2−3:これがビギナーズラックというやつか
「「スキルスクロール!?」」
朱音さんと声がハモる。2日連続で、落とすはずのないモンスターからスキルスクロールがドロップしてしまった。
魔石と防具珠を回収してから、周囲を警戒しつつスキルスクロールを拾ってみる。
---全世界のブラックバット討伐数が合計1000万体に到達した記念品です
---スキル【闇魔法】を覚えられますが、スキルスクロールを使用しますか?
「うわ、またかよ……」
「……?」
【空間魔法】の時と同じだ。違うのは、ブルースライムの時は100万体記念で、ブラックバットのこれは1000万体記念だってことだ。多分、100万体ごとにメモリアルドロップの形でスキルスクロールが落ちるのだろう。
……でもこれ、宝くじで一等を当てるくらい難しいんじゃないか? それを2連続だなんて、今年どころか一生分の運を使い切ってしまったのでは……?
「【闇魔法】のスキルスクロール、だってさ。朱音さん、使ってみるか?」
「へっ、私!?」
「そう」
朱音さんにスキルスクロールを手渡す。あのシステムアナウンスが聞こえたのだろう、驚いたのかビクッとした後……ゆっくりと、俺にスキルスクロールを返してきた。
「これは恩田さんが使うべきだと思います。私では魔法は使いこなせませんから」
「そうか……」
……となると、だ。
「なら、今日の取り分は10対0に変更だな。もちろん、朱音さんが10だ」
「えっ!? ですが、それは……」
「このスキルスクロールは、それでも足りないくらいの価値がある。売れば億は余裕で超えるな」
「億……」
ここから更に下に進むと、第6層からラッシュビートル、第7層からインプというモンスターが出てくるらしい。で、ラッシュビートルが【羽音】というスキルスクロールを通常ドロップ(ただし、かなり確率は低い)し、その売値がだいたい10万円くらい。インプはインプで【火魔法】のスキルスクロールを通常ドロップ(同じく、極低確率)し、そちらは人気が高いために50万円ほどが相場なんだとか。
いくらドロップ率が低いとはいえ、入手先が分かっていて複数入手も可能なスキルスクロールですらその値段だ。数年に一度しか出ないようなスキルスクロールが、一体どれほどの価値になるのか全く予想できない。
【空間魔法】もそうだったが、ポーションよりも遥かにヤバい代物だ。
「……では、こうしませんか?」
「被せるようで申し訳ないんだが、【闇魔法】を売るというのは無しだぞ。ヤバい輩に目を付けられたくないしな」
ポーションと同じく、とんでもない悪意に身を晒されないとも限らないからな。
身の丈に合わない欲望は身を滅ぼす。俺は地道にのんびり戦って、毎日それなりに稼げたらそれでいい。
「いえ、そうではありません」
それは朱音さんも分かっていたらしい。なら、どんな提案をしてくれるんだろう。
「そのスキルスクロールは恩田さんが使ってください。取り分も半々のままで構いません。ですので、その……ま、また一緒にダンジョンに潜って頂けませんか? 正式なパーティメンバーとして」
「……はい?」
まさかの、正式パーティのお誘いだった。あまりに予想外過ぎるその提案に、俺の脳が一瞬フリーズしてしまう。
だが、フリーズしていようがちゃんと返事をしなければ。本人が気付いているかは分からないが、途中から朱音さんが敬語になっている。相当緊張しながら提案してくれたのだろう、それにしっかりと応えなければ。
「いっいえ、その、すみません厚かましいお願いを---」
「いやいや、オッケーに決まってるだろう。むしろこちらから頼みたいくらいだ」
「そ、そうですか……?」
でも、それじゃ全くフェアじゃないよな。金銭的に全く釣り合わない。
これと釣り合わせるなら……そうだな。
「ただ、それじゃ俺が貰ってばかりだからな。せっかくだし、俺も教えておこうかな」
「何を、ですか?」
「ちょっとした秘密を、な」
そして、昨日あったことをかいつまんで説明した。【空間魔法】やラッキーバタフライ、もちろんポーションのことも。
朱音さんは少し驚いた様子で俺の話を聞いていたが、最後まで話したところで途端にイタズラっぽい笑みを浮かべ始めた。
「あ、だからさっき『またかよ』って言ってたのね」
「え、俺そんなこと言ってた?」
「ええ」
ニヨニヨと笑いながら、朱音さんが俺を見てくる。やべぇ、全く記憶に無いな。
ただまあ、朱音さんが元の調子を取り戻してくれたようだし、それならそれでまあいっか。
「さて、改めてこれからよろしくな」
「ええ、こちらこそよろしく頼むわ」
互いに頷き合ってから、【闇魔法】のスキルスクロールを手に取る。
(俺に力を!)
スキルスクロールが白い光となり、俺の体の中に吸い込まれていく。これで【闇魔法】を習得できたはずだが、【闇魔法】でも光の色は白なんだな。
……などと、どうでもいいことを考えたところで。
---ズズズッ
「お、ブルースライムが2体か」
「うええ……恩田さん、お願いします」
「あい、任された」
お誂え向きに、2体のブルースライムが姿を現した。ホーンラビットやブラックバットのイメージが強いが、第2層にもブルースライムは少ないがちゃんといる。こいつらを相手に【闇魔法】の試運転をするとしよう。
何がいいかな……うーん、やはり某ゲームの闇属性の術を参考にするのが、一番手っ取り早いか。
「"ダークエッジ"」
魔力が消費される感覚と共に巨大な黒刃が地面から生え、ブルースライム1体を串刺しにする。一瞬でブルースライムは蒸発し、魔石にその姿を変えた。威力はルビーレーザー相当か。
「"ブラッディシックル"」
続けて、魔力がかなり消費される感覚と共に血染めの大鎌を召喚し、残ったブルースライムに向けて振り下ろす。大鎌はブルースライムを一撃で粉微塵にした後、スーッと透けるようにして消えていった。
……さて、試運転の結果は、と。
「威力・出の早さ、共に申し分ないな。だけど魔力消費量は多そうだ」
たった2発の魔法で、およそ4割弱の魔力を消費した。特にブラッディシックルは消費量が多く、魔力満タンからでも4回放てば魔力が枯渇しそうだ。
それでも、ビューマッピング換算で6回分くらいの魔力はまだ残っている。魔力の自然回復分も見込めるので、まだまだ余裕はありそうだ。
周囲をちゃんと警戒しつつ、ブルースライムの魔石を拾ってリュックに入れ……そこでふと、アイテムボックスに入っているアレの存在を思い出した。朱音さんには全部話したことだし、せっかくだから使ってもらおう。
「あ、そうだ朱音さん」
「何かしら?」
「せっかくだし、これ使ってよ。"アイテムボックス・取出"」
そうしてアイテムボックスから取り出した物を、近くにいた朱音さんに手渡す。
「……装備珠? 青ってことは防具珠よね、ランクは?」
「ふふ、中を覗いてみなよ」
珠を持ち、中を覗いた朱音さんの表情が驚きの色に染まる。すまんな、驚かせてばかりでさ。
「ランク5……」
「【闇魔法】のスキルスクロールを譲ってもらったからさ。代わりとしては安すぎるけど、まあ使ってよ」
パーティの前衛に立ってもらうなら、良い防具があるに越したことはないだろうし。
「では……」
防具珠を大切そうに両手で包み込み、朱音さんが目を閉じる。
眩いばかりの光が、朱音さんの全身を包み込み……真っ赤な色合いの重鎧に、その姿を変えた。ちなみに、元の鎧は自動的に外れて床に転がっている。
「どうだい、新しい鎧は?」
「……すごいです、これ。ものすごく軽いし、何だか力が溢れてきます」
「さすがはランク5の鎧ってか。見た目もカッコいいし、なかなかいいな」
朱音さんだけに、朱色の鎧がよく似合っているな。
「ところで、この鎧はどうする? 予備にするならアイテムボックスにしまっておくけど?」
「うーん……お願いするわ。使う可能性は低いと思うけど」
「りょーかい、"アイテムボックス・収納"」
ランク1の金属鎧をアイテムボックスにしまう。一度変換した装備は装備珠に戻せないらしいので、荷物になりそうな場合はその場に捨てていくそうだが……まあ、俺らにはアイテムボックスがあるからな。予備1つくらいなら、取っておいて損はあるまい。
「さて、と」
十字路の方に目を向ける。敵がいない事を確認しながら、交差点の真ん中に立った。
果たして、どれが正解の道だろうか。まあ、とりあえず。
「"ビューマッピング"」
十字路の真ん中で、ビューマッピングを使っておく。相変わらずまっすぐな道は無いようで、3本とも途中で地図が途切れていた。
「どっち行く? 俺はこういうのことごとく外すから、朱音さんに任せるよ」
「うーんと……右行きましょう、右!」
「りょーかい」
朱音さんに続いて右の道に入り、緩く左へカーブした道を進む。見たところ敵はいなさそうだが、十分に警戒しながら歩いていく。
さて、これで階段が見つかればいいんだが……まあ、朱音さんの勘に期待だな。
ここで、今の久我朱音の装備をまとめておきます。
武器:アイアンランス(損傷・極小)(ランク1)
特殊効果:なし
防具:朱魔銀の重鎧(ランク5)
特殊効果:受ける物理ダメージ4割減 受ける魔法ダメージ1割減 火属性無効 力が2割増
装飾品1:アイアンシールド(ランク1)
特殊効果:受ける物理ダメージ1割減
装飾品2:なし
装飾品3:なし
装飾品4:なし
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