セブン・リングスの秘密
リリーが抱えていたのは丸められた大きな紙の束と箱だった。リリーはそれらをドサッと豪快にリビングの床に起いた。
「ふぅ。探すのに手間取っちゃった。あたし掃除は苦手」
「だからあたしがいつも掃除するって言ってるのにさせてくれないの。お陰でリリーのパパの書斎はいつもゴチャゴチャ」
メアはそういって笑った。
「掃除はあたしの担当、料理はメアの担当。何事も役割分担は大事。ペアになったなら尚更ね。そうでしょ?」
リリーは大きな紙を広げて手を叩いた。
「みんな集まって」
4人はリビングの一画に集まった。
「ガレ、ルー。あんた達はセブン・リングスについて具体的には何も知らないって言ってた。けど『セブン・リングス伝説』は知ってるのよね?そこであたしからひとつ質問。この『伝説』をいつどこで知ったか具体的に覚えてる?」
ルーは悩んだ。
「いつ?いつって言われても…物心つくころにはいつの間にか知ってたような…うーん…」
本当に思い出せない。本で読んだような気もするし、ラジオで聞いたような気もするし、母さんが聞かせてくれたような気もする。
「俺は子供の頃カレトリアの大人に聞いた」
ガレは簡潔に答えた。
「私もそう。子供の頃から自然に知っていた。何がきっかけか思い出せないくらい自然にね。この伝説はこの辺り一帯の地域で完全に定着している。だから思い込んでいた。セブン・リングス伝説はずっと昔から伝わってきた『言い伝え』の『伝説』なんだって」
リリーは何枚かの紙を並べた。
「でもね、パパが調べた限りではセブン・リングス伝説は大昔の人が残した言い伝えなんかじゃない。これをみて」
紙に書かれていたのはリリーの父親が行った様々な地域の老人への取材記録だった。概ね80歳以上の人を対象に取材を行っていたようだ。
「これは…」
ルーはその内容に驚いた。
ほぼすべての地域の老人が自分達が子供の頃にはセブン・リングス伝説なんて聞いたことがなかったと証言していた。
ある時期から突如『セブン・リングス伝説』というものが広まり、あたかも大昔からある言い伝えのように人々の間で語られるようになったのだと。
「この記録をみる限り、セブン・リングス伝説の話が登場したのは今から70年前くらい。『伝説』なんて言われてるけど歴史は何もなく70年前に急激に広まった噂話みたいなもの」
「そうだったんだ…」
「でもこのには噂話の大元はなに?何がきっかけでこんな突拍子もない話が広まった?って疑問に思うでしょ」
それに対してガレは即座に答えた。
「政府が広めたんだろ。70年前はジェムスリングス達の‘‘ペアを作らない権利’’が保証された年だ。俺たちは法的には自由になった。でもそれじゃ亡霊は増える一方だ。だから対策としてそういう噂を流して、ジェムスリングスに見せかけの救いを与え暗にペアを組むことを促進した」
ルーは呆気にとられた。話してる内容も驚きだがガレはこんな真面目なトーンで話すんだと。
「そうね。ガレの言うとおり。社会と折り合いをつけるために州政府が流した嘘。でもそれはある時からジェムスやリングスの間で信仰に変わっていった。社会からの圧力でペアになる道を選ばざるを得ない彼らには、たとえ嘘でも信じるものが必要だった」
「だろうな」
ガレは他人事みたいな口調でそっけなく答えた。 ルーは慌てて質問した。
「ちょっと待ってくれ。ガレはそこまで知っててなんでセブン・リングス伝説は本当にあるって信じてるんだ?今の話じゃただの噂話で伝説自体がでっち上げじゃないか。セブン・リングスなんて存在しないんじゃないの?」
「それは……」
ルーの質問にガレがハッキリ答えないでいると、リリーが話題を変えた。
「確かにただの噂だけれど」
狼狽えるルーにリリーは笑った。
「でっち上げとは限らないでしょ?」
リリーは新たな資料を出した。資料には年表とそれに比例した何かの数字が書かれている。
「これはこの辺り一帯で起きた過去70年間の亡霊の年間発生件数をまとめた記録よ。公式な記録はないからパパが調べあげた」
この資料をみる限り、70年前は年間7、8件ほど。そこから数十年間はほぼ横ばい。今とは比較にならないほど少ない。
「昔は今ほど亡霊は発生してなかった。価値観の変化でペアをつくらないジェムスやリングスが増えたからじゃないか?って学者はいう。けどそれだけじゃ説明がつかない。こっちに当時ペアを作らず死んだジェムスリングス達の名簿記録がある。けど彼らが死後亡霊になったケースは一割にも満たない」
ルーは資料をみた。確かに全体の数と比較した割合が今とは全然違う。
「…今は四割が亡霊になるって言われてるのに」
「そう。亡霊になる確率が高くなってる。だからあたしは何かもっと別の原因があるんじゃないかって思う。ここをみて」
リリーは24年前の所を指差した。
亡霊の発生件数は24年前を機転におよそ二倍に増えていた。前年までは7件ほどだったのにその年から14件に増えている。
「増えてるでしょ?いきなり二倍に。そしてここから2、3年間隔で倍になる年がある。かけ算みたいにね。そんで18年前。あたしが生まれた年。この年も微妙に増えてる。ほら、ここもみて、16年前…14年前…あんた達が生まれた年も前年より増えてるでしょ」
確かにルーが生まれた年、ガレが生まれた年にも前の年度と比べて亡霊が増えていた。
「…俺たちの誕生と亡霊が増えることには何か関係がある」
ガレは呟くように言った。
「このデータだけじゃ何も言えない。偶然かもしれないし、仮に亡霊が増えたとしてセブン・リングスと何の関係が?って聞かれたら答えれない。でも今朝あんた達を襲った魚の亡霊。あんなのあたしとメアがペアなるまでは発生したことなかった。動物の亡霊が発生するなんて今までの常識ではありえないはず。そうでしょ?」
「うん」
それについてはルーもずっと考えていた。
ロストダリアとその周辺地域では昆虫や微生物などを除くほぼ全ての生き物が心に石を宿す。
当然、原石や金属を宿すジェムスやリングスの動物も生まれる。
だが人間以外の動物は亡霊にならない。
動物は人と違って必ずペアを作る。
自然界では繁殖の時期にペアをつくり、人の飼育下にある家畜もジェムスやリングスが生まれた場合は人が強制的にペアをつくって亡霊の発生を防いでいる。
人間以外の亡霊が発生することは本来ありえないはずなのだ。
「俺たちがペアになることで今まではありえなかったような変化が次々に起きてるわけだ」
「そういうことね」
「…それは俺たちがセブン・リングスであるってことを示してる…ってこと?」
「それだけでこんな大袈裟に話してるわけじゃない。実はもっとちゃんとした証拠がある」
リリーは古びた地図と手紙を広げた。
「パパは研究の最中に誰かと手紙のやり取りをしていた。宝石商への手紙はたくさんあったんだけど、これは何か…宝石商を相手に書いている感じじゃなくて…。しかも驚くようなことが書かれていた」
リリーは何枚かの手紙の最後のページをみせた。そこにはこう書かれていた。
『私の愛しい娘、リリーが今日メアとペアになった。立会人になるのは父親として複雑な心境だったが、驚くべきことに二人の体に生じた変化は彼女達がセブン・リングスであることを示唆していた』
『リングスの上半身、ジェムスの下半身、それぞれの武器または動物への変体。これらはセブン・リングス達に共通している』
『あなた方の研究報告をみる限り、これまでに成立したセブン・リングスは全部で5つ。そこに私の娘リリーとメアが加わり全部で6つのセブン・リングスが揃った』
『残るセブン・リングスはあと1つ』
ルーとガレは顔を見合わせた。
リリーとメアはふたりを見た。
『7つの輪はもうすぐ揃う』
手紙の最後はこう締め括られていた。




