4−9:恩田高良の影、そして決着
「"ドッペルシャドウ"」
――ウォォォン……
ハイリザードマンの目の前で、実戦初披露の新たな【闇魔法】を行使する。
俺が使ったのは、対象の影を実体化させて操る魔法、ドッペルシャドウ。今回は俺自身の影を実体化させ、人型に形を整えて俺の隣に立たせた。
「シャアッ!?」
それを見たハイリザードマンが、明らかに狼狽えている。ここまで1対1……俺より更に後ろで目を光らせる九十九さんと、俺の右肩にアキもいるので正確には3対1なのだが、その戦力差が更に開いたように見えるわけだ。
そして、その認識は半分くらい正しい。
――ウォォォン……
ドッペルシャドウで実体化させた影は、元になった存在……すなわち、俺とほぼ同じ能力を持つ。実質俺が2人いるようなものなので、その意味では反則技とも言える。
ただ、デメリットも大きい。
まず、影を実体化させているだけで魔力を消耗していく点だ。自分の影を使っている場合は、自然回復量を打ち消す程度の消耗率で済むのだが……他の誰かの影を使うと、それはもう凄まじい勢いで魔力が減っていく。おそらく1分は保たないだろうペースで減っていくわけだ。
加えて、影に魔力消費を伴う行動をさせると、その消費量が5倍近くに跳ね上がってしまう。全力で戦えば、あっという間に魔力切れを起こしてしまうだろう。こればかりはどうすることもできないので、戦い方を工夫するしかないのだ。
更にもう1つ、影が受けた感覚やダメージを本体も共有してしまう点も、欠点と言えば欠点だ。広範囲攻撃を食らうとダメージが単純に倍となるので、十分に気を付けなければならない。
――ウォォォン……
「シャッ!?」
それらのデメリットを考えると、影人間は撹乱に使うのがベストだろう。魔力消費を伴う行動さえさせなければ、棒立ちだろうが走らせようが魔力消耗率は変わらないので、とにかく動かしまくってハイリザードマンの気を逸らす作戦でいこうと思う。
――ウォォォン……
「シャッ、シャアァァッ!?」
無音のまま走りだした影に、ハイリザードマンは見るからに困惑している。いくら賢いハイリザードマンでも……いや、ハイリザードマンが賢いからこそ常識外れの光景に戸惑い、影の方へと注意をやってしまい――
「――計画通りだ」
そして、本体の俺から目を離してしまうのだ。
ハイリザードマンから見て、右の真横まで、影を走らせる。ハイリザードマンは盾を左手で持っているので、影の攻撃から身を守るためには都度体を捻らなければならない。その負担を強いるように影を配置したが、どうやら効いているようだ。
「"サンダーボルト・クリング"!」
――バヂッ!
この隙に、新作の【雷魔法】をハイリザードマンに向けて撃ち込む。どこかねっとりとした感じの電撃が、俺の右手からハイリザードマン目掛けて飛んでいった。
「シャッ!?」
さすがに電撃音が大きかったので、俺が魔法を放ったことには気付かれたようだが……タイミング的には、既に攻撃を避けられない状況にある。ハイリザードマンもそう判断したのか、盾を構えて守りを固めたようだ。
……だが、無駄だ。
サンダーボルト・クリングは、当たりさえすれば効果を発揮する魔法だ。ハイリザードマンのどこにでも、それこそ鎧でも盾でも当てることさえできれば、確実にダメージを与えることができる攻撃魔法なのだから。
――バヂヂヂッ!
ハイリザードマンが構える盾に、俺の電撃が当たる。
――ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!
「ギャギギギギギギ!?!?」
すると、なんと盾を伝って、ハイリザードマン本体に電撃がまとわりついていく。さながら獲物に襲いかかるアリのように、電撃は少しずつ分裂しながらハイリザードマンの全身にへばり付き、ビリビリと痺れさせていった。
これがサンダーボルト・クリングだ。当たった場所から移動しつつ相手にまとわりつき、長時間に渡って電撃を浴びせる魔法である。これだけで倒し切るのは難しいが、ハイリザードマンの動きが大きく鈍るのは間違い無いだろう。
「ガ、ガァァァァ!?」
「きぃっ! きぃっ!」
鳴き声がしたので上をチラッと見てみると、ヒナタとダイブイーグルが激しく戦っている……ように見えて、どうやらヒナタが圧倒的優勢のようだ。ヒナタが無傷なのに対してダイブイーグルは既に満身創痍、地上の俺たちに構っている余裕は無さそうに見える。
……まあ、考えてみればそりゃそうか。ヒナタは千鬼王の大魔石を食べたことで、【オートプロテクト】のスキルを得ているのだから。ダイブイーグルの攻撃では、ヒナタの守りを突破できないのだろう。
これでダイブイーグルの特殊個体辺りが出てきたなら、かなり歯応えのある戦いになると思うんだが……。
「きぃぃぃぃっ!!」
――バヂヂヂヂヂヂ……
「シャ、シャァァァァッ!」
「!!」
ヒナタがダイブイーグル目がけて突進していく姿を見届けていると、ハイリザードマンが痺れる体を無理矢理動かして斬りかかってきた。しばらくは動けないと思って、油断していたな……反省せねば。
しかし、ハイリザードマンの動きは明らかに鈍っている。防壁はまだ小さく展開したままなので、今のハイリザードマンの攻撃なら簡単にいなせるだろう。
「"ファイアボール"なのです!」
――ゴォッ!
――バゴォォンッ!
「ギャッ!?」
ただ、その前に九十九さんが動いてくれた。ダイブイーグルやハイリザードマンの動きを注視していた九十九さんが、このタイミングでファイアボールを放ってくれたのだ。
火球はハイリザードマンの顔に当たって爆発し、ダメージこそ軽微だったものの大きく仰け反らせることに成功した。しかも、爆炎が俺の方に来ないよう配慮までされている……俺よりはむしろアキへの配慮だと思うが、この辺りはさすが九十九さんだな。
「ぱぁっ!」
――ブシュウッ!
続けて、アキが白色の霧を放つ。白色の霧は不良探索者に襲われた時にも出していたが、その時はどんな効果が出ていたのか分からなかった。
さて、今回のこれで効果がハッキリするだろうか?
――バシュッ!
「シャッ!? シャァァァァ……」
ファイアボールの衝撃を振り払うように頭を振るハイリザードマンへ、白い霧がまともに振りかかる。それを吸ってしまったハイリザードマンが情けない声を上げながら、草木が萎れるようにしなしなと崩れ落ちた。どうにも体に力が入っていないようだが、状態異常名を付けるなら"脱力"辺りになるだろうか?
……ああ、だからあの時の不良探索者も、白い霧を浴びたあと急に大人しくなったのか。そういえば、今はどうしてるんかね、あいつらは?
まあ、それはともかく。これでアキが放ったことのある状態異常の霧は、毒・麻痺・睡眠・脱力・幻惑の5種類になったな。
いやはや、随分と強力で幅広いラインナップだ。あのゴブリンキングにさえ幻惑は効いたし、これだけ種類があれば大概のモンスターは耐性の隙を突けそうだな。
「きぃぃっ!!」
――ゴォォォォ!
「ガァァァァ!?!?」
――ヒュゥゥゥ……
そして、いつの間にか上空では勝負に決着が付いたようだ。
結果は、やはりヒナタの完勝だった。ヒナタが放ったファイアブレスに全身を包まれ、飛ぶ力を完全に失ったダイブイーグルがそのまま空から落ちてくる。それを追いかけて、無傷のヒナタも地上へと戻ってきた。
――ヒュゥゥゥ……
――ボフンッ
ダイブイーグルが、自由落下しながら白い粒子へと還っていく。そこから、大きめの魔石が落ちてきた。
「きぃっ!」
ここが定位置だとばかりに、ヒナタが俺の左肩に止まる。
「よし、食らえ、"ライトニング・コンセントレーション"!」
――ゴロゴロゴロ……
――カッ!
ヒナタが肩に戻ってきたタイミングを見計らい、ライトニング・コンセントレーションをハイリザードマンに向けて放つ。上空で戦うヒナタへフレンドリーファイアをやらかしてしまう可能性があったので、ライトニング系の魔法はここまで使うのを控えていたが……これでもう大丈夫だ。
――ドドドドドドォォォォンッ!!
「シャガガガガガガッ!?」
モクモクと湧き出た黒雲から、幾筋もの雷撃が落ちてくる。その全てがハイリザードマンへと当たり、13発目を雷撃を浴びた時点で体から白い粒子を放ち始めた。
……少しオーバーキルだったな。だが、今日はこれ以上先に進むつもりは無いので、そこは気にしないことにした。
「……シャガァ」
そして、ハイリザードマンと言えばファイナルアタックの【ファイアブレスⅡ】。律儀にも25発目の雷撃が落ちた後に、大きく息を吸う動作をし始めた。
このファイナルアタックは、トドメを刺してきた相手……つまり、俺に向けて放ってくる。もちろん、このまま黙って受けてやる義理は無い。
「盾展開!」
――ブォン
ドーム型の防壁を盾から繰り出し、ヒナタとアキごとすっぽりと覆う。前面だけでも防御としては十分なのだが、火が苦手なアキを肩に乗せているので念入りに全周を覆っておくことにした。
「シャァァァァッ!」
――ゴォォォォッ!!
――ヂヂヂヂヂヂヂヂッ!
激しい火炎がハイリザードマンの口から放たれ、防壁にぶち当たる。スパーク音を響かせながら、炎はドームの表面を滑るように移動していき……最後は弾かれ、空中で霧散していく。
「ぱぁっ♪」
「きぃっ♪」
もちろん、全員が無傷だ。特にアキは、防壁に守られていると炎を必要以上に怖がらなくなった。一応警戒はしているようだが、余裕の笑顔を浮かべている。
「シャァァ……」
――カラン、コロン……
やがて、炎を吐き終えたハイリザードマンがゆっくりと倒れていく。白い粒子へと還りながら、最後はドロップ品が地面を跳ねる音が甲高く辺りに響いた。
――ポスッ
……スキルスクロールも2つ落ちた。さすが特殊モンスター、ドロップ品がかなり豪華だな。
「はっ!」
――ズバッ!
「シャァッ!?」
「たぁっ!」
――ドスッ!
「ギャッ!?」
ハイリザードマンが倒れたことで、バフ効果も無くなったのだろう。途端に動きが鈍くなったリザードマン共を、朱音さんと帯刀さんがあっさりと斬り伏せた。
それぞれ致命打を与えられたリザードマンは、魔石にその姿を変えた。どうやら他のものはドロップしなかったようだ。
「………」
辺りを見回し、オートセンシングでも検知してみるがモンスターの反応は無い。どうやら、これで打ち止めのようだ。
「……ふぅ」
新モンスターとの初遭遇戦、かつ特殊個体との急な遭遇戦だったが、なんとか全員が無傷で勝利することができた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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