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船の汽笛と共に目が覚めた。
外に出ると海と朝日がみえる。
水平線の向こうから昇る朝日が眩しい。海は青く透き通ってロストダリアとよく似ているが波は高くて荒い。
荒ぶる海の先に島がみえてきた。
「ジーランド島だ」
島を見つめるルーの隣でガレが呟いた。
「緑の山があんなにあるのは初めてみる…ロストダリアにある山は鉱山ばっかりだったから」
「俺もだ。ニウ・カレトリアには山がない」
ふたりはしばらくジーランド島をみつめていた。ふたりの生まれ育った土地とは全く違う地形。港のすぐ近くに緑が生い茂る山々がある光景はとても不思議で神秘的にみえた。
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ジーランド諸島/南西部エストコート
緑豊かな山々が島の半分を占め暖かな気候と山々がもたらす雨により農業、酪農、畜産が盛んなジーランドの玄関口。
ロストダリアとジーランドは地理的には隣だが気候も産業も真逆だ。しかし2つの地域の関係はとても深い。ロストダリアはジーランドに鉱物資源を、ジーランドはロストダリアに食料品を輸出している。
ふたりは船旅を終え、ジーランド島に降り立った。
「空気が湿ってる…乾燥してない」
ルーは初めて吸うジーランド島の空気に感動していた。ロストダリアは別に空気が汚れてるわけじゃない。けどとにかく乾燥していて、深呼吸なんてしようものなら喉がガラガラになる。
ロストダリアに比べるとジーランドの空気は湿気があって深呼吸だけで水分が補給されてるようにすら感じた。
「んー!ここも良さそうなところだな!どんな飯があるんだろ?」
ガレはルーの横で伸びをしながら呑気に食事のことを気にしていた。
「ジーランドはチーズが有名だよ。ロストダリアでもよく売ってる。いろんな種類があって美味しい。あと羊の肉も有名だな」
「羊かぁ~食ったことないけど旨いのか?」
「俺はカンガルーのほうが好きだけど。羊はステーキでしか食べたことないからなぁ…ジーランドにはロストダリアにはない羊料理があるのかもしれない」
「ジーランドのご当地羊料理か…決まりだな!羊食いに行こう!」
「また食い物から入るのかよ。お前最初に会ったときもカンガルー食いたいって言ってたよな」
「俺の故郷は魚とか海老がメインなんだよ。ニウ・カレトリアの料理は最高に旨い!けど肉は少ない!だから肉料理があると珍しくて食いたいんだ」
「へえ」
「……色んな場所の景色とか肉の味とか。帰ったら伝えたくてさ」
「?」
ガレは寂しそうな顔をした。故郷に残してきた家族や友人のことを思い出しているのだろうか?そう思った。
しかし指輪がそうではないと訴えていた。
指輪を通してガレの心が流れ込んでくる。
張り裂けそうな心の痛み。これは…
「ガレ」
ルーは思わずガレの手を握った。握らずにはいられなかった。ルーは感じたことのない種類の心の痛みを共有した。
これがガレの心?
普通に話してたのに
こんな痛みを感じて…
指輪からは感情しか伝わらないから事情は全くわからない。何があって、誰を思って、ガレが今こんな気持ちになったのか。わからないが心の痛みだけはわかる。
「…悪い、なんか伝わるみたいだな」
ガレは罰の悪そうな顔をした。
「いや…いいよ。でも何が…?」
ルーは事情を聞こうとした。でもガレの瞳を覗き込んだ瞬間、聞くべきではないと思った。
ガレの瞳は乾いていた。何も感じていない、夢も希望も失ったような…
最初に出会ったときから時折みせる、とても乾いた眼差し。
一体何がガレをこんなふうにするのだろう?でもきっとそれは今は聞くべきじゃない。
「…ペアになるとこんなことが起こるんだ。知らなかった」
「俺もだ。暗い気持ちにさせちまったな」
「ガレは根っから明るいやつだと思ってたからビックリしたけど…意外に繊細そうで安心したよ」
「なんだよそれ」
ガレは笑った。ルーは安心して手を離した。
「俺は根暗だからな。俺の方が常に暗いこと考えてるからもし伝わったら驚くぞ」
「指輪がなくても知ってるよ。初めて会った時お前の方からいろいろ話したろ。俺は何が幸せかもわからない…とかいろいろさ」
「……そういやそうだったな」
二人は笑いあった。
さっきまでの耐え難いような心の痛みも、二人で共有するだけで耐えられそうな気がしてくる。
これがペア・リングスなのだろうか?
ペアになれば誰でもこんな体験をするのか。
それとも俺たち二人が特別なのか?
‘‘この世には相性のいいジェムスとリングスが7つある。その7つの輪が揃ったとき世界を覆す力を手にするであろう’’
まだ確証はないけれど。
俺たちはセブン・リングスなのかもしれない
ルーがそう思った次の瞬間、
「ルー!!!」
ガレの叫び声と共に
「えっ」
巨大な亡霊が現れた。