3−86:空飛ぶ黒き要塞も、なんのその
台座に寄って変換作業を終わらせた俺たちは、第5層に向けて階段を下りていく。
さすがはモンスターポップ率の高い階層だけあって、台座へ行く途中でも下り階段に行く途中でも、なんなら台座での装備珠変換作業中にも何度かモンスターが襲ってきたが……全て、帯刀さんと朱音さんが蹴散らしてくれた。お陰さまで、俺と九十九さんは変換作業に集中することができた。
「ここまで来れば、もう大丈夫だな」
階段の途中で、一旦立ち止まる。さすがに第4層でのんびりと装備の換装などやっていられないので、比較的安全なここまで移動してきたわけだ。
「"アイテムボックス・一覧"」
さて、変換結果はどうなっただろうか。
☆
・装備珠(赤・ランク1)×9
・装備珠(赤・ランク2)×7
・装備珠(赤・ランク3)×2
・装備珠(青・ランク1)×9
・装備珠(青・ランク2)×6
・装備珠(青・ランク3)×2
・装備珠(黄・ランク1)×1
・装備珠(黄・ランク2)×9
・装備珠(黄・ランク3)×2
・スキルスクロール【突撃】×1
・スキルスクロール【羽音】×2
☆
低ランクの装備珠は元々大量に持っていたが、第4層のモンスターと戦って更に増えた。それらも加えて台座を目一杯使ったところ、最終的な個数はこうなった。
……あ、そういえばスキルスクロールの存在をすっかり忘れてたよ。昨日のヘラクレスビートル・ラッシュビートル軍団戦で拾ったやつだっけか。誰が使うか、あとで朱音さんと要相談だな。
「"アイテムボックス・取出"」
武器珠ランク3を1つ、防具珠ランク3を1つ、装飾珠ランク3を2つ手に取る。あとは出しても使える人が意味が無いので、そのままにしておく。
「さて……」
「「?」」
パッと見では、九十九さんと帯刀さんの装備は前回探索終了時から変わっていない。九十九さんはランク4の武器、帯刀さんはランク3の防具を身に着けているが、あとはランク2以下の装備だけだ。
なので今回、九十九さんには防具珠ランク3と装飾珠ランク3を……そして帯刀さんには、武器珠ランク3と装飾珠ランク3を使ってもらえばいいだろう。
「……恩田さ〜ん、女性の全身をまじまじと見つめるのはよろしくないと思いま〜す」
「……へっ? え、あ、ち、違うぞ朱音さん!? 装備は変わってないよな、と思って見てただけだぞ!?」
「ふぅ〜ん? さぁて、どうだか。帯刀ちゃんってスタイル良いし、鼻の下伸ばしてたんじゃないの〜?」
「「………」」
朱音さんの表情が憎たらしいくらいにニヤニヤしていたので、冗談で言っているのはすぐに分かった。ただ、確かに女性の全身をいきなり見つめるのは、いささか以上にマナー違反だったよな……。
「……せっちゃん、せっちゃん。なんだか2人がすごく仲良しさんなのです」
「……ふふ、なにかあったのですかね? 朱音さんの服装も、前とはだいぶ雰囲気が違いますし」
「と、とにかく!」
九十九さんと帯刀さんがボソボソと何かを話しているが、2人とも生暖かい視線を俺に向けているだけで、特に俺を嫌がっているわけではなさそうだ。
……とは言え、女性の全身をまじまじと見つめるのはあまりよろしくない。今後は気を付けなければ。
「防具珠ランク3は九十九さんに、武器珠ランク3は帯刀さんに使ってもらいます。装飾珠は、2人とも1つずつ使ってください」
「承知なのです」
「ふふ、了解しました」
生暖かい目線を向けられながら、装備珠を2人に手渡す。
「「………」」
装備珠を受け取った2人は目を閉じ、装備珠に向けてそれぞれ念じているようだ。
……やがて、装備珠はそれぞれの珠と同じ色の光となり、九十九さんと帯刀さんの体を色とりどりに包み込んだ。
――パサリ
――ゴトン
九十九さんからはローブとブーツが、帯刀さんからは剣と盾が、それぞれ外れて地面を転がる。九十九さんは光沢のある赤一色のローブと、日の出を意匠化したマークがあしらわれた橙色のブーツを……帯刀さんは薄っすら氷を纏った両刃剣と、水色の光沢がある金属大盾を装備していた。
「おー、このローブすごく軽くて着心地が良いのです。ブーツも前のやつより、しっくりくるのです」
「剣から強い力を感じます。盾も、一回り上の性能であるのは間違いないですね」
どうやら、ランク3の装備は気に入ってもらえたようだ。これで2人の戦闘力も上がったことだろう。
「さあ、先に進もうか。第5層で軽く慣らしてから、第6層でラッシュビートル相手に新装備のお試しだな。2人ともそれでいいかい?」
「私は賛成なのです。せっちゃんはどうです?」
「ぜひ、それでいきましょう。前回は全く歯が立ちませんでしたが、今度こそラッシュビートルに一矢報いてみせます」
「……え〜、私には聞いてくれないの?」
なにやら拗ねた様子の朱音さんが、そんなことを言ってくる。別に忘れていたわけではないし、ヒナタとアキにも問い掛けていないのだが……仕方ない、それなら朱音さんにも聞いてみるか。
「ん〜、なら朱音さんも、後でラッシュビートル相手に新装備を試してみるか? 武器と盾を変えたばかりだし、ハッキリと違いが出てくるかもな」
「ええ、そうするわ!」
朱音さんが元気に返事してくるが……朱音さんが持ってるそれ、ランク4の武器とランク5の盾だろ? さすがに、ラッシュビートルでは弱すぎてお試しにならないと思うんだよな。
もしこれで、ランク4の武器攻撃がラッシュビートルの外殻に通用しなかったら……いよいよ、ラッシュビートルを"出る時期を明らかに間違えてるモンスター"として認定しなければいけなくなる。ド◯クエ6プレイヤーの99%以上が苦しめられたであろう、ベ◯ラマを撃ってくる青いアイツに匹敵する悪夢……さすがにそれは、無いと信じたいところだ。
◇
サクッと第5層を抜けて、ラッシュビートルが現れる第6層へとたどり着く。
第5層ではグレイウルフ3体組と2回、ゴブリン4体組と1回戦ったが、その程度の相手に今更苦戦などしない。順当に完勝し、ここまで全員が無傷でやってきた。
――ブ……ブブ……
「前回4人で探索した時は、ここまでで撤収したんでしたね」
「ああ、そうだったな帯刀さん。ほんの数日前のことなのに、なんだか随分前のことのように感じるな……」
なぜそう思ったのか、理由は自分でもよく分からないが……ここ数日の俺のダンジョン探索が、あまりに濃密度すぎてそう感じているだけなのだろうか。
――ブブ……ブブ……
「……っ! 全員構えろ、来るぞ!」
「「「「「!!」」」」」
――ブブブ!!
藪をなぎ倒しながら、1体のラッシュビートルが階段前広場に姿を現した。
すぐに襲い掛かってくるかと思って身構えたのだが、ラッシュビートルは広場に立っている木に一旦止まった。どうやら、こちらの様子を伺うことにしたらしい。
「早速現れましたね」
「だな。装備のお試しには、ちょうどいいんじゃないか?」
「です、なのでここは、私たちに任せて欲しいのです!」
九十九さんが杖を掲げながら、ピョンピョンと飛び跳ねている。帯刀さんも剣と盾を構えて気合十分、臨戦態勢へと入っているようだ。
「了解、ここは2人に任せるよ」
「きぃ……」
「ヒナタ、もうちょっとだけ待ってな?」
ラッシュビートルを見て、左肩に乗ったヒナタが『出番まだ……?』と残念そうに言っている。ここまでヒナタの出番が全く無く、そろそろモンスターと戦いたくてうずうずしているらしい。
「ぱぁ」
一方のアキは、朱音さんの右肩でのんびり観戦モードに入っている。アキはあまり積極的に戦いたいわけではないようで、ヒナタと同じく出番は無かったのだが機嫌は悪くない。
……こうして見てみると、ヒナタとアキで性格がだいぶ違うのがよく分かる。やはり、仲間モンスターにも個性というものがちゃんと存在しているようだ。
――ブブブ!
そうしてヒナタとアキを横目で観察していると、遂にラッシュビートルが木から飛び立った。高速で飛翔しつつ、まずは近場に居た帯刀さんに突進攻撃を食らわせようという魂胆らしい。
「………」
――ブブブブブ!
まっすぐ飛翔してくるラッシュビートルに対し、盾を構えつつじっとその動きを観察する帯刀さん。
やがて、帯刀さんとラッシュビートルが交錯する……と思った、次の瞬間だった。
「……はぁっ!」
突進攻撃をうまく盾で斜めにいなしながら、ラッシュビートルの左側面に帯刀さんが回り込む。
その流れのまま、帯刀さんは剣をラッシュビートルの左羽根目掛けて振り抜いた。
――スパン!
――ブブブ!?
――ズザザザザ……
ラッシュビートルの左羽根に剣先がギリギリ届き、根元から斬り飛ばす。羽根を片方失ったラッシュビートルが体勢を崩し、地面に落ちて滑っていった。
「よし来た、なのです!」
そして、待ち構えていた九十九さんが杖を掲げる。羽根を1枚失ったラッシュビートルは、弱点の背中が剥き出しとなっていた。
「"ファイアバレット"!」
――ボウッ!!
杖から小さな炎の弾が生成され、ラッシュビートル目掛けて撃ち出される。
狙いは少し甘いようだが、炎弾はおおむねラッシュビートルの剥き出しの背中に向かって飛んでいった。
――ボゴゥッ!!
――ブグッ……!?
炎弾がラッシュビートルの背中を直撃する。そこから爆炎が大きく広がり、ラッシュビートルの全身を包み込んだ。
その炎が晴れた時、既にラッシュビートルの姿はそこには無く……あとには魔石と、ラッシュビートルの斬羽1枚が落ちていた。
ラッシュビートルとの初戦は、九十九・帯刀ペアの圧勝だった。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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