磨き合いと約束
シャワーを浴びてでると着替えが用意されていた。男物のベージュのパジャマ。たぶんリリーの父親のだろう。
ルーが袖を通すとかなりサイズが大きかった。リリーはかなり長身で大柄だから父親もきっと大柄な人なんだろう。
ズボンはブカブカ過ぎて履けなかった。仕方がないので上着だけを着た。丈の短いワンピースみたいになってしまって恥ずかしい。
シャワールームをでるとちょうど上半身半裸状態のガレが入ってきた。ガレはルーをみて少し笑った。笑っているがさっきまでのからかいの様子はない。
「スカートみたいになってるな」
「し、仕方ないだろ!サイズが合わないんだよ」
「まあ仮物だし、文句は言えねえわな」
ルーはガレの裸を初めて見た。
服を着てた時はわからなかったがガレの上半身はけっこう筋肉質で…傷だらけだった。
特に胸の辺りに大きな火傷の痕がある。見てはいけないと思いつつ、つい見てしまう。
ガレはルーの視線に気づいたのか自分から話した。
「これ、前にペアになろうとして拒絶反応が起きてこうなったんだ。痕が酷いけど別に対したことはないから気にするな」
「そうなんだ…。拒絶反応ってそんなにすごいものなのか?」
「まあな」
ガレは少し悲しげな顔をした。
これ以上は聞いてはいけない気がする。
「明日は力を使うからな。早く休めよ」
「うん」
ルーはシャワールームを後にリビングへ向かった。リビングの端っこに梯子がかかっていてそこからロフトに繋がっている。
リリーとメアはもう寝室へ行ったのか、部屋は静まり返っていた。ルーは梯子を登りロフトに上がった。
ロフトには布団が並んで並べられていた。確かにちょっと狭いけど密着しなきゃ寝れないというほどでもなかった。
布団の横には石磨きに使う特性の布が置かれていた。たぶんリリーとメアが置いておいてくれたのだろう。
ルーは布団に横になり、吹き抜けの天井から見える夜空を見上げた。ジーランドの夜空は見事なものだった。宝石を散りばめたような星空。時折流れ星がみえた。
ルーには特に願うことはない。
ただ横になって流れ星を眺めていた。
するとガレがシャワーを終えてロフトに上がってきた。
「寝れないのか?」
「うん。なんか色々ありすぎて…」
ガレはルーの横の布団に座ると、置かれた磨き布を取り、自分の胸に手を突っ込みシルバーの金属を取り出した。
ガレの金属シルバーは整った幾何学的な形をしていて、輝いている。とても綺麗だった。金属を見るのは初めてだ。
「お前も原石を磨けよ。船に乗ってから磨いてないだろ?そろそろ磨いたほうがいい」
「うん」
ルーは胸に手をいれブラックオパールの原石を取り出した。ガレには前にも見せたことが…というか強引に取り出されて見られたことはあるが自分から見せるのは少し恥ずかしかった。
ルーはずっと原石を隠して生きてきたから、人前でこんな風に原石を出すことに慣れていない。
久々にみるブラックオパールの原石はガレとペアになって以来、かなり形が変わった。前はゴツゴツした石に原石が混じっているような無骨な形をしていたが、今はブラックオパールのみで形成さていてアクセサリーに使われる宝石みたいに加工された楕円形だ。
ルーがしばらくブラックオパールを眺めているとガレが手を差し出してきた。
「磨いてやろうか?」
「えっ?」
「おまえ、俺とペアになって原石の形が変わっちまったし。原石は他人に磨いてもらう方が綺麗になる」
「でも…」
「大丈夫だ。傷つけたりしない」
ガレは微笑んでみせた。安心するような笑顔。ルーは恐る恐るガレに原石を渡した。
ガレはルーの原石を受けとると自分の金属を渡してきた。
「俺がおまえの原石を磨くから、お前は俺のを磨いてくれないか?」
「え…」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ、でも俺他人の磨くのも金属を磨くのも初めてだし傷つけたら…」
「傷ついたりしないさ。俺はお前に磨いてほしいんだ」
ガレはまっすぐルーを見つめて言った。ルーは恥ずかしくなりながらも頷いてガレの金属を受け取った。
ガレは手にしたブラックオパールの原石を磨き布で丁寧に磨いた。その手つきは自分で磨くときとは全然違う。
優しく触れられるたび、何か触れられてはいけない部分を触れているような、妙な感覚が身体に走る。
「あっ…」
思わず変な声がでてしまう。
「他人に触れるのは初めてか?」
「うん…」
「変な感じするよな。最初は」
ガレは優しくルーの原石を磨き続けた。
「んっ…っ、」
「痛いか?」
「ううん、大丈夫…」
ルーもガレの金属を磨いた。どう磨いていいかわからなかったが、とりあえず優しく撫でるように磨いてみた。
「ガレ、これでいい?」
「ああ。もっと強く擦ってもいいぞ。金属は頑丈だからな」
よくみるとガレのシルバーの金属は所々曇っていた。ストレスが貯まっていたのかもしれない。ルーは曇った部分を少し強めに擦ってみた。
「なんか、あいつとは手つきがたいぶ違うんだな」
ガレは何かを思い出すように笑った。手つきがだいぶ違う。それって…。
「ガレは誰かに磨いてもらったことがあるのか?」
ガレは少し目をふせ、呟いた。
「あるよ」
「………それはもしかして…今日俺の頭に浮かんだあの女の子?あの白い髪の…」
特に根拠はなかった。ただなんとなくそう思っただけだ。あのとき唐突に共有されたガレの記憶の女の子。
「そうだ…」
「あの子は…ガレの大切な人?」
ガレはルーを見た。冷たくて乾いていて、夢も希望も失った瞳。
「ああ。この世界で一番大切な人だ」
ルーはその言葉に少しだけ胸の奥が疼いた。俺はガレのことを何も知らない。心や記憶を共有しても何一つ知らないままだ。ガレがセブン・リングスを求める理由すら、俺はまだ知らないでいる。
「いつかその子のこと、話してくれないか?俺…よく考えたらガレのこと何にも知らないんだ…。話したくなったらでいいからさ」
「…そうだな。お前には、いつか話すよ」
ガレは微笑んだ。
「もう寝よう」
「うん」
ふたりは布団に横になった。
ガレはルーを見つめた。
「おやすみ、ルー」
「おやすみ。ガレ」
その日はとても安らかに眠れた。
深くて優しい穏やかな眠りだった。




