3−78:マンガとかアニメってさ、物事の本質を突いた秀逸なセリフがたまに出てくるよね
「クソが、もう許さん! テメェをボコボコにして、お前の目の前でその女を――」
「――ぱぁ!」
――パシュウゥゥ……
「「……は?」」
ヒナタの背に乗ったアキが、上空から黄色の霧をばら撒いた。不意打ちを食らった男2人は、その霧をまともに浴びてしまう。
……うん、さすがはアキだな。俺たちには全く届かせることなく、この不届き者共にだけ霧をぶっかけてくれた。ヒナタも、無音飛行で接近を気付かせなかったのは素晴らしい仕事振りだった。
加えて、2人とも実にナイスタイミングだ。あともう少しで、黒鎧男の口からCERO:Zな言葉が出てくるところだったからな。
これがもし小説内の出来事だったとして、その小説が一般小説として投稿されていたなら……もしかすると、この一言であっち送りにされてたかもしれない。CERO:Cで踏みとどまれて本当によかったよ。
「な、なん……だ……」
「か、からだ、が……うご、か……」
――ドサッ
――ドサッ
糸が切れたマリオネットのように、男2人が仲良く折り重なってその場に倒れ込む。麻痺の状態異常は効果てきめん、コイツらにはよく効いたようだ。
そして、浴びせたのが麻痺の霧だったのは本当にグッドだ。毒の霧やファイアブレスなんかを浴びせてしまったら、ヒナタとアキがこいつらを直接害したことになってしまうからな。さすがにそれは、外聞がよろしくない。
ヒナタとアキを俺たちの正式な仲間として、世間一般に認めさせたい野望があるのだ、俺は。今でこそ、迷宮探索開発補助動物という逃げ道でもってヒナタには立場が与えられているが……そうではなく、ヒナタを正式な"探索者"として認めさせたいのだ。人に仇なす存在ではなく、人と共にある存在であると……そう堂々と主張したいのだ。
それが、こんなことでご破算にならなくて本当に良かったよ。
「ぐっ……モン、スター、だ……と……?」
「なん……で、にん……げんの、みかた……を……?」
急に体が言うことを聞かなくなり、大混乱している様子の男共に近付く。そうして、黒鎧男の懐を確認してみれば……うん、やっぱりあったよ。
「へえ。ペン型ビデオカメラなんぞ回して、一体何をしようとしてたんだ?」
「ぐ……」
腰ベルトという不自然な位置にペンが引っ掛かってたから、すぐに分かったよ。ホント、なんでそんな所にビデオなんか付けてたんだろうね?
……まあ、なんとなく意図は分かってるけどさ。
「くく……この、えいぞう、は……ら、ライブ、はいし、ん……され、てる。ざ、ざんね、ん……だっ、たな……おま、えら、のあく……ぎょう、が、ぜんぶ……うつっ、て……」
おいおい、この期に及んで何を言ってるんだ、この白鎧男は……。
「はあ、無理だろそれ。ダンジョンゲートが電波を通さないことなんか、分かってるっての。
それに、本当にライブ配信できたら視聴回数なんて簡単に伸びるぞ。なんせ、世界初の偉業達成になるわけだからな」
「ぐ……」
海外も含めて、ダンジョン内のライブ配信に成功した事例は今まで聞いたことが無い。本当にできているのなら、今頃大きなニュースになっているはずだ。
……そして、目立ちたがりなコイツらのことだ。そんなことができるのなら、とっくに自慢して回ってることだろう。それが無い時点で、まあお察しというわけだ。
そも、俺たちはコイツらを煽りこそしたが、攻撃らしい攻撃は1度も加えていない。映っているのはコイツらの傷害未遂と暴言が大半なのだが……なぜ、そんな強気発言ができるんだろうな?
「………」
さて、このカメラはどうしようか。戦いで破損したことにして、中のデータごと闇に葬ってもいいが……。
「……意味無いな、やめとこう」
むしろ、コイツらの悪行を証明する証拠になるんじゃないか? これは触らずに、そのままにしておこう。
……さて、と。次に考えるべきは、コイツら自身の処遇だな。
「ぐ……ぐ……」
「く……そ……」
コイツらを無傷で戦闘不能に追い込めたのは、俺たちにとってある意味で不幸中の幸いだ。
とあるマンガのキャラも言っていたことだが、1度相手を自らの意思で傷付けたり、あまつさえその命を奪ってしまったら……そういう、人の道を外れた選択肢が俺の探索者生活の中に入り込んできそうで怖い。人型モンスターであるゴブリンを既に躊躇なく倒せるあたり、ちょっとしたきっかけで俺のタガが外れてしまうかもしれないのだ。
ゆえに、コイツらは法に則って正式に裁かれるべきだろう。俺自らが手を汚してしまっては、もはや後戻りできなくなってしまう。
「ねえ」
「……ん、なんだい?」
コイツらの扱いを考えていると、後ろから朱音さんが声を掛けてきた。名前を呼ばなかったのは、コイツらに名前を知られたくないからだろう。
……それはともかく、朱音さんになにか良い案があるのだろうか?
「とりあえず、この人たちを連れて外に出ましょう。その後のことは、お父様に連絡してみたらうまくやってくれるかもしれないわ」
「……お父様?」
そういえば、朱音さんのお父さんってどんな仕事をしてる人なんだろうか? 朱音さんが結構な良家の人だってことは、なんとなく分かってはいるが……そうなると、やはり信頼ある人にしか務まらない仕事なのだろうか?
今まで聞くタイミングが無かったし、そもそも気にしたことすら無かったが……わざわざ朱音さんが言及するということは、相当頼りになる人なんだろう。
「ええ、とても頼りになるお父様よ」
「……まあ、それならお任せしようかな」
俺の心の声が聞こえたのか、朱音さんが自信をもってそう言い切ってくれた。それなら、任せてみようかな。
もっとも、そのためにはコイツらを地上まで引っ立てていく必要があるが……まあいいや、ロープとかも無いし適当にやってしまおう。
「……"マジック・スティール・ツイン"」
芋虫のように身動ぎすることしかできない男2人の頭に、極太の青い線を繋ぐ。まずは反撃の芽を完全に摘んでしまおうか。
「"ブート・マジックスティール"」
――ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「がっ……!?」
「ぎっ……!?」
マジック・スティールを起動させ、男2人の魔力を一気に奪い取る。青い線はそのまま繋ぎっ放しにして、自然回復分の魔力も全て奪い取るつもりだ。
これで万が一、隠し玉のスキルをコイツらが持っていたとしても……魔力が無いのでほとんど使えなくなった。魔力以外のリソースを消費して使うスキルがあればその限りではないが、そんなスキルをコイツらが持っているとは到底思えない。
「ぐ……ま、りょく……が……くそ……」
白鎧男が悔しそうに呻く。やはり、俺たちの隙を突いて何か仕掛けようとしていたらしい。残念だったな。
……しかし、妙だな。コイツらから魔力を奪い取ったのだが、変換効率が異常に悪い。奪った魔力の大体15%くらいしか、自分の魔力に変換できなかった。
魔力収支的にはギリ黒字なので、なんら問題はないのだが……朱音さんの時との違いはなんだろう?
「くそ……オッサ……ン……の、クセ……に……」
「くた……ばれ、クソ、が……」
おっと、よそ事を考えている暇は無いな。魔力を奪ったら、次はコイツらを運搬する手筈を整えなければ。
……その前に、コイツらの反抗の意志を折っておくか。正直、耳障りだ。
「オッサンだからと、俺を舐めてかかったのは失敗だったな。周囲の安全確認はダンジョン探索における基本中の基本だろう、相手をバカにするあまりそんなことも忘れたのか?
……ああ、そういえば話は変わるがな?」
「「……?」」
ニコリ、と笑顔を浮かべる。
「俺の親父、九州は福岡の生まれなんだよ。男は舐められたらおしまいとばかりに、ちゃんと堅気なのにとても堅気とは思えないような見た目と性格をしてる人なんだが……どうやら俺も、血は争えんらしいな。"ルビーレーザー・ツイン"」
――ビィィィィ!!
男2人の頭頂を掠めるように、ルビーレーザーを2本放つ。精密にコントロールされたレーザーは、男2人の銀色の長髪をバッサリと焼き切り……頭頂部の髪だけが、極端に短い状態となった。
「「ヒッ……!?」」
とても涼しげな見た目になった男2人が、仲良く小さな悲鳴をあげる。そんなに怖かったのかねぇ、俺のレーザーがさ。
「悪いが、明確な敵に容赦するつもりは微塵も無い。ドロップアイテムをネコババしたり、俺に攻撃しようとしたくらいならともかく……俺の大切な仲間に手を出そうとしておいて、タダで済むと思うなよ?」
「「うっ……」」
「……♪」
笑顔を浮かべながらの睨みつけに、どれくらいの効果があるかは分からないがな。せめて、某伝説鳥 (初代限定)がゲーム内で使う技くらいには、相手に効果があればいいんだが……。
「んじゃ、コイツらを連れて地上に戻るか。アキ、その2人に状態異常の霧をたっぷりまぶしてやってくれるか?」
「ぱぁ!」
――パシュウゥゥ……
心得たとばかりに、アキが黄・青・白色の霧を男2人に向けて吹きかける。麻痺と睡眠は知っているが、あとの白色はなんだろうか……?
「ぐげっ………」
「ごぅっ………」
男2人は霧を浴びて昏倒し、ほとんど動かなくなった。胸が微かに上下しているので、もちろん息はしているが……もはや、それ以外に何もすることはできないだろう。
「"プロテクション・ツイン"と。よし、後は任せな」
――ガッ、ガッ、ガッ……
――ガリガリガリ……
仰向けに倒れている男2人の足首を片手ずつ使って引っ掴み、引きずりながら階段を上っていく。パワーゲインのお陰でだいぶ軽く感じるな。
男2人の体が階段ステップに引っ掛かって跳ね回り、地面に派手に打ち付けられていく。そこはプロテクションでケガしないよう守っているが、なぜか髪の毛だけは対象外のようで、髪が地面と擦れてブチブチと引き千切られていった……。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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