黒と銀の獣
翌日。
ガレとルーは朝から海岸へ来ていた。
昨日ルーが気絶していた海岸へ。
「ここはうちのプライベートビーチだから人は来ない。だから好きなだけ力を解放して」
リリーはそう言うと両手を広げふたりを鼓舞した。メアは横で眠そうに目を擦っている。
「さぁ!みせて!あなた達のセブン・リングスの力を」
「おお!やるぞルー!」
「ぉ、おお…!」
そう意気込んだものの正直力の出し方なんて全くわからない。最初に亡霊と戦ったときは必死でいつの間にか力が発現したけれど、自分の意思で力を出せと言われても…。
ルーは取り敢えず念じてみた。目を閉じて左手の拳を握り指輪に強く念じてみる。
「…………」
しかし何も起こらない。
それならと、念じるのをやめて亡霊に襲われた時のことを思い出してみた。忘れもしないあの恐怖。
「…………」
しかし何も起こらない。
「…ごめん、何も起こらないんだけど」
必死こいて力を引き出そうとするルーをリリーとガレはアホかこいつという顔で見ていた。もちろん口ではそんな事言わないが表情が物語っている。
「なんだよ!やり方知ってるならレクチャーしてくれよ!」
「ハハッ、悪い悪い。面白くてついな」
そう言うとガレはルーの手を握った。すべての指を絡ませ握る。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
突然のことにルーは動揺した。
「ちょっ、なっ」
「これでいいんだよな?リリー」
「そうね。指輪が触れてりゃなんでもいいけど最初だからね」
「じゃあいくぞ」
「えぇ!?」
そう言うとガレは有無を言わさず力を解放した。ジーランドに来る前、『海渡り』だとかいって海上を歩いたときのように力を解放していく。
ガレの金属の力が解放されていくのに釣られてルーの原石の力も半ば強引に解放されていく。
指輪が熱を持っていく。
どうしようもない力が溢れてくる。
怖い。けど、止められない。
ふたりの体が光に包まれ衝撃が走る。ルーの下半身とガレの上半身に激しい火花のようなものが散った。
そして、ふたりの肉体は変化した。
ロストダリアで誓いを立てたあの時のように。
「俺の半身が…」
ルーの腰から下はブラックオパールで形成された獣の姿に変化していた。
二足歩行でバネがありそうな独特の脚。バランスを取るための長くて太いしっぽ。
なにより特徴的なのは、お腹についてる大きめのポケットみたいな袋。
これは…どこからどう見ても…ロストダリアでお馴染みのあの動物。
「カンガルー!?」
ルーが驚愕するのを他所にガレとリリーは冷静そのものだった。
「カンガルーだな」
「カンガルーね」
他人事だと思って…!こっちは下半身がいきなりカンガルーになったのに!
「なんでカンガルー!?ていうかガレの腕も変わってない…!?」
「おー、俺のもなんかの動物だな」
ガレの上半身…主に肩から先がシルバーの金属で形成された獣の姿に変化していた。太陽に反射してギラギラと輝いている。
鋭い鉤爪。一見すると何かの肉食獣の腕にみえるが、ルーはその爪に見覚えがあった。あの爪は獲物を捕まるためのものじゃなくて木に捕まるためのもの。
これまたロストダリアではお馴染みの動物…。ガレのあの腕はたぶん…
「コアラ?」
「コアラっぽいな」
ガレは冷静に自分の両腕を確かめていた。鍵爪の感じはどう見てもコアラだが、コアラより鋭く危険な感じがする。
いやコアラの爪も十分危険だが。
ガレの爪は動物のコアラより明らかに異質な鋭さを放っていた。シルバーの金属で形成されているからだろうか?
ガレとルーがお互いの変化を確認しているとメアが興味津々といった感じでルーに近付いてきた。ルーの下半身をまじまじと見つめる。
「へぇ~カンガルーってこんな感じなんだ~。あたしカンガルーみるの初めて」
「いや俺はカンガルーじゃない!あっいや…その確かにこの下半身はどう見てもカンガルーだけど俺はカンガルーでは」
「ねえジャンプしてみて」
「え!?」
「カンガルーってジャンプして移動するんでしょ。あたしカンガルーのジャンプみたい」
「いやいやいや!俺は」
「え~いいじゃん。せっかく力を解放したんだし思いきってトんでみなよ」
「そんなこと言われても…」
「ちょっとでいいからさ!ねっ!」
メアは手を合わせてお願いしてきた。ルーがどうしようか迷っているとガレが声をかけた。
「何ができるか知るのに丁度いい。最初に亡霊倒したときもお前の跳躍力と蹴りはすごかったしな。試しみやってみようぜ」
「う、うん。わかった」
ルーは恐る恐る脚に力を入れ、地面を踏みしめ、真上に向かって垂直にジャンプしてみた。
すると、
なんと一気に10mくらい飛び上がってしまった。
「うぉおお!ちょっ、落ち、落ちる!!」
予想外の跳躍力にルーは大混乱だった。 カンガルーが一蹴りで真上に10mも飛び上がるなんて聞いたことない。
「すげぇー!めっちゃ飛んだ!」
「カンガルーってあんな飛ぶんだぁ」
「普通のカンガルーはあんなに飛ばないわよ。あれはセブン・リングスの力」
着地をどうしようかとパニック常態のルーをよそに三人は完全に見物客モードになっていた。ちょっとくらいは心配してほしい。
「っ!」
地面に叩きつけられるかと思ったがスムーズに着地できた。人間の脚とは全然違う。バネがあってすんなり着地できた。
「とりあえずルーの力はカンガルーってことで間違いなさそうね。凄まじい跳躍力。蹴りも強烈そう」
リリーはノートを用意し、ルーを観察しながらスケッチとメモをとっていた。
「次は俺だな」
ガレは自信満々に笑い銀に輝くその爪を研いだ。




