4−12:一抹の不安
「………」
仲間内で盛り上がる、大学生っぽい雰囲気の集団に目を向ける。大集団の中に大きなグループが3つあり、それぞれの中に更に小さな仲良しグループがあるような感じだ。
時期的に、大学のサークル活動か何かの一環で来たのだろうか。3つの大グループそれぞれのメンバーの雰囲気が明らかに違うので、それですぐに見分けが付いた。
「………」
「………」
その中で、一際強い感情が籠もった視線を向けてくる男と目が合う。3グループの中では一番ガタイが良く、見るからにパワー系スポーツを嗜んでいるであろう男性のみ10人で構成されたグループ……そのリーダー格と思しき男だ。
身長は俺と同じくらいなのだが、二の腕や首回りの太さなんかは冗談抜きで俺の倍くらいある。装備は全てランク1だが、男の身長よりも更に巨大なバトルアックスを背負っていて、見た目の威圧感が半端なかった。
「………」
「………」
ただ、探索者の強さは見た目だけでは決まらない。ギフトやスキルという超常現象が現実となった以上、俺みたいな見た目冴えない人間が、実はめちゃくちゃ強いことだってある。
「部長、どうしたんですか?」
「……いや、何でもない」
そして、ガタイの良い男はその辺の事情が分かっている人間らしい。俺を見た目で侮るようなことはせず、向こうから先に視線を切ってきた。
……ああいう手合いが一番厄介なんだよな。俺を侮ってくれた方が、色々と対応もしやすいのだが。
「………」
そう、残る2グループのうちの、片割れのようにな。
どちらも男女混合のグループだが、片方の10人グループはまるでこちらに興味を示していない。コスプ……いや、全員がとてもファンタジー色の強い格好をしたグループなのだが、彼ら彼女らはダンジョン探索をすることが目的ではないようだ。衣装やら小道具やら様々な物を各自が持っているので、映画か何かの撮影目的でここに来たのかもしれない。
「けっ……」
一方で、俺には侮るような視線を向けつつ、女性陣3人に向けて未だ邪な視線を投げかけてくるのは……やはりと言うべきか、かなり尖った格好をした方の8人グループだ。ヒナタとアキにも睨まれたのに、懲りないヤツらだな……。
「ちょ、ちょっとカイト、あいつら絶対ヤバいって。第13層っていったらさ、トップクラスの探索者じゃないの?」
もっとも、全員がそうというわけでもないようだ。1人の女が、リーダー格っぽい金髪男を必死になって止めている。
「あ? あんなおっさんが強いわけねえだろうが。俺らにビビって虚勢張ってるだけだっつーの」
「「「「………」」」」
そう言って、カイトと呼ばれた金髪男が俺たちを挑発してくるが……俺を除くパーティ全員が、もはや完全ガン無視を決め込んでいた。不憫すぎる……。
俺はパーティリーダーなので、何かあれば前に出て敵を処分……いや、相手に対処しなければならない。オートセンシングと目視確認で2重に注意を払いつつ、金髪男を睨みつける。
「あ? んだよ、おっさん」
「まあ、俺が注意してやる義理も無いんだがな……あまり、ダンジョン探索者を舐めるなよ?」
――バチッ!!
「「「「っ!?」」」」
空間に静電気が走り、尖った格好をしたグループメンバー全員の髪が跳ねる。パラライザーより更に威力の弱い魔法 (名前は特に無い)で、攻撃魔法としてのダメージは皆無に等しいが……攻撃の予備動作が、一切無かっただろう?
「自分で言うのもなんだがな、第10層を乗り越えた探索者は並大抵の強さじゃない。熊を二周り以上大きくしたような化け物や、炎を吐く竜のようなモンスターとも俺は戦ってきてる。
……これ以上、俺たちに不躾な視線を向けてくるようなら。このビリビリが、今度は高圧電流に変わるぞ」
まあ、ここで俺自ら手を下す必要は、全く無いんだけどな。
こういう考えのやつらがダンジョン探索を始めても、長生きできないのは分かりきってるからだ。モンスター相手に舐めてかかった結果、思わぬドツボに嵌って命を落とす未来しか見えない。
「テメェ……!!」
拳を握り込み、こちらに一歩踏み出す金髪男ことカイトの挙動を、冷ややかな表情のまま眺める。もし手を出したら、このまますぐに……。
「そこまでです」
……と、ここで権藤さんの懐刀、澄川さんの登場だ。虚空から現れ、カイトたちに鋭い視線を向ける。
【隠密】のスキルを持つ澄川さんは、気配を断つのがとても上手い。そこに【疾風迅雷】のギフトも合わさって、自衛隊時代はモンスター不意討ちからの一撃必殺を得意戦法としていたそうだ。
「「「「うっ……」」」」
それを知ってか知らずか。さすがのカイトも、明らかな強者オーラを纏う澄川さん相手にビビっている。それだけでなく、他の取り巻きたちも澄川さんに気圧されてタジタジになっていた。
「……分かっていますね? 3度目はありませんよ?」
「ちっ、おい、いくぞてめぇら」
「「「「は、はい」」」」
澄川さんに警告されて、渋々ながらもカイトたちが退いていく。装備返却は済ませていたようで、そのままダンジョンバリケードから外へと出ていった。
「すみません、恩田さん。割り込むのが遅くなりました」
「ああいえ、気にしないでください」
「………」
澄川さんが頭を下げてくるが、むしろあのカイトとやらが澄川さんに頭を下げるべきだろうに。澄川さんに止められなければ、そのまま俺に殴りかかって、色々な意味で痛い目に遭っていたのだから。
「会議室の準備が整いましたか?」
「はい。権藤局長がお呼びですので、会議室の方までお越しください」
「分かりました」
澄川さんをその場に残し、6人全員で会議室へと向かう。
……新年度を迎え、新規の探索者が着実に増えてきたが。どうやら今後、一波乱ありそうだな。
「新規探索者、随分と増えていましたね。やはり迷宮関連基本法の施行が理由ですか?」
会議室に入って椅子に座ると、まずは権藤さんにそれを聞いてみる。一癖も二癖もある新人探索者の集団だったが、どうも仲良し大学生グループっぽい雰囲気があった。
「……それもある」
対する権藤さんは、ほんのり難しげな表情でそう言った。さっきも感じたことだが、やはり面倒な状況っぽいな。
「京都市内は大学が多く、そこに通う学生の人数もまた多い。時期的にまだ授業は休みだから、バイトやアトラクション感覚でダンジョンへ来たのだろう。今日は下見といったところだろうな、だから来る時間も遅かった」
「まあ、確かに……」
運が良ければ、探索者はバイトよりも遥かに稼げるからな。ちょうど迷宮関連基本法の施行で注目度が高まっているせいか、そういう系の情報がネットには溢れている。
特に第10層を突破しているような探索者だと、相当景気の良い話が確かにある……ちょうど、俺たちのようにな。
装備珠の買取額が結構高いし、スキルスクロール関連は売れば最低でも100万円にはなる。俺たちは俺たちで、ラッシュビートルの斬羽を始めとする特殊ドロップが、アイテムボックス内に掃いて捨てるほど入っている。仮に1個5万円で売れたとして、数が数だけに1200万円はいくだろう。
……他にも、アイテムボックス内にはもっとヤバいブツもある。宝の地図はともかくとして、飲みかけのポーションや憎悪のステッキ、あとは千鬼王の王冠といった、とても表には出せない物がいくつかあるのだ。それらはとんでもない高値が付くのは間違いない物ばかりで、売れば俺たちもすぐ億万長者になれるだろう。
だが、身の丈に合わない大金を手に入れたことで、人生が狂ってしまった人の話もよく聞く。それが幸せなことだとは思えないのだが、やはりお金の魅力は人の理性を狂わせてしまうのだろうな。
「………」
権藤さんが渋い顔をしている理由も、その辺りにありそうだ。権藤さんの考え方や性格から察するに、理由はおそらく……。
「あと、間違っていたら申し訳ないのですが……見ていて少し、緊張感に欠ける連中でしたね」
現代ダンジョンは、建設現場とよく似ている。感電、墜落、激突といった労災リスクがそこら中にある建設現場と、モンスターというリスクがそこら中にはびこる現代ダンジョン……どちらも命に直結するがゆえ、気軽に立ち入っていい場所ではないのだ。
その辺は、ガタイの良かった連中や映画撮影目的と思しき連中はある程度分かっていたようだが……尖った格好のやつらに関しては、本来持つべき緊張感が全く無いように見受けられた。
もちろん、まだ探索者になったばかりで緊張感を持てるわけがない……と考える気持ちは理解できる。俺もわりと調子に乗りやすいタイプだし、実際に最初の試練の間では、それが原因で命を落としかけているからな。あまり人のことを言える立場じゃないのは、重々承知している。
……だが、今の俺はまがりなりにもパーティリーダーとして、メンバーの命を預かる立場にある。ポカして傷付くのが自分だけならまだいいが、皆の命を背負っている以上は常に緊張感を持たなければならない。
「……やはり、恩田探索者もそう思うか」
「ええ。それが致命的な状況を招かなければいいのですが……」
「そこは、俺も危惧しているところだ。」
やつらのあの緊張感の無さ……なんとかしたいところだが、多分無理だろうな。あれだけ人を舐めきった態度では、大失敗を招いても学習しない可能性が高い。権藤さんが頭を抱えたくなるのも納得だな。
「……さて、そろそろ本題に入ろうか。せっかく早く戻ってきてくれたのだから、今日中に打ち合わせしておきたいこともある」
よし、ここからだな。
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