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セブン・リングス  作者: しおばな
20/30

素晴らしい仕事

「ルー!そっちに行ったぞ!」

「メア追って!」


真夜中のジーランド。


満点の星空の下。

少年少女の声が響き渡る。


広大な牧草地に揺れ動く人型の影。


亡霊だ。


ペアを作らなかったジェムスやリングスの成れの果て。人々の心にある石を求めてさ迷っている。


ガレとリリーは亡霊を追い込み、それをルーとメアが追いかけていた。


「逃がさない」


ルーは低い声で呟く。


メアが先回りして亡霊の退路を防ぐ。


「ルー!今だよ!」


亡霊は血の涙を流しながら逃げ惑う。


《い、衣、嫌、嫌だ》


ルーは亡霊の顔を見た。

眼球のない瞳から流れる血。


心臓の部分は穴が空いて錆がついている。かつてそこにあった金属の痕跡だろう。


そのおぞましい姿をみて思うのは、

ありえたかもしれない自分の姿


この人だってなりたくて亡霊になったわけじゃない


きっと彼なりに悩んだともあっただろう


自分のために人生を生きたい

不幸になりたくない

幸せになりたい


悩んだ末に、そう願っただけだ。


それの何が悪い?

誰が責めることができる?


自分の幸せを求めて生きることは

責められることじゃないはずだ


ルーだってそうだった。

そう思って生きていた。


「ごめんなさい」


最後の一撃を決める瞬間、ルーは自然にその言葉を口にしていた。


蹴りを入れると亡霊は消えていった。


ルーが初めて亡霊を仕留めたその日。

心に残ったのは後味の悪い罪悪感だった。


俺は一体何に対して謝ったのだろう?



‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


「ご苦労様でした。君たちのような若いリングス、ジェムスがペアを組み、尚且つ命をかけて亡霊と戦う姿はこの社会で生きるジェムスやリングスに大きな勇気と希望を与えることになるでしょう」

「ありがとうございます」


亡霊を倒したあと、4人はジーランド南西部エストコートの市庁舎にて市長から感謝の意と賞金を受け取った。


市長は品の良さそうな年配の女性で、ルー達を労ってくれた。


「我々はこれからも社会の安全を守るためにジェムスリングスとしての役目を果たしていきます。次に亡霊が発生した際にも必ず退治してみせます」


リリーもガレも普段とは違いかしこまった態度で市長と面談していた。きっと馴れているのだろう。


市や警察からの依頼で亡霊を退治し、謝意と報償金を得る。全うで素晴らしい仕事だ。


素晴らしい仕事。

社会の役に立つ仕事。


社会の害である亡霊をジェムスやリングスが倒すことで社会から認められる。


何も問題はないはずなのにルーの心の中にはずっとモヤモヤしたものが残っていた。


4人は市庁舎をでてリリーの家に帰った。家に帰ると、リリーはさっそく報償金の額を数えていた。


「んー、560万ダリアか。思ったより少ないけど仕方ない」

「560万ダリア!?そんなに貰えるの!?」


ルーは驚いて思わず声をあげてしまった。事前に聞いた情報では今回の亡霊はまだ人的被害も出していない。実際に戦っても素早いだけで前にガレと戦った亡霊や魚の亡霊なんかより全然弱い感じがした。


けど報償金はルーが鉱山で働いていた時の年収の倍くらいの金額だ。


「あら、驚いた?この間の魚の亡霊の時なんかは2千万ダリアだった。モノによっては1億越えることもある。そうね?ガレ」

「…亡霊は政府じゃ対処できないからな。リングスが戦うしかないが勝つことは稀だ。被害が出続けることを考えたら亡霊に勝てるやつにこのくらい払うのは妥当なんだろ」

「………そうなんだ」


ルーはますます複雑な気持ちになった。


「お金入ったしさ!今日はパーティーしよ!ルーの初亡霊退治記念!いつもより豪華な料理作ろ~」


メアはルーとは反対にお金が入ったことを喜んでいた。


その日は高級なお肉を買って、豪華な食事をした。とても美味しいはずなのに、なんだか味気なかった。


食事が終わってガレと一緒に皿洗いをしていると、ガレが話しかけてきた。


「体は大丈夫か?ルー」

「うん…」

「亡霊を退治するの初めてだったもんな。疲れたろ」

「…いや、疲れてはいないよ」

「………そうか」


二人はしばらくの黙ったまま並んで皿洗いを続けた。洗い終わるとガレがポツリと言った。


「…お前が思ってることはなんとなくわかる。亡霊退治は気分がいいものじゃないからな」

「……でも社会には必要とされてる仕事だ。必要とされてるだけじゃなくて称賛されるような凄い仕事…なんだよな」


ルーは下を向いた。

そんなルーにガレは言った。


「そうだな…でも俺は亡霊を倒す度に思うよ。俺もああなってたかもしれないって。だから正直、亡霊を倒す時は複雑な気持ちになる」


ルーは顔をあげた。


「でも今はお前がいるから」


ガレは笑って言った。


「楽になったよ。ルーはどうだ?」

「俺は…」


ルーが答える前にリビングからリリーの声がした。


「皿洗い終わったらシャワー浴びちゃって。話があるから」

「わかった」


ガレはそう言うとシャワーに向かった。


「ルー、寝る前に原石を磨こう。俺のも磨いてくれるか?」

「…うん」


ガレは少し悲し気に笑うとシャワーへ向かった。


ルーはガレと力を解放して戦っている時よりも、お互いの心を分かち合えた気がした。

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