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セブン・リングス  作者: しおばな
15/30

世界のかたち

「俺たちが最後のセブン・リングス…!?」


ジーランド諸島に来てまだ1日も経ってない。なのに、俺たちは真実に近づいている。


セブン・リングスの真実に。


お互いの胸の高鳴りが指輪から伝わる。


ガレはリリーに問いかけた。


「その手紙の内容が本当だっていう証拠は?宝石商じゃないなら相手は誰なんだ」

「そこが一番重要なところね。相手が誰かわかったからこそあたしはこの手紙の内容を信じた。パパが手紙をやり取りしてた相手は…」


妙な緊張感が部屋に走る。

ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。


そういえばさっきからメアの姿が見えない。部屋には何か嗅いだことのある甘い匂いが漂っていた。


「ずばり、外国人よ」

「…?」

「?」


ガイコクジン?かなり変わった名前の人だ。ずばり、といわれてもルーは全然ピンとこなかった。ガレも同じだったようですぐ問いかけた。


「ガイコクジンなんて名前のやつ知らないな。有名な学者なのか?」

「学者じゃないし有名でもない」

「じゃあどういう人なの?セブン・リングスに詳しいってことは何か特別な…」

「特別な人でもない」

「だからどういう奴なんだよ!そのガイコクジンって奴は」

「ガイコクジンっていうのは、ロストダリアでもジーランドでもファジーでもトンディでもニウ・カレトリアでもない所からきた人のこと。そうよね?リリー」


困惑するふたりがリリーを問い詰めているとメアが大きなプディングを乗せたトレーを手にリビングに戻ってきた。さっきから部屋に漂っていた甘い匂いはプディングの匂いだったのだ。


「美味しそうな匂い…じゃなくて!言ってる意味がわかんないよメア。どういうこと?」

「あたしはなーんにも知らない。リリーがそう言ってるだけ。それよりプディング食べてみて。絶対おいしいから」


メアは無邪気な笑顔でプディングとスプーンを配った。ルーは流されるままプディングを食べた。確かにすごく美味しい。今はそれどころではないが。


「ん!うまいな~!ロストダリアで食ったやつより全然うまい!カレトリアのよりうまいかもしれん」

「ほんとぉ?嬉しい~♪表面にしっかり焼き目をつけるのがコツよ」


ガレは遠慮なくプディングを貪っていた。さっきまでの真剣な空気はどこへやら。目の前のプディングに夢中だ。


「カフェやレストランのより全然うまいぞこれ。店が開けるんじゃないか?」

「そぉ?お店開いちゃおっかなぁ~」

「開こうぜ!そしたら俺が通うわ」

「えぇ~どうしよっかなぁ。開こうかなぁ。でもガレが来てくれるなら女の子のお客さん増えそう~」


しかもなんかメアと仲よさげだし…。


ルーはなぜかモヤっとした。状況によって全く違う表情をみせるガレのことがよくわからないからかもしれない。ガレは単純そうにみえて掴み所のないやつだ。


能天気で明るいのかと思えば、冷たくて暗かったり…どっちが本当のガレなんだろう。


「ちょっと、2人とも近すぎ。それに今は大事な話の途中でしょ?」


リリーはガレとメアの会話に割って入った。プディングを片手に。


「外国人ってのを説明するにはまず世界について知らなきゃ。あんた達はこの世界がどんな形をしてるか考えたことある?」

「形?」

「どんな形をしてて、どんな大きさで、どこから始まってどこが終わりなのかとか。真剣に考えたことはある?」


ガレはプディングを食べながら即答した。


「ねえな」


ルーもそれに続いた。


「ないかも」


リリーは床に広げられていた地図をスプーンで差した。羊皮紙で出来た古い地図だった。


古いけれどよく見慣れたその地図。


大陸ロストダリアがあり、隣の島がジーランド諸島、その右上あたりにファジー島、トンディ島、ニウ・カレトリア島と小さな3つの島が星座のように並んでいる。


ごく一般的な世界地図だ。


ルーも教科書で何度もみたことがある。何の変哲もない地図だった。


「これが何なの?確かに古い地図だけど…今の地図と特に何も変わらない気がする」

「ただの世界地図よね。あたしもずっとそう思ってた。これを見るまではね」


そういうとリリーは箱から丸い球体を取り出した。斜めに打ち込まれた細い杭で固定されていて何かが細かく立体的に描かれている。


こんな奇妙なものを見るのは始めてだ。


「なんだそれ?」


ルーが疑問を口にする前にガレが質問した。


「これはね、ズバリこの世界を立体で表したもの。要するに世界の立体模型。あたし達がいる世界はこんな形をしてるのよ!」


しばしの沈黙。


「………?」

「??」

「?」


自信満々なリリー。ガレルーメアの3人の頭上には疑問符が浮かんでいる。


世界の形を表している…?

世界の立体模型??


なにいって…


「なにいってんだお前」


ルーが突っ込む前にガレが先に突っ込んだ。


「あのね、真剣に聞いてちょうだい。あたしは冗談で言ってるわけでも頭がおかしくなったわでもない。本気で世界の話をしてんの」

「いや…いきなりそう言われても…ねえ?」

「わけがわかんねー。その丸いのと世界に何の関係があんだよ」

「あたしも何回も聞いてるけど意味わかんない。そうよね?ガレ、ルー」

「「何が言いたいかまったくわからん」」


ガレとルーは口を揃えていった。その態度にリリーはさらに深い溜め息をついた。


「はぁ~もう、どう話せばいいの…パパ帰って来て…」


リリーは父親が恋しいのか祈るような仕草をしたが気を取り直して説明を再開した。球体を指でくるくると回している。


この球体こんなクルクル回るんだとルーは感心した。


そしてある一点を指差した。

球体の下半分にある図柄。


「これをよく見て。この形、見覚えがあるでしょ?」

「……ロストダリア?」

「そうよ」


何かすごく歪んでいる気がするがロストダリアの形に似ている。しかも右にはジーランドっぽいのもある。その上の小さな点で表されているのはファジー、トンディ、ニウ・カレトリアだろうか?


「これ…」

「そう。ここに描かれてるのはロストダリアとその周辺。この模型は地球儀と呼ばれていて、この世にある全ての海と大地が描かれてるの」

「すべての海と大地?」


リリーは地球儀を回し別の場所を指差した。


「ほら、例えばロストダリアからずっとずっと東へいくと大きな大陸が描かれてる。北にも色んな大陸があるし、ジーランドみたいな島もたくさんある」


ルーとガレは地球儀をじっと見つめた。何か球体に地図を押し込んだような違和感があるが、描かれてるのは大陸と島…地図と同じような感じだ。


「つまりね、あたし達がいま世界だと思い込んでる場所は極一部の限られた地域なの。本当の世界はもっと広い。言葉が通じなかったり、気候が全く違ったりね。外国人っていうのは、例えばそう…」


リリーは地球儀の上部を指差した。


「ここみたいなロストダリアやジーランドの裏側にある場所にいる人のこと。どう?これであたしの言いたいことがわかった?」

「わかった」

「なんとなく」


ルーは正直な感想を言った。


「でも、いきなりそんなこと言われても飲み込めないっていうか…事実なら凄いことだけどさ。世界は広い…世界は丸い。そうだとして、それと俺達にどんな関係があるんだ?」


リリーはニヤリと笑った。そしてセブン・リングス伝説の一説を口にした。


「その7つの輪が揃ったとき世界を覆す力を手にするだろう」

「!」

「世界。この言葉の意味、少し変わるでしょ?知る前と知った後では。世界中の人がセブン・リングスを探してる。研究してるの」


リリーは地球儀をおき、残りのプディングを食べながら言った。


「外国人は少なくともあたし達よりセブン・リングスのことを知ってる。だからあたしはこの手紙を信じた。あたし達がこれからやるべきことは、この手紙を書いた外国人を探すこと。ここでウダウダしてても何も変わらないしね」


ガレはプディングを食べ終え、頷いた。


「確かにな」


外は暗くなり窓からは綺麗な星空が見える。すっかり夜だ。亡霊のでる時間帯。そういえば、昼に亡霊がでるようになったのはガレとペアを組んでからのような…。


「リリー、ガレ。お茶飲む?」

「おぉ」

「ちょうだい」

「ルーは?」

「俺はいいや。ありがとう」


メアはにっこり笑ってスプーンと食器を回収しキッチンへ行った。メアはこの話題にとことん興味がないようだ。


リリーは話を続けた。


「…偉そうにいろいろ言ったけど、正直いうとね、あたしも何も知らないの。パパの研究を引き継いだって言っても残ってたのはこの手紙と地球儀だけ…。他にも色々あったのかもしれないけどあたしがこの家を調べたときには処分されてた」

「処分?いったい誰が?」

「さあね。…でもあたしがもっと研究に興味をもってればこんなに遠回りせずに済んだかもしれない。パパは世界のこととか、地球儀のこととか、あたしに話してくれてたの…でもあたし何もしなかった。メアがいて、パパがいて、そのときは幸せだったから。宝石商のことは許せないけど、あたし個人で何かできるわけでもないし。今すぐ世界をどうこうする必要なんてないってね…。けどパパが元気な時にちゃんと行動すればよかったって後悔してる」


リリーは悲しそうな顔をした。


「でも今は行動してる」


ガレは言った。


「そうね」


リリーは笑った。


「これからの事だけど、明日からはまずあんた達の力を解放する練習をしましょう。 どこへ旅をするにしても亡霊との戦いは付き物だから身の安全のためにもペアで戦えるようにしておいたほうがいい」


そういうとリリーは手紙と地球儀を片付けた。メアがお茶を運んできて、ガレが飲んだ。


「ふたりともシャワー浴びる?」


リリーはお茶を飲みながら聞いてきた。そういえば海に落ちたせいで全身がベトベトだ。


「うん。貸してもらえるとありがたい」

「好きに使って。着替えはパパのがあるけどサイズは…まあ大丈夫でしょ。寝場所は上のロフトになるけどいい?」


メアはお茶を下げながらクスクス笑った。


「あそこ狭いから男の子ふたりだとくっつかないと寝れないかもね」

「くっ!?」

「俺はどこでも寝れるから別にいいぜ」

「はぁ!?」

「いつでもどこでも誰とでも寝れるのが俺の特技だからな」

「なっ…!特技って…!!」


ガレは動揺して真っ赤になるルーをからかうようにニヤニヤ笑った。それをみてメアもクスクス笑い。リリーは呆れていた。


なんだよ!?この余裕な感じ…!みんな経験者なのか…!?貞操観念どうなってんだよジーランドとニウカレトリアは…!!


「シャ、シャワー浴びてくる!!どっちにあるの!?」

「廊下をでて左」

「お借りします!!」


ルーはパニックを誤魔化すようにリビングをでた。ガレはまだニヤニヤしている。


「一緒に入るか?」

「いっ、嫌だ!不潔だ!!」

「フフフ、入っちゃえば?」

「~っ!!!」


ルーは恥ずかしくて逃げるようにシャワーを浴びにいった。


服を脱いでシャワーを浴びたら、なんだか一気に疲れが押し寄せてきた。今日1日で色んなことがありすぎた。


ジーランド諸島にきて1日。ロストダリアでガレとペアになってから7日目。


仕事をやめて、家をでて、旅にでて…。


いつも通りだったらこの時間は鉱山での仕事を終えて、家でシャワーを浴びてる時間だ。


本当に何もかも変わってしまった。

ガレが現れたあの日から。


ルーはマリナさんのことを思い出した。


ルーの初恋の人。彼女は既婚者で妊娠していた。きっともう鉱山をやめて、病院にいるだろう。もしかしたらもう子供を産んでいるかもしれない。


俺はこれから一体どうなるのだろう?


汗と汚れは洗い流せても、ぼんやりとした不安はシャワーでは洗い流せなかった。

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