二度目の遭遇
エストコートの港から少し離れた高台の上。ふたりの少女が海から現れた亡霊に襲われる少年たちを見ていた。
「リリーはどっちいく?」
「あたしは黒髪。あっちがジェムスでしょ」
「じゃあ私が銀髪ね」
「浮気すんなよ」
「そっちこそ」
ふたりの少女は笑い合い別々の方向へ歩きだした。
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《《セ、セブ、全部、せぶン》》
海から巨大な亡霊が現れた。巨大な魚の姿をした亡霊だった。目からは赤い血の涙を流している。
魚の亡霊?
夜じゃないのに
なんで?
これは亡霊…なのか?
「ルー!!!」
ガレの声がしてハッとした。
「手を!俺の手を握れ!!」
ルーは咄嗟に左手を伸ばした。ガレの右手とルーの左手が触れるか触れないかのその瞬間、二人は吹っ飛ばされた。
魚型の亡霊は尾びれで二人を叩きルーは海へ、ガレは山のほうへ吹き飛んだ。
「ルー!!」
遠くでガレの声が聞こえる。
前に亡霊を倒したときみたいに…
そうペア・リングスの力をだせば
海に落ちる直前なんとか力をだそうと思った。でも無理だった。ガレならこの状況を切り抜けられたかもしれない。
ルーは海に叩きつけられ沈んでいった。
太陽の光が差し込む透き通った海の中で魚の亡霊が口をあけてこちらへ向かってくる。しかもさっきの衝撃で体が動かない。絶望的な状況だった。
指輪は熱をもっていた。
ガレはどこかで戦おうとしている。
ガレ…ごめん俺…
そう思ったのを最後にルーは意識を手放した。
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ザザー
打ち寄せる波の音が聞こえる。
「うっ…」
霞む視界の先に青い空がみえた。太陽が眩しい。ルーは徐々に意識を取り戻した。
「…………ガレ!」
思い出した。魚の亡霊に襲われてガレとはぐれて海に沈んで…意識を失って…。そのあとは記憶がない。
「…ここは…?」
ルーはどこかの砂浜にいるようだった。周りを見渡しても砂浜が続いているだけで誰もいない。
ここはどこなんだ?
俺はまだジーランドにいるのか?
「ていうか俺…なんで生きてるんだ」
そうだ。亡霊に襲われたのに生きてること自体がおかしい。港に居合わせた人たちや海難救助隊が助けてくれたとは考えにくい。魚の亡霊がいるあの状況で海へ入ってこれる人はいないだろう。一緒に襲われるだけだ。
可能性があるとしたらジェムスかリングスが現れて、亡霊を倒してルーを海から引き上げ助けてくれたのか…。
あの時、近くにいたリングスは一人しかいない。ルーは自分の薬指にまだ指輪があることを確認した。
「ガレ」
ルーはガレの名前を呼んだ。探さなくては。指輪があるってことはまだガレは生きてる。俺たちはまだペア・リングスだ。立ち上がると体のあちこちが痛んだ。でも座り込んでいるわけにはいかない。
ガレのもとへいかなくては。
きっとガレも俺を探しているはずだ。
ふらふらと立ち上がり砂浜を歩きだしたその時。
背後から声をかけられた。
「そんなにリングスが恋しい?」
ルーが振り返ると、少女が立っていた。褐色の肌に輝く金色の長い髪。金色の瞳。かなり背が高く露出度の高い格好をしている。
「健気なジェムス」
彼女はルーに顔を近づけると、値踏みするようにまじまじとルーを見つめた。
「あなたカワイイ」
そう言うと舌舐めずりをした。自分の中の原石が全身に訴えかけてくる。危険だと警告している。
ガレと初めて会った時と同じ感覚。
間違いない、こいつはリングスだ。