4−7:ダンジョンの詳細図って、実は相当価値がある代物だよね?
階段を下りている
「ねえ、恩田さん。さっきの話の続きなんだけど……」
「ああ、地図の話か?」
そうそう、道の途中で話すことじゃないって制止したんだったっけか。だが、階段なら大丈夫だろう。
現状、亀岡ダンジョンの地図は俺の頭の中……というより、【空間魔法】でできた巨大な空間内に立体的に作り上げられている。これを見ながら、俺は迷わず皆を先導できているわけだ。
ただ、その状態が続くのは正直よろしくない。あまり考えたくはないことだが、万が一俺に何かあった場合に他の誰も地図を見られなくなってしまうのだ。この辺はアイテムボックスも同じ状況で、むしろこちらの方が危険性は高いのだが……まずは、地図の方から対策を考えていくか。
地図は紙に転写するとか、電子データ化するとか、何かに投影するとか……つまりは、皆の目に触れられるような形にする必要がある。その辺は魔法の発想力次第だが、十分に可能だろう。
……ただ、直接電子データ化するのは難しいだろうな。地図をデジタルデータに落とし込むためには、俺が直接2進数に変換しなければならないのだが……その変換パターンが全く分からないし、仮にパターンが分かっても、データをUSBメモリなどに転写するのが極めて難しい。勉強してすぐに解決できるようなことではないので、この方法は一旦無しだ。
壁などに投影する方法は、実は【光魔法】で映すだけなので一番簡単なのだが……その場限りで消えてしまうので、データが手元に残らない。写真をこれでは意味が無いだろう。
残るは、紙へ転写する方法だが……こちらは普通に可能だ。転写の仕方は工夫しないといけないけどな。
俺ではインクやトナーをうまく扱えないので、インクジェット式やレーザープリント式の転写方法は使うことができない。これらはプリンター内の緻密な制御によって成り立っているものなので、人間がフリーハンドでどうこうできるものではないのだ。
……ならば、どうするか。
パッと思い付いたのが、感熱紙を使う方法だ。最近は徐々に用途が限定され、見かける機会が減ってきている感熱紙だが……【光魔法】で弱いレーザーを放ち、その熱で発色させて転写すれば十分に可能だ。時間もお金もそこまでかからないし、1度転写してしまえばコピーや電子データ化も思いのままだ。
あとは、なんらかのソフトを使って地道に転写していくとかな。10層分以上の地図を描いていくなら、CADソフトがあった方が便利だとは思うが……まあ、そこまでは求めまい。書こうと思えば、ペイントでもエ◯セルでもパ◯ーポイ◯トでも書けるのだから。
つまるところ、できるかできないかで言えば……。
「方法は幾つか思い付いてる。あとは試してみて、一番良いのを選んでみるよ」
「ありがとう!」
個人的には、感熱紙を使う方法を第一としたいところだ。他の方法は時間がかかり過ぎるからな……。
◇
「……?」
ダンジョン第13層に下り立つ。これまでと同じように、階段前広場と濃い藪、そして高い崖とジグザクの上り坂が見えるが……どうしてだろう。
俺の直感が、ほんの少しだけ警鐘を鳴らし始めた。
本当に少しだけなので、それが原因ですぐ致命的な状況に陥ることはなさそうだが……なんでだろうか?
「あれ、恩田さんどうしたの?」
「いや、少しだけ嫌な予感がしてな……」
……ああ、そういえば思い出したよ。
第13層から、新しいモンスターが出現するんだったな。第11層以降の情報ってあまり無いから、すっかり忘れてた。
モンスター名は、確か――
「――ガァァァァッ!!」
――バサッ! バサッ!
「……!?」
唐突に、オートセンシングがモンスターを検知する。それと同時に、今まで聞いたことのない妙な鳴き声が遥か頭上から聞こえてきた。力強い翼の羽ばたき音も聞こえてくる。
「ガァッ! ガァッ!」
「……っ! アイツは……!!」
とっさに空を見上げると、そこにいた大きなモンスターとバッチリ目が合った。
飛行型モンスターと言われると、ブラックバットやラッシュビートル辺りがすぐに思い付くが……いくらなんでも、あんな優雅に飛ぶことはできない。ラッシュビートルは飛ぶというより滑空だし、ブラックバットは羽ばたき方に余裕が無さそうに見える。インプはただ浮いているだけで、羽ばたいてすらいない。
しかし、この高空を飛ぶモンスターは全く違う。猛禽類を思わせる靭やかなフォルムに、俺を見据える鋭い眼光。白い翼をゆっくりと羽ばたかせて空高く飛ぶ姿は、どこか勇壮さを感じさせる。
加えて、そのモンスターはとにかくデカい。翼を広げると3メートルくらいはあるんじゃないだろうか。ブラックバットは小さくて弱かったが、目線の先にいるアイツは一目ですぐに強いと分かる姿をしていた。
「階段を下りてきて早々に遭遇とはな、"ダイブイーグル"!」
その姿を見て、モンスターの名前を思い出した。
ダイブイーグル。名前の通りオオワシのような姿形をしたモンスターで、急降下からの爪による強力な物理攻撃を放ってくるそうだ。その力は相当に強く、まともに食らえば体に軽く穴が開くほどらしい。
そして、これが一番厄介なんだそうだが……ダイブイーグルは飛行能力が非常に高く、その特長を生かして高高度から射程距離の長いウインドブレスを撃ってくるらしい。しかも非常に賢く、遠距離攻撃手段を相手が持っていないと判断すると、ダイブイーグルは爪攻撃を一切仕掛けてこなくなるそうだ。
一方的に撃ち下ろされるウインドブレスを、ひたすら避けながら先に進む……それは、ダンジョン探索の難易度を大きく引き上げる。人間は体の構造上、上空からの攻撃に弱いのだから。
「あれがダイブイーグルなのね。大きい分だけ武技も当てやすそうだわ」
「【火魔法】もよく効きそうなのです」
「私は遠距離攻撃が不得意ですが、接近戦になった際はお任せください」
「ああ、その時は任せた。俺も頑張って撃ち落とさないとな」
まあ、俺たちのパーティは全く問題無いけどな。唯一、帯刀さんだけは遠距離攻撃が苦手だが……そこをフォローしてこそのパーティだし、代わりに帯刀さんはカウンター攻撃を得意としている。ダイブイーグルの急降下爪攻撃もうまくいなして、反撃へと繋げられるだろう。
「ガァァァァッ!」
……それにしても、ダイブイーグルはとにかく目立つな。鳴き声も体躯もかなり大きいし、アレを見落とす方がよっぽど難しい。ダイブイーグルに奇襲攻撃を食らう可能性は、ほぼ0に等しいだろう。
その点だけは、隠密性に長けたブラックバットよりもマシ――
「「「――シャァァッ!」」」
「……はい?」
おいおい、この鳴き声はまさか!?
「シャァッ!」
「シャッ!」
「シャァァッ!」
「え、ちょっとちょっと、リザードマンまで出てきたわよ!?」
濃い藪の奥から、3体のリザードマンがゾロゾロと現れた。
……いや、なんでだよ!?
「ダイブイーグルがいるじゃねえか。なんでリザードマンまで出てくるんだよ」
「うわぁ、すっごく面倒なのです……」
「空中と地上の両方にモンスター、ですか……!」
まさか、ダイブイーグルも【仲間呼び】のスキル持ちなのだろうか? リザードマンが出てくる直前に大きく鳴いてたから、その可能性は十分にある。
空中だけ、地上だけならわりと簡単に対処できるのだが……空も陸も両方気を配らないといけないのは、かなり厄介だな。
「………」
一筋縄ではいかない状況、か。
「……面白いな」
「……え?」
無策に突っ込めば被害甚大だ。だからこそ、考えて戦う必要がある。
簡単には先に行かせてもらえないが、戦略的に攻略する余地が多分にある。道も、モンスターもだ。その辺のバランス感が、現代ダンジョンは整っていて本当に面白い。
「ガァァァァッ!!」
「「「シャァァァァァッ!!」」」
さあ、まずはダイブイーグル&リザードマン3体との戦い、しっかり勝ち切っていこうか!
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。