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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く
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3−62:現出せし煉獄の業火、それでも真紅竜には敵わない……


「……グォ」


 全速力で駆け抜ける俺に対し、真っ先に反応したのは意外にもヘビータートルだった。


 その大きな口から深く息を吸い込み、俺を迎撃するブレスを吐くべく力を溜めているようだ。朱音さんが必死に飛刃を飛ばしているが、全て皮膚で弾かれているうえにヘビータートルは気にも留めていない。

 なぜ、ヘビータートルがこんなにも俺を目の敵にしているのかは不明だが……近くに居たはずの朱音さんやヒナタではなく、明確に俺を狙ってブレスを撃ってきたし、今も撃とうとしている。そこには何か、ヘビータートルだけにしか分からない理由があるのかもしれないな。


「……グォ!」

――ブシュゥゥゥゥ!!


 ヘビータートルの口から、激しい水流が吐き出される。まともに見るのは初めてだが、これがウォーターブレスか。想像以上の勢いだな。

 俺に当たってもダメージが無いことは、さっきの攻防で証明されているのだが……同時に、当たると強く吹っ飛ばされてしまうこともまた証明済みだ。ブレス攻撃を回避した方が良いのは間違いないのだが、回避動作をとるとどうしても速度を落とさざるを得なくなる。

 さて、どうしたものか……あ、そうだ。


「盾、展開」


 受け止めるのがダメなら、受け流してしまえばいいのでは?

 至極当然の結論を出し、新幹線車両の先頭部のような流線型をイメージして防壁を出そうと試みる。


――ブォン


 ……その試みは、どうやらうまくいったようだ。さすがにあれほど綺麗な形ではないが、見るからに空気抵抗が少なそうな形の防壁が目の前に現れた。どうやら、この盾の防壁は自由自在に形を変えることができるらしい。

 しかも、普通にただ壁を出すのとほとんど変わらない魔力消費量で済むようだ。現に、これだけ複雑な形状の防壁を出しても、1秒あたりの魔力消費量は体感で5%も増えていない。


――ブシャアァァァァ!

――バヂヂヂヂヂヂ!

――ヂヂヂヂヂヂ……


 流線型の防壁にブレスが当たり、防壁に沿って俺の後ろへ水流が誘導される。ウォーターブレスをまともに食らった時は凄まじい圧力が襲ってきていたが、流線型の防壁を用いることでその圧力を大きく和らげることができた。

 ……これ、物理攻撃を防ぐ時にも応用できそうだな。いくらダメージを受けないとはいえ毎回吹っ飛ばされては敵わないので、今後はまともに受け止めようとせずに可能な限り受け流すようにしよう。


「……グォ!?」


 これまで感情らしい感情を表に出さなかったヘビータートルが、ここにきて驚いたような表情と挙動を見せた。そうか、お前も感情を表すことができたんだな。

 本能だけで生きるタイプの、ラッシュビートルみたいなモンスターかと思っていたが……案外、ヘビータートルも知能は高いのかもしれないな。


「ガァァァァァァァッッ!!」

――ドゴォォォン!!

「きぃっ!」


 驚くヘビータートルを尻目に、ヒナタとグリズリーベアが戦う場所へ近付いていく。地面スレスレを飛び回るヒナタを狙い、グリズリーベアが両腕を地面に叩きつけて攻撃する……が、ヒナタはそれを余裕をもってかわした。

 攻撃力も耐久力もグリズリーベアの方が圧倒的に上だが、スピード面はヒナタの方が明らかに上回っている。その優位性を存分に活かし、ヒナタは戦いを優位に進めているようだ。


「グァウ!?」


 そして、頭脳戦においてもヒナタの方が格段に優れているのは間違いない。現に、低空を飛ぶヒナタに自慢の剛腕を振り下ろしたはいいものの、勢い余って地面に腕が刺さり、抜けなくなってしまっているのだから。

 ヒナタがあえて低く飛び回っていたのは、グリズリーベアの叩きつけ攻撃を誘発させ地面に腕を突っ込ませる狙いがあったのだろう。地面に突き刺さった両腕を引き抜こうとグリズリーベアが力を込めているが、よほど深く刺さってしまったのかなかなか外れず、大きな隙を晒してしまっている。


 そしてもちろん、ヒナタがその隙を逃すはずがない。


「きぃぃっ!」

――ゴォォォォ!

「グァウ!?」


 ヒナタは一気に高度を上げると、ガラ空きの顔面に向けてファイアブレスを吐きつける。今度は炎を振り払うことができず、まともに受けてグリズリーベアがのけ反った。

 その反動でグリズリーベアの両腕が地面から抜けたが、力任せに引き抜く形になったせいか腕が地面との摩擦で削られ、出血によるものか赤く染まっている。あれは相当な痛みがあるはずだが、体毛に燃え移ってしまった火を消す方を優先してしきりに顔を擦っているので、顔も血で赤く染まっている。

 ……やはり、火属性はグリズリーベアの弱点とみて間違いないな。体力の多さゆえ未だ決定打には至っていないが、この様子だとそれも時間の問題だろう。


「……っ!」


 内に抑え込んだ業炎(フレア)が、早く暴れたくてうずうずしているようだ……いや、中二病じゃないぞ? この炎エネルギーを開放すればグリズリーベアも一瞬で倒せるが、少しでも制御をミスれば俺の体が逆に木っ端微塵になる。それだけ強力なエネルギーが、俺の体内に渦巻いているわけだ。

 ギャグっぽく言ってるが、結構なシリアス寄りの状況だ。もっとも、それくらいのリスクを許容できなければ、グリズリーベアやヘビータートルを倒せるだけの火力は出せないのだ。


「ヒナタ!」

「! きぃっ!」


 俺の様子を見て何かを察したのか、ヒナタがグリズリーベアから離れていく。当のグリズリーベアは顔中に燃え広がった火を払うのに必死で、俺の存在に全く気が付いていない。


「やぁっ!」

――ヒュッ!

――ガギィン!

「グォ!?」


 チラリと横目でヘビータートルの様子を見ると、こちらは朱音さんに飛突を顔へ何度も撃ち込まれて、鬱陶しそうに首を横に振っていた。与えたダメージは0にほぼ等しいが、朱音さんはヘビータートルの気を逸らすことに完全に成功している。これなら邪魔は入らなさそうだ。


「ごめん、恩田さん! ここは絶対に抑えるから!」


 最初のごめんは2度のウォーターブレス、特に後から撃たれた方を止められなかったことに対してだろう。相手は初見の格上モンスターなのだから、気にすることはないのに……。

 むしろ、一番重要な場面で確実に仕事をしてくれたことに、感謝はすれども文句など出ようはずがない。


「いや、助かった! ここは任せてくれ!」


 そう言ってから、グリズリーベアに向き合う。


「グォォォォォッッ!!」


 燃え広がっていた火は、どうやら払い終わったようだ。焦げた体毛をぐしゃぐしゃに乱しながら、グリズリーベアが俺に気付いて怒りの咆哮をあげた。

 だが、今さら威嚇を飛ばしてきてももう遅い。とっくに俺は攻撃体勢に入っているのだから。


「【ファ】……いや、違うな」


 もはやこれは、単なるファイアブレスというレベルを超えている。自分で付与しておいてなんだが、本当に凄まじい爆熱エネルギーだ。

 そう、それはまさに、太陽のような極熱。恵みも災いも両方をもたらし、宇宙に君臨する一天体系の主……。


「食らえ、【フレアブレスⅡ】」


 内に溢れる炎のエネルギーを少しずつ右手に送り込み、【ファイアブレスⅡ】のスキルに上乗せして撃ち出す。それでも【ファイアブレスⅡ】を遥かに超える、いや比べるのもおこがましいくらいの猛烈な爆炎が、グリズリーベアに向けて一直線に突き進んでいった。


――バゴオオオオオオ!!!

「グォ!? グォォォォッ!?」


 凄まじい熱量が込められた炎がグリズリーベアを包み込み、焼き尽くしていく。炎の中から、グリズリーベアの苦しそうな叫び声が聞こえてきた。

 ……これだけ強力な攻撃だというのに、体感としては真紅竜が吐いてきた炎に劣る威力だというのが驚きだ。いかにあのモンスターが規格外の戦闘力の持ち主だったのかが、よく分かるというものだ。


「………」


 グリズリーベアが完全に沈黙したところで、炎の出力を少しずつ弱めていく。一気に出力を絞ってしまうと、行き場を失ったエネルギーが圧縮されて暴発してしまうからだ。

 ……そうして炎を完全に止めた後、状況を確認する。グリズリーベアは地面に倒れ伏し、全身が真っ黒に焦げていた。


「グリズリーベア、撃破完了……かな?」


 少しだけ様子を見ていたが、グリズリーベアが動く気配は無い。倒したとみて間違いなさそうだ。


「はぁ、はぁ……やぁっ!」

――バチンッ!

「グォ……」

「………」


 よし、次の相手はヘビータートルか。

 向こうで飛突を放っている朱音さんだが、そろそろ疲れが出始めたのか攻撃頻度が明らかに落ちている。ヘビータートルも攻撃を受けるのに慣れてきたのか、飛突を食らっても反応が薄くなってきていた。


「【フレアブレスⅡ】」

――バゴオオオオオオ!!!


 残った炎エネルギーを全て吐き出すべく、ヘビータートルにフレアブレスを叩き込む。爆炎がヘビータートルの全身を包み込む、真っ赤な炎の壁の向こうにすっぽりと隠れた。

 そのまま10秒ほど炎を照射し続け、エンチャント・フレアの効果が切れたところで炎を止めた。




「……グォ?」


 炎が晴れ、ヘビータートルが姿を現す。ヘビータートルは小さな焦げ跡こそ全身に付いているものの、ほとんどダメージらしいダメージを受けていない様子でその場に佇んでいた。

 手負いだったとはいえ、オークより明らかにタフなグリズリーベアをほぼ一撃で落としきったフレアブレス……それでもヘビータートルが相手では、ほとんど通用しないのか。ヘビータートルの火属性耐性が高いのか、単に耐久力が優れているのか……おそらく両方だとは思うが、特定の属性攻撃に対する耐性が非常に高いタイプのモンスターだろう。


「探すしかないか、弱点を」


 そういうタイプのモンスターは、大概極端な弱点が存在するものだ。そうでなければ、ただひたすらに固くて面倒なモンスターになってしまう。

 は◯れメタルのような鉄壁のモンスターもゲームには居るが、そちらはそちらでHPが少ないという明確な弱点がある。ヘビータートルに弱点が無いというのはあり得ないのだ。

 ただ、エンチャント・フレアに大量の魔力を込めた影響で、俺の魔力残量も既に3割を切っている。もはや無駄撃ちができない中で、ヘビータートルの弱点を探っていく作業が必要になる。


 ……これが、モンスターラッシュ最後の相手だ。気を引き締めて、確実に倒しにかかろう。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
 中々に読み応えが有り、毎回楽しみに読ませていただいております。  変におちゃらけたりしないで、しっかりストーリーを紡いでいる所がとても良いです。  どうか主人公がこのまま探索者街道を登り詰めながら…
更新ありがとうございます。 盾の応用の可能性は無限!……かも知れない。 空気抵抗の少ない新幹線の『鼻』と言われて思い浮かぶのは、500系! 造形に使われた生物模倣(バイオミメティクス)が水辺の野鳥…
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