白紙の手紙とガレの過去
シャワーを浴びてリビングへいくとリリーとメアが手紙を広げ待っていた。
テーブルに広げられたのは7枚の手紙。
「この手紙、今朝うちに届いてた」
ルーは手紙をみた。手紙はどれも白紙で何も書かれていなかった。
「白紙の手紙?」
「そう。でも内容は重要じゃない、重要なのはここ」
そう言うとリリーは手紙が入っていた封筒を指差した。そこには宛名と送り主の住所が書かれている。
「あたしはこの字体に見覚えがある」
リリーはそういうと以前に見せてくれたガイコクジンからの手紙を出した。
字が今回来た手紙とそっくりだ。
この辺りではあまりみない独特の字体で書かれている。読めるけど、変わった字体だ。
「これってガイコクジンからの手紙ってこと?」
「たぶんね。毎回送り主の住所は違うんだけど今回はニウ・カレトリアから送られてきてる」
「!」
ニウ・カレトリア。その言葉にガレは反応した。カレトリアはガレの故郷だ。
「あんた達の力もだいぶコントロールできるようになったし、亡霊を倒してお金も貯まった。そこであたしからひとつ提案」
リリーはそういうと人差し指を出した。
「この4人でニウ・カレトリアに行くのはどう?ニウ・カレトリアに行って手紙の差出人を探すの」
ガレは腕を組みしばらく考えたあと言った。
「…カレトリアは狭い島だが、周りに離島がたくさんある。名前もついていないような小さな無人島とかな。そこからカレトリア本島に渡って手紙を出したのなら探すはかなり難しいぜ」
「でも他に手がかりもない。しかも何も書いてないのを見るに相手も警戒してるのかも。パパが返事を書けなくなってからやり取りが途絶えたからね。相手の出方を伺ってここでずっと待ち続けるよりこれを頼りに動いてみるのはアリじゃない?」
「……確かにな」
「ガレはニウ・カレトリア出身でしょ?なら探すの楽じゃん。あたし達だけだと無理かもだけどガレがいれば、大丈夫。そうよね?ルー」
「まあ、そう…だよな…」
メアが無邪気に問いかけた。ルーはガレの表情が気になってうまく答えられなかった。
カレトリアという言葉が出てからガレの顔はずっと曇っている。
ガレは目を閉じて何かを覚悟すると言った。
「わかった。行こう。ニウ・カレトリアへ」
リリーとメアは笑った。
ルーは笑うべきなのかわからなかった。
かくして4人は明日、ニウ・カレトリアへ向かうことになった。
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話し合いも終わり、いつものように各自寝床につく。ルーとガレはロフトに上がり、布団の上に座った。
そしてそれぞれの原石、金属を出した。
磨き布でお互いのものを丁寧に磨いていく。
ルーは最初こそ緊張していたが今ではガレに磨かれることに安心感を覚えるようになっていた。
ブラックオパールを磨く、ガレの優しい手つき。触れられたところが少し熱を持つような感覚。
ガレはルーの原石を磨きながら独り言のようにポツリと呟いた。
「ルー。いつかお前に話すって言った俺のこと、いま聞いてくれるか?」
「…うん」
「俺には大切な人がいるんだ」
ルーの原石を磨くガレの手つきが少し変わった。緊張しているのかもしれない。
「……俺には恋人がいる…クロエって名前で…幼なじみだ」
恋人。
ルーには恋人がいたことがないけれど、恋をしたことはある。ロストダリアにいたとき、ガレに出会う前。ルーはマリナさんに恋をしていた。叶わない恋だったけど。
ガレは話を続けた。
「…クロエはジェムスなんだ」
「…え?」
「……クロエはジェムスで、俺はリングス。何をしたかなんとなく想像がつくだろ?」
そう言うとガレは自分の胸を指差した。ガレの胸には大きな火傷の痕がある。
ルーはガレとの会話を思い出した。
‘‘この傷、前にペアになろうとして拒絶反応が起きてこうなったんだ。痕が酷いけど別に対したことはないから気にするな’’
拒絶反応…。
「ペアになろうとしたの…?」
「……あぁ。俺達は自分達がセブン・リングスだって信じてたんだ。でも違った……拒絶反応が起きて、クロエも俺も胸が焼け焦げて痕が残った」
ガレは泣きそうになっていた。
ルーの原石が反応する。
ガレの心が震えているのがわかる。
その時のガレの過去の記憶が指輪を通して伝わってくる。
以前にもみた白い髪に褐色肌の女の子が笑っている。10歳くらいだろうか?
たぶん、この娘がクロエだろう。
これはガレの子供時代の記憶だ。
クロエはガレの手を取り自分の胸に手を当て原石を取り出した。
クロエから取り出された原石は白い石だった。
ルーはその原石に見覚えがあった。
いま、ガレが手にしているルーの原石とよく似た特徴的な輝き。
これは…白いオパールだ。
「その子は…ホワイトオパールの原石を宿してたの?」
ルーはガレに問いかけた。
「ああ」
ガレは乾いた声で答えた。
ルーの心の奥が疼く。原石が熱をもつ。
ガレの記憶がさらに流れ込む。
クロエはガレのシルバーを手に、ガレはクロエのホワイトオパールを手に、誓い合っていた。
立会人はいない。子供の遊びでペアになる真似事をしたのだ。
二人が誓いの言葉を終えるとお互いの胸から炎が上がった。ガレもクロエも悲鳴を上げた。
二人はお互いの原石と金属を手離し、手を繋いだ。罰を与えるように炎は激しく燃え続ける。クロエとガレは手を繋いで必死にそれに耐えていた。
思わず目を背けたくなるような光景だった。
そこでガレの記憶は終わった。
ルーはガレになんと声をかけたらいいのかわからなかった。
「……辛かったな」
ルーはガレの金属を置き、ガレの手を握った。
「…俺がお前にしてやれることなんて何もないけど……」
ルーの言葉を聞いてガレは驚いたような顔をした。そして言った。
「何言ってんだ。お前は俺に与えてくれたよ。充分すぎるほど沢山のものを」
「え」
「……ルーに会うまで、俺は……逃げるように生きてた…」
ガレはルーの手を握り返した。
「…知ってるか?ルー。ペアを作らないまま死んだジェムスやリングスが亡霊になると……生きてた時に愛した相手を真っ先に襲うんだ…」
ルーは息をのんだ。
「……俺は…クロエのことが好きだ。クロエも…俺のことが好きだと言ってくれた……俺達は愛し合ってる…小さい頃から一緒で……いつまでも一緒にいられると思ってた…ペアになれると思ってた。きっとセブン・リングスなんだって。でも俺達の金属と原石はお互いに拒絶反応を起こし、普通のペアにすらなれない。これが何を意味するか…わかるだろ」
つまり、死が二人を分かつとき…
「俺は死ぬまでクロエ以外の誰かを愛することはないだろう……でもそれは……最後には俺が亡霊になってクロエを殺してしまうかもしれないってことだ。それだけは嫌だ…。だから俺はペアになれる原石を、ジェムスを探して旅に出た」
ルーは複雑な気持ちで話を聞いていた。
「……亡霊になってクロエを殺してしまうくらいならどこかのジェムスを傷つけても構わないって思った。だから今までいろんなジェムスを傷つけてきたし…お前のことも傷つけた…クロエ以外の誰がどうなろうがどうでもよかった」
ガレは懺悔するように項垂れた。
「…お前に初めて会ったとき、俺偉そうなこと言ったよな。自分以外の誰かのために生きろって…俺にあんなこと言う資格ないのに」
ガレの顔は髪で隠れて見えない。
「……俺はクロエのペアにはなれない。でももし、他の誰かがクロエとペアになったら……そう考えると気が狂いそうだった。俺が死んだらクロエを殺すかもって考えながら生きていくのも、気が狂いそうだった……クロエは誰ともペアにはならないって言う。だから俺も誰ともペアにならないでくれって…もし俺が死んで亡霊になって殺されてもいい、それが私の幸せだって言うんだ」
声が震えていた。
「でも俺は…そんなの嫌なんだ。クロエには……最後まで、幸せに生きてほしい…」
ガレは泣いていた。
「だからすがるようにセブン・リングス伝説を信じた。もしこの世に俺とペアになれるジェムスがいて、それがセブン・リングスだったなら…世界が覆って…クロエを幸せにできるかもしれない」
ガレは涙目でルーをみた。
「でも心のどこかでいつも思ってたんだ。クロエはいずれ誰かとペアになって不幸な人生を歩んで…俺はペアを見つけられずに死んで、最後はクロエを殺すんだろうって。抗って生きても諦めて死んでも…どっちでも結末は同じなんじゃないかって…。そんな不安から逃げるように…ひたすらペアを探して生きてた」
ガレはすこし笑った。
「そんな時、お前に会ったんだよ」
ガレの笑顔は儚くて今にも壊れてしまいそうだった。
「ルーとペアになれて、俺は……生きる勇気が湧いてきた。生きることに希望がもてた」
ルーは嬉しかった。自分がガレに必要とされているということが。誰かの幸せに繋がる希望であるということが。何よりも嬉しかった。
「…俺もだよ、ガレ。お前とペアになれなかったら、俺の人生は今とは違ってた。俺はやり過ごすように…自分のことだけ考えて生きてたけど…今は違う。ガレに会えたからだ」
ルーは再びガレの手を強く握った。
「カレトリアにいったら、クロエさんを紹介してよ。会いたいんだ」
ガレは笑った。今度はいつものような笑顔だった。
「あぁ。もちろんだ。ペアだって言ったらクロエは怒るかもしれねえけど」
「俺、嫌われるかな?」
「大丈夫だろ。俺達はセブン・リングスなんだから。この力を見たらクロエもきっと信じてくれる。それに…お前とクロエはどこか似てる。きっと気が合う」
「オパール同士だから?」
「そうかもな」
そういってふたりは笑い合った。
そして明日に備えて布団に入った。
ルーはカレトリアとクロエのことを思った。ガレの故郷は、ガレの愛する人は一体どんなところでどんな人なんだろう?
そんなことを思いながら、ルーは眠りについた。




