3−60:爬人隊長の意地と、恩田のリアルチート戦術
一体どこから飛び出てきたのか。今の今までオートセンシングによる検知を掻い潜り、ハイリザードマンが俺に向けて奇襲攻撃をかけてきた。
そして、やはりと言うべきか普通のリザードマンよりも速い。
「うおらっ!」
――ブォンッ!
「シャァッ!」
――ガギィッ!
だが、探索者になりたての頃ならともかく、今の俺なら反応できない速度じゃない。そもそも、ハイリザードマンが残っているのは分かっていたから、盾の準備は常に万端だ。同じ轍は二度と踏まない!
ハイリザードマンが振り下ろしてきた剣を、再度広げた防壁で受け止める。手に僅かな衝撃が伝わってくるが、盾の効果かほとんど無いに等しいものだった。
「シャァッ! シャァッ! シャァッ!」
――ギィンッ! ギギィン! ギャギンッ!
袈裟斬り、斬り上げ、突き……ハイリザードマンの渾身の連撃もなんのその。防壁を無駄に大きく広げているので、盾を扱う技術が全く無い俺でも余裕で攻撃を捌くことができている。なんというか、そういう前提に立って作られたような盾なんだよな、これ。
「きぃっ!」
――キラキラッ!
ハイリザードマンの左斜め後ろ上空で、ヒナタが光を纏いながら急降下突進の準備をしている。接近戦をしている俺を誤爆しないような、絶妙な角度の位置取りだ。
「シャァ?」
ヒナタの存在に気付いたハイリザードマンが、俺から一瞬意識逸らしたのが見て分かった。その隙は決して逃さない。
「"サンダーボルト"!」
――バヂッ!
「シャッ!?」
盾の防壁をすり抜けて、ハイリザードマンに電撃が直撃した。さすがのハイリザードマンも、不意打ち気味に放たれた電撃はかわせなかったようだ。
……以前、俺が放った別々の魔法同士が干渉しない、ということがあった。確かダークネスとライトショットガンだったか、属性的に真逆なのに打ち消し合わなかったから、それで気付くことができた。
それを応用し、盾の防壁も実は魔法で、俺が放った魔法攻撃は干渉しないのではと考えたのだが……どうやら、それは正しかったようだ。
盾の防壁により他者の物理・魔法攻撃と俺の物理攻撃は一切通さないが、俺の魔法攻撃だけは一方的に通す、というリアルチート戦術が誕生した瞬間だった。
「シャ……ガ……!」
ハイリザードマンの動きが鈍ったが、倒れるほどのダメージは与えられていない。だが、サンダーボルト1発で倒せるほどハイリザードマンが弱くないのは最初から分かっていた。
ほんの一瞬だけ動きを止め、痺れさせることができた。それだけ時間があれば、十分だ。
「やあっ!!」
――ズブッ!!
ハイリザードマンの右斜め後ろから近付いてきていた朱音さんが、"ここしかない"という絶妙なタイミングでハイリザードマンの右脇腹へソードスピアを突き入れる。鋭い穂先は鎧の隙間を正確に穿ち、ハイリザードマンの体内に深々と突き刺さった。
「シャウッ!?」
体を貫く凄まじい痛みに、ハイリザードマンの意識は朱音さんの方へと向いてしまうが……おいおい、もう忘れてしまったのか?
致命の一撃を加えようと迫る、もう1人の仲間がいることに。
「きぃぃぃぃっっ!!」
――ドシュッ!!
白光を纏ったヒナタの急降下突進攻撃が、ハイリザードマンの胸を貫き大きな風穴を開けた。これはもう、誰がどう見ても致命的な傷だ。
「ガフッ……ガッ……!?」
だからこそ、ハイリザードマンの最期の一撃が発動する。
「カハァッ!」
――バゴォォォォォ!!
「きぃっ!」
口から血を垂らしながら、ハイリザードマンが強力なファイアブレスを放ってきた。狙いはヒナタのようだが、どうやら最後に攻撃してきた相手にファイナルアタックが向かっていくらしい。
しかし、ヒナタは最初に俺が言った注意事項を覚えていてくれたようだ。炎線がヒナタを追い掛けて動くが、ヒナタはそれを軽やかに飛んでかわしていく。炎が上空に向いているので、俺や朱音さんを巻き込むことが無いよう調整しているのだろうことも、素直に感嘆する。
「……シャ……ガハッ……」
――ガクッ
およそ15秒ほど、強力な炎を吐き続けていたハイリザードマンだったが……ついぞヒナタを捉えられないまま炎は止まり、ゆっくりと膝から前のめりに崩れ落ちていく。
――バタッ
――カラン、カラン……
ハイリザードマンが、地に倒れ伏した。手から離れた長剣が床で跳ね、甲高い音を何度も立てる。
――第6陣、クリア
同時にシステムアナウンスが鳴り響き、リザードマン共が白い粒子へと還っていく。
ヒナタの深い洞察力と、朱音さんの勇気が良い方向にうまく作用した戦いだった。しかし、あの業火の中を動き回っていた朱音さんは大丈夫だったのだろうか?
「朱音さん、怪我は無いのか?」
「ええ、大丈夫よ。火属性無効って凄いわね、ファイアブレスの中でも熱さを全く感じなかったわ」
見れば、本当に朱音さんには火傷跡一つ無い。全部位の装備が火属性無効であるはずがないので、火属性無効防具を1つ装備していれば、全身への火属性攻撃ダメージを完全にシャットアウトできるのだろう。装備している部位だけが属性攻撃を防げるのかと思えば、どうやらそれは違うようだな。
多少無理をしてでも、最前線で戦う朱音さんの防具を最優先で整えたかいがあったってものだ。
「………」
まあ、今回はたまたま俺がハイリザードマン戦の矢面に立ったが……仮に朱音さんが戦っていたとしても、ハイリザードマンの剣撃くらいは余裕で捌きそうだ。装備効果でファイアブレスが効かない以上、ハイリザードマンとサシで戦っても普通に勝てるのではないだろうか。
……万全なら、という条件は付くけどな。
ダンジョンは奥に行くほどモンスターが強くなるし、長時間の探索による疲労もそこに重なってくる。そこでたとえ100回モンスターに勝てたとしても、101回目に負ければ全てを失うのがダンジョン探索でもある。
全力で戦って疲弊していても、ダンジョンは、モンスターは待っちゃくれない。死ぬか生きるかの生存闘争こそが、ダンジョン探索における絶対の鉄則なのだから
「きぃっ!」
「ふっ、今回はヒナタのお陰で、みんな無傷で勝てたよ。ありがとな、ヒナタ」
「きぃっ♪」
定位置に戻ってきたヒナタをこちょこちょと撫でる。スキル込みとはいえ鎧ごとハイリザードマンを貫いてしまうとは、やはりヒナタの強さは別格だ。
ここから更に強くなるのか……うん、本当に楽しみだな。
「さて……」
第6陣が終わり、次が第7陣目。緒戦と違い、今はだいぶ慣れてきたが……魔力も体力もかなり擦り減っている。あと2戦くらいなら、なんとか保つと思うが――
――最終陣
どうやら、これが最後の戦いとなるらしい。ここまで6戦、弱いモンスターの大群に始まり、ラッシュビートル、ゴブリンアーミー・アーチャー、オーク、ハイリザードマンとリザードマン、と戦ってきたが……最後は、どんな強敵が現れるのか。特殊モンスターか、未遭遇モンスターか?
広場に白い光が集まっていくが……なんだ、これは。
片方はラッシュビートルよりも、オークよりも、なんならラージスライムやヘルズラビットよりも更に体長が大きい。それでいて二足歩行のモンスターのようだが、まるでラガーマンのような引き締まったシルエットをしている。
もう片方は背は低いものの、四足で水平方向にかなり大きい。まさに巨大な陸亀のような、重厚なシルエットだ。
――グリズリーベア1体、ヘビータートル1体
今まで聞いたことが無いモンスターの名前が呼ばれ、集まった光がモンスターを急速に形作っていく……。
「グルル……」
最初に現れたのは、体長4メートルを優に超える大熊だった。これがグリズリーベア、カタカナ名ということは通常モンスターか? 下層だとこんなモンスターが出現するのか……。
茶色の毛皮に全身を覆われ、熊をより筋肉質にして二足歩行させたような見た目をしている。あの丸太のような太い腕で殴られれば、俺などひとたまりもないな……盾込みでも防げるか分からない。総じて、パワーに優れたアタッカータイプのモンスターだろう。
そして、おそらくはスピードも侮れないものを持つと推測される。野生のヒグマは時速50キロ近いスピードで走り回り、人間などとは比べ物にならないほどのパワーを持つのだから、熊のモンスターたるグリズリーベアに同じことができないはずはない。むしろ、その身体能力は更に高まっている可能性が高い。
動画投稿サイトの動画でも、その方面で優れた知識を持つ人が言っていたな。視聴者からの質問で『アメリカ特殊部隊員 (素手)と野生の熊、どちらが強いですか?』と聞かれて『熊に決まっているだろう、野生の熊を舐めたらいかん!』と即答していた。人間の知恵や技術を加味してなお、熊の方が脅威度は圧倒的に高いのだという。
「………」
――ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ……
そして、後から現れた大亀のモンスターがヘビータートルか。
体高も俺の身長の1.5倍くらいあるが、何よりも体長が凄まじくデカい。頭の先から尻尾の先まで、隣にいるグリズリーベアを寝かせて万歳させたくらいの大きさがある。体長5メートル級の亀とか規格外にも程があるだろう、広いはずの闘技場が狭く感じるほどだ。
……で、足踏みの音がとにかく重い。体の大きさだけでなく、体重も超重量級なのは間違いない。あれに踏まれたら一発アウトだろう、大きな甲羅はヒビ一つ入っておらず、守りも相当固そうだ。
ド◯クエの6作目で、とあるボスの前座として出てきた守りの固い亀……2回行動する化け物兵器と共に猛威を振るった、機械的な雰囲気を醸す陸亀のモンスターが頭に思い浮かぶ。いずれにせよ、厄介な相手なのは間違いない。
そして、こいつらがこのモンスターラッシュの最後を飾る強敵なわけだ。少なくとも、特殊モンスターであるハイリザードマンよりも強いのだろう。気を引き締めて……いや、より慎重にかからなければな。
読者の皆様、いつも本小説をお読みくださいまして、本当にありがとうございます。
気付けば間もなく投稿開始から1年、話数は本話にて遂に100話へと到達いたしました。多くの方々に支えられ、特に初期の頃からご感想をお寄せくださった方々に支えられながら、ここまで来ることができました。
皆様、本当にありがとうございます。次は200話を目指し邁進して参りますので、引き続きよろしくお願いいたします。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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