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「はぁ……びっくりした……いやまさかね……?ううん、もうなんでもいいや、寝よう……」
さっきのポスターに驚いて、私はそれから全力ダッシュで街の外れにある湖に来ていた。
この街は何度か来ているから知っている。この湖は夜になると光るのだ。だからなんとなく安心で、夜はよくここに寝泊まりする。
「はー……」
張り終わったテントの中から、優しく発光する湖を見つめた。あたたかい光と、落ち着く温度の夜風。今日の出来事を忘れるようにぼうっとして、流れる雲を見上げた……その時だった。
「やだなぁもう、待っててって言ったのに~」
「!?」
ふぅ、と息を整えながらこちらに向かってくる青年。さっきまで隣にいた顔。そしてやっぱり、あのポスターの顔。
「ちょ、は……、?えっ!?」
「探しちゃったよ~」
もう、いろいろと思考が追いつかない。本当にテント抱えて……っていうかやっぱりこの顔、あの王子!?いやそれよりもどうしてここが?
平気な顔をしてテントを張り始める青年に開いた口が塞がらない。なんなんだ。え?私、目をつけられるようなことした!?本当に、なんで!?
「えーと……?僕テント張るの初めてでさぁ」
そりゃそうでしょうね!王子だもんね!
「良かった、説明書が割と丁寧だ!あ、お水買ってきたよ、飲む?」
「……!!……!??」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない、大丈夫だよー、僕はちゃんと自分のテントの中にいるから」
「いや……!?そ、そうじゃなくて!」
「え?あ、うーん。夜にキャンプできて、治安の良さそうなところと言ったらここか、あっちの丘かなって思ったからさ」
「いや!きみ!オウジ!」
もはやカタコトだった。
「……あれ」
ばれちゃったかー、なんて軽く言いながら設営を続ける彼に、私は完全にキャパオーバーだった。そもそもこの不思議な距離感にも脳みそが追いついていないのだ。もう何がなんだかわからない。
「……ね、寝ますので。本当に王子様なら是非きちんとしたところにお帰りになったらよろしいかと……」
視線を合わせられないまま、のそのそとテントの入口を閉じていく。が、それを止める彼の手の方が早かった。
私のテントの前にしゃがみこんで、出会った時みたいににっこり笑う。
「ね、まだ僕張り終わってないからもうちょっとおしゃべり付き合ってよ。設営ちゃんとできるか分からないから聞きたいことも出てくるかもしれないし!」
「……。」
もう、どうにでもなれ。
私はそんなに、バチあたりな生活をしてきただろうか。なんなんだろう、これは。