4−19:うっかりちゃっかり第2層、災い転じて福となす?
「ギッ!? ギィィィィィッ!」
「おっ、早速出たなホーンラビット!」
気分良く第2層へ下り立ってすぐ、いつものようにホーンラビットから熱烈な歓迎を受けた。ホーンラビットはこちらを激しく威嚇しつつ、突進攻撃を敢行するため早速力を溜め始めている。
普段ならここで見敵速攻、先制攻撃でサンダーボルトを放って突進される前に倒すのだが……今日に限ってはあまりよろしくない。ダンジョンをよく知らない視聴者さんも中には居るのだから、モンスターとの戦いも多少は見せるべきだろう。
「さて、視聴者の皆さま。こちらのモンスターはホーンラビット、ご覧の通り立派な一本角を持ち、突進攻撃を得意とするモンスターです。最高速度からの角による一点集中攻撃は、小柄ながらに侮れない威力を持っていますね」
『へえ、これがホーンラビットか』
『なんか見た目がいっか◯うさ◯みたいだな』
『ダンジョンは第2層からが本番だって聞いたことがあるけど、積極的に襲い掛かってくるモンスターが現れるからなんだな』
『ブルースライムは動きも鈍いし、襲ってくるわけでもないからただの的みたいだったもんな。後衛タイプにとっては、って言葉が頭に付くんだろうけど』
『でも、どうやってホーンラビットを倒すの? もうすぐ突進攻撃がくるんでしょ、大丈夫なの?』
朱音さんの説明に合わせて、チャット欄がザーッと流れていく。その中にちょうど欲しかった質問を見つけて、説明がてら返事をすることにした。
「"TRAINFORMS"さん、質問ありがとう。やり方は色々あるけど、普段の俺ならホーンラビットを見かけた瞬間、すぐに攻撃魔法をぶつけて倒してるな。
ホーンラビットは威嚇体勢に入ると同時に、突進攻撃に備えて姿勢を低くして力を溜め始めるから、遠距離攻撃に対する回避反応がツーテンポくらい遅れるんだ。だから、ああ見えて遠距離攻撃が面白いくらいに当たるんだよ。
……ただまあ、今日はその倒し方はしないつもりだ。ホーンラビットは体が小さいから、遠距離攻撃を素早く狙って当てるのに十分な練習が必要になるし……純粋な前衛タイプの探索者は、その攻略方法が使えない。だから、もっと手軽で誰でもできる方法で倒すつもりだ」
「ギッ!!」
――ダッ!
説明に時間を割いているうちに、ホーンラビットがようやく力を溜め終わったようだ。その立派な一本角を突き立てながら、勢い良く突進してくる。
狙いは、やはりというべきか一番近くに立っていた俺のようだが……まあ、ここは計画通りだな。
『ちょっ、ヤバッ!?』
『思ったより速いんだけど!?』
『避けないと!』
「そうだな、見ての通り速い。最序盤のモンスターだけど、油断したら大怪我は免れないだろう。だから、正しい知識と攻略法を知っておく必要がある」
ホーンラビットの突進方向が、まっすぐ自分に向かっていることを確認する。
……そうしてから、突進攻撃の延長線上より体2つ分だけ横に移動する。
「ホーンラビットの突進攻撃は速い代わりに、絶望的なまでに小回りが利かないのさ。だから、1度勢い付いたら止まるまでまっすぐ進むしかなくなるんだよ」
俺の真後ろに誰も居ないことは、オートセンシングで既に把握している。これで安全にホーンラビットをいなすことができるだろう。
「ギィィィィィッ!!」
突進攻撃はホーンラビット最大の攻撃だが、通過地点が丸わかりだという点で最大の隙ともなり得る。その隙を見逃してやる理由は無い。通過地点を見定めて、先に攻撃を用意しておくことができるわけだ。
そして、ここで満を持してヒナタの力を借りる……というのが、おそらく動画的には一番盛り上がると思うのだが。今日は少し、俺の中で試したいことがある。
ヒナタはブラックバットが出てきた時に戦いをお任せして、視聴者さんに空中戦の模様をお届けしようと思う。
「せっかく習得したのに、この2週間なかなか使う機会が無かったからな。ついでにここで試させてもらうぞ」
テンリルワンドを、野球のバッターのように両手で持って構える。ボールに見立てる相手は、誰も居ない空間に向けて猛スピードで走り込んでくるホーンラビットだ。
さあ、【杖術】スキルの力を見せてもらおうか!
「"ファイアスイング"!」
――ゴウッ!
「ギィッ!?」
――ザザザザザザ……
テンリルワンドの先から炎が噴き出し、杖全体を一気に覆っていく。炎は俺の手にも当たっているが、熱さは感じずダメージも無い。少なくとも、スキル使用者自身にはノーダメージが保証されているようだ。
準備万端待ち構える俺に対し、慌ててブレーキを掛けるホーンラビットだが……この距離では、もはや止まることはできない。必死に制動を掛けるホーンラビットの表情に、恐怖と絶望の色が濃く浮かんでいるように俺には見えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
――バギッ!!
――ゴォゥッ!
「ギィァァァァッ!?」
力一杯スイングした炎杖が、ホーンラビットの額辺りを綺麗に捉える。炎エネルギーを乗せた打撃の威力は凄まじく、角を圧し折ってなお余りあるパワーがホーンラビットの顔を直撃し……その体を炎で包み込みながら、大きく吹き飛ばした。
だが、どうやら最初の打撃の時点で、ホーンラビットに与えたダメージは許容値を超えていたらしい。火の粉を撒き散らして吹っ飛んだホーンラビットが、空中で錐揉みしながら白い粒子へと還っていき……複数のドロップアイテムを辺りに撒き散らして、そのまま空中で消えていった。
「………」
炎が消え、元通りになった杖を見る。
……ホーンラビットに打撃を当てた時、不思議なことに衝撃をほとんど感じなかった。いくら互いに軽いとはいえ、速度が乗ったもの同士の正面衝突なので相当な手応えが返ってくるかな、と思って身構えていたのだが……まるで風船を打つかのごとく、スコーンと軽い感触で打ち抜くことができた。【杖術】スキルには反動軽減とか、そういう効果も付随しているのかもしれないな。
「あらら……」
「ん?」
ふと横を見ると、朱音さんがちょうどホーンラビットのドロップアイテムが散らばっている辺りを見て、苦笑いを浮かべている。一体何を見ているのだろうか、と思って朱音さんの視線の先を追っていくと……。
……そこには床に散らばる、魔石と防具珠。
「……あ、あ〜。なるほど、そういうことか」
……そして、ホーンラビットの角。決して意図したわけではないが、ライブ配信で特殊ドロップが発生する場面を視聴者さんに見せてしまったようだ。朱音さんが苦笑した理由も分かる。
これは、さすがにごまかしようが無いな。ただ、いつかは情報を公開しようと思っていたことだし、動画的においしい場面なのは間違いない。どうせだから、このハプニングを最大限利用させてもらおう。
『えっ、あれっ? なんか角が落ちたけど……』
『ホーンラビットって角落とすの?』
『俺、一応サンデー探索者やってるから分かるんだけどさ。ホーンラビットから角なんて、1度もドロップしたことないぞ』
予想通り、角を見たチャット欄がにわかにざわつく。ライブ配信であることを疑っている視聴者さんはほぼおらず、見たままの光景がきちんと受け入れられているようだ。
「おっと、バレちゃあしょうがねえ。これは、俺らのパーティでは"特殊ドロップ"と呼んでいる現象だな。特定の条件を満たすことで、モンスターを倒した時に特殊なアイテムがドロップする仕様になっているらしいんだ。
ちなみに皆さんお察しの通り、ホーンラビットは角を折ってから倒すことがドロップの条件だ。ホーンラビットの角は結構固いから、慣れてから狙うことをオススメしておくよ」
……ここでふと、コレを言ったらどうなるのか試してみたくなった。人の行動原理というものは、結局のところ根底部分が欲求でできているからな……迷宮探索開発機構さんも探索者人口を増やしたがってるみたいだし、少し視聴者さんを刺激してみるか。
「ああ、そうそう。こういう特殊なドロップ品は、迷宮探索開発機構さんを通じて公営オークションに出すことになるんだが……ホーンラビットの角を出した時は、なんか研究素材として有用だったみたいでそこそこの値段で売れたよ。確か、手数料を差し引いた後の収入が3万5千円くらいだったかな?」
『3万5千円!? たっか!』
『こんな簡単に手に入るのに!?』
ダンジョン素材は研究の余地が相当あるのに、サンプルの産出量が少なすぎて研究があまり進んでいないそうだ。加えて研究費をあまりかけられないらしく、他に需要がほとんど無いのでそこまで売値が高くなることはない。
……それでも、俺みたいな一般人にとっては十分過ぎる収入となる。売買数が増えれば市場原理で値段も下がっていくと思うが、その分魔物素材の研究も加速することになるだろう。日本は少しばかり出遅れてしまっているが、これで海外に追いつけるんじゃないだろうか。
『こうしちゃいられない!』
『探索者に、俺はなる!』
『おい、早速ダンジョンに行くぞ!!』
気の早い何人かが、動画を開いたままダンジョンに向けて飛び出していったようだ。
……まあ、怪我しないように頑張ってくれよな。ダンジョンはそんなに甘くないから。
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