4−3:VSゴブリンジェネラル……って、えぇ今さら……?
第12層を目指すとしても、まずはゴブリンジェネラルを倒す必要がある。そうすることで、第11層への下り階段が現れる仕様になっているからだ。
「………」
微動だにしないゴブリンジェネラルを、砦の外から眺める。今は崩れた砦の内側で、目を閉じて仁王立ちしているが……俺たちが砦の中に踏み込めば、それをトリガーに動き出すだろう。そこからがボス戦の始まりとなる。
ちなみに、ここから遠距離攻撃を仕掛けたらいいんじゃないか、と思うかもしれないが……残念ながら、それは意味が無い。ゴブリンジェネラルは特定のタイミングまで無敵状態となっているようで、それまではあらゆる攻撃を受け付けないのだ。ヨッ◯ーア◯ランドのとあるボスみたいな、裏技的な倒し方はここではできないようになっている。
「"パワーゲイン・オール"、"プロテクション・オール"、"マジックブースト・オール"、"エンチャント・ボルト・オール"……」
ただし、事前準備はいくらでも可能だ。第10層はモンスターがポップしないようなので、焦る必要も全く無い。
だからここにいる全員に、ありったけの攻撃系バフを掛けていく。プロテクションも一応掛けてはいるが、これは保険みたいなものだ。
……ジェネラルは確かにタフだが、こちらは6人もいる。集中攻撃を浴びせて素早く倒した方が安全で、かつ時間効率も良い。
実際に、【仲間呼び】以外の行動を一切させずにジェネラルを倒したことがある。既に攻略法は確立していると言っていいだろう。
「よし、バフ完了っと。行こうか、みんな」
「「「ええ!」」」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
通算18回目、ゴブリンキング戦も含めれば19回目のボス戦を始めるべく、砦へと踏み込む。この石舞台のような場所に上がるのは、何回やっても緊張するな……。
『……シンニュウシャ、カ。オロカナ、ワレガマモルトリデニ、アシヲフミイレルトハナ』
厳かな口調でそれらしいセリフを口走りながら、ゴブリンジェネラルが目を大きく見開く。戦闘開始前のジェネラルのセリフは、何パターンか種類があるらしいが……今回のセリフを聞くのはもう5度目だ。真新しさをまるで感じない。
――ズボッ!
動き出したゴブリンジェネラルが、地面に突き刺さっていた大槍を右手で掴んで引っこ抜く。それを半身になって構える姿は、さながら一流の武人のようだ。
……この状態になってから更に5秒ほど経つまで、ゴブリンジェネラルは無敵状態が続く。今の段階で仕掛けてもほとんど意味は無く、むしろ近付けば反撃を食らうだけだ。
一応、どうしても【仲間呼び】を阻止したい場合は話は別だが……そこまでして止める必要は無いと思う。出てきたモンスターに対処する方が、よっぽどリスクが低いように俺は感じるからな。
『コイ、ゾウヒョウドモ!』
そうして、ゴブリンジェネラルが予定通り【仲間呼び】を使う。俺たちとの距離が離れている場合、ジェネラルは初手で必ず【仲間呼び】を使うのだ。
その時のジェネラルの言葉によって、出てくるゴブリンの種類が分かる。今回は"ゾウヒョウ"と言っているので、ただのゴブリンが出てくるな。
ま、それならあまり気にしなくてもいいか。
「"ライトニング"!」
――ゴロゴロ……
――カッ!
――ドゴォォォンッ!
『ガバァッ!?』
【仲間呼び】は、スキル発動後の硬直時間がとても長い。その最中に無敵状態が切れるので、隙だらけのゴブリンジェネラルに攻撃を叩き込むチャンスが必ず訪れる。これもまた、【仲間呼び】を止める必要が無い理由になっていたりするわけだ。
このタイミングで挨拶代わりの雷撃を撃ち込み、ジェネラルにダメージを蓄積させていく。実はここでライトニング・コンセントレーションを撃てば、ゴブリンジェネラル戦はすぐに終わるのだが……1度それをやった結果、アキを除く4人からジト目を貰ってしまったことがある。
朱音さん曰く『ダンジョン探索の1つの区切りとしてボス戦に挑んでいるのに、一瞬で終わってしまうのはなんかちょっと寂しい』のだそうだ。怪我をするリスクを限りなく0にできるし、倒せるならサッサと倒した方が良い気はするけどな……まあ、パーティ内の多数決で決まったことだから俺とてちゃんと従うべきだろう。それからは自重している。
……出てきたばかりで何もできないまま、散り散りになって逃げていくゴブリン共の背中に言いようのない哀愁を感じたことは、今でもよく覚えているな。
「「はぁっ!!」」
――ズババッ!!
『グヌゥッ!?』
俺のライトニングにピッタリ重ねるように、朱音さんと帯刀さんの斬撃がジェネラルの両足先へと決まる。全身鎧もそこだけは覆えておらず、簡単にダメージが通るのだ。
これで、ジェネラルの機動力は奪った。自由に動かれるとかなり厄介なので、初手でこうしておくのは対ジェネラル戦における定跡手と言える。
『グッ……コノ……!!』
「"ファイアボルト"なのですっ!」
――ゴォッ! バヂバヂバヂッ!
足にダメージを受けて踏ん張りが利かず、体をフラフラと揺らすゴブリンジェネラルに向けて、九十九さんが魔法を放つ。こちらも一撃級の大技ではなく、それなりに火力を抑えた魔法だが……【火魔法】に雷エンチャントを乗せて放たれる、特殊な性質を持った魔法だ。
纏わりつくような炎がジェネラルの胴体を広く覆い、無数の紫電が炎の間に迸る。
『グゥゥゥゥゥッッ!?』
炎と雷の合わせ技に襲われ、ゴブリンジェネラルが苦しそうに呻き声をあげる。だが、まだ倒れるほどのダメージは与えられていない。
「「「「ギャッ! ギャッ!」」」」
ここでようやく、【仲間呼び】で現れたゴブリンが砦内へと入ってくる。この砦は入り口が4つあるが、そのうちの3つから5体ずつ、計15体が現れた。
……ただ、これくらいなら大した相手じゃないな。
「ぱぁっ!」
――バシュゥッ!
俺の右肩に位置を移していたアキが、ゴブリンの集団3つに向けてそれぞれ紫色の霧を放つ。
「「「「ギャッ!?」」」」
徐々に広がっていくそれをゴブリン共は避けられず、全員がまともに浴びてしまう。それなりに拡散した後ではあったが、ゴブリンは状態異常全般に耐性が無いようなのでこれで毒状態に陥ったはずだ。
「「「……ギ……ア……」」」
予想通り、その効果はすぐに現れた。
毒霧を食らわせてから僅か数秒で、次々とゴブリンが倒れていく。まだ砦に入ってきた直後だったので、俺たちの前に立ち塞がることすらできていないのだが……もはや、何のために出てきたのか分からないような状況だ。
『グヌゥ……セメテ、キサマダケデモ! ヌウンッ!』
――ブォンッ!!
次々と魔石に変わっていくゴブリンを見て、ゴブリンジェネラルが己の劣勢を確信したのだろう。やや離れた位置に立つ俺に向けて、手に持った大槍をやけくそ気味に投げつけてきた。
これでジェネラルが万全だったなら、十分脅威になり得た攻撃だろうが……。
「盾展開」
足のダメージによる影響か、はたまた九十九さんの魔法攻撃ダメージによる影響か。力が乗り切らない体勢で投げたせいで、大槍の飛来速度はあまり早くない。
なので、見てからの盾展開が余裕で間に合った。防壁を斜めに繰り出し、大槍の飛来に備えて構える。
――バチチチチッ!
――ゴトン! ゴロゴロ……
防壁に受け流されて、大槍が俺の右方へと逸れていく。盾の効果で衝撃をほぼ緩和し、斜め防壁で圧力も受け流したので完全にノーダメージだった。
大槍はそのまま、地面を滑るように転がっていく。そして今、ジェネラルはその手に何も持ってはいない。
「きぃぃぃぃっ!!」
――ゴゥッ! バヂバヂバヂッ!
『ヌッ!?』
今なら、反撃される可能性は低いと判断したのだろう。ゴブリンジェネラルの背中に向けて、ヒナタが急降下突進攻撃を仕掛ける。こちらは風と雷の属性混合攻撃だが、属性的な親和性が高いのか威力も非常に高い。
ただ、結構な音を発しているのでさすがにジェネラルも気付いたようだ。急いで後ろを確認しようとするが……。
「「………」」
『グゥッ……!』
朱音さんと帯刀さんが、わざと目に付くような形でゴブリンジェネラルににじり寄っていく。これでは、後ろを見たくとも見ることができない。2人から目を離せば、即接近されて攻撃を食らうからだ。
まさに前門の虎、後門の狼……これで決まりだな。
――ドシュッ!!
『グフォッ!?』
ヒナタの突進攻撃を避けることができず、ジェネラルのお腹に大穴が開く。
『グフッ……』
――ズゥゥゥン……
これがトドメの一撃となったようだ。ゴブリンジェネラルが膝から崩れ落ち、前のめりに地面へと倒れ込んでいく。
それから少しして、ゴブリンジェネラルは白い粒子へと還っていった。ジェネラルにできたのは【仲間呼び】と大槍投げだけだったが、それすらも完璧にシャットアウトした。まさに完全勝利と言っていいだろう。
ジェネラルが消えた後に残ったのは、赤みが濃い魔石が1つと装備珠が3個。装備珠は赤・青・黄の3色が揃っており、全てランク3なのは分かっている。
「……よし、討伐完了だな」
これで、今日の最低限のノルマは達成できたな。
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