4−23:三日月の跡を持つ狼(後編)
「「………」」
朱音さんと顔を見合わせる。大丈夫だとは思うが、念のため意思統一はしておかなければならない。
「まずは、グレイウルフの掃討からだな」
「ええ、数のアドバンテージを潰しましょう」
どうやら問題無さそうなので、互いに頷き合う。
……モン◯ンの古参プレイヤーなら知っていると思うが、採取している時や卵を運搬している時、そして大型モンスターと戦っている時にブ◯ファ◯ゴから横槍を入れられるのが一番腹が立つもの。それを防ぐために、可能なら事前に処理しておくのがハン◯ーの嗜みの1つでもあったのだ (……まあ、いつの間にかリポップしてて『うぜぇぇぇっ!』となるまでが鉄板の流れだったが)。
ただ、それを現代ダンジョン探索に置き換えると、腹が立つ程度では済まなくなる。軽傷で済めばまだ良い方で、最悪は命を落とすことにも繋がりかねない。ゆえに、敵方の数的有利を潰して不意打ちを防ぐのは、探索者としての最優先事項なのだ。
だが、さっきと同じライトニング・スプレッドを撃っても、今回ばかりは効果が薄そうだ。グレイウルフがここまで大きく半円状に広がっていると、雷撃が届かないばかりかフレンドリーファイアに繋がってしまうおそれもある。
ならば、どうするか。
「ヒナタ、いくぞ」
「きぃっ!」
ヒナタが頷き、空へと飛び立つ。それを目で追うグレイウルフ8体だが、これで本命の攻撃がどちらから放たれるか、分からなくなっただろう。
……だが、これから放つのは、ダンジョンで機会を見つけてはヒナタと2人で練習していた合体技だ。それを今、ここで見せつけてやろう。
「【ファイアブレスⅡ】!」
「きぃっ!」
――ゴォォォォ!!!
俺は【ファイアブレスⅡ】を、ヒナタは【ウインドブレスⅠ】を、ほぼ同時に放つ。威力的には炎の方が優位なので、風に乗った炎は激しく燃え上がり――
――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「「「「ガゥッ!?!?」」」」
地を走る爆炎となって、敵へと押し寄せるのだ。真紅竜のそれには遠く及ばなくとも、射程も威力も桁違いに上がった炎の壁……さあ、どう対応する? クレセントウルフよ。
「「「「ガウッ!!」」」」
炎の壁を見るやいなや、グレイウルフ8匹がクレセントウルフの下へと集まっていく。もしかして、ボスのために身を挺して盾となるつもりだろうか?
だが、さすがに炎の勢いが勝るだろう。ラッシュビートルが壁になるならともかくとして、グレイウルフ程度では仮に捨て身で庇ったとて、この炎の壁を止めることはできないはずだ。
――ゴゴゴゴゴ!!
「ガァァァッ!!」
「「「「ガゥッ!?」」」」
「きぃ……」
じっと様子を見ていると、クレセントウルフが咆哮をあげる。どうやら、グレイウルフ共に何やら指示を出しているようだ。
……それを聞いたヒナタが、呆れたように首を横に振っている。一体どうしたというのだろうか?
「「「「……ガゥッ!」」」」
――ダッ!!
ヒナタの反応に首を傾げていると、グレイウルフ共が急に駆け出した。向きはなぜか炎の壁がある方向で、ほぼ全速力で迫っていく。
確かに、炎の壁には高さのムラがあって、そこは一番高さが低い場所になるのだが……まさか、そのまま炎へ身を投げるのか?
「「「「ガゥッ!!」」」」
――グッ!
……そう、思っていたところで。グレイウルフ共が2体4組で、長方形の頂点をそれぞれ成すような形の隊列を組んだ。意図がよく分からないが、一体どうするつもりなのだろう。
「グァッ!」
――ダッ!!
すると、そこへクレセントウルフが駆けていく。脚に傷を負わせた影響か、さっきよりもスピードは落ちているものの、それでもなかなかの速度で炎の壁に向けて駆けていき――
――ダンッ!!
「「「「ギャゥッ!?」」」」
なんと、グレイウルフ共を踏み台にして炎の壁を飛び越えてしまった。怪我をしているというのに、驚異的な跳躍力だな。
……だが、あれだけの巨体に踏まれたグレイウルフは当然のように立ち上がることができない。そして……。
――ゴゴゴゴゴ!!
「「「「ギャウゥゥゥッ!?」」」」
炎から逃げられず、巻き込まれて倒れていく。8体のグレイウルフは、全てドロップ品へと変化していった。
……なるほど、だからヒナタは呆れた顔をしていたのか。呼んだ仲間を切り捨てるような真似をするクレセントウルフを、ヒナタは認められなかったのだろう。
「ガァァァッ!!」
確かにクレセントウルフ自身が無事なら、グレイウルフはいくらでも【仲間呼び】で呼べる。小を切り捨てて大を生かす、というのは非常に冷酷だが、とても合理的な考え方だろう。
……ただ、個人的にあまり好きじゃないんだよなぁ、その考え方は。最終手段として普段は選択肢から除外しておくべきであって、色々理由を付けて常用手段にし始めたら、全てが崩壊していく気がするからだ。
『もしかしたら、いつか自分が切り捨てられる側になってしまうかもしれない』と、無意識に考えてしまうような場所で実力を発揮できるメンタル強者なんて、ごくごく限られてるからな。俺のような豆腐メンタルな人間にはとても耐えられないし、そういう人の方が世の中には多い。
「……まあ、なんだ」
つまりだ、クレセントウルフ……もう少し他に、やり方はなかったのかい? 炎の壁に向けて、ダークブレスをぶつけてみるとかさ。
まあ、さすがにそこまで考えるほどの知能は無かったか。
「やはりこの程度か。残念だよ、クレセントウルフ。
……朱音さん、いくよ。"エンチャント・フレア・トリオ"」
――ゴゥッ!!
火のエンチャントを、俺と朱音さんとヒナタにかける。獣系モンスターには炎と、昔から相場は決まっているものだ。
「なるほど、この攻撃で決めるのね」
「ああ、もうパフォーマンスは十分だろう。まずは俺が、あいつの動きを止める。その後は……」
「3人の攻撃で、一気に勝負を決めるわけね」
「きぃっ!」
「ああ、その通りだ」
これで、方針は決まった。
……さあ、クレセントウルフにトドメを刺そう。
「"サンダーボルト・スパークウェブ"」
――バヂィッ!
クレセントウルフに向けて、電撃の網を投げつける。これでダメージを与えると同時に、動きを封じてしまおうという作戦だ。ちなみに、炎はまだ上乗せしていない。
「ガァッ!」
当然、クレセントウルフも電撃網を避けようとするが……飛翔速度と効果範囲は、クレセントウルフが絶対に避けられないよう広めに設定している。網の範囲がかなり広くなったせいで魔力消費量は増大したが、十分に想定の範囲内だ。
「ぱぁ……」
ちなみに、アキは後ろに避難している。ここからは炎攻撃のオンパレード……火が苦手なアキには、辛いだろうからだ。
――ヂヂヂヂヂヂッ!
「ギャゥッ!?」
網がクレセントウルフを覆い、電撃を浴びせる。そこで一瞬動きを止めてしまったのが、クレセントウルフの運の尽きだ。
「これでも食らっとけ!」
「"飛刃・炎王"!」
「きぃっ!」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「ギャウッ!?!?」
俺は【ファイアブレスⅡ】を、朱音さんは新技を、ヒナタは【ウインドブレスⅠ】を。それぞれに炎エンチャントを乗せて、クレセントウルフに十字砲火を浴びせていく。動きの止まったクレセントウルフに、これを避けられる道理は無かった。
「ギャゥゥゥゥゥゥゥ……」
炎に飲まれたクレセントウルフの声が、段々とか細くなっていく。
……やがて、炎が消えた時。
クレセントウルフは、ドロップアイテムに姿を変えていた。
俺たちの勝利だ。
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