3−82:闘うあなたの目は、とても美しい……そんな感じの名前をしたゲーム音楽があってだな
読者の皆さま、いつも本小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。
また、2024年は皆さまには大変お世話になりました。当初こそ、1日に50PVもあれば多かったくらいの本小説が、今や1日平均1万PVを誇る小説にまで成長することができました。
さて、年の瀬のご挨拶ができていなかったため、本編小説を火曜日にも追加投稿させて頂く次第となりました。定例の水曜日……元旦にも連続投稿させて頂きますので、そこはご安心ください。
それでは皆さま、良いお年をお過ごしください!
「オッケー、お布団敷けたわ。ん〜、なんだか新鮮でいい感じ♪」
「ぱぁぁぁ♪」
空いたスペースへ自ら敷いた布団に、朱音さんがうつ伏せになって寝転ぶ。その背中にアキも乗り、同じ体勢で足をパタパタとさせていた。
2人とも、とてもご機嫌な様子だ。ただ……。
「いや、朱音さんはこっちの方がいいんじゃないか? 俺が床で寝るからさ」
部屋がそこまで広くないので、俺はソファとベッドを兼用できる家具を使っている。普段の俺は布団をソファベッドの上に敷いて寝ているのだが、背もたれ部分を倒したり起こしたりする必要はあるもののスペースを活用できるので重宝しているのだ。
……ただ、朱音さんがいるなら話は別だ。女性を床に寝かせて、俺が高みに寝るのは個人的にあまり良い気はしない。
「あら、ここの家主は恩田さんでしょ? 私はここでいいわ」
そう思って聞いてみたが、朱音さんはサラッと返してきた。特に気にしている様子は無いようだ。
「賃貸だから、どちらかと言うと借主だな」
「でも、この家は恩田さんがお金を払って住んでるんでしょ? 私は単なる居候だから、そこはお構いなく」
それだけ言って、朱音さんが枕に顔を埋める。
……なんかスースーという音がするんだが、朱音さん寝てないよな? 話しておきたいことがまだあるんだが……。
「朱音さん、明日の予定だけど……」
「……ぷぁ。あ、そういえばまだ換金できてないのよね? 今日の成果品」
「ああ、すぐに警察署へ直行だったからな。装備品はロッカーに置いてこれたが、換金予定品がアイテムボックスの中に入りっ放しだ」
まあ、換金自体はダンジョンが開いていればいつでもできるから、急がなくても別にいいんだが……明日、朱音さん以外の人とも一緒に探索するとなったら、売却益の分配計算がすごく面倒くさくなってしまう。できれば、朝一で処理しておきたいところだ。
……今日は探索者が少なかったし、明日も少ないといいんだけどな。アイテムボックスを使ってるところを見られると面倒くさいし。
「おっと、そういえばご飯がまだだったな。"アイテムボックス・取出"っと。ほい、ヒナタ、アキ」
「きぃ♪」
「ぱぁ♪」
ひとまず、ヒナタとアキにラッシュビートルの魔石を渡す。残り98個になったが、このペースなら普通に2週間は保ちそうだな。これは売らずにとっておくか。
「ぱむっ、もむもむもむ……♪」
「かぷっ、もにもにもに……♪」
「……なんか、2人が食べてるのを見たら急にお腹が減ってきたな。俺たちもご飯にしようか?」
「ええ、そうしましょう」
……とはいえ、だ。
「まあ、俺は料理できないんだけどな……」
厳密にはできないこともないのだが、それに時間を使うくらいなら買ってきて食べればいいのでは、と俺は考えている。あまり褒められた考えでないのは、重々承知しているが……。
「あら、じゃあ私がやるわよ?」
「え、朱音さんが?」
「タダで泊まらせてもらうわけにはいかないもの。料理くらいはするわよ?」
腕まくりをし、朱音さんがやる気を見せている。料理できるんだな、朱音さん。
「……? どうしたの、そんな驚いた顔をして?」
「いや、まことに失礼ながら、朱音さんに料理上手なイメージがあまり無くてな……」
良家の人=ダークマターの生成者、という勝手な刷り込みがあってな……朱音さんもそうだと勝手に思い込んでいた。
「うーん、お父様と私を除いてみんな料理の腕前は酷いから、あながち間違いでもないのかも?」
「えっ、それって朱音さんのお母さんも?」
「ええ、まあ……」
それは大変だな、久我家。むしろ、よく朱音さんはそれで料理上手になれたな。
……というか、マジですか団十郎さん。あなた、一体どこに死角らしい死角があるんですかね。
「……あらら、やっぱり食材が全く無いわね。というか、冷蔵庫に入ってるのドリンクばかりじゃないの。
……あ、粉末タイプの健康飲料もあるのね。ドリンクバーでも運営するつもりかしら?」
冷蔵庫の中を見て、流れで冷蔵庫の上に乗っているものを見た朱音さんが、苦笑しながらそう言った。
「黒烏龍茶に濃縮リンゴ酢、粉末青汁に健康コーヒー、ペットボトルタイプの栄養ドリンクまで……どれだけドリンク好きなのよ、しかもドリンクの方向性も全然違うし」
「いや、俺の口に合ったやつを色々買ってたら、レパートリーがどんどん増えてったというか……全部美味しいんだぞ、朱音さんも飲んでみるか?」
「ええ、ぜひ頂くわ。でも、これじゃお腹は十分に満たせないわよ?
調理器具も揃ってないし、まとめて買いに行かないとダメねこれは」
え〜、この時間から出かけるの? 面倒くさいのう……やっぱ外食じゃダメか?
「『面倒くさいなぁ、外食じゃダメ?』みたいな顔してもダメなものはダメよ。定食以外は野菜が少ないから、栄養が偏るのよ……あ、もしかしてそれが分かってるからこその、このドリンク群?」
「うっ……」
朱音さんの言うことは図星だ。良くないのは分かってるのだが、楽だからつい、な……。
「まあいいわ。時間はだいぶ遅いけど、色々買いに行きましょうか」
「そ、そうしようか。さて、どこがいいかな?」
今なら、イ◯ンに行けば普通に間に合いそうだ。
……というより、ここらへんで生鮮食品を買うならそこしか場所は無く、後は飲食店とコンビニしかない。車を持たない無精者には、とても住みやすい町であるとも言えるが。
ここなら海外からの観光客もあまり来ないから、そこまで混雑していないのも俺としてはグッドだ。
「イ◯ンに行こうか、ここから少し下れば行けるぞ」
「そうね……うーん、徒歩15分くらいかしら? 道中でメニューを決めながら歩いたら、ちょうど良さそう」
「ついでに、朱音さんのも色々買っておいたらどうだ? お金ならあるぞ」
「さすがにそれは、自分で出すわ」
朱音さんと会話を交わしながら、2人で玄関口まで歩いていく。そうして靴に履きかえた後、一旦振り返ってヒナタに声をかけた。
「悪い、ヒナタ。留守番は頼んだぞ」
「きぃっ!」
「アキも、留守番お願いね」
「ぱぁ!」
「インターホンが鳴っても出なくていいからな。
……よし、それじゃあ行こうか、朱音さん」
「ええ」
ヒナタから『任せて』と力強い返事を貰ったので、早速食材と調理器具を買いに出かける。夜も深くなりつつあったが、街灯は多いので辺りは十分に明るい。
……それにしても。
「さて、何にしようかしら♪ 時間があまり無いから、サクッと作れるものがいいわねぇ……」
本当に楽しそうだよなぁ、朱音さん。見てるこっちも楽しくなってくるよ。
……ふと、少し前までの自分を思い返す。
前職に勤めていた頃の俺は、家に帰ったらシャワーだけ浴びて即就寝、起きたら最低限身だしなみを整えてすぐ出社の繰り返しだった。その傍らには誰もおらず、常に俺1人だった。
個人的に気楽ではあったし、昔から孤独には強い性質だったから、特に気にしたことも無かったのだが――。
「――ねえ、恩田さんは何が食べたい?」
「ん、そうだな……サクッと作れるメニューなら、オムライスとかいいんじゃないか?」
「あら、いいわね。それじゃ、卵とケチャップと……そういえば炊飯器も無かったわね。ご飯はパックご飯を使いましょうか。うまくできるかしら……?
それだけだと栄養が偏るから、サラダも切って作りましょう。お味噌汁は、仕方ないからインスタントで我慢しましょうか」
「サラダなら、カット野菜を買ってきたらいいんじゃないか?」
「あれは切り口から栄養素が出ちゃってるから、悪くはないけど良くもないわよ」
「へぇ、そうなんだ」
まあ、目に見えない栄養素が流れ出てるかどうかなんて、実のところ誰にも分からないと思うけどな……。
……でも、こんな会話をしながら歩くなんて、一体いつ振りのことだろうか。
正直に言うと、とても居心地が良い。家で1人だと、どうしても独り言が増えがちだったし、何か喋っても返事は無かった。孤独には慣れたと思っていたが、案外そうでもなかったのかもしれないな。
◇
「……ふぁぁ」
朝日が上る前に、自然と目が覚める。時計を見ると、午前6時ちょっと過ぎくらい……ああ、とても良い目覚めだ。
「……すぅ……すぅ……」
すぐ近くでは、俺が貸したジャージを身に纏った朱音さんが布団を被って静かに眠っている。そんな彼女を起こさないように、そっと立ち上がった。
冷蔵庫を開けて濃縮リンゴ酢を取り出し、用意したコップに少し入れ、ウォーターサーバーからお湯を出して混ぜる。浄水しても水道水を飲用するのはちょっと厳しいので、ウォーターサーバーは俺にとっては必需品だ。
――ゴクッ
「……ふぅ〜、うまい」
甘味と酸味が絶妙に混じり合い、喉を通って胃の腑へと入っていく。以前はリンゴ酢を飲まず嫌いしていたのだが、勇気を出して一口飲んでみたところ見事にハマってしまったのだ。もはや、これ無しでは1日が始まった気すらしない。
……そういえば、昨日は家に戻ってから本当にバタバタだった。ここではあえて詳しく触れないが……まあ、相当な攻防戦があったことだけは書いておこう。誰が見てくれるかは分からないけどな。
「ふぁ……あしゃ?」
「ぱぁぅ……」
と、朱音さんとアキも起きたようだ。朱音さんはやけに舌足らずな言葉を発しながら、布団を被ってモゾモゾとしている。そんな朱音さんの顔の横では、アキが起き上がって目を擦っていた。
「おっと、すまん。起こしてしまったか?」
「ううん、らいじょうぶぅ……」
――ジーー……
――スル、スル、スル……
「……うん?」
朱音さんの布団の中から、妙な音が聞こえてくる。それに、やけに布団が持ち上がっているような……!?
「〜〜〜〜っ!?!?」
「………」
ジャージ上下を脱いだ朱音さんが、布団の下からモゾモゾと這い出てきた。ジャージの下に大きめのシャツを着ており、ギリ隠れてはいるもののかなり際どい格好だ。
すぐに後ろを向き、朱音さんから目線を切る。朱音さん、まさかの朝に弱い人間だったのか……。
「……んぅ〜」
――シュル、シュル
後ろを向いているので何が起きているのかは分からないが、衣擦れの音が聞こえてくるので着替えているようだ。
朝ボケしてる状態でちゃんと着替えられるのか心配だが、振り向くわけにはいかない。
「……いいよぅ、おんだしゃん」
「………」
……着替えが終わったのだろうか? しかし、あれだけ寝ぼけていたので実はまだ着替え終わってないのかもしれない。
警戒しながらゆっくりと振り向くと、そこには昨日買ったばかりの服にきちんと身を包んだ朱音さんが立っていた。変に着崩れている様子も無い。
「……どぅ?」
朱音さんは、どちらかと言うとスポーティな服装が似合う感じの人だ。上の姉である藍梨さんはジーパンにシャツとアメリカンなスタイルを好んでいたが、朱音さんもそのタイプの服装が似合いそうなイメージの人だ。
……しかし、今の朱音さんは膝丈くらいのスカートを纏い、トップスはフリル多めのブラウスを身に着けている。海外のお嬢様が外行きで着るような、動きやすさと清楚さを併せ持った服装だ。
「……綺麗だ」
「……えっ?」
つい、素直な感想が漏れてしまった。それを聞いたのか、ぼんやりしていた朱音さんの目の焦点が合い始め……右へ左へと、急に視線が泳ぎ始めた。
「あ、いや、何でもな……くはないな。嘘は言ってないぞ」
「……♪」
端的に言えば、めちゃくちゃ似合っている。そうか、朱音さんはこういう格好も似合うのか……。
「さて、目はもう覚めたか?」
「ええ、完璧に目覚めたわ♪」
朱音さんの目線は逸らされたままだが、その声色はとても機嫌良さげだ。
「きぃ!」
「ぱぁ!」
ヒナタとアキも、どうやら目が覚めたようだ。
「よし、ヒナタもアキも起きてるな。さて、朝ご飯を食べて身だしなみを整えたら、ダンジョンに出発だ」
「ええ!」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
ササッと朝ご飯を食べて準備し、朱音さんが身だしなみを整えるのを待つ。
……さて、ダンジョン探索も区切りは間近。今日か明日の探索で、第10層に到達できるかもしれない。
ダンジョン第10層には、ボスモンスターがいるとの風の噂だが……果たして、今の俺たちに勝てるだろうか?
「ふふん、今日の目標は第何層かしら?」
「もちろん、キリ良く第10層到達を目指すぞ。3人とも、準備はいいか?」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
『よし、頑張るぞ!』とヒナタから力強い言葉が飛ぶ。どうやら気合は十分のようだ。この調子なら、今日中には第10層に到達できるかも……なんてな。
まあ、無理せず油断せずいこう。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。