4−14:初動画配信の日
翌日は帯刀さんと2人、ダンジョン探索を程々のところで切り上げた。2人しかいないので無理はできないし、そもそも収入だけを見れば、第4層の時点で十分以上に稼いでいる。安全マージンを確保する意味でも、あまり奥には行かなかった。
……まあ、それでもゴブリンジェネラルはきっちりボコボコにしたのだが。これは2人でも問題無く倒せるので、俺たちにとってはもはや恒例行事となっている。
そんな、あえて語るまでもない平凡な探索を終えた俺は……ダンジョン探索後に権藤さんと2人で、撮影機材の確認と準備に時間を割いた。本当は試験配信をしたかったのだが、"初配信が史上初のダンジョンライブ配信"というのを崩したくなかった権藤さんから『ぶっつけ本番でミスしても構わない』とのお墨付きを貰ったうえで、機器の操作方法を確認するだけに留めた。
そして翌日、撮影日の当日を迎える。
「……午前7時半集合って、ちょっと早くないかしら……ふわぁぁ、ねむ……」
「だよなぁ」
馬堀駅から亀岡ダンジョンへ延びる道を、朱音さんと2人並んで歩く。4月上旬ゆえまだまだ肌寒さは残るものの、すっかり出るのが早くなった朝日に全身を照らされ、寒さは少しずつ和らいできていた。
「……しかも、この時間ってまだダンジョンが開いてないわよね?」
「ん? ああ、今も9時開場は変わってないはずだぞ?」
横浜ダンジョンや鶴舞ダンジョンは24時間営業らしいが、さすがに亀岡ダンジョンでそれは無理だ。対応してくれる職員さんの人数がそこまで多くないし、年中無休で毎日開けてくれるだけでもありがたいくらいに頑張ってくれていると思う。
そんな亀岡ダンジョンに、午前7時半に集合して欲しい、と。他でもない権藤さんから、昨日遅くに訂正連絡が来た。最初は午前9時でいいと言っていたのが、唐突な手のひら返しである。
ちなみに朱音さんも全く同じ内容を聞いていたようで、同じ電車に乗り合わせてここまでやってきたというわけだ。朝に弱い朱音さんには大変だったろうな……。
とりあえず集合時間が迫っているので、急いで亀岡ダンジョンへと向かう。
そうして、なんとか5分前に亀岡ダンジョンへとたどり着いてみると……。
「お疲れ様です、権藤さん。それと……えっと、何してらっしゃるんですか、団十郎さん?」
「ふふふ……」
「「「………」」」
ややくたびれた様子の権藤さんと一緒に、なぜか久我団十郎さんの姿がそこにあった。しかも、見慣れないスーツ姿の男性が1人、亀岡迷宮犯罪対策課員の男性が1人……隠す必要も無いので個人名を言ってしまうと、神来社大司さんまで一緒にいる。
もしこれが団十郎さん1人だったなら、プライベートか何かで来たのだと考えることもできたが……緊張の面持ちで立つ神来社さんが居るのであれば、団十郎さんが警察官の立場として来ていることは明らかだった。
「えっと、お父様? なぜこちらに?」
「……朱音さん、知らなかったのかい?」
「え、ええ。朝早く出勤されたのは知ってたけど……」
そして、なぜ団十郎さんがここに居るのか、朱音さんは全く知らないときた。
……なんだ、コレ。なんとも言い難い違和感をヒシヒシと感じる。
「なに、娘の晴れ舞台であるからには、私も行くべきだと考えてな? 人類史上初のダンジョンライブ配信を、アスチューブの亀岡ダンジョン公式チャンネルで行うと聞けば現地まで来る他ないだろう?」
「……え?」
いやいや、来る他ないって……仮に一昨日話を聞いたとして、一昨日の今日だぞ? これだけ社会的地位の高い人が、こんなにも簡単に日程を調整できるものなのか?
朱音さんも青天の霹靂すぎたのか、明らかに困惑の表情を浮かべてるし……。
「ほう、『この短期間でよくここまで日程を調整できたな』とでも言いたげな顔をしているな?」
「え? ええ、まあ大体その通りです」
考えていたことをほぼ正確に言い当てられたが、団十郎さんは元々直感が鋭い人だからな。顔に出したつもりは無いのだが、この人なら特に驚きは無い。
……さて、と。団十郎さんはなんと言うのだろうか。
「ふっ、元々今日はダンジョン犯罪撲滅キャンペーンの一環で、亀岡に来る用事があったのだな。その予定をこう、ほんの少しだけ変えてもらったわけだ」
「………」
得意気に語る団十郎さんにジト目を送りつつ、おそらくは日程調整に奔走したであろう部下の皆さんに、労いの意を込めて心の中で手を合わせておく。団十郎さんはほんの少しなどと言ってはいるが、彼の立場を考えると絶対に少しじゃ済まないからな。
……さて。このメンバーが揃っているということで、1つ権藤さんに確認しておかないといけないことがある。
「権藤さん。今日はもしかしなくても、警察の方と合同でライブ配信ですか?」
「ああ、そういうわけだ、恩田探索者。今日はよろしく頼む」
権藤さんが小さく頭を下げてくる。亀岡ダンジョンチャンネルでのライブ動画配信だけのはずが、なんか色々とややこしい状況になってませんかね?
……まあ、警察の方が増えたとて、俺がやるべきことは変わらない。昨日の時点で操作方法確認は済ませているから、今日はそれを実行するだけだ。後は臨機応変に、うまくいくことを祈るしかないだろう。
「というわけで恩田君、動画撮影はよろしく頼むよ。今日は私も、ダンジョンに入るからな」
「……はい?」
「……え?」
え、なに、団十郎さんも一緒にダンジョンへ入るのか!?
「……えっと、権藤さん?」
「すまん、昨日遅くに急遽決まったことでな。あまりに遅かったので連絡するのも申し訳ないと思い、こちらで準備を進めていた」
「そ、そうですか……」
この感じだと、権藤さんもしかして寝ていないのではなかろうか。迷宮開発局長って激務なんだな……さすがに危ないから、ちゃんと働き方改革をした方がいいと思うけど。職務上なかなか難しいんだろうな……。
……その後、権藤さんから詳しい説明を聞いた。役割分担としては、俺とスーツの方が撮影係で、神来社さんが周囲の警戒。権藤さんは演者兼護衛で、メイン演者は朱音さんと団十郎さんになるようだ。ガッツリ顔出しも覚悟はしてきたのだが、俺に関してはどちらでもいいらしい。
ダンジョンに入るのは午前8時ちょうどになってからで、本来は亀岡ダンジョン開場前の時刻なのだが、そこは警備体制上やむを得ないという理由で特別立ち入りさせてもらうようだ。
また、昨日の営業時間終了時点で探索者全員がダンジョンを退出済であることは、権藤さん自ら確認しているらしい。なので今日は、誰もいないダンジョンに俺と朱音さん、案内役兼ダンジョン管理責任者として権藤さん、警察代表の団十郎さんとスーツ姿の方、そして……。
「よろしくお願いいたします」
「よろしくな恩田さん、朱音嬢」
「「よろしくお願いいたします」」
亀岡迷宮犯罪対策課員である神来社大司さんの、計6人で立ち入ることになる。警察の方2人が若干お疲れモードなのは、お2人もまた日程調整に奔走したからだろうな。
……あれ、そう言えば。
「団十郎さん、少しだけよろしいですか?」
「ん? なんだい恩田君?」
「あの女性課長さんには、ちゃんとお話されているのでしょうか?」
未だお名前を存じ上げないのだが、団十郎さんは亀岡迷宮犯罪対策課長さん (おそらく、元自衛隊員の方)にダンジョンへの立ち入りを止められている。そして今日は、ダンジョンに立ち入るメンバーにも含まれていない。
別に神来社さんで不満があるわけではないし、権藤さんもいるので十分万全を期しているとは思うのだが……ちゃんと確認が取れているのか、少しだけ気になったのだ。
「横から申し訳ない、恩田さん。久我本部長がどうしてもダンジョンに入りたいって聞かなかったから、反中課長には確認済だ。
……なんだかよく分からないが、権藤局長も一緒に入るって話をしたら『そう、あの人が一緒なら万が一も無いわね』って言ってあっさり許可を出してくれたぞ」
へえ、あの女性課長さんは反中さんというのか。そして権藤さんの実力を知っている、と。
……これで、反中さんが元自衛隊員であることは確定したな。まあ、そんな方が許可しているのであれば大丈夫だろう。
「反中か」
権藤さんも自衛隊員時代のことを思い出しているのか、懐かしそうな顔をしている。その顔に負の感情が全く見当たらないのは、反中さんが探索者として優秀だからだろうな。
「よし、午前8時になったな。ダンジョンバリケードの中へ入ろうか。今日は1日、ライブ配信への対応をよろしく頼むよ、恩田探索者」
「承りました、権藤局長」
さて、ダンジョン攻略動画配信においては史上初のライブ動画配信だ。なんか色々とくっついてきてしまっているが……まあ、構うまい。
俺は俺の、やるべきことをやるだけだ。
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