3−99:VSゴブリンキング(6)
「遅いのです! でも、回復できて良かったのです!」
「ありがとう、そしてごめんなさい。ご心配をお掛けしました」
「ゴブリンキングを足止めしてくれて、本当にありがとう。おかげで朱音さんを助けられたよ」
まずは九十九さんにお礼を言う。九十九さんがゴブリンキングの気を引いてくれていなかったら、朱音さんは手遅れになっていた可能性が非常に高い。
そして、帯刀さんにもお礼を……と思っていたのだが。前線でゴブリンキングの気を引くのに精一杯で、こちらへ戻ってくる暇がなさそうだ。両足を凍らせて機動力を奪っても、魔法の脅威までは完全に排除できないらしい。
「……朱音さん、少し相談があるんだけど」
「どうしたのよ、そんな改まって?」
それでも、両足が凍っている今がチャンスなのは間違いない。あとは、最高のタイミングでゴブリンキングに特大のお返しをしてやるだけだ。
そのためには、どうしてもやらなければいけないことがある。
「魔力を分けて欲しいんだ」
フィアリルグリーヴを再装着した朱音さんに相談した。
やるべきことはあるのだが、それを実行するには魔力が足りない。今は残り2割を切っており、できれば5割くらいは欲しいところだ。それも、朱音さんから魔力を分けてもらえばできるはずだ。
「あら、いいわよ。さあ今すぐにでも、じゃんじゃん吸い取ってちょうだいな」
……まあ、分かってはいたが即答だな。もう首筋を露わにして、いつでも準備万端だとでも言いたげだ。
ただ、今はこのスピード感が本当にありがたい。
「了解、"マジックスティール"」
――ヒュッ、カチッ……
――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ
開けてくれた首筋に、青い線を接続する。そこから魔力を吸い出し始めると、朱音さんの顔がたちまち赤くなっていった。
「……う……ふぅ……」
……なんというか、色々とすごく艶めかしい。そんな朱音さんをなるべく見ないようにしつつ、魔力を吸い取っていく。
そして、俺の魔力が5割くらいになったところで止めた。
「……うん……もういいの? まだ3割くらい残ってるよ……?」
「あ、ああ。十分だよ」
昨日はしばらく立てなくなっていたが、今日はさすがにそんなことは無いらしい。単に慣れたのか、敵前ゆえ耐えているのかは分からないが……。
『余ノ前ニ集マレ、雑兵ドモ!』
――ゴッ、ゴッ……ゴゴゴゴゴゴ
ゴブリンキングの声が響き渡り、キングの後ろの壁が同時に2箇所、小さく開く。これは、もしかして……。
「「「「ギャギャギャ!!」」」」
奥から出てきたのは、予想通りゴブリンアーミーとアーチャーだった。数はざっと15体ずつ、ゴブリンジェネラルが【仲間呼び】した時よりも3倍ほど多い。
……出てきたのがアーミーとアーチャーの特殊個体じゃなくてよかったよ。ゴブリンランサーとかゴブリンスナイパーとか、そんな感じのやつが出てきてもおかしくないもんな。
「せっちゃん、下がるのです!
……よしっ、食らえ、"ファイアウォール"なのですっ!」
――ゴゥッ! ゴゴゴゴゴゴゴ……
ただ、いくら数が多くてもアーミーとアーチャーは打たれ弱い。初手でどれだけ数を減らせるかが鍵になるが、さすが九十九さんはよく分かっているようだ。
炎の壁が現れ、ゴブリン共に向けて動き出す。火属性ゆえゴブリンキングには効かないだろうが、アーミーとアーチャーは……。
――ゴウッ!
「「「「ギャアアアア!?!?」」」」
当然、九十九さんの魔法に耐えられるはずが無い。炎に巻かれ、白い粒子へ次々と還っていく。
『ヌゥッ、雑兵ドモハ倒セテモ、余ニハ通ジヌゾ!』
結局、アーミーとアーチャーはあっさり全滅した。ゴブリンキングはノーダメージだったが、配下を次々と倒されたせいか少しイラついているようだ。
……よし、これだけイラついているのならコイツがよく効きそうだ。
「みんな! アレ、いくぞ!」
「「「「!!」」」」
『ムッ?』
俺の掛け声に全員が反応し、目を覆う。それを見たゴブリンキングが訝しげな表情になったので、勘付かれる前にさっさと放ってしまうことにした。
「"フラッシュ"」
――カッ!!
『グヌォッ!?!?』
目眩ましのフラッシュを放つ。ゴブリンキングの悲鳴が聞こえたので、どうやら効いたようだ。
『目ガ、目ガァァァ!?』
光が止んで目を開けると、ゴブリンキングがどこぞの悪役大佐のようなセリフを吐きながら、目を押さえていた。かろうじて立ってはいるものの、こちらのことは完全に見えていないようだ。
……よし。今のうちに、ゴブリンキングへトドメを刺すべく準備を始める。
「"エンチャント・シャイン"」
まずは、光エンチャントだ。今回は中級クラスにランクアップさせてある。これにルビーレーザー辺りを重ねて、光属性の強化魔法として撃ち込むつもりだ。
……朱音さんを助けるために撃ち込んだホーリーランスにしても、さっきのフラッシュにしても、ゴブリンキングは大きな反応を見せていた。そのことから、光属性が弱点である可能性はかなり高い。
ゆえに、中級光エンチャントを重ねた【光魔法】……これをトドメの魔法として放つつもりだ。マジカルブーストの効果もまだ残っているので、早目に攻撃を始めてしまいたいところだ。
「……ねえ、恩田さん。私にもエンチャントを貰える?」
「ん、朱音さんも?」
「そう。私の手で、アイツにお返ししてやりたいのよ」
朱音さんの目は、真剣だ。死にそうな目に遭ったばかりなのに、本当に心が強いな……。
――バサッ!
「きぃっ!」
「おいおい、ヒナタまで……」
そこにヒナタが飛んできて、『私もやる!』と言ってきた。確かにヒナタなら、素で光属性の攻撃を打ち込めるが……。
「ぱぁっ!」
「……えっ? アキ、それ本当に?」
「ぱぁっ!」
……うん? アキも何か言っているな。
「恩田さん、アキも【水魔法】で援護攻撃してくれるって」
「ぱぁっ!」
おいおい、マジかよ。あまり気乗りはしないだろうに、それでもやってくれるってか。
じっとアキと目を合わせてみたが、全く逸らそうとしない。どうやら本気のようだ。朱音さんを害されて、アキも怒っているのかもしれないな。
「……うん、分かった。みんなのその心意気、しっかり買わせてもらうよ」
当初の予定より魔力消費量は増えてしまうが、構わない。誰かにお願いして、また魔力を分けてもらおう。
「"エンチャント・ウォータ"、"エンチャント・シャイン・ツイン"」
アキには初球水属性付与を、朱音さんとヒナタには中級光属性付与を行った。これで、魔力は2割以下にまで減った。
さあ、こちらのラストアタックだ!
「ぱぁっ!」
――ブシュウゥゥゥゥゥゥ!
まずは、アキが【水魔法】を行使する。圧縮された水が、まるでレーザーのようにゴブリンキングへと一直線に飛んでいき……。
――ドシュッ!
『ガァッ!?』
なんと、ゴブリンキングの右肩を易々と貫いた。攻撃自体はすぐに止まり、それ以上のダメージは残念ながら与えられなかったが……十分すぎる威力だった。攻撃魔法を使いたくないだけで、別に苦手なわけではないようだ。
「"飛刃・聖天"……くっ!?」
「"ルビーレーザー"……ぐっ!?」
続けて、俺と朱音さんが攻撃を放つが……光エンチャントのエネルギーが予想より大きく、制御しきれずに狙いがズレてしまった。
――ドシュッ!!
――ズバァッ!!
『ガハァッ!?』
朱音さんの攻撃は左肩に当たり、半ばくらいまでバッサリと斬り取った。俺のレーザーは右脇腹付近に直撃し、ゴブリンキングの体に大穴を開けている。
だが、そこまでしてもまだ倒れない。急所を外してしまったとはいえ、どれだけタフなんだコイツは――
「――きぃぃぃぃぃぃっっ!!」
溢れんばかりの輝きを纏ったヒナタの急降下突進が、ゴブリンキング目掛けて降っていく。それはまるで、白く尾を引く彗星のように……。
――ドシュッ!
『ゴブッ!?!?』
ヒナタの一撃が、ゴブリンキングの胴体正中に大穴を開けた。これはもう、さすがに致命打だろう。
ゴブリンキングは大きくよろめき、その場に倒れ……。
『ガフッ……バ、バカナ……余ガ、負ケル……ナド……断ジテ、アリ得ヌ!』
……る直前に、その場で踏み止まった。
そう、そんな気はしていたのだ。ゴブリンキングほどの強敵が、ただやられて終わるわけがないと。
『余ハ、ゴ、ゴブリン族ノ王……タ、タダデハヤラレヌ! 余ノ最期ノ魔法、ク、食ラウガイイ!』
「やっぱり、コイツもファイナルアタック持ちか!」
嫌な予感はしていた。ヘラクレスビートルがファイナルアタック持ちだったから、ゴブリンキングもそうじゃないかと思っていたのだ。
「全員、こっちへ!」
「「「はい!」」」
「きぃ!」
「ぱぁ!」
「……よし、全員集まったな。盾展開!」
ワンパターンではあるが、安定のドーム型防壁で6人全員を覆う。今回はちゃんと床にも防壁を張っているので、全方位からの攻撃に対応可能だ。
『全テヲ、滅セヨ、メ、"メテオストライク"!』
そして、ゴブリンキングのファイナルアタックが始まる。メテオストライク……隕石を落とす魔法か?
――ピキッ……ピキピキッ……
「……ん?」
――ピキピキピキッ!
頭上から、何かが割れるような音が聞こえてくる。一体何が起きて……!?
「ですっ!? な、なんですかアレは!?」
「く、空間にヒビが入って……!?」
「あれが隕石!? ちょっと、大きすぎでしょ!?」
部屋の大きさの約4分の1、直径およそ50メートルはあろうかというバカでかい隕石。それが、文字通り空間にヒビを入れながら、異空間より顔を覗かせていた。もうしばらくすると、アレが部屋の中へ飛び込んでくるのだろう。
あんなのバカでかい隕石が落ちてきたら、この部屋全体にとんでもない爆風と衝撃波が吹き荒れるだろう。凶悪極まりない攻撃だな、意地でも道連れにしようとする意図を感じる。
「ちっ、さすがは階層ボスの特殊個体だな。無茶苦茶なファイナルアタックを仕掛けてきやがる。
……ごめん、もしかしたら魔力が足りないかもしれない。朱音さん、あとどれくらい魔力残ってたっけ?」
「うーん、4割くらい……かしら?」
ふむ、4割か。魔力総量的に朱音さんは俺の半分くらいだから、全部吸ったとして俺の魔力も4割くらいまで回復するか? あれだけの攻撃だし、ちょっと不安だな……。
「恩田さん、先ほどの青い線のようなもの……あれは、相手の魔力を吸い取る魔法なんですよね?」
「ん? ああ、そうだ」
「なら、私の魔力も吸ってください。幸い使い道はほとんどありませんので」
ありがたいことに、帯刀さんが魔力の提供を申し出てくれた。これなら、あの攻撃にも耐えられるはずだ。
――ビキビキビキビキッ!!
「あわわ、もう隕石が出てきそうなのです……!!」
「迷ってる時間は無いな。ありがとう帯刀さん、早速だけど魔力を貰うぞ! "マジックスティール"!」
――カチッカチッ
朱音さんと帯刀さんの首筋に、青い線を接続する。
――ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
そして、そこから魔力を吸い取り始めた。
「ふぅっ……んっ……」
「んっ、こ、これは……!?」
変換効率がとても良いのか、魔力がものすごい勢いで回復していく。朱音さんの魔力だけでなく、帯刀さんの魔力も俺との親和性はだいぶ高いようだ。
そして、あっという間に俺の魔力は7割ほどまで回復した。
「「はぁ……はぁ……」」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
ここで、遂に隕石が空間を大きく割り、部屋の中へと落ちてくる。
防壁の中は穏やかだが、外は見て分かるほどに凄まじい熱風と衝撃波に包まれていた。
――バヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!
それらが防壁にぶち当たり、激しく火花を散らしながら跳ね返される。俺の魔力がガンガン減っていくが、朱音さんと帯刀さんに提供してもらった魔力でしっかりと耐え抜いていく。
――バゴォォォォンッ!!
永遠に思えるほど続いた攻撃が、固いものが砕けるような音と共にピタッと止まる。大部屋を襲った暴虐の主犯、巨大隕石が接地して砕け散ったのだろう。だが、油断は禁物だ。
防壁は展開したまま、辺りを見る。白く輝く防壁の向こうに、黒く焦げた何者かが立っているのが見えた。
『耐エ抜イタ、カ……人間共ヨ、見事、ナリ…………』
――ズズゥゥゥン……
――パァァァ……
最期の言葉を残しながら、黒焦げの何者か――ゴブリンキングが倒れ伏す。その巨体が白い粒子へと還り、部屋中を幻想的に覆いながら高い天井の向こうへと消え去っていった。
そして、その後には大量のドロップアイテムが散らばっていた。
――パチ……パチ……
「………」
パチパチと松明の炎が弾ける音以外は、何も聞こえない。これは、もはや疑う余地は無いだろう。
俺たちの、完全勝利だ。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。