2−7:今後の課題と昼飯の問題
朱音さんと話しつつ電車に揺られて京都駅へ行き、そこで朱音さんとは別方向へ。
普通電車に乗り換えて大阪方面へ1つ行けば、最寄り駅の西大路駅に到着する。京都駅まで電車でたった3分という好立地ゆえ、最近はかなり地価が上がっているのだとか。
それに合わせてか、エレベーターすら無かった西大路駅も最近の工事でバリアフリー化がなされたようだが……なんか中途半端なんだよなぁ。
改札が2箇所にあって、ホームから近い方の南口改札は元からあるのだが、こちらは今も階段しかない。大々的にバリアフリー化工事が進む中でも、ほとんど手付かずだった。
そして、バリアフリー化工事で新しくできた北口改札は……まあ遠いのなんの。エレベーターか階段で跨線橋に上がり、線路を8本くらい跨ぐ長い通路を歩いて、またエレベーターか階段で下に降りてようやく改札に辿り着く。確かにバリアフリーではあるが、もうちょっとどうにかならなかったのだろうか?
俺の家が近場の南口改札側にあり、かつ自身はまだ問題なく動けているとはいえ、だ。今後バリアフリー設備のお世話になる時がくるかもしれないと考えると、今の駅は決して満足いくものではない。
……まあ、駅の真上を東◯道新幹線が通っているのでは、工事ができなかったのも頷けるのだが。
「ふう、ただいま……と。誰もいないんだけどね」
それほど広くない部屋にリュックを置き、今日の収入を確認する。元来物欲が薄いからか、3年間無収入でも問題ないくらいには貯金があるが……まあ、お金があって困ることはあるまい。
半日で2200円、駆け出しでこれなら悪くない稼ぎだ。更にダンジョン深く潜っていけば、より大きな額を稼ぐことができるだろう。
そんな未来を軽く思い描きながら、ノートパソコンを立ち上げる。そうしてインターネット検索エンジンから"日本無線協会"のホームページへアクセスする。
【資格マスター】の効果を最大限発揮するためには、当たり前だが国家資格の取得が必要になる。パーティメンバーに頼るのも時にはありかもしれないが、自分で取れるものはきっちり取っておきたいのだ。
で、空き時間に【資格マスター】で効果を探っていたところ、気になる資格があった。
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資格名:第三級陸上特殊無線技士
効果:頭頂を中心とした半径5メートル以内にある無線機について、ダンジョン第10層まで電波が届くようになる
資格名:第二級陸上特殊無線技士
効果:頭頂を中心とした半径5メートル以内にある無線機について、ダンジョン第15層まで電波が届くようになる
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電波法に規定される、無線従事者の資格だ。よく三陸特や二陸特などと略される、特定周波数の電波を発する無線機を技術操作するにあたって必要な資格である……と言うとなんだか小難しいが、要はドローンとかを操作するには必須の資格というわけだ。
ちなみに、【資格マスター】での効果は"自分の近くにある無線機が、ダンジョンの特定階層まで電波が届くようになる"という一見地味なもの。だが、これがかなり重要になると俺は踏んでいる。
元々、ダンジョン内にはキャリア電波が一切届かない。ダンジョンゲートのすぐ前ですらそうなので、ダンジョン内ではスマホもガラケーも使えない、というのは探索者の間での共通認識となっている。
なので、万が一危険な状況に陥った場合、外部に助けを求める方法が無いらしい。ダンジョン内に限れば電波を飛ばしたりケーブルを張ったりもできるが、電波は飛ぶ距離が限られるし、ケーブルやその他設備はブルースライムが溶かしてしまう。苦労して通信インフラを整備しても半日で使えなくなることがザラにあるような状況らしく、ダンジョン内で長距離通信を行うのは非常に難しいという。
しかし、そんな問題をこれらの資格は吹き飛ばしてくれる。これさえあれば、ダンジョン内でも無線機---つまり、スマホが普通に使える。探索へ挑むにあたって、これは非常に大きなアドバンテージとなるだろう。枠を1つ使うだけの価値は十分にある。
なお、今日の探索であまり使わなかった第二種電気工事士を外して、試しに三陸特を付けてみた。最初は効果がオフになっていたので、どんな感じかとオンにしてみたら……まあ、結構な勢いで魔力が消耗していった。慌ててオフにしたが、今の俺では多分30秒も保たないだろう。資格を取り、消耗度合いを抑えるのは必須というわけだ。
「合格率たっか、8割超えてるじゃん」
しかも三陸特と二陸特は取得難易度が非常に低く、直近の合格率は8割を余裕で超えている。CBT受験方式というのを採用しているので、近場で比較的すぐに受験可能なのもありがたい。軽く勉強して……そうだな、陸特二を取りにいくか。
……そういえばコレ、更に上位の資格もあるんだっけか。えっと……。
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資格名:第一級陸上無線技術士
効果:頭頂を中心とした半径5メートル以内にある無線機について、ダンジョン全階層において電波が届くようになる 雷属性魔法を使用可能 地属性魔法を使用可能 雷属性攻撃のダメージを無効化 地属性攻撃のダメージを無効化
資格名:第一級総合無線通信士
効果:頭頂を中心とした半径5メートル以内にある無線機について、ダンジョン全階層において電波が届くようになる 雷属性魔法を使用可能 水属性魔法を使用可能 風属性魔法を使用可能 雷属性攻撃のダメージを無効化 水属性攻撃のダメージを無効化 風属性攻撃のダメージを無効化
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無線従事者の資格の中では、この二つが最高峰の資格になる……が、ちょっと総合無線通信士の資格を取るのは無理だな。
試験科目にモールス信号的なやつがあるみたいなのだが、それが全く分からない。あと英語もあるのだが、俺はアレルギー反応が出かねないレベルで英語が苦手だ。京都近辺を歩いている時に「エクスキューズミー」なんて聞こえてきた日には、全力疾走で逃げ出したくなるくらいには苦手だ。
現実的に考えて、取れる可能性があるのは第一級陸上無線技術士、略して一陸技の方だけだろう。もっとも、これはこれで理系大学クラスの凄まじく難しい理論を理解しなければ合格できない、難関資格ではあるのだけど。
「……とりあえず、陸特二のCBT試験を予約するか」
差し当たって、第15層までスマホが使えれば十分だろう。噂では第10層にボスが出てくるらしいが、それより奥まで進めるようになるのは一体いつになることやら……。
さて、まずは過去問を少し確認して……後はどうしようか。家でもできる特訓をするか。
そういえば、ダンジョンでも考えていたことだが……能力が伸びる仕組み、一体どうなっているんだろうか。単に使い込んだ能力が伸びるだけなのか、あるいはサ◯シリーズのように行動+モンスターとの戦いがトリガーになって成長するのだろうか?
よし、少し試してみるか。
ソファに座り、陸特三の効果をオンにする。急速に魔力が減っていくのを感じながら、そのままじっとしばらく待つ。
「………!!」
オンにしてから25秒が経過したあたりで魔力が完全に枯渇し、自動的に効果がオフになった。体調を確認するが、特に問題はなさそうだ。
「"レーザーセンサー"……不発か」
試しに、レーザー光で距離を測るセンサーのイメージで魔法を行使する……が、発動しなかった。ライトショットより魔力消費量が少ないであろう魔法すら不発になるほど、今の魔力残量は非常に少ない。
今日から1日おきに、ダンジョン外ではこれを繰り返す。魔力が満タンになったら何かしらの方法で使い切る、というような感じだ。
で、間の1日は何もしない。普通に生活して、魔力量の伸びに違いがあるかを見極める。1日おきにしたのは、戦うモンスターの強さなどが成長のトリガーになっている場合、あまり長い期間で区切ると検証結果の精度が下がってしまうからだ。
さて、どうなるかな。1ヶ月後くらいを目処に、検証結果を出してみるか。
……あとは、ダンジョン内での食事か。早めに探索を切り上げるならともかく、1日探索するなら昼食の問題は絶対に外せないだろう。
アイテムボックスの魔法は運搬重量や破損防止の問題は解決できるが、小説なんかでよくあるような時間経過を遅くする効果は無いし、中も常温常圧だ。下手な物を入れても腐ってしまうので、ある程度保存が利く物を入れなければならない。
かといって、カ◯リーメイトやお菓子だけの昼食も嫌だしなぁ。現地でお湯を沸かして、カップ麺を食べるのが一番満足度が高いかもしれないな……よし、そうしよう。
今考えることは、これくらいかな。
よし、そうと決まればまずは買い出しだ。すぐそこにスーパーもイ◯ンもあることだし、必要な物を買い出しに行くとしようか。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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