羊料理
ガレは手をふりながら砂浜を歩いてきた。隣には背の低い女の子。おそらくジェムスでリリーのペアだろう。
二人は親しげに談笑しながらルー達のところまでのんびり歩いてきた。
「おまたせ~」
「メア、遅い!」
リリーは不機嫌そうに声を張り上げた。
「ごめんて。カレトリアのこと聞いてたら遅くなっちゃった」
メアと呼ばれた少女は翡翠を思わせる薄い緑色の髪と瞳に肌は褐色でかなり小柄な子だった。
「世話になったなメア」
ガレはメアにそういうとルーのところへきて何事もなかったように話かけてきた。
「ルー」
ガレの声は低くもなく高くもなくいつも穏やかで耳にするとそれだけで落ち着く。
「無事でよかった。はぐれた時はどうなるかと思ったが」
「うん。ガレは?怪我はないのか?」
「ない。大丈夫だ」
ガレはルーの横で仁王立ちするリリーをみた。
「あんたはリングスだな?」
「そういうあんたもリングスでしょ?」
数秒の沈黙。場に微妙な緊張が走る。リングス同士が遭遇する現場に居合わせるのは初めてだ。リングスの心には金属が宿る。金属には様々な性質があり、金属の種類によっては触れただけで反発したり溶けたりすることもあるのだと本で読んだことがある。原石のジェムス同士では起こらないリングス特有の現象。
トラブルが頻発するのでリングス同士は極力接触を避けるのが基本らしいが…
この2人も喧嘩になったりするのだろうか?
しかしルーの心配は杞憂に終わり2人はお互い手を差し出し握手を交わした。
「ガレ・ルフェーベルだ。メアからいろいろ聞いたよ。よろしくな」
「ガレ。いかにもカレトリアの人って感じの名前ね。あたしはリリー・G・スタリオン。あんた達のことはいろいろ知ってる。よろしくね」
ルーはほっと胸を撫で下ろした。そしていつの間にかルーの隣にきていたメアもホッとした様子でニコニコしていた。
ガレとリリーは話があるようで真剣な顔つきで何かを話し合っていた。
そんな二人を横目にメアはルーの隣で楽しそうに言った。
「リリーとガレ仲良くなれそう。そうよね?ルー」
「え!?ぁ、ああ、そうっぽいな」
「あたしメア。よろしくね!」
「あっ、俺はルー…。よろしく」
そつ言うとメアはルーに握手を求めた。ルーは求められるまま握手に応じた。えらくフレンドリーな子だ。
「ねえ!ルーの原石ってブラックオパールなんでしょ!?」
「そ、そうだけど」
「ちょっと見せて!」
「え!?」
「ちょっとだけでいいからさぁ~。だってぇ、オパールの原石って有名だよ?」
「そうなの?」
「オパールは一度も見たことないって宝石商の連中も言ってた!激レアだって!ジェムスやリングスでオパールの存在知らない人はいないって聞いたよ」
「そうなのか!?」
「マジでなんにも知らないんだね。ガレの言ってたとおりなんだ」
そういうとメアは遠慮なくルーの手をとり薬指の指輪に顔を近づけてまじまじと見た。
「ちょっと!あっ」
ルーは動揺した。
女子にいきなり手に触れられたのもあるが指輪の原石に息がかかるのと…なんか…ちょっと変な気分になる。指輪は剥き出しだが体の内側みたいに敏感なのだ。
「うーんこれじゃ小さくてよく見えない」
メアは不満そうに呟いた。
「原石出して見せて!」
「原石…?」
「そう!原石のデカイやつ!」
「ペアになっても原石は出せるものなのか?」
「出せるよ~!じゃなきゃ綺麗に石磨きできないもん。指輪じゃ磨きにくいし。今まで通り出してみて」
メアは無邪気に笑った。
「ガレとペアになる前みたいに。ね?」
好奇心に溢れるメアの翡翠色の眼差し。
「じゃ、じゃあ」
ルーは特に何も考えず胸に手を突っ込んでブラックオパールの原石を出そうとした。
瞬間、怒りの声がした。
それはガレの声だった。
「何をやってんだ?ルー」
ルーは驚いて原石を取り出すのをやめた。別人の声かと思うほどガレの声は低く怒りに満ちていた。
「いやこの子に原石を…」
「見せるな」
「え」
「俺以外の奴に軽々しく原石を見せるな」
依然として怒りを含んだ低い声に命令口調。いつもとはあまりに違うガレの態度にルーは戸惑った。
「なんだよ。ただ見せるだけでそんなに怒ることないだろ」
「よく知らないジェムスやリングスで心の原石をだすのは危ねえんだよ。一般人に見せるのとはわけが違う」
ガレは真剣に怒っているようだった。それは理不尽なものではなく理由があって、ルーのためにもそう言っているんだと感じた。
「わかった。ごめん」
「…ならいい」
メアは隣でニヤニヤと二人を見ていた。
「束縛の強いリングスってイイよね~」
ガレはメアをちょっとだけ睨んだ。そこへリリーがきて場を仕切り直すように手を叩いた。
「ハイハイ。そこまで。とりあえず今は揉め事はなし。話し合なきゃいけないことが沢山あるでしょ?金属と原石のこと。亡霊のこと。セブン・リングスのこと。あたし達お互い持ってる情報を話し合う。そうね?ガレ」
「…ああ」
ガレはいつもの声色に戻っていた。
「じゃあ向かう場所はひとつ」
リリーは南を指差した。遠くにかすかに建物が見える。
「羊料理を食べにいこう。ジーランドといえば羊は外せない」
その発言にガレはいつもの表情を取り戻した。メアは飛び上がって喜んでいた。
4人は浜辺を少し歩き、赤レンガ造りの可愛らしい店の前にきた。店の看板には『シープミート』の文字。
「ようこそジーランド諸島へ」
リリーは自慢げに店の扉を開けた。




