8
彼のリクエストで、その日の晩も同じところにテントを張った。
「今日も星が綺麗だね~!最高!」
「それはよかった。私も空とか飛ばせてあげられたらよかったのにな」
「えー?君は踊りが綺麗だもん、それで充分!」
相変わらずの飄々とした態度なのに、お世辞だとは思えなくて素直に喜んだ。
「ありがと。私は今日、やっぱり君は君で王子様なんだなぁって思った」
「………………なんで?」
「なんていうか、今日のことで、いろんなことが見えてて、いろんなこと考えてるんだろうなって思ったから。私学校も行ってないし、深くものを考えるみたいなの、さっぱりダメだしさ」
「あぁ……そういうことか」
「え、」
言葉の端からいつもの軽さが消えたような気がして、思わず彼を見つめた。何か怒らせるようなこと、言ったっけ。
隣の彼は俯いていて、被ったままの帽子で表情がよく分からない。
「僕、魔法使えないじゃん」
「うん…?」
それは周知の事実だった。彼の国の王家は、全員魔法が使えない。
ずっと昔、人間は“魔法使い”と呼ばれる人種とそうでない人種に分かれていたらしい。
その血が混ざって数百年になるこの大陸で、私たちはみんな、魔法使いの子孫である証を持って――つまり魔法が使える証を持って――生まれてくる。
証と言っても大袈裟なものではない。蔦のような痣が体のどこかに入っているだけ。
それが、例の王家には絶対に現れない。どんな家の者を妃に迎えても、どうしても現れない。故に、特別。故に、王家。
「うちの家系……魔法が使えない代わりに、なんか頭は割といいらしいよー」
「え、あ、そうなの?」
「うん。別にそう感じたことはないけどさぁ」
「へぇ……」
そこで彼はやっと顔を上げた。
いつものにこやかな笑顔ではなく、初めて見る淡々とした顔だった。よく分からないけど、少し、怖い。
「でもさ………………そんなに、血って……大事かな」
ぐー、ぱー、と自分の手を動かしながらぼんやりと呟く。
「いや……知らないけど。私には縁遠い話っていうか、全然ピンとこない」
「それだよ」
静かに私の方を見つめて、彼は言った。
「それなんだ。全然ピンとこない」
「ふーん」
そうしてそのまま、ぼんやりと街を見下ろす。
「こうして街中に出れば、誰にどんな血が流れてるかなんて気にもしない。知る術もない。なのに、なぜ?」
「知らないけどさ……」
「この血でなければ僕は僕でないんだろうか」
「はぁ……?」
「もう嫌なんだよ。その血だから、って敬われるのも、変に距離を取られるのも、変に距離を詰められるのも、人生も身の回りも全てが決まってしまうことが」
「……」
「僕って、なんなんだ」
最後の方はもう、ただの独り言のようだった。わたしは何も返事をしないまま座っていただけだったけど、それでいいみたいだった。