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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第2章:朱き飃風は母を想いて舞い踊る
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2−5:第一の壁、ゴブリン現る


「……階段だ」

「……階段ね」


 十字路を右に進み、そろそろビューマッピングを使うかな、と考えたくらいのタイミングで。

 なんと、あっさりと第3層への下り階段を見つけた。朱音さんが3択を一発で当てたのだ。女性の勘ってやつはすごいな……。


「とりあえず、"ビューマッピング"っと」


 脳内地図を上り階段から下り階段まで繋げるため、ビューマッピングを行使する。これで残り使用回数は4回……いや、魔力が回復してきてるからギリギリ5回は使えるかな? 【闇魔法】の試運転のせいで魔力量は半分を切っているが、帰り道のことを考えても第3層の様子見くらいなら問題は無い。

 ……ただ、第3層に行くにあたって最大の問題は別にある。


「朱音さん、どうする? 第3層はゴブリンが出てくるけど……」


 そう、ゴブリン。ファンタジーではおなじみのモンスターである。それは現代ダンジョンでも変わらず、小学校中学年くらいの子どもと同等の背丈をした、醜悪な顔付きのモンスターなんだとか。

 ……そしてゴブリンは、探索者として大成するために越えなければならない第一の壁、とされるモンスターでもある。


「人型のモンスターを倒せるかどうか、ってことね?」

「そうだ。ついでに言えば、ゴブリンは必ず3体以上がセットで出てくるらしい」

「うわぁ、厄介ね……」


 単体の戦闘力で言えば、ホーンラビットの方が僅かに高いらしい。しかし、ホーンラビットは3体以上同時に襲ってくることがないのに対し、ゴブリンは必ず3体以上の集団で襲ってくるとのこと。知能はあまり高くないが、時間差攻撃くらいの連携も仕掛けてくるのだとか。

 そして、最大の障壁はゴブリンが人型モンスターであることだ。人型の存在と戦うことへの忌避感から、攻撃をためらってしまう人も少なくないらしい。


「………」


 やってみなければ分からないが、俺は魔法で戦えるのでまだ忌避感にとらわれる可能性は低い。しかし、朱音さんは戦士タイプ---ゴブリンを倒すためには、槍で直接突き刺さなければならない。


「……そうね、覚悟はできているつもりよ」

「そうか。ま、ゴブリンが出てきたらまずは俺にやらせてくれるか? 試したいこともあるしな」

「分かったわ」


 朱音さんと頷き合い、階段をゆっくり降りていく。さて、第3層はどんなところなんだろうな?



 ◇



「……第3層もあんまり変わらないな」


 階段を降りた俺達の、目の前に広がった光景は……やはりと言うべきか、第1層や第2層と変わらぬ洞窟だった。多分、キリの良いところまでは洞窟タイプのダンジョンが続くのだろう。

 ただし、風景は変わらないが雰囲気は大きく変わっていた。


---キヒヒッ

---ケハッケハッ


 人のものだとは到底思えない、下品で汚らしい嗤い声が聞こえる。どうやらゴブリンが近くにいるようだ。あの左曲がりカドの向こうだろうか。


「「……(コクッ)」」


 カドに近付き、朱音さんと2人でそっと向こう側を覗く。

 緑色の肌に粗末な腰蓑らしき襤褸を巻き、小さな棍棒を持ったモンスターが3体集まっていた。あれがゴブリンか……。


「キヒッ!」

「ケヒッケヒッ!」

「ケハハハハ!」


 何が面白いのか、醜悪な顔付きを更に歪ませて嗤っている。

 ……なんか、思ったより大丈夫そうだ。むしろ、あの顔で嗤う姿を見ていると()()()()()()()()()()()()()()()()


「恩田さん……?」


 ふと隣の朱音さんを見ると、少し不安そうな顔でこちらを見ていた。もしかして、顔に出てたか?


「思ったよりは大丈夫そうだ。先に俺からやるけど、いいか?」

「ええ」


 意識して優しい声を出しながら、魔法のイメージを固めていく。昨日からずっとセットしていたのに、ここまで全く使っていなかったあの魔法。ようやく出番が来たようだな。

 壁の陰に半身を隠したまま、右手をゴブリンに向けて伸ばす。そこでようやく、ゴブリンが俺達の存在に気付いたようだが……残念ながら、もう遅い。


「"サンダーボルト"」


 無数に枝分かれする雷撃を右手から飛ばす。速度・威力・攻撃範囲に優れるが、フレンドリーファイアの危険性が高く扱いが難しいとされる属性---雷魔法を初めて使った。前に敵しかいないこの状況なら、遠慮なく放てる。


---バリバリバリッ!

「「「ゲブッ!?」」」


 3体全てのゴブリンに大量の雷撃が着弾し、全身を焼き焦がす。それでダメージが許容量を上回ったようで、ゴブリンが3体とも灰のようになって散っていった。

 後には、少し黒みがかった魔石が3つと装飾珠が1つ落ちている。周囲に敵がいないことを確認しつつ、近付いてドロップ品を拾い上げた。


「……ちょっと重いか?」


 ホーンラビットやブラックバットのそれと比べると、心なしか魔石が重い。売値もゴブリンの魔石は120円で、ホーンラビットなんかに比べると少しだけ高い。

 声で居場所が分かりやすいし、個々はそんなに強くないし、一度に出てくる数も多いしでゴブリンは収入源として優良なのかもしれないな。複数体をまとめて攻撃するすべがあれば、なおさらだろう。

 ちなみに、装飾珠はランク1だった。ゴブリンもランク2の珠を落とすらしいが、今回は出なかったようだ。


---ギャッ、ギャッ


 ゴブリンの声が遠くに聞こえたので、すぐに元の場所へ戻って身を隠す。朱音さんは、緊張した面持ちでそのまま待っていた。


「はい、朱音さん」

「え、私? それ、恩田さんが取ったものよ?」

「まあ、俺はランク2の装飾品を持ってるからさ。それは朱音さんが使ってよ」

「……分かったわ」


 腕輪を見せながら装飾珠を渡すと、朱音さんが早速念を送り始めたらしい。装飾珠から変化した光が足に集まり……どうやら、金属製のグリーブに変化したようだ。

 こうなると、今は守られていない部分を守る装備品---具体的には、アームカバーやヘルムあたりも装飾品に入るんだろう。そこまでいけば、朱音さんもいよいよ重装歩兵らしい出で立ちになりそうだ。

 ……そういえば、装飾品の同時装備数の上限っていくつなんだろうか? 朱音さんなら、シールド、グリーブ、アームカバー、ヘルムで4枠使うが……まさか、それで一杯ってことがありえるのか? 仮にそうだとして、装備枠を増やすアイテムなんかもあるのだろうか?

 さすがに初心者の枠組みを超える内容なのか、パンフレットにそういった情報は書いてなかった。結構万能みがあったんだけどな、このパンフレット。なにを上から目線に、と思うかもしれないが、よくできた冊子だと個人的には思っている。


「「「ギャッ! ギャッ!」」」

「……来たな」


 周囲に気を配りつつ考えを纏めていると、ゴブリンの声が少しずつ近付いてくる……が、曲がり角までは来ずにその手前で止まった。

 そっと壁の影から覗くと、やはりと言うべきかゴブリン3体がいる。しきりに床を指差しながら、俺達に気付いた様子もなく何かを口走っていた。

 ……あの場所、さっき雷撃で倒したゴブリンが立っていた場所だ。雷撃音を聞いて駆け付けてきたのかもしれないな、仲間意識でもあるのだろうか?


「……次は、私が行きます」


 若干震える声で、しかしハッキリと朱音さんが宣言する。


「……最後に確認だが、本当に大丈夫なんだな?」

「ええ、でも、もしかしたらピンチに陥るかも。だから……」


 俺の顔と、朱音さんの顔との距離が一気に近付く。フワッと、女性特有の優しい香りが鼻をくすぐった。

 何が何だか分からず固まっていると、朱音さんが悪戯っぽい笑みをこちらに向けてきた……が、よく見ると頬の赤さを隠しきれていない。


「恩田さん、その時は助けてくださいね?」


 そう言うやいなや、勢いよく朱音さんが飛び出していく。慌てて俺も影から飛び出すと、既に朱音さんはゴブリンに肉薄し、大きな槍を横に振りかぶっていた。ゴブリン達は全く反応できていない。


「「「ギゲッ!?」」」


 そのまま力一杯振り抜かれた槍が、刃の無い側部でゴブリン達をピンポン玉のように弾き飛ばす。きっちり頭の高さにコントロールされた一撃は、そのままゴブリン3体を光の粒子へと変え、魔石3つに変化させた。

 刺すのではなく、薙ぎ払う。限りなく力技ではあるが、それもまた槍の一つの使い方なのだろう。


「案外私も大丈夫みたいです。うまくいきましたね」


 ニコリと微笑みながら、朱音さんがこちらへ振り向いた---その瞬間。


「"ライトバレット"!」

---ブゥンッ!

「キィッ!?」


 朱音さんの背後に忍び寄ってきていたブラックバットを、とっさにライトバレットで撃ち抜く。雷速より速い光速の弾丸が正確にブラックバットの胴体を貫き、ブラックバットは魔石に姿を変えた。


「え……?」


 後ろを見た朱音さん、魔石が落ちているのに気付いたようだ。唖然とした様子でそれを眺めている。


「ブラックバットだよ。まあ、さっき助けてくれたし、これでおあいこだな」


 勝って兜の緒を締めよ、ってな。まあ、ケガが無くて良かったよ。


「あ、ありがとうございます……」


 朱音さんの頬の赤みが更に増した……ような気がする。ま、多分気のせいだろう。


「さて、戦利品は……っと」


 床に散らばったドロップアイテムを拾い集めるが、残念ながら今回は魔石のみだったようだ。


「"ビューマッピング"っと……さて、朱音さんここからどうする? もう少し第3層を回るか、今日はもう引き上げるか」


 ビューマッピングを使いつつ、朱音さんに問い掛ける。【資格マスター】の効果と、おそらくは装備に付いているのであろう魔力自動回復効果のお陰で、魔力量には余裕があるが……。


「そ、そうね……あと数回戦ったら帰りましょうか。次いつ来れるか分からないし、今のうちに一気に慣らしておきたいわね」

「了解、待ち伏せでいくか?」

「先に進む必要もないし、そうしましょうか」


 そこからは背後を警戒しつつ、カドに隠れてモンスターを待ち伏せることにした。


 ……まあ、それから特筆すべきことは何も無く。30分ほどでゴブリン6体、ブラックバット3体、ホーンラビット2体を倒して、結局魔石しか出ず帰還した。帰る途中にもブラックバット2体、ホーンラビット2体、ブルースライム1体を倒したが、やはり魔石しか出なかった。

 装備珠とか結構ポンポン出ていた印象だったが、意外とドロップ率は低いらしい。ビギナーズラックというやつだったのか、あるいはメモリアルドロップ2回で完全に運を使い果たしたかもしれないな……。


 ここまで三日毎の投稿を続けてきましたが、ストックが枯渇してきたため投稿頻度を少し落とします。


 毎週水曜日・土曜日の午前8時の投稿としようと考えていますので、よろしくお願いします。

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魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
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