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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く
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3−61:豪傑の大熊と堅牢なる陸亀


「グルルルル!」

「………」

――ドスンッ、ドスンッ


 実体化が完了し、俺たちと戦うべくグリズリーベアとヘビータートルがそれぞれ動き出す。ヘビータートルは地面を(なら)すようにドスドスと強く足踏みし、グリズリーベアは両手を上げて激しく威嚇してきた。

 さて、ここから本格的に戦闘開始となるのだが……初戦闘のモンスターと戦うという緊張感以上に、危険な雰囲気を奴らから感じるのだ。


「きぃ……」


 それは、ヒナタがあからさまに警戒していることからも分かる。明らかに格上相手の反応、特殊モンスターであるハイリザードマンに対してさえも、何の気負いも無い普通の反応を見せていたヒナタが、だ。

 グリズリーベアか、ヘビータートルか。少なくともどちらかがヒナタと互角以上、これまで戦ってきたどのモンスターよりも強い相手になるのだろう。


 ……いや、希望的観測はやめておこうか。


 グリズリーベアも、ヘビータートルも。どちらもヒナタより格上のモンスター……同時に、俺や朱音さんよりも強い相手だと認識すべきだろう。真正面から戦っていては勝てない相手になる。


「朱音さん、ヒナタが奴らを警戒してる。どちらも、これまでの相手とは格が違うぞ」

「……ええ、嫌でも感じるわ。オークやリザードマンも圧が強かったけど、あの2体は次元が違うわね」

「ああ。だが、それでも勝てる」


 真紅竜の時は、一目見て"絶対に勝てない"と悟った。それだけ隔絶した実力差があった。

 しかし、グリズリーベアとヘビータートルは"非常に手強い"とは感じたが、"勝てない"とまでは感じなかった。実力の差は確かにあれど、戦術で埋められる差なのだろう。その分、一手を間違えれば即敗北に繋がりかねない。


「朱音さん、ヒナタ。動きが鈍そうなヘビータートルは後回しにしよう。遠距離攻撃があるかもしれないから、注意だけは怠るな」

「了解……!」

「ヒナタ、高い所にいても油断するなよ。特にグリズリーベアの跳躍力が未知数だから、高さも距離もそれなりにとって動くんだ」

「きぃっ……!」


 そう言って、ヒナタを空へ送り出す。グリズリーベアはヒナタを目線で追っていったが、ヘビータートルは強者の余裕か油断かは分からないが、ヒナタを完全に無視していた。

 ……むしろ、ヘビータートルは俺しか見てないような……? いや、気のせいか。


 さて、戦いの方針だが。まずは、攻撃力と敏捷性が見るからに高そうなグリズリーベアから倒すつもりだ。こういうアタッカータイプの相手と長時間相対していては、被害が増える一方になりかねないからだ。ゆえに、グリズリーベアは先に倒しておきたい。

 見るからにタンクタイプなヘビータートルは、あるかもしれない遠距離攻撃に警戒しつつも後回しだ。耐久面でグリズリーベアに勝るのは見て分かるので、討伐に時間がかかるのはほぼ明白。よほどのことが無い限りは後で倒すつもりだ。


「グルァッ!!」


 方針を一通り振り返ったところで、グリズリーベアが一息に駆け出してくる。

 やはり熊だけあって速い、しかも狙いは俺か? オークといいグリズリーベアといい、打たれ弱そうな奴を優先的に狙ってくるとはなかなかやるな。

 だが、俺は簡単にはやられんぞ!


「"プロテクション"! 盾、全開!」

――ブォン!


 自身に守護の魔法を掛け、盾の防壁を大きく広げる。白く輝く防壁の向こうで、グリズリーベアが駆け込んできた勢いのまま体を目一杯捻り……その丸太のような右腕を、大きく振りかぶった。


――ドゴォォッ!!

「――ぐっ!?」


 グリズリーベアの強烈な右ストレートが、防壁にまっすぐ叩き付けられた。

 俺の頭よりも二回り近く大きな拳には、パワーが十二分に乗っており……その一撃の圧力に押し負けて、俺は後方に勢い良く吹き飛ばされてしまった。

 ただ、衝撃はプロテクションのお陰かほとんど感じず、これだけ吹っ飛ばされているにも関わらずノーダメージだった。


――ズザザザザザ!

「うおっと!」


 どうにか空中で体勢を立て直し、足で滑るように着陸するが……闘技場の外まで飛ばされたせいで、だいぶ距離が離れてしまった。

 顔を上げて、2人の様子を確認する。


「きぃっ!」

――ゴォォォォ!


 ヒナタはグリズリーベアの頭付近に纏わり付きながら、顔を狙って炎を吐きつけている。グリズリーベアはすごく嫌そうに炎を右手で振り払っているが、体毛に焦げ跡は付けどもあまりダメージは与えられていないようだ。

 ただ、グリズリーベアのあの様子を見ると、火属性攻撃が弱点っぽい。それでもヒナタの攻撃があまり効いていないのは、単に【ファイアブレスⅠ】では火力が足りないからだろう。あれくらいはグリズリーベアにとって、蚊に刺されたようなものなのかもしれない。

 ……【ファイアブレスⅡ】なら多少は通じるか? いずれにせよ、グリズリーベアがかなりの耐久力を持っているのは間違いない。体力お化けだったオークより耐久力があるのはほぼ確定だな。


「グアアァァァァッッ!!!」

「きぃっ!? きぃぃぃぃっっ!!」


 しつこく炎を吐かれて激怒したグリズリーベアが、その場で腕を無茶苦茶に振り回し始めた。剛腕がそばを通り過ぎた時の風圧でヒナタがバランスを崩したが、すぐに立て直して射程距離の外へと退避していった。

 ヒナタは格上相手の立ち回りに問題は無く、安定して足止めができているようだ。


――ブォンッ!

「くっ……!!」


 少し気になるのは、朱音さんの立ち回りだ。最初に見せてきたグリズリーベアの一撃が強烈過ぎて、なかなか接近戦を仕掛けられないのだろう。遠巻きにグリズリーベアを観察しつつ、飛び込むタイミングをじっくりと伺っている。

 ……これ、臆病とか恐怖とかそういう問題ではなく、冗談抜きで迂闊に近付けば命を落としかねないのだ。あの剛腕に見合った凶悪な攻撃力を持つグリズリーベアの一撃は、か弱い人間の命など容易に刈り取ってしまうだろう。朱音さんの慎重さは、ここではむしろ正解になるのだ。


 ……そう考えると、俺ってグリズリーベアの一撃を受けてよく生きてられたよなぁ。なんでか防ぎ切れるような気がしたから盾で身を守ったが、本来なら回避を選択して然るべき状況だった。

 真紅竜戦で肝が据わり過ぎたか……? あまり良くない傾向だな。


「"クイックネス"!」


 付与魔法で敏捷性をアップさせ、グリズリーベアへ向けて一気に駆け出す。そして、ちょうどグリズリーベアのブンブン攻撃が終わったタイミングで俺も戦いに復帰した。

 グリズリーベアは眼前をチョロチョロと飛び回るヒナタに気を取られて、俺の接近に気が付いていないようだ。


「【ファイアブレスⅡ】」

――バゴォォォォォォ!!


 少し離れた横合いからグリズリーベアの横顔に向けて、ヒナタのそれより強力な炎を吐きつける。炎はグリズリーベアの顔面へまともに当たり、特に右目の付近を強く焼いた。


「ギャウゥッ!?」


 さすがに【ファイアブレスⅡ】は効くらしく、グリズリーベアは悲鳴をあげた後に顔を手でガードし始めた。それでも炎を吐き続けていると、炎はグリズリーベアの右手の甲に当たり続け、茶色の体毛を少しずつ燃やしていく。




「……グルアァァァァッッッ!!!」

――ブォッ!!


 このままいけるかと思っていたが、やはりグリズリーベアはそんな甘い相手ではなかった。

 急に雄叫びを上げたかと思えば、ファイアブレスを振り払うように左腕を思い切り横に振り抜いてきた。


「うおっ!?」


 攻撃自体は全く届いていなかったが、強烈な風圧でよろめいた拍子に集中が切れ、炎が途切れてしまった。

 彼我の距離は15メートルほど。これだけ距離があるのに、腕の一振りだけでファイアブレスをどうにかしてしまうとは……グリズリーベアの危険度の認識を、更に1段階上げる必要があるようだ。


「グルルルル……」


 ただ、やはりグリズリーベアも無傷では済まなかった。火傷を負った右目は半分閉じ、右腕の動きもややぎこちない。いかに耐久力があると言えど、弱点属性かつそれなりに威力のある攻撃なら十分に通じるのはよく分かった。


「ガァッ!!」

――グワァッ!


 と、グリズリーベアがその場で両手を組み、仰け反りながら大きく振り上げた。俺も朱音さんもヒナタも、攻撃が届く範囲にはいないのだが一体何を――


「ガァァァァッッ!!!」

――ドゴォォォォンッ!!

――ピシッ、ピシッ、ピシッ!

「いてっ!? いてててててて!?」

「きぃっ!?」

「きゃっ!?」


 強烈な叩きつけ攻撃によって地面が激しく割れ、細かくなった床材が散弾のように飛んできた。一つ一つの床材は軽いのでダメージは小さいが、尖っているので当たると地味に痛いし、数も多くて回避が難しい。実際、盾の展開は弾速が早すぎて間に合わなかった。

 だが一方で、グリズリーベアの腕が地面に深くめり込んでいる。腕を引き抜こうとして大きな隙を晒しているが、これを逃す手は無い。


「ぐっ、"ルビーレ――"」

「――グァ!」

――ブシュゥゥゥゥ!!

「ーザ"がぼぼぼぼぉぉぉ!?!?」


 うげっ、み、水!?


 横からいきなり水流を当てられ、ルビーレーザーの詠唱を強制キャンセルさせられたうえに、またもや強く吹っ飛ばされた。


「恩田さん!?」

「きぃっ!?」

「――!!」


 吹き飛ばされながらも水流が飛んできた方向を見やると、口を開けた状態で佇むヘビータートルの姿が。やはり遠距離攻撃持ち、動きが鈍くとも油断ならない相手だったようだ。

 だが、攻撃が直撃した割には痛みを全く感じなかった……もしかして、水属性攻撃無効の効果か?

 もしそうなら、多分この帽子のお陰だろう。"ウォーターベレー"って名前が付いてるくらいだし、水属性攻撃のダメージをシャットアウトしてくれたのかもしれないな。


――ズザザザザザ!

「くっ……」


 再び闘技場の外まで飛ばされ、敵との距離が大きく開いた。

 急いで状況を確認すると、グリズリーベアの腕は既に地面から抜けており、今はヒナタを追い回している。どうやら相当なヘイトが溜まっているようで、朱音さんには目もくれずにひたすらヒナタに攻撃を仕掛けていた。

 ただ、スピードはヒナタの方が上のようだ。攻撃を全てかわし、時折ファイアブレスで反撃する余裕さえ見せている。


 一方の朱音さんはヘビータートルと相対しているのだが、ヘビータートルは朱音さんにもヒナタにも全く目をくれていない。理由は全く分からないのだが、なぜか俺の方ばかりを見ている気がするのだ。


「………」


 やはり、グリズリーベアもヘビータートルも強い。ラッシュビートルにオーク、リザードマンに特殊モンスターと色んな敵と戦ってきたが、グリズリーベアとヘビータートルはそれらとは明らかに格が違う。特殊モンスターより強い通常モンスターとは、下層のモンスターは本当に恐ろしいな。


「……はぁ、仕方ないか」


 多少のリスクは伴うが、躊躇していてはいつか死人が出かねない。より上位の付与魔法を行使すべき時がきたようだ。


「"エンチャント・フレア"」

――ゴォォ……


 自身に向けて、火のエンチャントを付与する。しかも、より強力なものだ。

 ……自分の体の中に、炎が渦巻くような感覚が生まれる。このエネルギーを攻撃にうまく乗せられればいいが、少しでも気を抜けばたちまち暴発して俺の体を焼き尽くすだろう。朱音さんに付与した雷属性付与魔法と比べても、エネルギーが桁違いに高いのだ。


「……はっ!」


 グリズリーベアに向けて、一気に駆け出す。まだクイックネスの効果が残っているうちに、戦線へ復帰できるだろう。

 ここまでは決定打が無く、ややジリ貧だったが……ここから、逆転だ。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
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