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ということがあって、私はその見知らぬ青年と夕食を共にしていた。
「どれも初めて食べる!おいしい!」
「……それはよかったけど」
「お姉さん、本当にありがとう。踊りも綺麗で、ご飯食べさせてもらえて、今日はものすごくいい日だ!」
「……いや…うん…」
「踊りに合わせてあんな風に魔法を使うなんて、器用だね!すごく綺麗だった!」
「あー、私はああいう魔法しか使えないから」
みんながみんな、魔法を使えるこの世界。
持って生まれる魔法は人それぞれで、炎を扱えたり薬を作れたり。はたまた鉱物を生み出せたり、時間に干渉できたり。
だけど私が授かったのは光を飛ばしたり空気を光らせたり、イリュージョンに近いなんの生産性もないものだった。
だからこうして、踊りと組み合わせて日々の生計をたてている。
「ああいう魔法“しか”、なんてことないでしょ。あんなに素敵なのに!」
食べる手を止めて、ゆったりと青年は微笑んだ。お腹がペコペコなはずなのに、がっつく様子もなく、どこか優雅なその所作に少しの違和感を覚える。
「……どうせならもっと稼げる魔法が良かったんだけど」
「充分過ぎるほどだよ。僕からしたら」
「え?」
「いや……わ、ねぇ、このスープなんていう料理?」
あどけなく話題を変えてみせる青年。あまり自分の魔法には触れられたくないのだろうか。
……その後もなんやかんや話しながら、食事を終えて外に出た。
「うーん!いい風!」
大きく伸びをして、青年に別れを告げる。
「じゃ、ここで」
「うん、今日ってさ、どこに泊まるの?」
「…………………………テント張るけど」
ここで終わりだと思っていた会話が続けられたことに少し驚きつつ、正直に答えた。
「えっ!?テント!?それ野宿ってこと!?」
「なんか失礼ね、キャンプって言ってよ。じゃ」
隠しもせずに眉をひそめて背を向ける。
悪い人じゃなさそうだったから夕食くらいは付き合ったけど、なんか奢って損した気分。
「だめだよ女の子がそんな!」
……ついてくるじゃん……。
「ね、どこか泊まろうよ、さっきのペンダント、受け取ってくれなかったけどきっと売ったらいくらかにはなるからさ!」
「別にずっとこうして旅してきたから慣れてるし」
「じゃあ僕も行く!」
「は!?」
「大丈夫、僕もテント買ってくる!待ってて!」
「いや待つわけないでしょ!ていうか知らない人と一緒に寝泊まりしないから!」
「もう友達~!多分~!」
そう言い残して街中へ駆けていく青年。
私はその背中を見つめて呆然としていた。なんなんだ。本当に。図々しいとも少し違う謎の押しの強さ。
その行動力に呆気に取られつつ、いやいや、と頭を振った。
「行こ……待つ義理ないし」
そうして歩き始めたその瞬間。
視界に入ったのは、来月ある大きなお祭りのポスターだった。
「……!?」
通り過ぎかけて、思わず二度見する。
「え!?うそ!?えっ!?」
“白百合の月、毎年恒例の感謝祭!今年は隣国の王子もお見えになります!”
そこには、さっきまで隣にいたあの青年が大きく描かれていた。