4−4:進入、ダンジョン第11層
――ゴゴゴゴゴゴ……
石舞台に立つ俺たちの目の前で、石畳が音を立てながら左右に割れて開いていく。その先には、第11層への下り階段が顔を覗かせていた。
……ある意味で、これが第10層のギミックだと言えるだろう。最初にゴブリンジェネラルが立っていた場所の床が、ボス戦をこなすとこうして開くようになっているのだ。
ちなみに、この時【仲間呼び】で出てきたゴブリン共が残っていると、森に向かって逃げ去っていく。一応は追いかけて倒すこともできるのだが、まさに"逃げ惑う"という表現がしっくりくるくらい散り散りになって逃げていくので、もう見逃した方が手間がかからなくて済む。
……それに、だ。正直なところ、その背中を撃ち抜くのは良心の呵責がちょっとあってな……。自分の前職時代を思い出して、少しばかり躊躇してしまうのだ。
それもあって、ゴブリンは見逃すことにしている。特に害になるわけでもないし、それくらいは別に構わないだろう。稼ぎの面でもコスパが良くないしな。
「ねえ、恩田さん。今日は第12層を目指すのよね?」
「ああ、まずはそのつもりだ。いけそうなら、もう少し先に進んでみるつもりだが……」
これまでは、第11層の入り口付近で探索を止めていた。装備をしっかり整えておく必要があったのと、新モンスターとの戦いに慣れるためだったが……それも、3月で終わりだ。
今日からは、奥を目指して先に進むつもりだ。まずは第12層に到達することが目標となるが、果たして正午前までに辿り着けるだろうか?
☆
「うへぇ、これは……」
階段を下りて第11層へと下り立つ。ここからダンジョンの風景が大きく変わり、まさに山道とでも呼ぶべき道が上へ上へと伸びている。
ただ、登山道というほど険しい道ではない。イメージとしてはまさにスイッチバック方式の道で、勾配を緩くするために無数のヘアピンカーブを作り、楽に歩けるよう路面が整えられた道だ。小石が点在しているのと、長い距離をひたすら上り坂で移動する必要があるので体力的には大変だが……それを差し引いても、比較的歩きやすい道であると言える。道幅も結構広いので、戦闘となっても支障は少ないだろう。
ちなみに、階段前の道端やヘアピンカーブの頂点の先辺りを外れると、鬱蒼とした深い藪になっている。道の上でもモンスターはたまにポップするが、大抵の場合は……。
――ガサガサガサッ!
「っ!」
第5層〜第9層と同じように、その藪からモンスターが飛び出してきて戦闘になることが多い。出てくる前に藪がガサガサと音を立てるので、奇襲の心配がほとんど無いのが救いだな。
そして、右の藪がちょうどガサガサと揺れ始めた。
「全員、戦闘態勢!」
「「「よし!!」」」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
第11層に来ると毎回こうなるので、全員がこの状況を想定済だ。ゆえに間髪入れず、戦闘態勢を取った。
――ガサガサッ!
「「「シャアァァァッ!」」」
藪から飛び出てきたのは、俺らにとっては既にお馴染みとなったモンスターだった。
「リザードマンね!」
「リザードマンなのです」
「炎を吐いてきますね……私は気を付けなければ」
俺や朱音さんは試練の間でも戦っているが、帯刀さんと九十九さんもここ第11層で既に何度か戦っている。戦い方はバッチリ履修済みだ。帯刀さんは装備の関係か、少しだけ炎に弱いので注意が必要だな。
……リザードマン。拙いながらも剣技を修めており、距離が離れているとたまにファイアブレスで攻撃してくる。試練の間で戦った時はハイリザードマンと一緒に出現して、中々の連携を見せてきた強敵だ。
果たして、こいつらはどうだろうか?
「「「シャアァッ!」」」
――タタッタッタタタッ!
……統制が取れているとは言い難いが、完全にバラバラかと言われるとそうでもない微妙な動きで、リザードマン3体が走り寄ってくる。編成にハイリザードマンが含まれていれば、ここで1体くらいはファイアブレスを仕掛けてきたと思うのだが……今回のリザードマンの動きも、正直言ってだいぶ拙い。
「……居ないみたいね」
「ああ、そうみたいだな」
俺と朱音さんがそう言ったのには、理由がある。
……鶴舞ダンジョンのとある第10層突破者が書いているブログに、少し気になる記載があったのだ。普段はややチグハグな動きをするリザードマン共が、やたら連携の取れた動きで攻めてきたことがあった、と。
苦戦しながらもそれらを倒すと、最後まで残った個体が倒れ際に強力なファイアブレスを吐いてきて……貴重なランク4装備珠と共に、リザードマンのものとは明らかに異なる大きな魔石をドロップしていったのだそうだ。
つまり、その最後の個体とはハイリザードマンのことであり。ハイリザードマンが敵編成内に居たことで、リザードマンの動きが目に見えて良くなったというわけだ。
試練の間では常にハイリザードマンが居たから、リザードマンの動きも良かった。それが居ないだけで、こうも戦いやすさに違いが出るのだ。
……そう、そこが恐ろしい。
考えてもみて欲しい。リザードマンとハイリザードマンは非常によく似ているので、実際に戦ってみるまでどちらか分からないのだ。これでもし、リザードマンだけだと思っていた編成にハイリザードマンが混ざっていたとしたら……。
「ま、リザードマンだけでも強敵には違いないさ。"ライトニング"」
「そうね。"飛刃"」
――ゴロゴロ……カッ!
――ビュッ!
俺はライトニングを、朱音さんは飛刃を放つ。予兆や予備動作があからさまなので、ハイリザードマンが相手だと初見でも避けられてしまうような攻撃だが……それと同じレベルを、通常モンスターに過ぎないリザードマンに求めるのは少し酷かもしれないな。
――バヂバヂバヂッ!
――ズバッ!
「「ギャアァァッ!?」」
落ちてくる高速の雷撃をまともに浴び、リザードマン1体が痺れてその場に倒れ込む。その左隣のリザードマンには飛刃が直撃し、盾と鎧ごと深く斬られて倒れ込んだ。前者は単にダメージを負っただけだが、後者は明らかに致命打を受けている。
……朱音さんの攻撃力が、ものすごい勢いで増しているな。それに対して、俺の魔法はそこまで強くなっていないが……まあ、それは探索者としての成長方向性の違いだろう。
朱音さんは攻撃型で、俺はバランス型。何でもできるがどれもそこそこなので、器用貧乏にならないよう気を付けないとな……。
――タンッ……スタッ
「ギャギャ……」
仲間が倒れるのを横目で見ていたリザードマンが、バックステップしてから大きく息を吸う。
一体、何を仕掛けてくるのか……などと、もはや考えるまでもなく。これは明らかにファイアブレスの予備動作だ。
「おっと、みんな後ろに来てくれ」
「「「はい!」」」
「きぃっ!」
「ぱぁぁ」
「よし、盾展開!」
――ブォン
なので、展開した防壁の後ろに全員を誘導する。
「ギャッ!!」
――ゴォォォォ!
予想通り、リザードマンの口から炎の吐息が放たれる。炎は空中を走りながら、俺たちの方へと迫り――
――バチバチッ!
俺の防壁に弾き飛ばされて、四方八方に散らばっていく。ファイアブレスは攻撃範囲が広い代わりに物理的な圧力や衝撃をほとんど伴わないので、この防壁にとっては非常に相性が良い攻撃となる。
「それっ、"ファイアボール"なのですっ!」
――ゴゥッ!
そして、防いだ後は当然ながら反撃だ。
俺が防壁を解くのとほぼ同時に、九十九さんが放ったファイアボールがリザードマン目掛けてまっすぐ飛翔していく。
「ふっ……!」
――タッ!
その後を追うようにして、帯刀さんがリザードマンとの距離を一気に詰めていった。6人での連携も最近はだいぶサマになってきたが、やはり帯刀・九十九コンビは息がバッチリ合っているな。
――バゴォッ!
「ギャッ!?」
ブレスを吐いた直後で、動きが鈍っていたリザードマンの顔面にファイアボールが直撃する。
「シャ、シャァァ……」
リザードマンの火耐性は相当高いので、九十九さんの【火魔法】でもそこまでダメージは与えられなかったようだが……頭に衝撃を受けたせいか、リザードマンはしきりに顔を横に振っている。こちらへの視線と注意は、完全に途切れたようだ。
「はぁっ!」
――ズバッ!
――パキパキパキッ!
「ギャウッ!?」
そこへ、帯刀さんの一撃が綺麗に決まった。防御体勢を取れなかったリザードマンは鎧ごと胴体を切り裂かれ、傷口から氷花が咲き乱れて追撃される。
……だが、そのような追撃が仮に無くとも、そうは保たないとすぐ分かるくらいにリザードマンが負った傷は深かった。
「ガフッ……」
やがて、最後のリザードマンがその場に倒れ伏す。リザードマンはゆっくりと白い粒子へ還っていき……その後には、魔石がドロップした。
第11層最初の戦いは、俺たちの完全勝利に終わった。
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