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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く
124/205

3−83:見えてくる第10層


「今日は誰もいないな」

「ホント、静かでいいわねこの場所は。風が気持ちいい……」


 西大路駅から隣の京都駅へ移動し、そこで嵯峨野線の普通電車に乗り換えて25分……幸いにも遅延は一切無いまま、午前9時前に亀岡ダンジョンバリケード前へと到着した。

 まだ門は開いていないので、俺と朱音さんの2人……いや、リュックの中でおとなしく待ってくれているヒナタとアキと4人で、のんびりと開門を待つ。幸いと言うべきか、今日は俺たちの他に探索者らしき人の姿は無い。


 ……ふと、疑問に思う。亀岡ダンジョンはいつも平日の人出が少ないのだが、なぜだろうか? 探索者という職業 (正式な職業としては認められていないが……)の知名度がそこまで高くないにしても、さすがにこれは少なすぎやしないか?

 嵯峨野線の混雑具合や立地の微妙さを差し引いても、京都駅から見て亀岡ダンジョンより行きやすいダンジョンは無い。平城山ダンジョンは倍くらい移動時間がかかるし、長浜や姫路はもっと遠いし……。

 やっぱり、法整備が進んでないのが一番の原因かなぁ。探索者が職業として正式に認められていないから、多くの人に敬遠されてしまっているのかもしれない。

 今後、三店方式なんてグレーゾーンな方法に頼らなくてもいいように法律が整備されれば……少しは、探索者を目指そうという人も増えるだろうな。


 まあ、人が居ないなら居ないで俺たちにとっては好都合なのだが。入ってすぐに換金所へ向かえば、アイテムボックスを使っているところを見られることなく換金を済ませられるのだから。


「朱音さん。真っ先に換金して、それからダンジョンに入ろうか」

「そうね、私たち以外に誰も居ないものね。

 ……あ、恩田さん。そういえば、装備珠って貯まってるのかしら?」

「装備珠か……言われてみれば、ヘラクレスビートルが結構ランクの高いやつを落としてくれたのに、使ってなかったな」


 思い返せば、装備の新調をここ数日全くしていない。今の装備がもう少し消耗してから、ギリギリまで待ってから……などとエ◯クサー症候群を患っている間に、高レベルの装備珠がアイテムボックスへ入ったままとなっていた。いい機会だし、そろそろ使ってしまおうかな。

 ……特に朱音さんは、ラッシュビートルやヘビータートルに物理攻撃が全く通っていなかった。武器珠はランク4の物があるので、朱音さんが使っているランク2の武器を新調してしまってもいいかもしれないな。


「お待たせいたしました、開門時間です。

 ……ああ、恩田さん。お疲れ様です」

「ええ、お疲れ様です」

「………」


 澄川さんが出てきて開門時間を告げてくれたので、後ろに付いて中に入る。

 受付カウンターには、昨日電話対応をしてくれた受付嬢さんが立っていた。


「お疲れ様です、恩田さん!」

「あ、昨日はありがとうございました。おかげさまで、何事も無く今日もダンジョンに潜れます」

「私からもお礼を言わせてください。昨日は本当にありがとうございました」

「いえいえ、亀岡迷宮開発局員としてすべきことをしただけですので!」


 ペコペコと、3人がお互いに頭を下げ合う。受付嬢さんの言う"すべきこと"、それを咄嗟の判断でこなせる人というのが、意外と少ないんだけどな……。


「ところで、先に換金したいのですが……換金所は開いてますか?」

「はい、もう開いてますよ。権ど……失礼しました、換金対応者はもう配置に付いているようですね」


 ……あくまでも、換金所は無関係の第三者という建前は崩さないわけだな。まあ、今はそうせざるを得ないのだから、それでいいのさ。

 でもさ、ホントいい加減ダンジョン関連基本法とか、そういうのが制定されてくれないかなぁ。仮にも独立行政法人なんだから、三店方式みたいな法律的グレーな状態からいい加減脱却できるようにしろよ……。




「おう、あんちゃんか。昨日振りやのぅ」

「その喋り方、久々に聞く気がしますよ、権藤さん」

「はて、なんのこっちゃのう?」


 おとぼけ権藤さんが、強面の顔に(いか)めしい表情を浮かべながらカウンターにだらしなく左肘を付いている。これで葉巻なんかを吹かしてたら、完全にその道の人だな……。


「で、昨日換金でけへんかったから、今日来たっちゅうわけやなぁ?

 ……まだ誰も来てないから、今のうちにサクッと出してくれるか?」


 おっと、急に本気モードになるのやめてくれませんかね、権藤さん? その落差がゾッとクるんだよ、思わず身構えてしまったじゃないか。


「了解です、"アイテムボックス・取出"」


 カウンターの上に、アイテムボックスから大量の魔石を取り出す。魔石は山のようになって、権藤さんの前にうずたかく積み上がった。

 ちなみに、ラッシュビートルとヘラクレスビートルの魔石は売らずに残しておくことにした。前者はヒナタとアキのご飯のため、後者は2人のスキル習得のためだ。ヘラクレスビートルの魔石が、いくらで売れるのかは正直気になるところだが……次いつ戦えるか分からないので、今は売却を保留しておくことにした。


「……また大量やなぁ、ちっと待ってや」


 山のようにになった魔石を、権藤さんは手慣れた様子で魔法袋に入れ直していく。山の上からシュッ、シュッと魔石が消えていく様は見ていて中々面白い。

 ……おっと、これだけは伝えておかねば。


「ああ、権藤さん。売却益の分配なんですけど、俺が75%で朱音さんが25%でお願いできますか?」

「ええ、私からもそれでお願いします」

「ん? おう、そうかいな。

 ……もしかして、そのリュックの中に居る子と何か関係があるのか? 昨日は聞けなかったが、ヒナタの他にもう1人いるようだな?」

「……!」


 むむっ、さすがは権藤さん。リュックの中にいるアキの存在に気付いてたのか。


「ええ、まあ。2人で試練を突破して、報酬(アキ)を朱音さんに譲ったのですが……タダで貰うのは良くないと、朱音さんに言われましてね。相談のうえで、朱音さんの取り分が25%になるまで俺に分配する形になりました。期間は無期限です」

「……ほう? 随分と金銭欲が薄いんだな、2人とも」

「正直、今の収入だけでも生きていくには十分すぎます。そも、俺にはヒナタが居ますから」

「……きぃ」

「私も、本業と合わせたら普通に生きていけます。それにアキが可愛すぎて、一緒にいて本当に幸せですので♪」

「……ぱぁ」


 ……とまあ、そういうことだ。お金じゃ絶対に買えない価値が、ヒナタとアキにはあるってことだよ。


「あ、そうだったわ。アキ、ちょっと顔を出してくれるかしら?」

「……ぱぁ?」


 俺の後ろに回った朱音さんが、迷彩柄リュックの口を開けて中に声をかける。そうして、中からアキが顔だけを外に出した。

 アキは、なにやら興味深そうに辺りをキョロキョロと見回した後……。


「ぱぁ!」


 権藤さんに気が付くと、右手を上げて元気よく挨拶をした。


「ほう、これはこれは……」


 アキの様子を見た権藤さんが、顎に手を添えて何かを考え始める。

 ……そして、おもむろに頷いた。どうやら、権藤さんの中で何かしら決まったらしい。


「ふむ、久我探索者さえ良ければだが……アキも"迷宮探索開発補助動物"に登録してみないか? 昨日の男2人を無力化したのも、多分だがその子の力なんだろう?」

「ええ、まあ」


 なるほどな。ヒナタと同じく、アキにも公の地位をあげたいわけか。


「しかし、試験があるのでは? アキを登録して頂けるのであれば、私としてはすごくありがたいところなのですが……」

「久我探索者、心配しなくても既にアキは合格だ。ヒナタの時も言ったがな、本来は一般動物に対して適用するもんなんだよ、これは。

 ……自発的に誰かへ挨拶できるだけで、求める能力水準はもう充分に満たしてるのさ」


 そう言いながら、権藤さんは残りの魔石を全て魔法袋に詰めていく。

 その内訳を確認したのだろう、権藤さんはそっと溜息をついた。


「へえ、なるほどな。ラッシュビートルの魔石が1個も無いのは気になるが、この売却品の感じを見るにそろそろ第8層へ挑戦するんだろう?」

「ええ、まあそうですね」

「なら、集団戦を得意とするアイツらが出てくるな。1体1体はそこまで強くないが、連携してくるから非常に厄介だ。遠距離攻撃持ちが居るし、数もやたらと多いしな」

「集団戦……」


 そんな戦い方をするモンスターに、少し心当たりがある。昨日、試練の間で戦ったアイツらのことかな?


「ゴブリンアーミーとゴブリンアーチャーですか?」

「うん? まさか、もう戦ったのか。いやしかし、提出品の中にヤツらの魔石は無かったはずだが……?」

「試練の間で戦いましたが、報酬はアキに全振りしました。なので戦闘経験はありますが、魔石は持っていません」


 ……今思えば、アキを選んで大正解だったけどな。ほぼレベル1の時点で、ヒナタとの合体技でラッシュビートル103体を一網打尽にするほどの実力があった。ファイアブレスで薙ぎ払える程度の強さしか無いアーミー・アーチャーの魔石ごときとは、比較するのも失礼なほどの差がある。

 とは言え、戦うのであれば油断は禁物だ。現状、インプと並んでヒナタに攻撃を届かせられるモンスターだからな、アーチャーは (グリズリーベアやヘビータートルは、明らかに深層で出てくるモンスターなのでここでは除く)。


「ただ、ヒナタとアキが仲間になりましたからね。アーミーやアーチャーを蹴散らしながら、そろそろ第10層にも手が届きそうです」

「……そうか。ちなみに、第10層に何があるのかは知ってるか?」


 権藤さんが腕を組みながら、問い掛けてくる。


「ええ、噂程度には。ボスモンスターが出てくると聞きましたが、詳細な情報は手持ちにはありません」


 どういうモンスターなのかは、ウェブ上にはあまり情報が無かったけどな。制限されているわけではないようだが、とにかく詳細な情報が出てこないのだ。


「到達者が少ないからなぁ。亀岡ダンジョンでは到達者すら0、他の大半のダンジョンも同じような状況で、居ても1パーティとかそんな感じだ。横浜ダンジョンだけは突破者が居て、その人数も突出して多いけどな。

 ……だが、これこそがダンジョン第三の壁。ゴブリンやラッシュビートルとは比べ物にならないくらいの、非常に厳しい試練になる」

「厳しい試練、ねぇ……」

「うーん……」


 権藤さんの言葉を聞いても、あまりピンときていない自分がいる。それは朱音さんも同じなのか、隣で一緒に首を傾げていた。

 特に俺の場合、真紅竜に始まりハイリザードマンとその配下、グリズリーベア・ヘビータートルのペア、そしてヘラクレスビートルとその配下……真紅竜は別格だとしても、その他の強敵とは真正面から戦い、そしてしっかりと勝っている。

 第10層に現れるボスモンスターとは、それらに勝る脅威となり得るのだろうか?


「その反応を見るに、やはり試練の間というのは相当厳しい場所らしいな。

 ……第10層突破者が出れば、横浜ダンジョン以外では史上初になる。今日で達成はまだ難しいかもしれないが、じっくりしっかり探索を進めていつかは頼むぞ」


 横浜ダンジョン以外で初の第10層突破者、か。いいな、その響き。正直あまり目立ちたくはないのだが、男心をくすぐるフレーズだ。


「そうそう。ほい、恩田探索者は6万2000円な。キリよく補正しておいたから、受け取ってくれぃ」

「ありがとうございます」


 いつの間にか、権藤さんが精算を終えてくれていた。やはり、第4層が絡むと収入が美味しいな。


「よし、それじゃあ着替えてダンジョンに行くか!」

「ええ!」


 それぞれがロッカールームに移動し、装備品を身に纏ってゲート前で落ち合う。そのままダンジョンゲートを潜って、ダンジョンに入った。


 ……さて、今日はどこまで行けるだろうか。個人的には第10層の入り口まで到達して、ボスモンスターの顔を拝んで帰れたらベストなんだがな。


 読者の皆さま、いつも本小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。

 また、あけましておめでとうございます。2025年も、引き続きよろしくお願いいたします。


◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます&更新ありがとうございます。 アキちゃん、強面(こわもて)おじちゃんにも笑顔で挨拶できる良い子♪ ヒナタちゃんも挨拶できる良い子♪ ムッチャ和みますわ~!  (*´∀`…
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