3−85:進め、進め、全てを倒して
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
九十九さんと帯刀さんを見た2人が、俺たちの肩から挨拶する。ヒナタは『ヒナタです、よろしくお願いします!』と言っているのだが……残念ながら、九十九さんと帯刀さんには内容までは伝わらないだろうな。
「おー、自分から挨拶できて偉いぞ、ヒナタ」
「きぃ♪」
それでも、率先して挨拶したのはとても良いことだ。挨拶は『あなたと継続して良好な関係を築きたい』という意思表示であると俺は考えていて、意識したわけではないと思うがヒナタからもそういう意思が伝わってきた。良いことをしたのであれば、それはちゃんと褒めるべきだろう。
……決して、俺が撫でたいから理由を付けて撫でたわけじゃないぞ?
「……ですっ!? な、なんなのですかその子たちは!?」
「えっ、うそ、白いブラックバット……!?」
対する九十九さんと帯刀さんの反応は、当然と言うべきか驚愕だった。俺がヒナタを優しく撫で、それをヒナタが嬉しそうに受け入れているのを見て、敵でないことは理解してくれたようだが……それでも、驚くのも無理はないだろう。
「ああ、ヒナタとアキのことか? 色々あって俺たちの仲間になってくれてね、2人ともめちゃくちゃ頼りになるんだよ。
ちなみにだけど、ヒナタは『よろしくお願いします!』って言ってたぞ?」
「あ、アキも『よろしくお願いします!』だって」
「きぃ!」
「ぱぁ!」
俺たちの言葉を肯定するように、ヒナタとアキが小さく頷く。
……自分たちを受け入れてもらえるか分からないからか、2人とも少し不安げだ。まあでも、九十九さんと帯刀さんならきっと……。
「あ、これはご丁寧にどうもなのです。私は九十九彩夏といいますです、よろしくお願いするのです」
「私は帯刀雪華と申します。よろしくお願いしますね、ヒナタさん、アキさん」
確かに驚きはしたものの、やはりと言うべきか九十九さんも帯刀さんも柔軟な考えの持ち主だったようだ。ヒナタとアキに向けて、ニコリと笑いかけてくれた。
こうして互いに挨拶が済んだところで、九十九さんと帯刀さんに2人が仲間になった経緯を軽く説明しておく。
2人とも、試練の間を突破した結果得ることのできた仲間であること。試練の間では、2回とも強敵との戦いが含まれていたこと。普段は行かないような場所に行くことで、おそらくは試練の間の入り口を見つけられるであろうこと……そんな感じのことを伝えた。
「うぅ、聞けば聞くほど羨ましいのです……!」
「………」
物欲しそうな目でヒナタとアキを見つめる2人だが、大きな問題が1つだけある。特に帯刀さんにとっては、切実な問題となるだろう。
「ただなぁ、2人とも結構魔石を食べるんだよ。昨日も2人合わせて、ラッシュビートルの魔石を10個くらい食べてたからな。魔石換算だと分かりにくいが、食費が1人あたり1日5000円くらいかかってるのと同じなんだよ。
……まあ、ラッシュビートルの魔石は在庫がまだ92個あるし、魔石を食べると強くなるから別に構わないんだけどさ」
「「!?!?」」
アイテムボックスに忍ばせている魔石の数を聞いて、2人がまた驚愕した。何をどうしたらそんなに貯まるんだ、と2人の顔にハッキリと書かれているが……うん、俺の方が原因を知りたいくらいだ。
ちなみに、アイテムボックスのことは前回の探索の際に、九十九さんと帯刀さんへ既に教えている。話すにあたって問題は無い。
「……恩田さん、いつの間にラッシュビートルを軽くいなせるようになったのです?」
「いや、倒せたのはほぼアキとヒナタのお陰だよ。だから、ラッシュビートルの魔石は売らずにとっておいてるのさ」
アキとヒナタが居なかったら、どう足掻いても103体からなるラッシュビートルの集団を殲滅することなどできなかっただろう。2人が居たからこそ、昨日のアレは成り立ったのだ。
それに、俺は現状特にお金には困っていない。第4層でモンスターを殲滅すれば、片道で3万円、往復で6万円は軽く稼げる。ソロでも比較的安全に倒せるし、仮に4人で分けても1万5000円はいくだろう。
そんな状況で、ラッシュビートルの魔石まで売る意味はほとんど無かった。俺みたいな凡人が急に大金を手にしようものなら、そこには破滅の未来が口を開けて待ってるわけだしな。程々でいいのさ、程々で。
「まあ、とりあえず先に進もうか。2人にも、ヒナタとアキの実力を見てもらいたいし……と、勝手に話を進めてごめん。
九十九さん、帯刀さん。今日も一緒に探索する、ということで構わないか?」
なんとなくそういう流れになっていたが、これに関してはちゃんと確認しておくべきだろう。
前回の探索時に締結した紳士・淑女協定により、この4人で探索した時に得た成果は4等分すると決めている。もしかしたら、2人で探索するより成果が減るかもしれないのだから。
「いいのですよ!」
「はい、むしろこちらからお願いいたします」
よかった、九十九さんと帯刀さんが合流してくれた。これは、だいぶ心強いな。
「承知した。それじゃあ行こうか」
「待ってほしいのです、成果は4等分で本当にいいのです? ヒナタちゃんとアキちゃんがいるのですけど……」
おっと、九十九さん覚えてたのか。聞かれなければ、普通に4等分するつもりだったのだが……。
「4等分でオッケーだけど、途中でいくつか2人に魔石を食べさせたい。それを差し引いたうえで、成果を4等分としていいか?」
「私としては問題ありませんよ」
「それなら、私もオッケーなのです」
「了解。んじゃ、先に進もうか」
「……あれ?」
視界の端で、朱音さんが首を傾げている。今のやり取りになにやら違和感を覚えているようだが……まあ、それに関しては気付かなくてもいいぞ。
◇
「よし、今日も無事殲滅完了、だな」
特に何事も無く第4層へと到着し、今日は俺がモンスターの軍勢を殲滅した。フラッシュからのライトニング・ボルテクスのコンボは相変わらず安定してるな。
「私、だいぶこの光景に慣れてきたんだけど……これを普通だと思ったら、きっとダメなのよね? そうなのよね?」
「です。これは、誰にでもできることじゃないのです」
「見るのはこれで2度目ですが、やはり凄まじい光景ですね。魔石がこんなにもたくさん……」
300体近いモンスターの集団を倒したわけだからな。そりゃ、こういう光景にもなるよな。
第4層の広い広い空間に、大量の魔石・装備珠が散らばってキラキラと光り輝いている。見た目だけなら、まるで天国のような美しい光景だが……実際は、後から後からモンスターが湧いてくる地獄の空間なわけだ。
そして、だ。九十九さんは、誰にでもできることじゃない、と言っていたが。
「まあ、そこは適材適所ってやつじゃないか? 俺の魔法は燃費重視で、かつ広範囲を薙ぎ払う方が向いてるみたいだし。ギフトで魔法威力にほとんどブーストが掛からないから、全体的に火力は控え目なんだよ」
だからこそ、俺の魔法は弱点属性・弱点部位をきっちり突かなければ、強いモンスターにはほとんどダメージが通らなくなる。そのことはグリズリーベア・ヘビータートル戦やヘラクレスビートル戦で十分過ぎるほど痛感した。そんなセオリーをガン無視して、固い防御の上から強引にダメージを通せる九十九さんの魔法火力がずば抜けているのだ。
だからこその切り札、他ではどうしようもなくなった時の最後の砦。昨日のヘラクレスビートル戦なんかも、九十九さんが居たらだいぶ楽に倒せただろうな……。
「ま、通常モンスターは俺たちに任せてくれ。九十九さんは強敵が出てきた時の、切り札的な感じで構えていてほしい」
「うーん、了解なのです。でも、全く働いてないのに分配金を貰うのはちょっと嫌なのです」
「九十九さんは、そこに居るだけでも十分な働きになるんだよ」
「そんなもんなんです?」
「そんなもんなんだよ」
最後の一押しを誰かに頼むことができる安心感は、それはもう得難いものだ。仕事で何度も修羅場を潜り抜けてきた人、プロ野球・メジャーリーグのファンの人には、特に分かってもらえるんじゃないだろうか?
……まあ、現実はそういう人に仕事が集中して、最終的に潰れてしまうパターンがすごく多いんだけどな。あの時は考える余裕なんて全く無かったが、俺もあと数ヶ月遅かったらきっと……。
「………」
まあ、もはや訪れることの無い未来だ。考えても詮無いな。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"……4回か、大漁だな」
やはり、ドロップアイテムが300個を超えたか。魔石もそうだが、装備珠も低ランクのものが大量にアイテムボックスへと収まっている。
「……あ、そうだ。九十九さん、帯刀さん」
「です?」
「どうしましたか?」
装備珠で思い出したが、これは2人にちゃんと確認しておかないといけないな。
「例の台座に寄ろうと思ってるんだけど、それでいいか?」
「ああ、装備珠を上のランクに変換できるやつです?」
「そう、それ。手持ちの低ランク装備珠が大量にあるから、今のうちに変換しとこうと思ってさ」
「なるほど。しかし、私たちへの確認は不要だと思うのですが……?」
「それは良くないな。今日は4人で探索してるんだから、緊急時以外の決め事はちゃんとみんなの意見を取り入れないとな」
昨日までに俺や朱音さんが集めた物もあれば、今日4人で戦って集めた物もある。アイテムボックスに入っている装備珠は、俺1人のものではない。
そして、ランクアップさせると売値の合計値は大きく下がってしまう。俺や朱音さん、おそらくは九十九さんも大丈夫だとは思うが……帯刀さんはどうだろうか。それが気になって、確認したわけだ。
「私は構いませんよ」
「です、せっちゃんと同じ意見です」
「ん、了解」
特に気にしてはいないらしい。それなら遠慮無く変えさせてもらおうかな。ただ、まあ……。
「だけど、装備珠を使うのは主に九十九さんと帯刀さんだからな?」
「「え?」」
そりゃそうよ、さっき朱音さんと2人で装備を更新したばかりだしな。朱音さんはまだ装飾品スロットに変えられそうな余地はあるが、俺に関しては……。
「朱音さんはともかくとして、俺はもうランク3の装備珠が要らないんだよ。だから、装備珠は3人に分けるつもりだ」
「あら、私も今日はもう十分よ。防具珠は元々要らなかったし、武器珠と装飾珠はもう使わせてもらったし……」
「「………」」
俺と朱音さんの装備を、九十九さんがまじまじと見つめる。
「……恩田さん、朱音さん。もしかして、この数日で結構な修羅場を潜ってきてるです?」
「イエス、とだけ返しておくよ。ヒナタやアキと巡り会えたのも、それが理由だしな。"ライトニング・スナイプボルト"」
――バヂィッ!!
「「「ギッ!?」」」
ゴブリン3体がやや遠くにポップしたので、ライトニングで狙撃する。集団のど真ん中に落としたところ、雷撃が散って3体とも倒すことができた。
「"アイテムボックス・収納"っと。積もる話は、階段を下りてからにしよう。ここで話し込むのはちょっと危険だ」
「……です。そうしましょう、なのです」
台座に向けて全員で移動していく。そこから台座に着いて装備珠を変換し、階段を下りるまで……九十九さんも帯刀さんも、周囲を警戒しつつもソワソワしていた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。