4−5:ダンジョン探索はエクストリームスポーツ
リザードマンとの戦いは、俺たちの完勝に終わった。決して楽な相手ではないが、6人で力を合わせればまあこんなものだ。
しかし、第11層の階段前広場は濃い藪に囲まれている。その分モンスターとの遭遇率も高いので、早めにここを離れた方がいいだろう。
そして、背後は上り階段だ。大岩がくり抜かれて、そこに階段が顔を覗かせているが……さすがに、今日はまだ戻るつもりは無い。
そうなると、前に進むしかないわけだが……。
「"アイテムボックス・収納"っと。
……うへぇ、これを登るのか」
眼前には、見上げるほどにそびえ立つ高い崖。第11層に来る度に思っていたが、すごい迫力だ。
そこをジグザクに上っていく道は勾配こそ緩くなっているものの、その分距離も長くなっている。登山道のような険しい道を進む場合と比べても、そのキツさはあまり変わらないように思える。
「……あら、不安なの恩田さん? 私の時はあんなにハッ「はははまさかあんなもん朝飯前だよ! さあ行こうか、朱音さん!」そう? ならサクッと行きましょう!」
いやいや危ねえな、何を言うとるのですか朱音さんは!?
……ニヤニヤしてるところを見るに、完全に揶揄われたな、これは。もっとも、朱音さんも少し顔が赤いので、勢いに任せて若干自爆気味の言動をとってしまったみたいだが。
「……? これは、どのような意味なのでしょうか?」
「あ〜、うん、せっちゃんはそのままのせっちゃんで良いのです」
「???」
「……♪」
そうだ、気にするな帯刀さんよ。あんまり深掘りされると、俺と朱音さんに特大のメンタルダメージが入ってしまうから……。
「……ふぅ、結構登ってきたな」
ヘアピンカーブを曲がること、5回。おおよそ6割方登ってきたところで、第11層を攻略し始めてから15分が経過した。
下を覗き込むと、結構高い所まで登ってきたことがよく分かる。
「ふふ、大丈夫? 恩田さん?」
「ああ、まだまだ大丈夫だ」
探索者になる前だったら、確実にへばっていただろうな。どこまでも続く上り坂、微妙に足を取られる小石、ガサガサ音の後に現れるモンスター……地味に体力を消耗させる要素が、この道には幾つも詰まっている。
それが、軽く息が上がるだけで済んでいるのは……探索者的な身体能力の成長によるものが大きいのだろうな。
「恩田さん、これしきで息が上がるなんて少し運動不足なのです? 普段ちゃんと運動してるのです?」
「もちろん、してるぞ?」
週6で"ダンジョン探索"という名の運動をね。ある意味でエクストリームスポーツだと思うよ、これは。
……とは言っても、俺は後衛寄りだからあまりダッシュとかする機会が無いんだよなぁ。歩いている時間は長いと思うが、運動強度の総和で言えば思ったよりは低いのかもしれない。
「……坂道ダッシュ100本でもやってみるか?」
そうしたら体力が付いて、もっと早く崖を登り切れるようになるだろうか。
……いや、疲れ果てた挙句モンスターにボコボコにされる未来しか見えないな。この階層から出てくるモンスターは、そんなにヤワな相手じゃない。もし本気でダッシュをやるのなら、もっとモンスターが弱いところでやるべきだろう。
「………」
思い返せば、俺って体力も無いのによく真紅竜から逃げ切れたよな。火事場の馬鹿力というヤツだろうか、人間必死になれば大概のことはできてしまう、というのを身をもって体験できたのかもしれないな。
「よし、着いたぞ……ふぅ」
更に追加で10分ほど山登りをすると、山頂にようやく下り階段が見えてきた。これで、第11層は踏破だな。
「よし、地図もバッチリだ」
日々探索を繰り返した結果、あれから魔力量も大きく伸びている。地図を完成させるために繰り返しビューマッピングを使ったが、戦闘で消費した分を含めても魔力はまだ2割も減っていない。第11層は全体的に見通しが良く、分岐の無い一本道な階層だったのも理由としてはあるが……。
「………」
山頂から下を覗き込むと、ちょうど真正面に上り階段のある大岩がおぼろげに見えた。勾配を緩くするために道が曲がりくねっているだけで、直線距離で登れればかなり近いようだ。
しかも、モンスターが高確率で出現する藪はヘアピンカーブの頂点部分にしか無い。まっすぐ登れれば藪を回避でき、戦闘回数も少なく抑えられるだろう。その分勾配は非常にキツく、ほとんど崖登りに近い感じになりそうだが……まあ、そこは付与魔法の力を借りよう。
第12層も同じような階層構成なら、大幅なショートカットができるかもしれないな。
「よし、もうすぐ正午だし、階段を下りがてらそろそろ休憩を……!?」
――ガサガサガサッ!!
「「「「っ!?」」」」
俺が号令を掛けるまでもなく、全員が戦闘態勢を取る。下り階段広場の周囲が濃い藪になっていることを、完全に忘れてしまっていた。ここに長く留まれば、モンスターに遭遇するなんて当たり前じゃないか……。
「「「ブゴォォォォッ!!」」」
藪から鼻息荒く登場したのは、豚鼻の巨漢……オークが3体だった。全員が粗末な腰蓑を身に着け、巨大な棍棒を右手に持っている。見た目通り物理攻撃力が高く、鈍重だがタフな相手だ。
オークは第11層から初登場するモンスターだが、今日はまだ1度も見かけていなかった。ラッシュビートルやインプ、ゴブリンアーミー・アーチャーも第9層から引き続き登場していて、今日はそちらとばかり遭遇していたのだ。
……ちなみに、ブルースライムも見かけたので適当に倒している。あいつら、本当にどこにでも出てくるよな……。
「俺が行く!」
「分かったわ!」
オークとはまだ距離があり、出てきた場所に一番近いのは俺だ。そして、1度走り出したオークを止めるのは骨が折れるので、一刻も早く足止めをする必要がある
「燃えろ!」
――ゴォォォォッ!!
そこで、俺が選択したのは【ファイアブレスⅡ】だ。射程距離が長く、出も弾速も早い【ファイアブレスⅡ】はこういう時に使い勝手が良いのだ。魔力消費量も少ないので、気軽に連発できるのも評価が高い。
――ゴウッ!!
「「「ブゴォォォォッッ!?」」」
オーク3体を炎が包み込み、ダメージを与えつつ足止めをする。タフなオークを倒せるほどの威力は、さすがの【ファイアブレスⅡ】にも無いが……オーク相手に放つ初手としては、十分過ぎる成果を上げることができた。
ここから、一気に仕掛ける!
「はぁっ!」
――ズバッ!
「「ブゴッ!?」」
まずは、炎に紛れて接近していた朱音さんがオークの足を斬り裂いていく。オークは超重量級の体躯を持つわりに足が細いので、ちょっとダメージを与えるとすぐに転倒するのだ。
ただ、朱音さんの攻撃はオーク2体には届いたが、残り1体にはさすがに届かなかったようだ。
「ブゴォッ!!」
その無事だったオークが、棍棒を振り上げて朱音さんを狙う。オークの攻撃動作に朱音さんは気付いているが、倒れたオークに追撃をかけることを優先したようだ。
「"ライトニング・クイックボルト"!」
――カッ!
すぐに俺の魔法攻撃が放たれることを、朱音さんは分かっていたからだろう。位置関係的にオーク1体へ攻撃が届かないことは分かっていたので、俺は最速で雷撃を撃ち込めるよう攻撃魔法の準備を進めていた。
通常のライトニングは発動から雷撃までワンテンポの間があるが、このクイックボルトは発動後即雷撃が落ちてくる。
――ドゴォォォッ!!
「ブゴゴゴゴ!?」
そして、振り上げた棍棒がちょうど避雷針の役割を果たしてしまったらしい。そこに直撃した雷が、オークの体に余すことなく高圧電流を流し込んでいく。
棍棒を掲げた状態で痺れてしまい、完全に動きが止まってしまったオーク。そこにすかさず飛び込んでくる、小さな光が1人。
「きぃぃぃぃっ!!」
――ドシュッ!!
「ブギィッ!?」
緑色の光を纏ったヒナタだ。【風属性攻撃】のスキルを纏った急降下突進攻撃がオークを襲い……その分厚い胴体に、綺麗な風穴を開けた。明らかな致命打ゆえ、もうあのオークは完全に戦闘不能だな。
その証拠に、オークは既に白い粒子へと還り始めている。あと数秒もすれば、ドロップアイテムへと姿を変えるだろう。
「ふふっ、私もヒナタに負けてられないわ……ねっ!」
――ズバッ!!
「ブギッ!?」
ヒナタの一撃をさらっと確認しつつ、朱音さんが転倒したオークにきっちりトドメを刺していく。もう1体のオークは既にドロップアイテムへと変わっており、今しがた朱音さんが斬ったオークが最後の1体だ。
そのオークも、白い粒子へと還っていく。立っている敵モンスターの姿は、どこにも見当たらなくなった。
「………」
だからこそ、慎重に辺りを見回す。これまでの経験から、第11層のオークは最大3体までしか同時に出てこないことを確認しているが……万が一もある。
オークも決して馬鹿ではない。藪に潜んで奇襲攻撃を仕掛けてきたりなど、賢しい行動パターンが無いとも限らないからな。用心するに越したことは無いだろう。
「……ふぅ」
そして、他にモンスターが居ないことが確認できたところで一息つく。
「"アイテムボックス・収納"っと。よし、さっさと階段を下りよう」
「「「ええ!」」」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
またモンスターに遭遇する前に、下り階段を下りていく。時刻はちょうど正午、ここで一旦昼休憩だな。
もちろん、お昼ご飯の用意は万全だ。さて、今日は何を食べようかな……?
……ちなみに。
「うーん、よくよく考えてみると不思議なのです。上に登ってきたのに、どうして下り階段で次の階層に行けるのです?」
「……確かにそうですね。なぜでしょうか?」
「階段の段数って変わってないわよね……?」
「ぱぁ?」
新たに見つけた現代ダンジョンの摩訶不思議について、どこか楽しげに議論する4人の姿があった。最近は朱音さんの妙な状態も鳴りを潜め、九十九さんと帯刀さんとアキと4人で、仲良く話し込んでいるのをよく見かけるようになった。
「きぃっ!」
「ラッシュビートルの魔石でいいか?」
その間、俺はヒナタとひたすら戯れているわけだが……なんというか、ちょっと寂しいんだよな。特に意図したわけではないが、このパーティは俺以外全員若い女性ばかりだし。
誰か1人、男性をパーティに加えた方がいいだろうか? 誰か居ないかなぁ、パーティの和を乱さない良い人材が……って、そんな人が都合良くいるわけないか。
ま、特に急ぎでもないし。その辺は、おいおい考えていけばいいか。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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