3−63:堅牢なる大亀の弱点、それは……
「グォォ……」
さて、これからヘビータートルの弱点を探っていくわけだが……ここまで既に6連戦をこなし、加えてグリズリーベアも倒している。言うほど余力が残っていない状況で、むやみやたらに攻撃を連発するのはよろしくないだろう。
あれだけ守りに優れた相手だ、俺の魔力が切れれば泥試合に突入しかねない。魔力回復まで睨み合いを続けるとか、そんな無駄なことは絶対にやりたくない。
「きぃっ!」
いつの間にか定位置へと戻ってきたヒナタは、幸いまだ元気が残っている。単純にヒナタが強いのもあるが、スキルで消耗するのは主に魔力のほうなので、疲労が溜まりにくいのが理由として大きいだろう。それでも、グリズリーベアとの戦いでは少なからず消耗を強いられただろうし、あまり無理はさせられない。
「ふぅ……」
一方で、朱音さんの状態は少し厳しい。ダンジョン探索回数が俺より少ないので、探索者としての能力が俺より伸びてない部分があり……なにより、彼女の武技が体力を消耗して放つものであることが、理由としてかなり大きい。
額に汗を浮かべて大きな溜め息をついており、こちらはヒナタ以上に無理をさせられない状況だ。
「グォ……」
ただ、幸運なことにヘビータートルは俊敏に動けるタイプのモンスターじゃない。戦いのペースを落としたとしても、直ちに危険な状況へと陥る可能性は低い。
「グォ!」
――ブシュゥゥゥゥ!
まあ、もちろん。
「警戒は必要だけどな、盾展開!」
――ブォン
――バシャァッ! ジジジジジジ……
防壁を斜めに繰り出し、ウォーターブレスを左へ文字通り受け流す。微々たるものとはいえ、地味に魔力が削られていくが……これで全員のダメージを0にできるなら、必要経費と考えて受け入れるべきだろう。
俺は装備効果でダメージを受けないとはいえ、朱音さんとヒナタがウォーターブレスを無傷でやり過ごせるわけではないのだから。
「……さて」
ブレスが収まると同時に防壁を消し、ヘビータートルの挙動を注視しつつ攻略法を考える。
まず思い付いたのが、"固い相手には打撃攻撃が効く"のセオリーだ。実際、強固な外殻を持つラッシュビートルには打撃攻撃が有効だったので、ヘビータートルにもある程度は効くだろう。
……だが、あの時は朱音さんの方も、少なくないダメージを受けていた。威力に威力が上乗せされた結果、常軌を逸した反動が返ってきてしまった。
そして、ヘビータートルの固さはおそらくラッシュビートルを超えている。普通は弱点であってもおかしくない顔面部分でさえも朱音さんの飛刃を弾いたのだから、その防御力の高さは推して知るべきだろう。
そんな相手に効くくらい強力な打撃攻撃を放てば、とんでもない反動が返ってくるのは想像に難くない。重い物を高速でぶつけるような、直接的でない打撃攻撃を実行する方法があれば話は別なのだが……今は、打撃以外の別の方法を探すべきだろう。
「属性……」
次に思い付くのが属性攻撃だが、ヘビータートルの弱点属性とはなんだろうか?
まず、水属性はほぼあり得ない。ウォーターブレスを吐く相手に水が効くなら、リザードマンにだって火属性が効くはずだからだ。稀に火を吐くのに火が普通に効いてしまうモンスターや、風属性のはずなのに風属性が弱点だというモンスターがゲームにいたりするが……まあ、普通に考えればあり得ない話だろう。
そして、さっきのフレアブレスの効きが悪いことから、火属性も効かないことは既に判明している。グリズリーベアをほぼ一撃で落とした攻撃を叩き込んだのに、かすり傷しか与えられなかったのだから……。
あとは、どの属性が残ってるんだ? 風、地、雷、光、闇……氷属性もあったな。
付与魔法を使えば全て対応可能だが、1つずつ確認していたらヘビータートルを倒す前に俺の魔力が尽きてしまう。何か、良い手掛かりは無いだろうか?
「……そういえば、なぜか集中してヘビータートルに狙われてるわね、恩田さん。私なんて、眼中に無い感じで無視されてたのに……」
朱音さんの呟きに、確かにと思った。やけに俺のことばかり気にしてたよな、ヘビータートルってさ。もしかしなくても、本能的な危機察知能力でヤバい相手がなんとなく分かる、とか?
……ということは、だ。【資格マスター】か手持ちスキルの中に、ヘビータートルに大打撃を与えられるものが含まれてるかもしれないってことか。間接的なもの、それこそ全属性を扱うことが可能な付与魔法を警戒している可能性もあるが……一番の可能性は、やはり直接的な攻撃を伴うスキルだろう。
そう考えると、【資格マスター】の効果で発動できる雷属性か光属性、あるいはスキルで発動できる闇属性のどれかがヘビータートルの弱点である可能性は高い。
そして、光属性が弱点ならヒナタのことも警戒するはずだ。しかし、実際にヘビータートルが警戒したのは俺だけ。この時点で、雷か闇の2択に絞れる。
……そして、どちらがよりヘビータートルの弱点っぽいか、と言われれば。
「"ライトニング"!」
「!!」
――シュッ!
――ゴドォォン!
雷魔法を唱えた瞬間、ヘビータートルが甲羅の中に手足頭尻尾の全てを引っこめた。残った甲羅が地面に落ち、激しい衝突音と共に辺り一帯が揺れる。
――ゴロゴロ……ピカッ!
――バチィィィン!
直後に放たれた落雷が甲羅に直撃し、僅かな焦げ跡を残して霧散した。さすがに甲羅の守りは固いようだが……これで、ほぼ確定したな。
ヘビータートルの弱点は、雷属性だ。鈍い大亀があれほど俊敏な反応を見せた以上、自ら暴露したも同然だ。
「……グォ」
ヘビータートルが甲羅から頭だけを出し、辺りの様子を伺っている。己の生を脅かす可能性がある攻撃に対して、警戒を示す気持ちは十分に分かるが……少しばかり露骨過ぎたな。
「朱音さん、ヒナタ。もう分かったな?」
「ええ」
「きぃっ!」
あえて口には出さなくとも、2人ともしっかりと察してくれた。特に朱音さんは疲れが隠しきれないが、打倒ヘビータートルの光明が見えたことで気合が入っている。
ヘビータートルの弱点は既に明白、ならば俺たちがやるべきことも明白だ。
「それじゃ、付与魔法いくぞ。暴発しないようしっかり抑え込んでな?
……"エンチャント・ボルト・トリオ"」
朱音さんは武器に、俺とヒナタは本人に対象を指定し、雷属性を付与する魔法を唱える。
……体の周囲を、パチパチと弾けるようなエネルギーが伝っていく。雷魔法を常日頃から扱っているゆえ、制御はもはや慣れたものだ。
「!!」
ヘビータートルが慌てて頭を引っ込めるが、甲羅に引きこもるだけでは守りきれないだろうに。
狙いが粗雑な俺の雷魔法はともかくとして、朱音さんやヒナタの攻撃は精密なコントロールが可能なのだから。
「先手は私よ、"飛突・雷尖"!」
――ビリビリビリ!
――バジィッ!
「グォォォォォ!?」
一番槍として、まずは朱音さんの武技が放たれた。
電撃を纏った飛突が複数飛び、そのうちの1発が左手の隙間から甲羅の中へと飛び込んでいく。高圧電流に貫かれる痛みに耐え切れず、ヘビータートルが初めて悲鳴をあげた。
「きぃっ!」
――バチバチバチッ!
――ヒュォォォ……
続けて、ヒナタがその身に強い電撃を纏い始めた。自傷しやしないかと心配になったが、よく見ると緑色の光も一緒に纏っているので、風をうまく使って自分が電撃を浴びないよう調整しているらしい。
「きぃぃぃぃっっ!」
――バギッ!
――バヂバヂバヂッ!
「グァォォォォ!?」
ヒナタは右手の隙間を正確に狙い、突進攻撃を当てる。防御の薄い場所から甲羅内のヘビータートルへと電撃が伝わり、少なくないダメージを与えたようだ。
――ゴォォォォォォ!!
――ゴロン!
「グォッ!?」
同時に竜巻が巻き起こり、甲羅ごとヘビータートルがひっくり返ってしまった。雷エネルギーを絶縁し、重量級のヘビータートルを丸ごとひっくり返してしまうほど強力な風属性エネルギー……やはり、相当なものだな。
さあ、最後は俺か。ここでキッチリ決めなければな。
「いくぞ……」
ヒナタがヘビータートルから離れたのをしっかりと確認してから、トドメとなる魔法を唱える。
「"ライトニング・トールハンマー"」
雷魔法に雷エネルギーを上乗せしたうえで、今の最大魔力の15%ほどを注ぎ込まなければ放てない、現時点で最強の攻撃魔法……これが、今の俺が放てる最大威力の雷属性魔法だ。
――ドゴォォォォォン!!!
「グォォォォォォォ!?!?」
雷鳴も予兆もなにも無く、虚空から極太の雷が現れてヘビータートルを襲う。
……甲羅で身を守っても、神の槌の名を冠した雷魔法は防ぎ切れなかったらしい。守りを貫通した電流がヘビータートルの体内を駆け巡り、悲痛な叫び声が雷撃音に混じって響き渡った。
「……グォ……ォォ……」
その悲鳴も、雷撃が続くにつれて徐々に小さくなっていく。
……やがてヘビータートルの声が聴こえなくなり、少ししてから雷も止まる。黒くてデカい、元はヘビータートルであったものが目の前に鎮座していた。
辺りを、耳が痛いほどの静寂が包み込む。
――最終陣、クリア
無機質なシステムアナウンスが脳内に響く。この連戦で最後の相手となったグリズリーベアとヘビータートルの成れの果てが、白い粒子となって消えていった。
「……終わった、の?」
「きぃ……?」
――これにて、全てのモンスター討伐が完了しました
――試練達成です
朱音さんとヒナタの疑問に答えるように、システムアナウンスが戦いの終わりを告げる。
……何度か危ない場面もあったが、どうにか勝てた。全員が無傷で、無事に切り抜けられたようだ。
――試練達成に伴い、久我朱音に選択肢を与えます
「「……選択肢?」」
「きぃ?」
システムアナウンスからの急な提案に、3人で顔を見合わせる。選択肢が与えられるなど、そんなことは今まで無かったのだが……どういう風の吹き回しだろうか?
そんなことを考えていると、システムアナウンスからの問い掛けが降ってくる。
――試練にて倒した全てのモンスターのドロップ品か、プラチナ宝箱1つか
――どちらか一方をお選びください
――なお、プラチナ宝箱に罠はありません
非常に回答に困る2択が、システムアナウンスから突き付けられた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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