4−20:情報封鎖の呪い・ライブ配信版
「"ライトニング・サークル"」
――ゴロゴロ……カッ!
――ドゴォォォォン!
――バヂバヂバヂッ!
「「「ギャァァァッ!?」」」
第3層の大直線通路にたむろするゴブリン3体組に向けて、曲がり角の陰に隠れつつ雷撃を落とす。雷撃は地面へ着弾すると、そこから円状に電撃が広がっていった。
完全な不意討ちを食らったゴブリン3体は、まともに抗うこともできないまま魔石にその姿を変えた。
――バチバチッ!
「「「「ギャッ!?」」」」
「「「キィィィッ!?」」」
電撃は奥に居たゴブリン4体や、空中に居たブラックバット3体にも飛雷してしっかりと届き、距離は遠かったもののかなりのダメージを与えることができた。さすがに倒し切るほどのダメージは与えられなかったが、電撃を浴びた7体とも地面に倒れて動けなくなっており、完全に戦闘不能状態へと陥っている。
……やはり、以前よりも魔法の威力や効果範囲が向上しているな。武器を高ランクの物に変えた影響もあるとは思うが、ライトニング・サークルの電撃が空中のモンスターにも届くようになったのは大きな変化だと言えるだろう。
『おお〜、すげぇ』
『魔法って便利だな』
『でも、朱音女史の武技も凄かったぞ』
『トップクラス探索者ってやっぱすげぇわ』
視聴者さんも盛り上がっているようで、本当に何よりだ。もう既に動画配信は成功が確定しているが、行けるところまでこのまま進んでしまいたいところだ。
俺たちは第2層をサクッと抜けて、第3層までやってきたが……まあ、順調そのものだ。第2層で頭上から迫るブラックバットをノールックで迎撃してみたり、ホーンラビットをパラライザーで痺れさせてから角を【杖術】の技でへし折ってみたり、朱音さんに武技を披露してもらったり、ヒナタに空中戦を展開してもらったり、アキの状態異常コンボを見せたり……色々やっているうちに同接数が少しずつ増えていったが、6143をピークに今は少しずつ落ちている。区切りとなる午前9時を回ったからだろう、今ちょうど同接数6000を割ったようだ。
……ゴブリンの魔石をリュックに放り込みながら、先を急ぐ。さすがにライブ配信でアイテムボックスを使ってしまうような愚は犯さないが、後続の一般探索者が来てしまうのであまり悠長にはしていられない。第4層さえ抜けてしまえば、しばらくは落ち着けるだろう。
……だが、一昨日に感じた嫌な気配。昨日も帯刀さんと探索している時に、第5層で感じた気配は気になるところだ。今日あたり、そろそろ何か出てくるかもしれないな。
ライブ配信的には美味しい展開だが、果たしてどうなることやら。今日は権藤さんもいて、戦力的には十分過ぎるから悪い展開にはならないと思うけどな。
◇
「よし、第3層を抜けたぞ」
直線通路を抜け、死角だらけのゴブリン部屋も抜けて、第3層への下り階段の前に立つ。ここを下りれば地獄の階層、第4層に到達するのだが……その第4層に謂れがあることは、ここにいるほとんどの人が知っているだろう。
……"情報封鎖の呪い"。第4層に足を踏み入れたことが無い者は、第4層の詳細な情報を得ることができない現象を指す言葉だ。その現象はとにかく徹底的で、超越者とでも呼ぶべき何かが常に世界を監視し続け、違反を見つけ次第即刻対処しているかのように……一切の漏れなく適用されているのだ。
さて、この配信はどうなるんだろうか? こちらのスマホが不調をきたすのか、視聴者さんのパソコンが不調をきたすのか、はたまた映像や音声が乱れるのか……あるいは、何も起きないのか。さすがに何かしら起きるとは思うのだが、楽しみでもあり不安でもあり……ちょっと複雑な気持ちだな。
「さて、ここから先は第4層ですが……視聴者の皆さんはご存知でしょうか? 第4層にまつわる噂話を」
『知ってるよ。なんか、どんな方法を使っても情報公開ができないんだっけ?』
『ダンジョン関連の情報サイトでも、第4層と第10層の情報だけ綺麗に抜け落ちてるもんな』
ダンジョン探索のライブ配信を見てるだけあって、視聴者さんもその辺の事情はよく知っているらしい。
『やっぱり、ライブ配信でもダメなんかな?』
「それを、これから試してみようと思う。みんな、画面をよく見ていてくれよな……」
――タッ……
1歩、俺だけが階段を下りてみる。片足の先が第4層に入ったが、スーツの人が持つモニタ映像に異常はみられない。
「………」
――スタッ!
3段ほど一気に下りてみる……振り返ってモニタを見てみたが、何も起きていない。カメラ自体はまだ第3層にあるから、だろうか?
「………」
――タッ、タッ、タッ……
ならば、と第4層目指してゆっくり下りていく。俺、朱音さん、団十郎さんと続き、カメラを持った権藤さんが階段に一歩足をかけると……。
――ザッ……ザザッ……
『あれ…急に……映像がおか………し…………く……………』
――ザザッザッザァァァァァァ!
突如として、モニタ画面が乱れ始めた。チャットの文字はなぜか飛び飛びになり、映像は徐々に白黒のノイズが酷くなっていき……数秒ほどで全く映らなくなった。モニタからは、昔はよく聞いた砂嵐のような音が聞こえてくる。
アナログテレビ時代はよく見かけたものだが、地デジ化されてからは全く見かけなくなった砂嵐。専門用語で"スノーノイズ"と呼ばれるそれは、原理上アナログ伝送方式でしか発生しないはずのものだが……それが、デジタル伝送機器の王者たるスマートフォンを用いた動画配信で現れた。これは明らかな異常事態だ。
やはり、何かしら異質な力でジャミングされているのは確定した。それが分かっただけでも十分な収穫だ。
「……視聴者さんを不安にさせるのも良くないですし、一旦戻りますか?」
「そうだな、そうしよう」
権藤さんの動きに合わせて、階段を上っていく。ちょうど俺が第3層側に戻ったところで、映像と音声が元に戻った。
『うおっ、急に配信が復活したぞ!?』
『砂嵐なんて久々に見たな……』
『なるほど、第4層を映そうとするとこうなるわけか』
『やっぱり見れないのか、ちょっと残念だな……だいぶヤバい階層だっていう、曖昧な情報だけは聞いたことがあるんだが』
視聴者さんもこの展開は分かっていたのか、そこまで驚いている様子は無い。まあ、ついでだから視聴者さんにも軽く補足だけしておこう。
「これが、自衛隊の人曰く"情報封鎖の呪い"と呼ばれる現象だな。第4層の他に第10層なんかも該当するらしいけど、対象となる階層の詳細情報はその悉くが公開を制限されてしまうらしい」
『誰が、どうやって制限してるんだろうな?』
「うーん、強いて言うなら……超越者が、特殊な力を用いて、かな」
『ブフッ、超越者ってww』
『特殊な力って、厨二病かよww』
俺の一言に、コメント欄には大草原が生える。ただ、そうとしか説明できない、ということに気付いている人も中には居るようで……。
『みんなが今見た砂嵐ってさ、デジタル伝送全盛期の現代ではほぼ起こり得ないんだよ。音だけならAMラジオとかで今でも聞けるけど、映像はテレビをアナログ受信状態にもっていかない限りはまず見れないし、もはや何も映らないのにそんなことをあえてやる奇特な人間はそうそう居ないだろう。
みんなは見たことがあるのか? パソコンやスマートフォンで動画を見ていて、急に画面に砂嵐が走り始めた……なんて場面を。俺は今回のコレを除くと、1度も見たことが無いんだが』
視聴者さんのこの一言で、チャット欄の流れがピタッと止まる。きっとみんな、記憶を一生懸命掘り起こしているのだろう。
……そして、やはり砂嵐を見た記憶が無かったのだろうか。数十秒ほど経ってから、おもむろにチャット欄が動いた。
『ってことは、正体不明の力でジャミングされてるわけか。だから超越者の、特殊な力って表現したわけだな』
「ああ、その通りだ。これは、俺たちの力では絶対に避けられない現象だな。
……というわけで、サクッと第4層を突破してくるから、ちょっとだけ待っててな」
どう頑張っても見せられないのであれば、第4層などさっさと抜けてしまうに限る。さて、行きますか。
……とは言え、だ。今さら、俺たちが第4層で躓く要素は無い。
なので、いつものフラッシュ→ライトニング・ボルテクスのコンボでモンスター軍を一掃する。オートセンシングで宝箱が無いことを確認した後は、配信が映っていないことをいいことにさっさとアイテムボックス・収納を使ってドロップアイテムを掻き集めた。
「凄まじいな……これが、恩田君の探索者としての力か」
「久我部長、恩田探索者はこういう小物を一掃する戦い方を最も得意としています。だからこそできる攻略法ですので、誰でも実行できることではありませんよ」
「何度見ても信じられないんだよなぁ、静かな第4層なんて」
ザコを一掃するのは得意でも、強敵相手に決定打を入れるのは苦手だからな……弱点を突ければその限りではないが、攻撃のレパートリーが少なすぎてまだどうしようもない部分はある。その辺は、明確に今後の課題だろうな。
……まあ、第4層の安全も確保できたし、とりあえず先に進もうか。
第5層への下り階段に入って、しばらく進んだところで……どうやら、ライブ配信が復活したようだ。
『おっ、映像復活!』
『待ってました!』
『5分くらいかな? 結構早かったね』
「お待たせいたしました、皆さん。ここからライブ配信を再開いたしますね」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
朱音さんの号令に、ヒナタとアキも呼応する。同接数はまだ5500を超えており、チャット欄がザザザと流れていっているので盛況状態は変わっていないようだ。
……さて、ここからが配信の本当の本番だ。団十郎さんやスーツの人は労せず越えさせてしまったが、本来第4層を乗り越えられる探索者はそこまで多くない。ここから先は後続探索者をあまり気にせず、配信に集中できるだろう。
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