3−95:VSゴブリンキング(2)
――ブゥンッッ!!
ゴブリンキングが放った魔法の鉄槍50本弱が、朱音さんと俺に向けて続々と飛来する。普通に受ければ、即穴だらけにされてもおかしくないほどの凄まじい面攻撃だが……。
「ごめん、あれはちょっと厳しいかも!」
「任せろ! 防壁全開!」
――ブォン!
防壁を更に大きく展開し、下がってきた朱音さんごと自分を覆う。その直後、鉄槍の第1陣が弾着した。
――ガガガガガガガガガガ!!
防壁に鉄槍がガンガン当たり、跳ね返された鉄槍は粉々に砕け散る。どうも、敵に一撃を加えるとすぐ消えてしまうようだ。
……これ、攻撃を防ぐのはわりと楽なんだけどな。攻撃魔法として見てみると、実は非常に厄介な特性だと言える。
体に刺さった武器がそのままなら、傷口を塞いで半分止血したような状態にできるからだ。安易に武器を抜くと傷口を塞いでいた蓋が無くなり、出血量が増えて命を脅かしてしまう……という話を聞いたことがある。
ゆえに、このアイアンランスのように一撃を加えると消えてしまう武器ならば……攻撃を食らうことが、直ちに致命傷へと繋がりかねない。刀身に毒を仕込まれるよりはマシだが、随分と悪辣な攻撃を仕掛けてくるな……。
『フン、ウマク防イダカ。ナラバ出デヨ、余ノ忠実ナル配下共ヨ!』
――ガゴッ、ガガガガガガ……
ゴブリンキングが再び【仲間呼び】を行使したようだ。ただし、今度は壁が大きめに2箇所ほどせり上がっていき……。
『『………』』
筋骨隆々の巨漢ゴブリンが、それぞれの通路から1体ずつ現れてきた。腰蓑と巨大棍棒だけと比較的軽装備だが、身長は確実に2メートルを超えている。
装備の雰囲気から察するに、どうやらゴブリンの特殊個体っぽいな。さしずめ……。
「ホブゴブリンってとこか」
『『グォォォォォォォ!!』』
ホブゴブリン2体が巨大棍棒を掲げて、大きく吠える。見た目の通り肺活量があるようで、その声量はかなり大きかった。
……まあ、もっとも。
「「グリズリーベアには劣るけどな!」」
ソレや真紅竜に比べたら、迫力がまるで足りない。ゆえに俺も朱音さんも、恐怖で足が止まるようなことは微塵も無かった。
『ツブス!』
『タオス!』
『………』
ホブゴブリンも言葉を喋れるようだが、そこまで上手いわけではないらしい。イントネーションの怪しい片言が、ホブゴブリンの口から出てきた。
そして、ゴブリンキングは杖を構えつつもこちらを睨みつけるのみで、【鼓舞】の発動は無かった。どうやら【仲間呼び】よりも【鼓舞】の方が、よりクールタイムは長くなっているようだ。
『ツブス、ツブスツブスツブスツブスツブス!』
『タオス、タオスタオスタオスタオスタオス!』
――ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ!
ホブゴブリンが同じ言葉を何度も叫びながら、巨大棍棒片手にこちらへと駆けてくる。2体のその目は負の感情に染まり切り、俺と朱音さんを射抜くように見据えていた。
よし、迎撃だ――。
「――"マグマホール"!」
――ゴゴゴゴゴゴ……!
――ズボボッ!
『『ガフッ!?』』
ホブゴブリンの足元に、赤く輝くドロドロの溶岩穴がいきなり現れた。俺たちしか見ていなかったホブゴブリンはその穴に見事嵌り、腰まで溶岩に浸かる形となった。
――ジュウウウウウウウ!!
『『ガァァァァァァァッッッ!?!?』』
超高温に晒されたホブゴブリンの全身が、激しく燃え上がる。その痛みにのたうちながらも、穴から必死に抜け出そうとするホブゴブリンだったが……マグマゆえ粘度が高いのか、体が持ち上がりそうな気配は微塵も無かった。
「新魔法、決まったのです!」
後ろをチラッと見ると、杖を掲げた体勢でドヤ顔を浮かべる九十九さんの姿が。やはり九十九さんの魔法だったか。
「助かった!」
「どういたしまして、なのです!」
今が、ゴブリンキングに攻撃を加えるチャンスだ。どうやら次の魔法を唱えようとしているようだし、そこに俺の魔法を被せてやる。
「"ライ「きぃっ!」っと、危ない」
ライトニングを撃とうとして、ヒナタの声が聞こえたので咄嗟にキャンセルする。なるほど、ヒナタとアキもここで仕掛けるか。
「ぱぁ!」
――ブシュウゥゥ……
『ムッ? ナンダコノ霧ハ!?』
ゴブリンキングの頭目掛けて、薄っすら黒色の霧が吹き掛けられる。この色の霧は初めて見るが、どんな効果があるのだろうか……いや、そもそもゴブリンキングに状態異常が効くのか?
ヘラクレスビートルでさえ、毒も麻痺も効かなかったんだぞ? それより明らかに格上なゴブリンキングに、状態異常が通るのか?
『余ヲ謀ルトハ、小癪ナ!
……オノレ、ドコダ、ドコニイル!?』
「きぃぃぃ〜!!」
『グッ、周リカラ無数ノ声ガ聞コエテクルゾ!? ナンナンダコレハ!?』
……ゴブリンキングの様子がおかしい。ヒナタの声はちゃんと聞こえているようだが、まるで見当違いな方に向けて怒鳴っている。俺たちに向けられていた視線も完全に途切れ、頼りなさげに虚空を彷徨っていた。
もしかしてコレ、幻惑状態か? ドラ◯エでいうところのマヌー◯みたいな、敵の命中率を著しく下げる状態異常かもしれない。敵の動きが止まるわけではないので麻痺ほど劇的な効果は無く、それゆえにゴブリンキングにも効いたのかもしれないな。
『『ガ……ボ……』』
などと言っているうちに、ホブゴブリンの体力が遂に尽きたらしい。溶岩風呂に浸かったまま、その身をドロップアイテムへと変化させたようだ。
……ちなみに、ドロップアイテムがマグマの中に落ちたりしないよう、九十九さんはすぐに魔法を解除していた。
「よし、九十九さんとヒナタが作ってくれた隙だ。無駄にはしないぞ。魔力集中、魔力集中……」
これで、ゴブリンキングの取り巻きが再びいなくなった。ありもしない幻影に惑わされているみたいだし、ここが大技を叩き込むチャンスだ!
「きぃっ!」
――ゴウッ!
――バシュウッ!
『グヌォッ、コレハ風ノブレスカ! モンスターノクセニ、余ニ楯突クトイウノカ!?』
「きぃぃっ! きぃぃぃっ!」
『ヌカセ、生意気ナ小娘ガァッ!』
『お前なんて王じゃない! ただのデカブツだ!』と言い放ったヒナタに今度はヘイトが集まっているが、縦横無尽に飛び回るヒナタをゴブリンキングは全く捉えられていない。未だ幻惑の渦中にいるせいで、狙いが定まらないのだろう。
だが、ゴブリンキングの視線があまり彷徨わなくなってきた。幻惑の効果が徐々に薄れてきているらしい。
幻惑の効果時間そのものが短いのか、ゴブリンキングに対しては効果が薄い仕様なのかは不明だが……いずれにせよ、隙としては十分にすぎた。
「はぁっ!」
――ズバッ!!
『ヌグォッ!?』
と、こっそりゴブリンキングの後ろに回り込んでいた帯刀さんが、ここで一気に斬り掛かった。玉座を使ってうまくホブゴブリンをやり過ごしたようだ。
完全なる不意打ちとなった形の一撃が、ゴブリンキングの左かかとに直撃する。ローブが長くてどこが足なのか分かりにくかったはずだが、一発で決めてくれたようだ。
――パキパキパキ……
『グヌゥ、一体ドコニ隠レテイタ!? オノレェェェェ……!!』
ゴブリンキングの左足が凍り付いていく。これだけで倒せるとは微塵も思っていないが、少なくともゴブリンキングの機動力を封じることには成功した。
「……よし、準備完了だ!」
「きぃっ!」
「了解、退避します!」
俺の言葉に、ヒナタ・アキのペアと帯刀さんがゴブリンキングから離れていく。
『……ハッ!? ヌゥッ、ソコニ居タノカ!』
そのタイミングで、どうやらゴブリンキングの幻惑も完全に解けたようだ。ふらついていた目線が、今は俺にしっかりと焦点を合わせている。
だが、もう遅い。
「"ライトニング・トールハンマー"!」
――ゴロゴロゴロゴロ……
――カッ!!
現時点で俺が撃ち得る、最高威力の【雷魔法】を行使する。ゴブリンキングに雷が有効なのは既に確認しているが、果たしてどれほど効くだろうか。
魔法タイプのキャラが魔法攻撃に強いのは、RPGゲームの定番だからな。
――ガラガラガラガラガラガラ!!
――ドォォォォォォォンッッ!!
『グォォォォォォォォォォッッッ!?!?』
目が眩むような閃光と共に、極太の雷撃がゴブリンキングを覆い尽くす。雷特有の激しい破裂音に混じって、ゴブリンキングの絶叫する声が聞こえた。
……やがて、雷撃が止む。そして、そこには……。
『グヌゥ……許サン……許サンゾォッ!!』
全身を焼き焦がしながらも、地団駄を踏み未だ健在なゴブリンキングがいた。必殺を期した魔法をまともに食らわせたはずだったが、思ったよりもゴブリンキングはタフだな。
だが、もう1度同じようにやってやれば――
『――出デヨ、余ガ最モ信ヲ置ク、配下共ヲ統率セシ鬼ノ将ヨ!』
――ダァァァンッ!
ゴブリンキングが錫杖を一際力強く地面に打ち付ける。
――ゴ、ゴ、ゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
そうして、ホブゴブリンの時よりも更に大きく壁がせり上がっていく。なんだなんだ、今度は何が出てくるんだ? もしかして、アーミーかアーチャーの特殊個体か?
――ドス……ドスッ……ドスッ、ドスッ!
重厚な足音が徐々に近付いてくる。どうやら、かなり重量級の個体のようだ。
……やがて、足音の主が姿を現す。
『オヨビデ、ショウカ? ワガ、オウヨ』
通路の奥から、全身を金属鎧で包んだ巨漢のゴブリンが現れた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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