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この世界は、魔法でできている。
「bravo!」
たくさんの拍手、子供たちのキラキラした眼差し、お菓子の缶に投げ入れられる紙幣や小銭。
視界に入るそれらをいつもの通り確認して、呼吸を整えながら深々とお辞儀をした。
人の波が引いていくのと同時に、少しずつ後片付けを始める。
うーん、今日はなかなかの稼ぎ。やっぱり大きい街は違うなぁ……夕飯はちょっといいもの食べちゃおうかな。
うきうきとそんなことを考えるも、私にはひとつ、気がかりがあった。
「……」
缶を閉めて、小道具はカバンにしまって。
「……」
派手めの衣装は、上からケープを羽織って目立たなくして。
「……」
それでも、私の気がかりはそこを離れる気配はなかった。
「あの……今日はもう、終わりだけど」
パフォーマンスの最中からずっと変わらない姿勢のまま、しゃがんで頬杖をついて、こちらを見つめるひとりの青年。
無言で去るのも失礼かと思って、一応声をかけてみた。
「お姉さん、すごく綺麗に舞うね!感動しちゃった」
「……ありがとう」
にっこり笑う青年は、それでもその場を離れる様子はない。
「良かったらまた見に来てね。じゃ」
「でもごめんね、僕お金なくって何も入れてないの」
「あぁ……いいよ。全員が入れてくれるわけじゃないし」
「だからこれあげる。から、よかったら……」
そう言って彼が綺麗なペンダントを差し出したその瞬間、ものすごく大きな音でぐぅぅうぅ、とお腹が鳴るのが聞こえた。
「……」
「……」
「……」
「……ご飯を、ご一緒させてくれませんか……」
そう言いながら耳まで赤くなった青年は、同じ体勢のまま思い切り俯いた。
しゃがんで、片手でペンダントを差し出したまま。
続きます。