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「おお、おお! これが亀岡ダンジョンの中なのか! すごいな、本当に洞窟の中にいるかのようだ!」
満を持してダンジョンゲートを潜り、中に入った団十郎さんのテンションが最高潮まで上がる。まるで子供のようなはしゃぎようだが、それだけダンジョン探索が楽しみだったのだろう。新人探索者には恒例の儀式である、ランク1の装備珠3種類が授与される場面で既にテンションがだいぶ高かったからな……。
まあ、色々と無理をしたうえでの探索ゆえ、本人が楽しそうなのは周りとしてもありがたいだろう。これで団十郎さんがつまらなさそうにしていたら、日程調整に奔走したであろう誰かの心が折れていたかもしれないのだから。
「……ん? おっ、おっ、これが噂のギフト取得か!」
そして、団十郎さんにもギフト取得の瞬間が来たらしい。どんなギフトを得ることができたのだろうか?
「団十郎さん、どんなギフトでしたか?」
「【バトルコンダクター】というらしいぞ。なにやら後方支援系のギフトらしい。
……そうか、だからこそのタクトなのか! どうも武器らしくないな、とは思っていたが、これにはきっと何か特殊効果があるに違いない!」
【バトルコンダクター】、直訳すると戦闘指揮者といったところか。武器珠から鉄製のタクトが出てきていたので、藍梨さんの【軍団長】と似たタイプのギフトじゃないかとは思っていたが……将軍でも司令官でも参謀でもなく、【バトルコンダクター】というカタカナ表記なギフトなのは何故なんだろうな?
「……む?」
タクトを無造作に振っていた団十郎さんが、広場の奥の方へと目線を向ける。オートセンシングでは既に検知していたが、そちらには……。
「おお、あれがブルースライムか。実入りが少ないわりに武器を溶かしてくるので、前衛型探索者からは大変な不評を買っていると噂の」
「「………」」
「きぃ?」
「ぱぁ?」
前衛タイプの探索者なら、誰もが1度は通る道らしいからな。魔法タイプの探索者にとってはただの的にすぎないが、いずれにせよ実入りが少ない厄介者であることには変わりない。
……だが、最近思うのだ。このダンジョンを創ったと思われる存在が、何の意味も無くブルースライムを配置するわけがないと。
前衛探索者に対しては、武器を粗雑に扱わないよう戒める役割を。後衛探索者に対しては、遠距離攻撃での敵の狙い方を教える役割を。またダンジョン内に持ち込まれた物に対しては、ダンジョン掃除屋としての役割を。
ブルースライムというモンスターが、実は色んな役割を果たしているのではないか、と最近考えるようになった。もし本当にそうなら、各階にブルースライムが居る理由に説明もつくしな。
そして、俺にとっては【空間魔法】のスキルスクロールをくれた、記念すべきモンスターでもある。他の探索者ほど俺がブルースライムを嫌っていないのには、そういう現金な理由もあるのかもしれないな。
ちなみに、今日はヒナタとアキも動画に出演する予定だ。既に各々の主の肩に乗り、待機している。
「ふむ、それでは恩田君」
「はい」
団十郎さんから声を掛けられたが、そろそろライブ配信開始かな? 最初は権藤さんか朱音さんの挨拶から始まって、あのブルースライムを誰かが倒す――
「――君の【雷魔法】、少しだけ借りるぞ?」
「……え?」
考え事をしていて、団十郎さんが何を言ったのか一瞬分からなかったが……次の彼の行動で、言葉の意味がハッキリと分かった。
「……"サンダーボール"!」
――バヂヂヂヂッ!
団十郎さんが右手に持ったタクトの先から、なんと雷球が発射された。雷球は寸分違わず、まっすぐブルースライムのもとへと飛んでいき……。
――バチッ! バチチチチチッ!
その青い粘体に触れた瞬間、激しい電撃を辺りに撒き散らす。ブルースライムは電流を浴びてグネグネと苦しそうに体をくねらせた後、地面に溶けるようにして消えていく。あとには、小さな魔石だけが落ちていた。
「むっ、試しに撃ってみたが威力はなかなか高そうだ。だが、【雷魔法】は使い所を考えないと危険だな。下手をすると味方を巻き込みかねない」
団十郎さんはタクトで魔石を指しながら、空いた左手であごを擦っている。
……いや、驚いたよ。団十郎さんが、急に【雷魔法】を使ったのだから。
「え〜っと、これは一体……?」
「うむ、これが【バトルコンダクター】の効果の1つだ。近くにいる者が持つ魔法系スキルを、私も使えるようになるらしい」
「なるほど……」
魔法系スキルと団十郎さんは言ったが、俺の【雷魔法】はスキルではなくギフトの効果で使えるようになったものだ。どうやら、【バトルコンダクター】の効果はギフトにも適用されるらしいな。
しかも、俺が【雷魔法】を使えることを見事に言い当てていたが……もしかして、相手の魔法系スキルを参照する効果もあるのだろうか?
「団十郎さん、他に俺がどんな魔法系スキルを持っているか分かりますか?」
「ふむ、どれどれ……あ〜、どうやら恩田君は他にもいくつか魔法系スキルを持っているようだが、残念ながらモヤのようなものが名前にかかっていて全く分からない。当然、私がそれを拝借することも不可能なようだ」
「そうですか……」
団十郎さんの言う通り、俺は他に【光魔法】と【付与魔法】、【闇魔法】と【空間魔法】が使える。だが、団十郎さんからはほとんど見えていないらしい。
……もしかして、ギフトレベルが低い間は使える魔法に制限がかかるのだろうか? 確かに【空間魔法】なんかはかなり高レベルのスキルだし、それを一時的とはいえ団十郎さんが使えるのであれば、やれることが飛躍的に増えていたのは間違い無い。
……だが、ダンジョンの創造主はその辺きっちり対策をしていたようだ。やはり、そんなに甘くはないか……。
「久我部長、ギフトの具合はどうですかな?」
「うむ、。【雷魔法】の感触を試してみたがいい感じだ。使い所を考える必要はあるが、これなら私も十分に戦えそうだ。
……さて、あまりお待たせするのも皆に申し訳ないからな。そろそろ、ライブ配信を始めようではないか」
「了解です、"第二級陸上特殊無線技士・起動"」
ダンジョンライブ動画を配信するにあたって、最重要となるギフトの効果を発動させる。権藤さんから借りた局長用スマホがネットに繋がり、アスチューブを起動できるようになった。
それと同時に、神来社さんとスーツの人が俺の両隣へと立つ。スーツの人の手には小型軽量の屋外用バッテリーと、12インチ程度の小さなモニター……このモニターに、スマホの映像を複製表示できるようにしてある。演者にはこのモニターを見てもらい、喋る内容の判断材料にしてもらう予定だ。
神来社さんは何も持っていないが、周囲を警戒するという最も重要な役割をお願いしている。安全確保は大事、絶対だからな……神来社さんなら、十分に信頼できる。
「………」
スマホの画面が、モニターにもそのまま映っていることを確認する。局長スマホを操作してアスチューブを起動し、慣れないながらも亀岡ダンジョンチャンネルへと入る。あとは、ライブ配信開始のボタンをクリックするだけだ。
そこまでやってから、朱音さんたちへ目配せをする。
「「「……… (コクッ)」」」
朱音さん、権藤さん、団十郎さんの3人が頷き返してくれたので、そのままライブ配信を開始する。
……スマホの画面に、4人が並んで映る。朱音さんはどこか緊張の面持ちだが、権藤さんと団十郎さんは自然体だ。さすが、場数を踏んでいるだけのことはあるな。ちなみにアキも自然体だが、何をしているのかさっぱり分かっていないだけのようだ。
ただ、特に配信予告をしていたわけではないので、当初の同接数は当然ながら0だ。元々のチャンネル登録者数も15人しかおらず、文字通りの弱小チャンネルでしかない。
……まあ、あまり気にする必要は無いし、俺も権藤さんもそこは全く気にしていない。現在時刻は午前8時15分、普通に木曜日なので既に仕事を始めている方や、出勤途中の方も多い。時間帯的に同接数が伸びないのは分かっていたし、俺も権藤さんもそれで構わないと考えている。
なんせ、世界初のダンジョンライブ配信を実現したという実績を作ることが、まずは大事なのだから。その時間がたまたま今になっただけで、別にいつでもよかったのだ。
……それに、だ。これは、俺の考えなんだが……。
その歴史的瞬間を、視聴者さんがリアルタイムで視聴できたという特別感。固定ファンを得るうえで、この特別感が大きな鍵を握ると俺は考えているのだ。
(2025.5.24)一部内容加筆
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なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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