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セブン・リングス  作者: しおばな
3/30

幸せになるのをやめた日

翌日、仕事を終え帰宅のさいに先輩マリナさんから一緒に帰らないかと声をかけられた。


「ルーくんと仕事できるのもあと少しだからさ、ちょっとお話ししたくて」

「も、もちろんです!」


二人は鉱山をでてまっすぐな道を並んで歩いた。


「ここの職場年配の人が多いし、歳が近いルーくんが入ってきてきたときすごい安心したんだよね」

「そんな…俺迷惑かけてばっかりであんま馴染めてないし」


ルーは赤面した。マリナさんは笑顔でルーに言った。


「ルーくんの他人と距離置いてる感じ、私は好きだよ。なんていうかさ、年配の人ってけっこうズカズカ距離つめてくるじゃん?噂好きだしね。ルーくんはそういうのないから気楽に話せて…楽しかった」


そう言いながらマリナさんはほんの少しだけ膨れたお腹をさすった。左手の薬指には指輪がある。


マリナさんはいま妊娠している。マリナさんはルーが鉱山で働き始めたときすでに結婚していて、数ヶ月前に妊娠していることがわかった。だからあと少しで鉱山を辞めるのだ。


「赤ちゃん、男の子か女の子かもうわかったんですか?」

「ううん。まだだよ」

「どのくらい大変なことかわからないけど…無事に産まれるように祈ってます」

「ありがとう」


マリナさんは微笑んだ。


ルーは出会ったときからマリナさんのことが好きだった。一方的な恋心で最初から失恋だったが、本心から彼女の幸せを願っている。


こういう人には幸せになってほしい。


二人が世間話をしながら帰る道中、奇妙な音が聞こえてきた。


コツン、コツン、コツン、コツン


石を拾っては落としているような音。ルーは全身から汗がでた。ひどい悪寒がする。


『亡霊には気をつけろよ』


昨日のガレの言葉を思い出した。


「マリナさん!あのっ少しだけでいいんで走ることってできますか!?」

「えっどうしたの急に…それはちょっと」

「今すぐここから離れたほうがいいです!」


コツン、コツン、ゴツン、ゴツン

音がどんどん近づいてくる。


「ちょっと本当にどうしたの!?」

「ただの俺の勘なんですけど近くに亡霊がいるかもしれないんです!」

「亡霊?でもまだ日暮れまで時間があるし思い過ごしじゃ…」

「わからない!けどここは危ないです!とにかく人のいるところへ避難しましょう!」

「人のいるところなんてこの辺にはないわ」


ルーは焦った。この道沿いは牧草地が広がっていて建物もあまりないし人通りも少ない。

一旦、鉱山へ戻って職場の誰かに助けを求めた方がいいだろうか?


コツンコツンコツンコツンコツンゴツン

ゴツン、ゴツン、ゴツン、ゴツ


マリナさんには聞こえていないようだがルーにははっきりと聞こえた。そして視界の端に黒い影の塊のようなものが一瞬みえた。


亡霊だ。ルーは確信した。


「ごめんなさいマリナさん!!ちょっと抱き抱えてもいいですか!?」

「うぇ!?」

「緊急事態です!おんぶだと後ろから襲われるかもしれないし、あのっ失礼します!」


ルーは有無を言わせずマリナをお姫さまだっこし鉱山へ走った。


「ルーくん…!」


マリナは驚きながらもルーの尋常ではない雰囲気を察し身を委ねた。やっと鉱山につくとまだ数人の男性作業者がいた。


「どうしたんだ!?」

「ルー!マリナも!」


ただ事ではない雰囲気に人が集まってきた。ルーは声を張り上げた。


「近くに亡霊がいます!!!」


「みんなマリナさんと一緒に建物へ避難してください!あと誰か警察に通報して亡霊がでたと伝えてください!」

「日が落ちてないのに亡霊がでたのか!?」

「わかりません、でもとにかくいるんです!とにかくみんな避難してくださ


《《意思、石、いしいしいし、ホシイ》》


ルーの言葉を遮るように亡霊の声が鉱山中に響いた。みな背筋が凍った。


切り立った岩壁の上に亡霊は現れた。人形の影のような姿で心臓の部分にはひび割れた原石の痕跡が在る。そこから太い血管が全身に張り巡らされ黒くどろどろとしたものが脈打っていた。目からは赤い涙を流している。


おぞましいその姿に恐怖で誰も動けない。


《《二苦、憎、肉、ニクタイ》》


亡霊の首はぐるりと首を180℃捻りこちらをみた。


ドッ


次の瞬間、亡霊は目にも止まらぬ速さで男性作業員の左肩を貫いた。 男性は吹き飛ばされ肩から大量の血を流した。場は混乱に陥った。


「うわああ!!!」

「きゃああ!!!」


《《源、ゲンキ、げんせき、ホシイ》》


亡霊は男性を肩を貫いた手を引き抜くとルーのほうへ視線を移した。


ルーは咄嗟に逃げた。恐怖もあるが、亡霊の狙いは自分だと理解した。ここにいてはみんなを巻き込む。


「ルーくん!」


後ろからマリナさんの声が聞こえる。怯えた声でルーの名前を呼んでいる。こんな状況で俺の名前を呼んでくれるなんて。


振り返ってしまいたかった。

でもルーは振り返らずに走った。


『原石で応戦しろ』


ルーはガレの言葉を思い出し、原石を取り出し鞄に入った斧を取り出した。この前ガレと対峙したときから護身用に持っていた。ルーは原石をつけ石斧をつくった


《《ホシイホシイホシイホシイホシイ》》


亡霊はすぐ後ろまで来ていた。ルーは震える手で斧を構え亡霊に立ち向かった。亡霊は腕を伸ばしルーに襲いかかってきた。


亡霊の手を石斧で防ぐと火花が散った。原石は光っている。亡霊の掌が大きくなり爪が伸び、原石を掴んだ。


バキバキバキバキ


音をたてて石にヒビが入っていく。脆い石の部分が崩れ、むき出しのブラックオパールの塊になっていく。


「ぅぅううう!!!」


強烈な痛みが走った。ルーの顔は涙と鼻血でぐちゃぐちゃになっていた。亡霊は原石を掴んだまま石斧を振り回し、ルーは衝撃で弾き飛ばされ壁に激突した。


「ぐぇ」


ルーはあっけなく負けた。亡霊のほうを見るとブラックオパールの原石を砕こうとしていた。


「ぅ、俺の…」


その光景を傍観しながらルーはふと思った。


砕かせてしまえばいいじゃないか

そうすれば全部終わりだ

もう苦しいことは何もなくなる


そうだ

失くしてしまえばいい

これで楽になれる

これが俺の幸せかもしれない


そう思った瞬間、ドンという衝突音と共にガレが現れた。ガレは銀のつるはしで亡霊に攻撃した。不意を突かれた亡霊は原石を手放した。


放り出された原石はルーの前に転がってきた。


ガレのつるはしは亡霊に掴まれキィキィと金属音を立てていた。金属摩擦による特有の不快な音が響いた。


ガレの目は血走って、鼻血もでていた。相当の痛みがあるのだろう。しかしガレは両足でなんとか踏ん張っていた。


「なんでここに…」


ガレは亡霊と激しく戦った。火花が散り、土煙がたった。ガレは亡霊と戦いながら叫んだ。


「はやく逃げろ!!」


ガレの銀のつるはしは亡霊に掴まれ曲がった。ガレはさらに大きな声で叫んだ。


「俺にはおまえの原石が必要なんだよ!!」


激しい攻防の中でガレは吹き飛ばされた。ルーもそれに巻き込まれ、2人とも岩壁から転げ落ちた。亡霊は遠巻きに様子を伺っていた。どちらを襲うか迷っているようだった。


ルーは原石を握りしめたまま血だらけのガレに問いかけた。


「なんでだよ……どうして…」


泣きながら問いかけた。


「なんでそこまでする!?なんでそうまでして…!どうかしてるよおまえ…!!」

「生きなきゃならねえだろ俺たちは!!」


ガレは怒鳴った。


「死ぬのは楽だ、楽に死ねれば幸せかもな、生きるのは苦しい、でも死んだあと誰かを苦しめるのはもっともっと苦しいだろ!!!」


亡霊がこちらに近づいてきた。


「ひとつだけ生きて助かる可能性がある、おまえはもうわかってるはずだ」


ガレはルーに言った。


「一か八か賭けだ。ペアになれば俺たちの原石と金属は形が変わる。もっと強力な力が手に入って生き残れるかもしれない」


ルーは唇を噛み呟いた。


「…ここで死んだほうがお互い幸せかもしれないぞ」


ガレはルーを睨んだ。


「俺は幸せになりたいわけじゃない」


そしてルーに問いかけた。


「おまえはどうだ?」


ルーは答えられなかった。次の瞬間、亡霊の攻撃が始まり二人を襲った。ガレもルーも応戦したがあっという間に制圧された。


ガレは亡霊を止めようと再び立ち上がったが、ルーは立ち上がれなかった。原石がボロボロで体も血だらけで限界だった。


ガレは声を荒げてルーに言った。


「おまえ、何が自分の幸せかわからないって言ってたよな!?なら幸せを追い求めるな!」


ルーはガレの言葉を聞きながら泣いた。


「自分のために死ぬか、誰かのために生きるか!どっちがおまえの幸せで、どっちがおまえの不幸だ!?」

「ぅ、う…」

「いま死ねば俺もお前も亡霊になるかもしれないんだぞ!!」


二人がいよいよ亡霊に潰されそうになったとき、坑道からマリナさんと従業員たちと警察が駆けつけた。


「ルーくん!あそこにいる!」

「もう一人少年がいるぞ!」


亡霊は駆けつけた人々のほうを見た。亡霊はあちらを襲う気だ。


霞む視界の先でマリナさんの姿が見えた。


「ぅう嫌だ…亡霊にだけは…」

「じゃあ誓え!!!」


ガレはルーに怒鳴った。


マリナさんは涙を流しながらルーをみていた。マリナさんのお腹には子供がいる。


「顔も知らない名前も知らない未来の誰かのために!!今!ここで誓ってみせろ!!」

「………っぅうう!!!!」


ルーは唇を噛みしめ原石を握りしめて走った。亡霊を振り切り、マリナさんたちの前にでた。


「マリナさん!!!」


亡霊が襲ってきた。ルーは原石で応戦しながら叫んだ。


「聞いててください!聞いてくれるだけでいい!どうか立会人になってください!!」

「ルーくん!?」

「俺は今からあいつとペアになる!立会人が必要なんだ!」


ガレも駆けつけ二人で亡霊と戦った。マリナは困惑しながらも戦う二人をみて頷いた。ルーはボロボロの原石を握りしめ、ガレはボロボロの金属を握りしめ叫んだ。


「ジェムス、ルー・クロノスはガレをペアに」

「リングス、ガレ・ルフェーベルはルーをペアに」


ふたりの原石と金属が光り始めた。


「病めるときも健やかなるときも」

「貧しきときも富めるときも」

「喜びのときも苦しみのときも」

「ガレを愛し」

「ルーを敬い」

「ガレを慰め」

「ルーを助け」

「共に戦い、共に生き」

「命のある限り尽くすと」

「「心の意思に誓います」」


ルーの原石はまばゆく発光し、同時にガレの金属も発光した。辺りは強い光に包まれた。


現れたルーは下半身が人ではなくなっていた。黒い原石で形成された、獣の足がついている。


現れたガレは両腕が人ではなくなっていた。銀色に輝く鋭い鉤爪の獣の腕がついている。


変化した2人の脚と腕は発光していた。


《《セ、世、無ん、セブンゥ!!》》


亡霊は悲鳴をあげると二人に襲いかかった。しかしルーは蹴りをかまし、ガレは鉤爪で亡霊を引き裂いた。


《《ァ、ァ、ァ、アアア》》


亡霊は断末魔をあげながら消えた。


「すごい…!」


マリナや警察官たちは驚いた。光り輝く二人の姿をみて、みなの頭に浮かんだのはある伝説だった。


ガレは自分の腕をみて呟いた。


「セブン・リングスだ」


ガレとルーは、お互いが強く変化したのを感じた。二人の指には輪が嵌められている。


「ルーくん!」


ルーはマリナの姿を確認すると涙を流した。


「これでよかったんだ」


それが二人の少年の後戻りできない旅の始まりだった。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


人は誰しも幸せを追い求めて生きる。

でも俺は幸せを追い求めるのをやめた。


逃げても逃げなくても結末は変わらない。どちらにも俺の幸せはない。


だから誓った。顔も知らない名前も知らない未來の誰かに。いつの日かきみを必ず幸せにしてみせるよと、誓ったんだ。

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