4−11:大盛況の亀岡ダンジョン
「よし、第3層まで戻ってきたな」
結局、帰り道はスイスイと戻ってくることができた。ハイジャンプに落下速度低下の効果も付いているので、第11層までサクッと下りていくことができたわけだ。
そして、第4層〜第9層までのモンスターは、もはや俺たちの敵ではない。第4層もフラッシュ→ライトニング・ボルテクスの鉄板コンボで完勝だったし、魔石や装備珠も大量に拾えた。ランク3装備珠への変換も済んだし、中々良い感じである。
……ちなみに、第4層のあの装備珠変換台座について新事実が判明している。なんとあの台座、ランク3までの装備珠しか作れないのだ。1度、ランク3の装備珠10個を乗せてランク4の装備珠に変換しようとしたのだが、台座が全く反応しなかったのだ。
まあ確かに、この段階で超高ランクの装備珠をいくらでも入手できたら、まさにバランス崩壊となってしまうだろうが……そのせいで、アイテムボックス内にはランク3装備珠が目白押しとなっている。装備が破損しても十分な数の予備品がある、という点では安心なのだけどな……。
「さて、帯刀さん。【ファイアブレスⅠ】の威力、そろそろこの辺で試してみるか?」
「はい、ぜひ」
帯刀さんには、ファイアブレスの試し撃ちを第3層まで待ってもらった。ようやくこれで、ファイアブレスを通常威力で放てるかどうかが確認できる。
……ちなみに、最初のうちは第5層で試そうかと考えていたのだが。第5層全体に、なんとも言い表しようのない嫌な気配が漂っていたので、スルーして早めに抜けてきたのだ。果たして、あれはなんだったのだろうか……。
ちなみに、嫌な気配は朱音さんや九十九さん、そして帯刀さんも感じていたらしい。一方で、ヒナタやアキはケロッとしていたことから、おそらくは……。
(……まあ、権藤さんには報告しておこうかな)
全く、よりにもよって今日かよ。本気で命に関わるので、ダンジョンに関する報告でエイプリルフールなんてやるつもりは一切無いが、果たして皆が信じてくれるのか……。
まあ、とりあえず権藤さんから全体に注意というか、警告は出してもらおう。あとはもう、それぞれの判断で動いてもらうしかない。今回は第5層の話だし、第4層を突破できるくらいの探索者パーティなら大丈夫だろう。
警告を無視して、第5層で何の準備も無しに特殊モンスターと遭遇しても後悔するんじゃないぞ?
「さて、と。早速来たぞ……!」
「「「ギャギャギャ!!」」」
もはや見慣れた、洞窟のような風景が広がる第3層の終点付近。その下り階段前広場と繋がる通路から、ゴブリン3体が現れた。
ゴブリン共は相変わらず憎たらしい顔をしているが、もはやほとんど脅威を感じない相手だ。油断は足元をすくわれかねないが、それでも簡単には埋められないくらいの実力差はあるだろう。
「帯刀さん、大丈夫、通路の先に人はいないよ。思いきりやってくれ」
「はい……!」
「「「ギャッ!!」」」
帯刀さんがスッと前に出る。ゴブリン共の視線が帯刀さんに集まるが、彼女は今さらその程度で怯むような、ヤワな探索者ではない。
「【ファイアブレスⅠ】!」
――ヒュッ!
初のスキル使用だからだろう。帯刀さんが右手を掲げながら、気合を入れてスキル名を叫ぶ。
――ゴォォォォ!
掲げた右手から、炎が勢い良く放たれる。
……リザードマンのファイアブレスとなんら遜色の無い、十分な大きさと熱量を持つ炎だ。ギフトの影響は無さそうに見えるが、果たしてどうか。
――バゴォォォ!
「「「ギャァァァッ!?」」」
ゴブリン共が炎に飲み込まれ、あっという間に姿が見えなくなる。汚い悲鳴が、煌々と輝く炎の中から一瞬だけ響き……すぐに、燃え盛る炎の音にかき消されていった。
「………」
帯刀さんが大盾を構えて、じっと炎を見つめている。その立ち姿に、隙は一切見当たらない。
――シュウウ……
――コロン
そして、炎が消える。そこにゴブリンの姿は無く、魔石3つだけが残っていた。
「……す、すごい」
「ミッションコンプリート、だな。どうやら問題は無さそうだ」
「そ、そうですね」
帯刀さんが目をパチクリとさせている。同系統では一番弱いスキルながら、思った以上に火力が出たことに少し驚いたんだろう。
俺も初めてファイアブレスを見た時は驚いたし、初見のハイリザードマン戦では身をもってその威力を体験してるからな……高威力・長射程・低燃費と三拍子揃った、使い勝手の良いスキルなのは間違いないだろう。
……ただ、火属性って効かないモンスターが結構いるんだよな。まだダンジョン攻略の序盤だというのに、ざっと5体くらいは火属性攻撃がまともに通じなかった敵が思い浮かんでくる。
まあ、そういうモンスターが相手の時は、目眩ましに使うのが一番いいだろう。九十九さんがハイリザードマンにファイアボールをぶつけて、大きな隙を作ってくれたように……な。
「これで、私ももう少し探索に貢献できそうです」
「まあ、既に十分すぎるくらい貢献してくれてるけどね。選択肢が増えるのは良いことだな」
帯刀さんの存在が、パーティの安定感構築に一役買っているのは間違いない。地味だが大切な役回りだ。
そこに遠距離攻撃が加われば、立ち回りの幅が更に広がっていくだろう。帯刀さんのこれからの活躍に乞うご期待、だな。
◇
「よし、今日も無事に帰還だな」
さすがに慣れた道なので、仮に地図が無くとも今さら迷ったりはしない。帰りはサクサク、午後5時半にはダンジョンを出ることができた。
時間的に少し早いからか、ダンジョンバリケード内は探索者の姿がかなり多い。3月の間は1回も見たことが無い光景だ。全員が真新しい装備に身を包んでいるが、もしかして新人探索者だろうか。
……よく見ると、彼ら彼女らのほとんどは10代後半から20代前半で、着ている防具もランク1の装備ばかりだ。今日、初めてダンジョンを探索した人が多いのだろうな。
「うあぁぁぁ!! ホントなんなんだよあのスライムは!? ザコじゃないんかよ、武器溶けたんですけど!?」
「「………」」
半ばでポッキリと折れてしまった槍を片手に、大学生くらいの男性が悔しさから叫んでいる。それを、朱音さんが何とも言えない表情で眺めていた。朱音さんも少しばかりやらかしたクチなので、彼の気持ちはよく分かるのだろう。
……よく見ると、帯刀さんも微妙な表情を浮かべている。もしかして、前衛タイプの探索者は誰もが通る道なのだろうか……?
「ふむ、思ったよりも新人が多いな。まったく、嬉しいやら悲しいやら……ん?」
そんな新人探索者たちを、権藤さんが遠巻きに眺めていたのだが……俺たちが戻ってきたことに気が付いたのか、ゆっくりとこちらへ振り向いた。
「おう、恩田探索者か。戻ってきてたんだな」
「ええ」
権藤さんがこちらへ向けて歩いてくる。
……新人探索者のうちの何人かは、権藤さんが亀岡ダンジョン局長であることを知っているようだ。その権藤さんが俺たちの方へ近寄っていくのを見て、こちらに視線を向けてきている。
そして、その大半がどこか訝しげな視線だ。9時きっかりに彼ら彼女らは居なかったので、その少し後くらいに来たのだろうか。俺たちとは全く会わなかったので、『誰だこいつら』くらいには思ってるかもしれないな。
……あとは、ほんの少しの邪な視線も混ざっている。帯刀さんや九十九さんは気付いていないようだが、朱音さんはやや険しい表情でそちらを見据えていた。
「恩田探索者、今日はどこまで行ってきたんだい?」
「サクッと第13層まで、ダイブイーグルと初戦闘をしてから戻ってきました。一緒にハイリザードマンも出てきたので、少し手こずりましたが無傷で倒せましたよ」
「「「「!?!?」」」」
ちょっとばかりムカついたので、あえて周りに聞こえるように大きな声で権藤さんに返す。権藤さんも俺と朱音さんの様子に気付いていたのか、俺の大声に驚いた様子は無かった。
……むしろ、笑顔で軽く頷いてさえいる。あまり態度の良くない新人探索者が混ざっていたのだろうか。人数が多くなると、どうしても避けられないことではあるが……権藤さんにとっても、俺たちにとっても頭の痛い問題になるだろうな。
まあ、あれくらいの年齢だと謎の全能感というか、無敵感が体中に漲ってたりするからな。大概は、少しずつ現実を知って丸くなっていくものだが……果たして、彼ら彼女らはどうだろうか?
頼むからさ、無茶だけはしてくれるなよ?
「さて、権藤さん。少し相談したいことがありまして……」
「おう、こちらも待っていたぞ。場所はもう取ってあるから、会議室の方に行こうか」
「ええ」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
「「「「!!??」」」」
ちょうどいいタイミングで、ヒナタとアキが声を上げてくれた。2人とも邪な視線には気付いていたようで、珍しくそちらを睨んでから一際元気良く声を出していた。
……ウチのエースに目を付けられるとは、ちょっと迂闊じゃないですかね? まあ、いいですけど。
「場所は分かるかい?」
「ええ、こっちですね?」
「そうだ。先に行って準備しているから、ゆっくりと来てくれるか?」
「了解です」
権藤さんの背中を見送ってから、俺は新人探索者たちの方に目を向けた。
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