3−100:激闘を終えて……
――ガンッ!
――ゴゴゴゴゴゴ……
ゴブリンキングがドロップアイテムに変わると同時に、2箇所から派手な音がした。1箇所は玉座の後ろ辺りからで、もう1箇所は……。
「おっ、開いたな、扉」
「ええ、そうね……勝ったのね、私たち」
部屋の入り口を見てみると、あの重そうな金属扉が完全に開いていた。どうやら帰れそうだ。
「……か、勝てたのです〜〜」
「一時はどうなることかと思いましたが、なんとかなりましたね」
「きぃぃぃぃ……」
「ぱぁっ! ぱぁっ!」
緊張の糸が切れたのか、アキを除く全員がその場に座り込む。本当にギリギリの勝利だったな。
ちなみに、アキは勝利のダンス (?)を踊っている。見ていると、なんだか疲れが取れていくような気がするな……。
「よし、一旦ドロップ品を集めておくか。"アイテムボックス・収納"……っと、1回じゃ収めきれないか。"アイテムボックス・収納"」
1回の収納では全てを入れられなかったので、2回目の収納を行った。ドロップ品の総数は100個を超えていたようだ。
「"アイテムボックス・一覧"」
さて、強敵を倒したんだ。ドロップ品は期待してもいいんだよな?
☆
・ゴブリンの魔石×131→179
・ゴブリンアーミーの魔石×42→62
・ゴブリンアーチャーの魔石×25→45
・ゴブリンジェネラルの魔石×0→1
・小鬼強者の大魔石×0→2
・千鬼王の大魔石×0→1
・装備珠(赤・ランク3)×1→2
・装備珠(赤・ランク4)×0→1
・装備珠(赤・ランク5)×0→1
・装備珠(青・ランク3)×2→4
・装備珠(青・ランク4)×0→1
・装備珠(黄・ランク3)×0→1
・装備珠(黄・ランク4)×0→1
・スキルスクロール【鼓舞】×0→1
・スキルスクロール【杖術】×0→1
・スキルスクロール【オートプロテクト】×0→1
・千鬼王の王冠×0→1
☆
ちなみに、ランク1・2の装備珠も増えているがここでは見ていない。そんな物よりも、気になる物がたくさんあるからだ。
「……なんか、ヤバそうなのがいくつかあるな」
ラッキーバタフライ以外では初となる、ランク5の装備珠を入手した。ゴブリンキングのドロップ品だと思うが、本来はあれくらいの強敵を倒さないと、ランク5の装備珠は入手できないんだよな……いかにラッキーバタフライが規格外の存在なのかがよく分かる。
あとはランク4の装備珠に、強敵のドロップ品ではお馴染みのスキルスクロール。そして……。
「ヤバそうって、どんな感じで?」
「色んな意味で、だな。売ったらすごく高そうなやつと、そもそも値段を付けられなさそうなやつが混ざってる感じだ。"アイテムボックス・取出"」
アイテムボックスから、特に気になった物を取り出す。千鬼王の大魔石、スキルスクロール3つ、千鬼王の王冠……ドロップアイテムじゃないが、ポーション (半分)も手元に用意した。
……千鬼王って、お前、自分でゴブリンキングって名乗ってたよな。正式名称じゃなかったのかよ。
「……ずっと気になっていたのですが。もしかしてそれ、ポーションですか?」
帯刀さんが、恐る恐るといった様子で聞いてくる。あれだけの効力だったし、さすがに気が付くよな。
「ああ、そうだ。拾ってからずっと、アイテムボックスに隠し持ってた」
「売らなかったのです? 買取額は億いく時もあると聞いたことがあるのですけど……」
九十九さんも何気なく聞いてくるが、やっぱりみんなそう思うのか。一瞬で億万長者だし、夢はあるよな。
まあ、どちらにせよ俺の返答は決まってるけど。
「悪目立ちするからな。自分の身を守るためにも、売るのは最終手段にしたかったんだよ。
……まあ、結果的にそれが功を奏したわけだけどな」
使わなくて済むならそれが一番だが、ダンジョンでは何が起こるか分からない。そういう保険的な意味合いでも確保していたのだが、役に立ってよかったよ。
「……私、恩田さんに一体何を返せるのかしら?」
朱音さんが、神妙な面持ちで呟くようにそう言った。
「え? そりゃ、探索者仲間としての力を貸してもらって……」
「それじゃあ全然足りないと思うの。ざっとポーション1つ1億円だとして、2億円よ? そんなの簡単に返せないわよ」
「運良く手に入れただけの道具で、誰かの命が救えるなら安いもんだ。なんせ、俺の懐は微塵も痛くなってないんだからな」
俺だって人間だ。手元にある現金100万円が吹っ飛んでいくとなれば、当然ながら躊躇してしまうだろう。
だが、ポーションは偶然手に入れただけの物だ。換金すら躊躇する超高級品なんぞ、俺からしたら厄介事を持ち込んでくる物……呪物となんら変わりない。その呪物もどきが本来の用途で役に立ったのだから、歓迎こそすれ惜しむなどあり得ないことだ。
「それでも、朱音さんが納得できないのであれば……そうだな、ファーストキスと等価交換だったということで、ここは1つどうだ?」
「え……?」
あえて、返答に困るであろう言葉を朱音さんに投げかけておく。あれこれ考えている間に、時間だけ過ぎていってくれたらいい。
「……うふふ、なるほどね。今決めたわ、恩田さん」
って、え、あれ? 朱音さん、なんですかその覚悟ガン決まりの笑顔は?
「………」
「………」
あの、なぜ無言なんですか朱音さん? ちょっと怖いんですが……。
「あ〜……これは恩田さんが迂闊だったのです。ちゃんと責任を取ってあげてください、なのです」
「?? 彩夏さん、どういうことですか?」
「せっちゃんにはまだ少し早いのです。時が来たら教えてあげるのです」
いや、俺にも教えて欲しいんですが……。
ただ、なんとなくだがそれを今口に出してはいけない気がしたので、ここは黙っておくことにした。
「……さ、さあ、次だ次。次はスキルスクロール3種か……」
【鼓舞】に【杖術】、あとは【オートプロテクト】だな。
【鼓舞】は、キングとジェネラルが使ってた仲間強化のスキルだろう。これはすぐに分かった。
【杖術】は、多分ゴブリンキングのドロップ品だろう。スキル名からして、杖を使った近接戦闘術を習得できるのだろうが……ゴブリンキングってそんな戦い方してたっけか?
まあ、これらは別に超希少品とまではいかないだろう。特に【鼓舞】のスクロールは、ゴブリンジェネラルも落としそうだからな。
【オートプロテクト】って、これ絶対ヤバいスキルだろ。名前の通りなら、常に対物理防御魔法を纏った状態になるわけだからな。
朱音さんの物理攻撃がゴブリンキングに弾かれたのも、おそらくはこのスキルのせいだろう。帯刀さんの攻撃が通った理由は不明だが、相当強力なスキルであることは間違いない。
「【鼓舞】に【杖術】に【オートプロテクト】ね……これ、どう分配するの?」
「消去法で考えていくか。まず【杖術】は俺か九十九さんだが、九十九さんが前に出て戦う姿は想像しにくい。それなら【杖術】は俺になる」
「そこは異議無し、なのです」
「【オートプロテクト】は前衛の2人のどちらかになるが、敵との間合いがより近い帯刀さんが習得すべきだろう」
「……私が貰ってもよろしいのでしょうか?」
「ぜひ、そうしてくれ」
あんなこともあったので、本当は朱音さんに習得させたいところだが……あれは、攻撃を受けたのがたまたま朱音さんだっただけだ。同じリスクは帯刀さんにもあり、そのリスクは朱音さんよりも高い。ならば、【オートプロテクト】は帯刀さんに渡す形になる。
「そうすると、九十九さんは【鼓舞】になるかな。補助技も使えれば、待ち時間が少なくなると思う」
「賛成なのです!」
現状、九十九さんには後方からのダメージソース役を担ってもらっているが、そこまで出番があるわけではない。そこに【鼓舞】があれば、やれることが増えて九十九さんも気後れしなくて済むし、パーティとしても非常に助かるわけだ。
「そして、朱音さんにはこれだな。"アイテムボックス・取出"」
「……あ、それ【突撃】のスキルスクロールよね?」
「正解だ」
ヘラクレスビートルを倒した時にドロップしたスキルスクロールだ。名前からして前衛向きなので、効果は不明だがこれを朱音さんに使ってもらう。
「割り振りとしてはこんな感じだが、みんなもそれでいいか?」
「です、私はオッケーなのです」
「私もいいわよ」
「私も、むしろありがとうございます」
全員の同意が取れたので、各々にスキルスクロールを手渡す。そうしてスキルスクロールに念を送った。
――スキル【杖術】を取得しますか?
(取得する)
スキルスクロールが、白い光へと変わる。それが体の中へと入り……また、新たな力を手に入れたようだ。
「なんでしょうか、ちょっと不思議な感覚です」
「……あれ、【突撃】が発動できなかったわ。魔力が足りないのかしら、それなら仕方ないわね」
「みんな、頑張るのです! ……あ、なんか発動したのです」
見れば、各々がスキルの感触を確かめているようだ。九十九さんの【鼓舞】は無事に発動して、俺も少し力が湧いてくるような感触を覚えている。
朱音さんの【突撃】は、魔力を消費して発動するタイプのスキルか。もう1つの【チャージ】もそんな感じのスキルだし、これから魔力管理がより重要になってきそうだな。
「あとは装備珠か。"アイテムボックス・取出"」
武器珠ランク4と5、防具珠ランク4、装飾珠ランク3と4を取り出す。
そして、何も言わずに朱音さんへ装飾珠ランク4を、帯刀さんへ装飾珠ランク3を差し出した。
「へっ? これは……」
「あの、これは?」
「2人とも、まずは足装備を強化してくれ」
どこで聞いたかは忘れたが、ふと『戦場では、歩けなくなったやつから命を落としていく』という言葉を思い出した。"戦場"というのはさすがに極端かもしれないが、ここを"山"や"ダンジョン"という言葉に置き換えても、ある程度意味は通じるだろう。
平和で安全な場所にいると忘れがちだが、危険な環境下で動けなくなるというのは即命取りになりかねない。そのことを、このゴブリンキング戦で特に痛感した。
「特に、前で戦う2人は必須だ。俺なんかよりもずっとな」
「「………」」
何も言わず、2人は装飾珠に念を込め始めた。装飾珠が黄色い光へと変わり、2人の足を包み込んでいく……。
――ゴトン
フィアリルグリーヴが外れて、2人とも別のグリーヴへと変わった。朱音さんは多分フィアリルの強化版グリーヴで、帯刀さんは鎧と同じ青色のグリーヴを装備している。
とりあえず、これで2人の足回り装備はランクアップできた。まだまだ十分とは言い難いが、少しは安心感が増したな。
「あとの装備珠は……どうしようか? 九十九さんは使いたいのある?」
「武器は今日替えたばかりですし、防具はまだ早いのです。どちらかと言うとせっちゃんが使った方がいいと思うのです」
「私も、武器防具は新調してあまり日が経っていませんので……しばらくは、このまま慣らしていきたいですね」
「なら、今は保留かな」
俺がランク4や5の武器に変えてもいいが、そこまで効果は無い気がする。どちらかと言うと、魔法威力の向上よりも燃費が良くなる方向に進んでいくと思うからだ。
……日帰り限定なら、これ以上の燃費改善は正直必要無い。そう考えると、俺の武器更新は後回しでも大丈夫だ。
「"アイテムボックス・収納"」
武器珠と防具珠、それとフィアリルグリーヴをアイテムボックスに回収した。
ドロップ品はこれで以上……じゃないな。一番の問題物が残っている。
「最後はこれか……」
千鬼王の王冠を手に持つ。俺の頭に乗せられそうなサイズまで小さくなっているが、ゴブリンキングの頭に乗っていた王冠で間違いない。
ちなみに、装備しようとしてみたがなぜかダメだった。装備品ならどれだけ激しく動いても勝手に外れたりはしないのだが、王冠は普通にずり落ちてしまったからだ。
「これさ、持ってたらゴブリンが傅いてきそうよね」
「……確かに」
そういう効果があってもおかしくないし、あるいは博愛のステッキ (現・憎悪のステッキ)のように、モンスターを使い魔化させられるかもしれない。ゴブリン系に効く何かしらの効果があるのは、まあ間違いないだろう。
「ま、検証は追々やっていこうか。"アイテムボックス・収納"」
こんな物を見られたら、大騒ぎになるのは間違いない。下手するとポーション以上にヤバいからな。
王冠を改めてアイテムボックスに入れ直し、あぐらをかいて座り直した。
「よし、少し休憩したら戻ろうか。さすがに疲れたよ……」
「そうね」
もはや、第11層を覗く余裕すら残っていない。予想外に時間も食ってしまったし、早めに地上へ戻らなければならない。
それでも、急いては事を仕損じると言う。道中を安全に戻るために、休憩は必須だろう。
「きぃ……♪」
「お疲れさん、ヒナタ。最後の攻撃はカッコよかったぞ」
「ぱぁ……♪」
「ふふ、アキの踊りを見てたら元気が出てきたわ」
ヒナタを労いながら、ふと思う。
……これ以上の探索をするのであれば、解決しなければならない問題がある。すなわち、日帰りでしか探索できないという問題だ。
俺はまだいい。探索者=職業みたいな状態なので、ダンジョン内で何泊しても誰にも迷惑はかからない。
だが、他の3人はそうではない。朱音さんと九十九さんは別に仕事を持っているし、帯刀さんも何らかの事情で泊まり探索は厳しそうだ。そうなると、どれだけ効率よくダンジョン探索をしたとしてもこの辺が探索の限界となる。
この問題が解決するまでは……まあ、それなり以上の時間がかかりそうだな。
読者の皆さま、いつも本小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。
少しばかり中途半端なタイミングではありますが、ここで第3章の本編は終了となります。この後はいくつかの幕間を挟んで、第4章へと移行する予定です。
なお、作中の時間経過がほとんどありませんでした (現実では1年以上経過しているにも関わらず、作中の時間経過は10日程度という亀進行……)ので、第4章の開始時点で多少時間は先に進める予定です。
それでは、第4章をお楽しみにお待ちください。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。