3−97:VSゴブリンキング(4)
「ふん、ならばお前も、アイツと同じ場所に送ってやるよ!」
『抜カセ、小僧ガ!』
ゴブリンキングの鋭い目線が、俺に向けてしっかりと注がれている。どうやら今度は、俺にヘイトが集まっているようだ。
……まあ、思い当たる節はいくつかある。ゴブリンキングにライトニング・トールハンマーを叩き込んだり、【ファイアブレスⅡ】でアーミーやアーチャーを薙ぎ払ったり、ゴブリンジェネラルをライトニング・コンセントレーションで仕留めたり……随分と派手に動いたからな。ゴブリンキングのヘイトが向くのも納得だ。
とりあえず、俺にヘイトが向いたならやることは1つ。ゴブリンキングの意識をなるべく俺に固定させ、朱音さんたちが動きやすくなるようにすることだ。
「"ライトニング"!」
――ゴロゴロ……
――カッ!
まずは、単発の雷撃をゴブリンキングに向けて落とす。この1発でキングを倒す……などとは微塵も思っていないが、牽制の意味も込めて放った。
ゴブリンジェネラルですら、ブーストあり・エンチャントありの二重強化状態でも撃破に25発の雷撃が必要だったのだ。エンチャントが切れた今の状態で、たかだか1発の雷撃が戦況を直接左右するわけがない。
だからこれは、ヘイトを俺に固定するための策の一環だ。ついでに、少し確認したいこともあるしな。
――バヂィィィン!!
『グヌッ!?』
ゴブリンキングの王冠に雷撃が直撃し、少し痛がっているが……ふむ? 確かに効いてるが、弱点かと言われるとちょっと微妙だな。
もし雷が弱点なら、嫌がるなり手で防ぐなり、何かしら反応を見せるはずだ。それが無かったうえに、ライトニング・トールハンマーを食らっても痺れたりすることなくすぐに動いていた。その辺りを勘案すると、ゴブリンキングは雷が弱点ではないのかもしれないな。
……まあ、その辺を確かめたかったわけだ。これで選択肢が1つ消えたな。
『小癪ナ小僧ガッ! 爆炎二抱カレテ燃エ尽キヨ、"フレアドライブ"!』
それでもカウンターはしてくるらしく、錫杖を振って再び火の玉を発射してきた。今度の火球は遅いうえにだいぶ小さく、パッと見では硬式野球ボールほどの大きさしか無いが……逆に、こういうやつの方が危険なこともある。
あの小さな火球に、もしフレイムボールと同じくらいの魔力が込められていたら。それはつまり、フレイムボールの何百倍もエネルギー密度が高いわけで……少しでも衝撃を与えれば最後、エネルギーが開放されて大爆発を起こすかもしれない。あれだけ飛来速度が遅いのも、なるべく衝撃を与えないためなのかもしれない。
当のゴブリンキングも、爆炎がどうとか詠唱で言ってたしな。こりゃ普通に防ぐだけでは危険だな、周りのみんなを爆炎に巻き込みかねない。
「……盾展開!」
――ブォン
今すぐ俺が魔法を当てれば、ゴブリンキングのすぐ近くでフレアドライブを誘爆させることもできるが……味方を巻き込む恐れがある以上、それはできない。ならば、どうするか。
……少し考えて、防壁の形を少し工夫してみた。全体としては筒状になっているが、俺側の出口は何重にも防壁を重ねて塞いである。この筒の中に、フレアドライブの火球を呼び込むわけだ。
イメージとしては、大砲の砲身だろうか。あまりミリタリー系は詳しくないので、これで正しいのかはよく分からないが……筒の中で火球が爆発すれば、その爆風を逆に筒の開口部から放ち、ゴブリンキングに当てる。そんな感じの流れを想定している。
『フン、余ガ小僧ノ防御ヲ悠長ニ待ッテヤルホド、律儀ナ存在ダト思ッテイルノカ?
天ヘト聳エ立ツ白亜ノ石柱ヨ、余ノ前二立チ塞ガリシ者共ヲ打チ砕ケ! "クラッシュピラー"!』
うおっと、重ねて【地魔法】まで放ってきたか。さすがはゴブリンキング、こちらが万全の態勢を整えていくのを、ただ指をくわえて見ているような愚者ではないようだ。
ゴブリンキングの横に、白く巨大な石柱が地面から突き出てきた。高さ約20メートル、直径約4メートルはあろうかというその石柱は、ゴブリンキングの左右に1本ずつ並び……。
――パキッ……
――パキッ……パキッ……
――ゴゴゴゴゴ……
その根元が徐々にヒビ割れていき、俺の方に向けて少しずつ傾きを増していく。巨大石柱という超大質量の物体で、こちらを押し潰してくる攻撃魔法か。
……あの石柱をそのまま受け止めてはいけない。衝撃は防げても圧力は防げないので、下手すると床と石柱とでサンドイッチされてしまう可能性があるからだ。あれを防ぐなら、防壁の形を少し工夫する必要がある。
似た性質を持つヘラクレスビートルのファイナルアタック (巨大岩落とし攻撃)は、その辺を意識しないまま偶然にも防ぐことができたが……あれも、対処を誤っていれば非常に危険だったわけだ。
まあ仕方ない、魔力は食うが必要経費だ。三角屋根のような形の防壁を更に追加して、石柱を受け流すように対処する――
「――そうはさせないのです! "バーストフレア・ダブル"!」
――ゴゥッ!
――ヒュッ!
俺の後ろから、元気な掛け声と共に小さな火の玉が高速で飛来する。その火球は寸分違わず、こちらへ倒れ込もうとしてくる白い柱の中ほどへと直撃し……。
――ドゴォォォォン!!
――ガラガラガラガラ……
火球が派手に爆発した。その衝撃で石柱は真っ二つに圧し折れ、俺に届かないままその場に崩れ落ちていった。
……すごい威力だ、さすが九十九さん。
「ナイスフォローだ、九十九さん!」
『コノッ、小癪ナ小娘ガァッ!』
「なんです、さっきから同じようなことしか言ってないのです。語彙力が少ないのです、所詮は脳みそゴブリンってことなのです」
『貴様……ッ!?』
キレッキレの煽り文句で、ゴブリンキングのヘイトが完全に九十九さんへと向いた、その時だった。
――バゴォォォォン!!
ここで、防壁で作った筒の中でフレアドライブが炸裂した。予想通り、着弾すると大爆発を起こすタイプの魔法だったようだ。
しかし、防壁を突破するほどの火力は無かった。爆発直後にほんの少し押されるような感触はあったが、それだけだ。
そして、爆炎は狙い通り開口部から外へと噴き出していき……。
――ゴウッ!!
『ムッ、余ニ火属性ハ効カヌゾ!』
寸分違わずゴブリンキングの顔面に命中する。もっとも、ゴブリンキングは火属性に相当な耐性があるようで、全くダメージにはならなかったが……これでいい。
別に、ダメージを与えることが目的ではないからな。
「はぁっ!」
――ズバッ!!
『グゲッ!?』
ゴブリンキングの右足のかかとを、氷エンチャントが乗った剣で帯刀さんが後ろからすれ違いざまに斬りつけた。さっきとほぼ同じ攻撃パターンなのだが、俺と九十九さんに視線が釘付けだったゴブリンキングは、全く気が付かなかったようだ。
そして、帯刀さんの一撃はどうやら色んな意味でクリティカルヒットだったらしい。弱点属性、弱点部位、タイミング……全てが噛み合った最高の一撃だった。
――パキパキパキッ!!
『グッ……』
ダメージを受けて凍り付いていく右足に、ゴブリンキングは遂に自身の体重を支えられなくなったようだ。よろけるように左膝を付き、まるで跪いたかのような体勢となった。
同時に、頭の位置も下がってきた。今なら首元にも攻撃が十分届くだろう。ゴブリンキングも人型である以上、急所は人間と同じはずだ。
「朱音さん、トドメだ!」
「任せてっ!」
ゴブリンキングの左真横で離れて様子を伺っていた朱音さんが、一気にゴブリンキングへと駆け寄っていく。他にも色々と策は考えていたのだが、どうやらこの一撃で終わりそうだな……。
『…… (ニヤリ)』
「っ!?!?」
ゴブリンキングが、ニタつく。俺の位置からはよく見えたが……朱音さんの位置からは、ちょうどゴブリンキングの左肩に隠れて見えない位置関係だ。
「ダメだ朱音さんっ!! それ以上近付くなっ!!」
「えっ……?」
凄まじく嫌な予感がして、すぐに朱音さんを制止したが……朱音さんは既にゴブリンキングの近くまで来て、武器を振り始めていた。
狙いは、ゴブリンキングの首元。このまま行けば、確実に命中する軌道だ。
――ブンッ!
風を切る音と共に、刃がゴブリンキングの喉元へと迫り――
――ガキィンッ!
「なっ……!?」
攻撃が弾かれて、朱音さんがよろめく。ランク4の武器攻撃が、あっさりと弾かれてしまった。
『クックック、サラバダ小娘ヨ。"クリスタルスパイク"』
――ジャキィィィッ!!
「うぐっ!? がっ……!?」
詠唱無しで放たれた、ゴブリンキングの攻撃魔法。
地面から突き出た無数の水晶が、朱音さんの体を貫いた。
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