからな……酸から身を守る手段か回復手段、あるいは遠距離から核だけをすっぱ抜く手段が無いと実行は厳しいだろう。だからこそ、周りにそれなりに探索者が居るこの場で公開したわけだ。
……まあ、俺は自身の耐久力を高めるために、わざと素手でブルースライムに手を突っ込んで核を取ったりしているが。朱音さんに見られるともの凄い勢いで怒られるので、いない時にこっそりとやっていたりする。おかげで最近は酸も効きにくくなり、ダメージに対する耐性が付いてきたので結果オーライだろう……と個人的には思っている。他人に勧めるつもりは無いけどな。
「ところで、恩田さんは特殊ドロップを何種類ほどご存知なのでしょうか?」
「うん? ちょっと待ってな、数えるから。ええと……」
三条さんに聞かれて、指折り数えてみる。ブルースライムの核、ホーンラビットの角、片角兎の大角、ブラックバットの翼、ゴブリンの棍棒、ラッシュビートルの斬羽、インプの熱玉……。
「……い、いえ、よく分かりました、もう大丈夫です。7種類以上は既に見つけておられるのですね……」
左手の指で数え終え、右手の指を2つ畳んだところでやんわりと三条さんに止められた。まあ、ざっと10種類くらいは知ってるな。
「ま、その辺の情報をタダで聞こうとは思わないさ。いくら情報共有が義務化されているとは言え、探索者の安全に関わるものでなければ自由だからな」
「分かりました」
まあ、それなら他の特殊ドロップについてはあえて口を閉ざしておこうかな。ある、ということさえ分かっていれば、あとは勝手に検証が進むだろう。検証が大好物な人間というのは、どこにでも一定数いるものなのだから。
そして、いつの間にか第2層への下り階段まで来ていた。実はちょくちょくビューマッピングをしていたので、階段までの道はバッチリ把握できているのだが……やはり、そうか。
横浜ダンジョンの第1層の地図が、亀岡ダンジョンの第1層から遠く離れた同じフロアにプロットされているな。
……現代ダンジョンの各階層は1つの大きなフロアになっており、各ダンジョンごとにエリアが細かく区切られていて、それぞれのダンジョンが異なる入り口を持っている。前に鶴舞ダンジョンへ迷い込んだ時の検証結果から、そんな仮説を立てていたのだが……これで、俺の仮説はかなり正確度が増したな。
「ギッ!? ギィィィィッ!」
「ふん、ホーンラビットか」
そんなことを考えていると、もう第2層に到達してホーンラビットと対峙していた。まだプロテクションの効果が残っているとはいえ、アクティブモンスターの前で思考の海に浸るのは危険だな……気を付けなければ。
さて、ここから集中だ。
「サクッと片付けて先に……」
「嘉納さん、ここは私に行かせてください」
ずい、と三条さんが前に出る。既に刀を抜き放ち、臨戦態勢のようだ。
「……分かった、ここは三条さんに任せよう」
嘉納さんは小さく頷くと、数歩後ろに下がる。他の面々も静観するようなので、俺もそうすることにした。
背筋をピンと伸ばし、両手で刀を構える三条さん。その姿はまさにサムライガールといった出で立ちだが、果たしてどれほどの腕前なのだろうか?
「ギィッ!」
三条さんが前に出たことで、ホーンラビットの注意もそちらを向く。姿勢をグッと低くして、突進のためのエネルギーを溜めているようだ。
「………」
対する三条さんは、その場で刀を構えたまま動かない。おそらくはカウンタースタイル、後の先を制する戦い方なのだろう。積極的に接近戦を仕掛けてくる相手とは相性が良さそうだが、ゴブリンアーチャーのような遠距離型とはあまり相性が良くなさそうだな。
「……ギッ!!」
――ダンッ!
力を溜め終えたホーンラビットが走り出す。狙いは当然、真っすぐ三条さんに向けて、だ。
両者が交錯する――
「――終わりです」
そう思った瞬間には、既に両者はすれ違っていた。ホーンラビットは突進の速度に乗ったまま直進し、三条さんはその場で納刀していた。
……あれ? いつ、三条さんは刀を鞘に納めたんだ?
「………」
走っていたホーンラビットの体が、角ごと斜めにズレていく。そのまま2つに断ち切られた体が、白い粒子へと還っていき……。
……後には魔石と、ホーンラビットの角が残った。
「……ふう」
残心を解いた三条さんが、髪を軽く掻き上げる。文句無しの完勝だ。
もちろん、その光景は目を見張るほどに素晴らしいものなのだが……俺的には、それ以上にすっごく気になるのが居るんだよなぁ。
オートセンシングには反応があるのに、目で見てもその存在が分からないモンスター……そう。
「………」
ラッキーバタフライと思われるモンスターが、のんびりと空を飛んでいるのだ。位置関係的にこちらの存在に気付いていないわけがないのだが、警戒心が薄い個体なのか悠々と空中を漂っている。以前出会った個体とはえらい違いだな。
……あるいは、1度討伐されるとしばらくは人を警戒する、とかか? 初探索時に偶然ラッキーバタフライを倒した時も、普通に空を飛んでたっぽいからな。たまに討伐させるために、そういう仕様にしているのかもしれないな。
さて、どうするか……まあ、考えるまでもないか。今は射線が遮られているが、このまま飛び続けてこれば……。
「今日は調子が良いですね。
……あれ、恩田さん? どうしたんですか、随分と険しい顔をして?」
「……ふふふ、まあ驚くなよ」
「おいおい、まだ何かあるのかよ恩田さん? もうお腹一杯なんだが……」
「まあ、見ててください」
俺たちの背後まで、ラッキーバタフライが飛んできた。これならフレンドリーファイアの心配も無い。
「……"サンダーボルト・スパークウェブ"!」
――バヂヂヂヂヂヂヂッ!!
ラッキーバタフライに向けて、電撃の網を投げ付ける。攻撃に気付いたラッキーバタフライは逃げようとしたが、それよりも網が周囲を覆う方が少しだけ早く――
――バヂバヂバヂッ!
クモの巣にかかった哀れな蝶のように、電撃の網がラッキーバタフライへと絡み付いていく。多少は魔法耐性を持つラッキーバタフライでも、継続的に与えられるダメージには抗えず……。
――パシュゥゥゥ……
――カラン、カラン……
「「「「……へ?」」」」
派手に白い粒子を撒き散らし、ドロップアイテムを残して消えていった。
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