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彼のリクエストで、その日の晩も同じところにテントを張った。


「今日も星が綺麗だね~!最高!」

「それはよかった。私も空とか飛ばせてあげられたらよかったのにな」

「えー?君は踊りが綺麗だもん、それで充分!」



相変わらずの飄々とした態度なのに、お世辞だとは思えなくて素直に喜んだ。


「ありがと。私は今日、やっぱり君は君で王子様なんだなぁって思った」

「………………なんで?」

「なんていうか、今日のことで、いろんなことが見えてて、いろんなこと考えてるんだろうなって思ったから。私学校も行ってないし、深くものを考えるみたいなの、さっぱりダメだしさ」

「あぁ……そういうことか」

「え、」



言葉の端からいつもの軽さが消えたような気がして、思わず彼を見つめた。何か怒らせるようなこと、言ったっけ。

隣の彼は俯いていて、被ったままの帽子で表情がよく分からない。



「僕、魔法使えないじゃん」

「うん…?」



それは周知の事実だった。彼の国の王家は、全員魔法が使えない。



ずっと昔、人間は“魔法使い”と呼ばれる人種とそうでない人種に分かれていたらしい。

その血が混ざって数百年になるこの大陸で、私たちはみんな、魔法使いの子孫である証を持って――つまり魔法が使える証を持って――生まれてくる。


証と言っても大袈裟なものではない。蔦のような痣が体のどこかに入っているだけ。

それが、例の王家には絶対に現れない。どんな家の者を妃に迎えても、どうしても現れない。故に、特別。故に、王家。




「うちの家系……魔法が使えない代わりに、なんか頭は割といいらしいよー」

「え、あ、そうなの?」

「うん。別にそう感じたことはないけどさぁ」

「へぇ……」


そこで彼はやっと顔を上げた。

いつものにこやかな笑顔ではなく、初めて見る淡々とした顔だった。よく分からないけど、少し、怖い。




「でもさ………………そんなに、血って……大事かな」


ぐー、ぱー、と自分の手を動かしながらぼんやりと呟く。


「いや……知らないけど。私には縁遠い話っていうか、全然ピンとこない」

「それだよ」


静かに私の方を見つめて、彼は言った。


「それなんだ。全然ピンとこない」

「ふーん」


そうしてそのまま、ぼんやりと街を見下ろす。

「こうして街中に出れば、誰にどんな血が流れてるかなんて気にもしない。知る術もない。なのに、なぜ?」

「知らないけどさ……」

「この血でなければ僕は僕でないんだろうか」

「はぁ……?」

「もう嫌なんだよ。その血だから、って敬われるのも、変に距離を取られるのも、変に距離を詰められるのも、人生も身の回りも全てが決まってしまうことが」

「……」

「僕って、なんなんだ」





最後の方はもう、ただの独り言のようだった。わたしは何も返事をしないまま座っていただけだったけど、それでいいみたいだった。





















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