4−22:三日月の跡を持つ狼(前編)
「"ライトニング・スプレッド"!」
――ゴロゴロゴロ……カッ!
――バヂヂヂヂヂヂッッ!!!
まずは分裂する雷撃で、グレイウルフ共の数を減らす。クレセントウルフにも多少ダメージは与えられるだろうが、分割して威力が落ちた雷ではどのみち大したダメージにはならない。
「「「「キャウゥゥゥゥンッ!?」」」」
「……ッ!」
予想通り、雷撃を浴びたグレイウルフ5体がドロップ品に姿を変え、3体が倒れて身動き1つ取れなくなったが……クレセントウルフは、あまり目立った反応を見せなかった。
ただ、全く効かなかったわけでもないらしい。やや力を込めて歯を食いしばっているので、少しはダメージが通ったのだろう。
「ガゥッ!」
そのクレセントウルフが、鋭い爪と牙を閃かせながら俺に向けて飛び掛かってくる。太い右腕を振り上げたその状態で、怒りと憎しみに満ちた視線に射抜かれてしまえば……並大抵の探索者は怖れ、怯んでしまうことだろう。
「盾、展開」
――ブォン
もっとも、俺は真紅竜やゴブリンキングの殺気を目の当たりにしている。クレセントウルフのそれは、確かになかなかの威圧感だが……先に挙げた2体には、遠く及ばないのもまた事実ではある。
もしかして、その程度の威圧で俺がビビるとでも思ったのか? 本気でそう思ったのであれば、少し俺を侮りすぎではないだろうか?
――バヂヂヂヂッ!
「ガゥッ!?」
クレセントウルフの右爪の一撃が、白い防壁の表面を撫でる。斜めに受け流したので圧力はほとんど感じなかったが、それを差し引いてもグリズリーベアよりパワーで劣ることは確認できた。その程度の攻撃力では防壁を破ることはおろか、俺の魔力を大きく消耗させることもできない。
『うっそだろ!?』
『あの一撃を軽々と防いだぞ!?』
「ガァッ!」
――バヂヂッ!
続けて噛みつき攻撃を放ってくるが、真正面に向けた防壁で悠々と弾く。今回は防壁を平らに展開したので、食い付ける場所が無かったことが威力を出せなかった要因だろう。
さて、防いだら今度はこっちの番だ。おあつらえ向きに、クレセントウルフは流れのまま左の爪撃を放とうとしている。普通なら守りで手一杯になるところだが、簡単な魔法なら白い防壁を展開したままでも放てるし、なにより……。
「"サンダーボルト"!」
「きぃっ!」
――バチバチバチッ!
――ゴォォォォ!!
「ギャウゥッ!?」
空いた右手からクレセントウルフの顔目掛けて電撃を放てば、バッチリなタイミングで右肩のヒナタがファイアブレスを重ねてくれた。そして、見事クレセントウルフの顔に攻撃がダブルヒットする。ちょうど左の爪撃が防壁に当たる寸前だったので、回避行動に移れなかったのだ。
――ブォンッ!
――ヂヂヂッ!
のけぞり、大きく体勢を崩したまま放たれた爪撃は、防壁の表面を掠めるだけに留まる。ただ攻撃の勢いはあったので、クレセントウルフはスリップしたかのように体を左へ大きく傾けていった。
「"飛突・穿"!」
――ビュッ!!
――ドスッ!
「ギャウッ!?」
そこに、朱音さんの武技が飛んでくる……が、少し狙いが逸れてしまう。クレセントウルフが体勢を崩していなければ、おそらく頭があったであろう位置に向けて放たれた武技が右前脚の付け根を直撃し、技名通り大きな穴を穿った。
決定打は与えられなかったが、これで機動力はだいぶ落ちたはずだ。
「グッ……」
たまらず、といった感じでクレセントウルフが飛び退っていく。万全の状態で放ったはずの3連撃をあっさり防がれ、あまつさえカウンターを許してしまったことに対する悔しさと怒りが、クレセントウルフの表情からは読み取れた。
「ぱぁっ!」
――プシュゥゥゥ……
前に突き出されたアキの両手から、紫色の霧が放たれる。こちらを睨みながらも怪訝そうな表情をしているクレセントウルフを見るに、攻撃の正体が分かっていないのか、毒がそもそも効かないのか……どちらかは分からないが、アキが無駄な行動をするわけがない。
――サァァァ……
「……ギャウッ!?」
距離を取ってしばらく様子を見ていると、霧が傷口に当たったところでクレセントウルフが急に苦しみだした。明らかに毒が効いているな、これで俄然こちらが有利になった。
もっとも、あれだけの体格なら体力も多いだろうし、毒ダメージだけを待って倒すわけにもいかないだろう。なにせ、クレセントウルフは……。
「ワォォォォォォン!」
――ガサガサ……ガサガサ……
「「「「ガゥッ!!」」」」
【仲間呼び】のスキルを持ってるからな。放っておけば、次々と仲間を呼ばれてジリ貧になりかねない。
グレイウルフ8体が、藪を掻き分けて再び現れる。今度はひとところに固まらず、扇のように大きく広がっていった。
クレセントウルフがいることで、グレイウルフは学習能力すら手に入れてるな。これでは、ライトニング・スプレッドで一網打尽にすることはできない。
「ガゥッ……」
「っ!? 朱音さん、アキ、俺の後ろに!」
「えっ、ええ!!」
「盾、変形!」
クレセントウルフが、大きく息を吸った。これはリザードマンやヘビータートルも見せていた、ブレス攻撃の予備動作だ。そして、予測射線上には団十郎さんやスーツの人もいる。
念のため、逆Vの字で防壁を展開し直しておく。真正面からのブレス攻撃は、これで左右に受け流せるはずだ。
「ガァッ!」
――グォォォォォ……
そして予想通り、クレセントウルフが吐いてきたのは黒い色をした炎のような何か――おそらくは、闇属性のブレスだろう。スキル名としては【ダークブレスⅠ】あたりだろうか、食らうとヤバそうな雰囲気がかなり漂っている。
――バヂヂヂヂヂヂッ!
防壁の表面を、ダークブレスがやや纏わりつくようにして滑っていく。ファイアブレスやウォーターブレスを捌いた時より、魔力消費量がやや多いが……この纏わりつくような特性が原因だろうか。あるいは闇属性ということで、防御を無視して固定ダメージを与えてくる特性を無効化しているがゆえの、魔力消費量増大か……とも思ったのだが。
よくよく考えると、ダークネスバットと戦った時は防壁で闇属性攻撃を防いだにも関わらず、多少の傷は問答無用で負ってしまっていた。そういう防御貫通特性を、どうやらダークブレスは最初から持ち合わせていないらしい。
つまり、ダークブレスが厄介なのはスリップダメージ……まともに食らった時、一定時間相手にダメージを与え続ける特性を持っていること、なのかもしれない。
『うお、ヒナタと狼でブレスの撃ち合いか』
『やべぇ、かっこいい』
『アキも毒霧で援護してるぞ!』
『恩田氏と朱音女史も確実に攻撃を当ててるな』
「グルルルルル……」
「「「「ウゥゥゥゥ……」」」」
さて、状況はほんの少しだけこちら有利に傾いたか。相手はこちらの攻撃方法を一部学習できたが、代わりにクレセントウルフは毒を受け、更に右前脚が使えなくなるくらいのダメージを受けた。飛び退った時に、右前脚を庇っていたのを見逃してはいないぞ、俺は。
相手の情報もある程度は手に入った。ここからは、こちらのターンだ。
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