袋の中身
ジーランド諸島にきて2日。
リリーとメアに出会い今まで知らなかったことを知った。
宝石商による人身売買があること。セブン・リングス伝説は70年前広まった噂話だということ。亡霊の発生率が高まっていること。
世界は丸くて広いこと。
ロストダリアの反対側には外国人という人達がいて、その人達はセブン・リングスについてよく知ってるということ。
リリーの父親が外国人とやり取りしていた手紙に『残るセブン・リングスはあと1つ』と書いてあったこと。
全てを知った後でも、ルーは自分達がセブン・リングスだと確信が持てなかった。
今ここで起きた奇跡を目にするまでは。
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「…………嘘だろ…」
目の前に広がるジーランドの穏やかな海。
それが今、真っ二つに裂けた。
波が高い壁をつくり海底が剥き出しになって浜辺から10m先まで一本の道ができている。
現実とは思えないような光景。
ルーはずっと前に図書館で読んだ『奇跡の人』の話を思い出していた。セブン・リングス伝説のことを調べるついでに読んだ他の伝説の中に海を割って民を逃がすという奇跡を成した聖人の伝説があった。
いま目の前で起こっているのはまさにそんな感じの奇跡だ。
まあ奇跡を起こしたのは
聖人ではなくガレなのだが。
遡ることほんの5秒前。
ガレは海に向かって鉤爪をぶん回した。その瞬間、強い衝撃波と共に不快な金属音がした。
そして海が引き裂かれ道ができた。
「………マジ?」
「ガレすっごぉい…」
これにはリリーとメアも驚いていた。
ルーは目の前で起こっていることが理解できずにしばらく唖然としていた。
「…………」
ガレ自身も自分の力に驚いているのか無言で自分の手を見つめていた。
やがて海の壁が一気に崩壊し派手な波がおきた。ルーはもろに波を被ったがそんなことは些細なことだ。
「海を切り裂くなんて規格外ね」
リリーはガレに近づき、銀に輝く鉤爪に触れた。そしてルーの方をみた。
「この力がセブン・リングスじゃないなら、何を信じればいいかわかんない。そうでしょ?ルー」
確かにそうだ。圧倒的な奇跡を前にルーは信じることしかできなかった。
俺達はセブン・リングスなんだと。
ガレは自分の力を確かめるように拳を握り、ものすごく嬉しそうにルーの方へ駆け寄ってきた。
「すっっっげえよ!!ルー!!!やっぱ俺達はセブン・リングスだ!!!こんな力があればどんな亡霊だって倒せる!!きっと世界だって変えられる!!!!!」
「ちょ、ガレ!いっ、い、痛い痛い!爪が腹に食い込んでる!!!」
ガレは鋭い爪を剥き出しにしたままルーを持ち上げ胴上げした。爪がお腹の袋部分に食い込んで痛い。下半身全体が原石のように硬いのに、なぜか袋の周りだけは柔らかいままだ。
「悪い、嬉しくてつい」
ガレは手を離しルーを下ろした。
「これなら船無くても海渡れそ~。そうよね?リリー」
「本当に桁違い…でも今みた感じ、あんた達はバランスが悪い」
ルーは尋ねた。
「バランス?」
「力の解放バランスよ。見てて思ったけどガレの力にルーが引っ張られてない?」
「確かに…」
「ガレは力の解放に慣れてるけどルーは慣れてない」
「そうかもな。海渡ったときも俺が強引にルーの力を引っ張り出したし」
ガレがそう言うとリリーは少し呆れ顔で言った。
「今までルーの合意無しでやってたの?あんた爽やかな外見して強引なやつね」
ルーはリリーの言葉に心の底から同意した。ガレの見た目と行動のギャップはすごい。見た目は品のある美少年だけど行動は…出会ったときから一貫して強引だ。
「とりあえず、あんた達ふたりはもう少し力を分け合えるようにしないとね」
「でもどうやって?」
ルーが聞くとリリーは笑った。
「今からお手本を見せてあげる」
リリーがそう言うと、メアが嬉しそうにリリーと手を繋いだ。
ふたりの体が光りだす。
火花が散る。
リリーの上半身、主に肩から先が鳥の翼のように変化した。金で形成された黄金の羽が太陽に輝く。
メアの下半身、主に腰から下が鳥のように変化した。ダチョウのような飛べない鳥の脚だ。太くて頑丈そうな鳥の足が翡翠で形成されている。
「これがあたし達の力」
「けっこう凄いでしょ?」
リリーとメアは笑った。そして言った。
「でもあたし達はペアだからもっとすごいことが出来る」
そう言うとふたりは祈るような仕草をした。メアは両手を合わせ指を組み、祈る。リリーは翼を折り合わせた。
するとふたりは更に光り輝き姿を変えた。
リリーの膝から下にメアと同じように翡翠の鳥の足が形成され。メアの肩から先が金の鳥の翼がで形成されていた。
力をお互いに分け合ったような姿だ。
ルーはその姿を見て、本でみたハーピーという架空の生き物を連想した。女の人の体に鳥の羽や足がついている架空の生き物。あれが実在するとしたら丁度こんな感じだろう。
「おぉ!それいいな!どうなってんだ!?」
ガレは感心していた。
「同じくらいの感覚で力を解放するの。そうすると、合体って感じでお互いの力を分け合えるようになるの。そうよね?リリー」
「あたし達も何度も試してるうちに出来るようになった。このほうが強いしなにかと便利。だからあんた達も出来るようになったほうがいい」
ガレは目を輝かせた。
「俺達もやろうぜ!」
「いや、簡単に言うけどやり方が…」
ルーが戸惑っているとリリーとメアが再び光り、元の人間の姿に戻った。
「力の使い方は理屈じゃない。ひたすら息が合うまでやり続けるしかない」
「ていうかガレもルーもその姿でいてもなんともないんだね。あたし達はすぐ疲れちゃう」
「そうなのか?俺は全然疲れてないぞ。なあ?」
「うん。別に疲れたりとかはないかな」
ガレの言うとおり疲労を感じたりはしなかった。この姿になってからまだ10分くらいだろうか?違和感はあるけど、それ以外は特になんともない。
リリーは感心しているようだった。
「同じセブン・リングスでも違うのね」
「…まあでも一旦元の姿に戻るか。ルーに力の解放の仕方教えたほうがいいしな」
ガレは目を閉じて元の人間の姿に戻った。
ルーはガレが戻れば自分も元の姿に戻るとばかり思っていた。
…しかしルーは元の姿に戻らない。
「あれ。ガレは戻ったのに俺は戻れないのか?」
「そうみたいだな」
リリーは言った。
「セブン・リングスの力も基本は原石や金属の力を使うときと同じよ。自分の意思でコントロールしなきゃ。ルーはそのへん今までガレに任せっきりだったでしょ」
「…そうかも」
「それが原因じゃない?自分の意思で戻らなきゃ」
「そうなんだ」
そう言われルーは戻ろうとした。しかし戻れなかった。よく考えたらそもそもルーは自分の原石の力をコントロールしたことなんてない。戻れなくて当然だった。
「ダメだ、ぜんっぜん戻れない」
「まあそのうち戻るだろ」
ガレは呑気に笑っていた。
そしてメアがニヤニヤしながらルーに近づいてきた。
「ねぇルー!そのポッケみたいなやつ触ってもいい!?あとであたしのも触っていいから。触らせて!」
「えっ…いいけど…」
「あたしカンガルーのポケット触ってみたかったの!」
そう言うとメアは遠慮なくルーの腹部のポケットに手を突っ込んだ。
「ひぁ!?」
ルーはビクっとした。袋の内側は凄く感覚が敏感になっている。あと…なんだろう、体に手を突っ込まれているような…とにかく圧迫感がすごい。
「……………」
メアは手を突っ込んだまま黙っていた。そして口を開いた。
「………あったかい」
「え?」
「凄いあったかい~!しかもぴったりくっついてて包まれるって感じ!安心感するぅ。カンガルーのポッケの中ってこんな感じなんだぁ」
メアは感動したか袋の中をまさぐるように手を動かした。
「原石で出来てるのに柔らかくてあったかいなんて不思議~しかもなんか広い?もっと大っきいものも入りそう」
「あっ、ちょっとメア動かさないで!ん、ちょ、ちょっと」
ガレはその様子をみて興味津々で近づいてきた。
「マジかよ。俺も入れたい」
「はぁ!?おい待てガレ!」
「俺もカンガルーの袋ん中ってどうなってんのか気になってたんだよな~」
「おい待てって!あっ…」
ガレは有無を言わさず袋に手を突っ込んできた。
「いっ、あっ、ガレっ、いっ…」
ガレは一気に肘の辺りまで手を入れた。メアの手より奥まで入ってきて、奥はより敏感になっていてー変な声がでてしまう。
「ガレ、んっ…や、やめてくれ、なんか変な感じがするっ…手を抜いてっ!」
ルーが必死で訴えていのにガレは無視して手を突っ込んだままでいる。
「…………あったかい。キモチイ」
「でしょ~凄い気持ちいい」
「ずっとここに入ってたい…すごい居心地だな」
「カンガルーの赤ちゃんってきっとこんな気持ちなのね。よく眠れそう」
ルーの言葉を無視して二人は袋の感想を言い合っていた。なんだか屈辱的な気分だ。
「おい!ふたりともやめてくれって言ってるだろ!?」
ルーは思わず声をあげた。
「そうよ。二人とも」
「リリー…!」
「あんた達だけズルい。あたしも入れたい」
「え!?」
止めてくれるかと思ったリリーも参戦してルーの袋に手を突っ込んできた。
「凄い…気持ちいい…あぁ、こういう寝袋欲しい。どこでも野宿できそう」
「だろ?」
「リリー入ってもまだ余裕ありそう~どのくらい入るのかな?」
「これ奥行きどうなってんだ?もっと奥まで続いてんのか?」
「さあね。でもルーの体より大きいものでも入りそうな感じがするわ」
ガル、メア、リリーは悪びれる様子もなく好き勝手にしている。
「三人ともいい加減にしてくれ!!!」
ルーの悲痛な叫び声がジーランドの海岸に響く。
結局そのあと元に戻るまでさんざん袋の中を弄られた。




