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セブン・リングス  作者: しおばな
1/30

楽な生活、幸せな人生

幸せになりたい

生まれたからには誰だってそう願う

人はみな幸せを追い求め生きていく


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


はぁはぁはぁはぁ


夜。ひとりの少年が逃げている。


手には木の棒に石をくくりつけた原始的な石斧をもっている。だが、斧についた石は単なる石ではない。月明かりに照らされギラギラと輝いている。


かくばった石の塊のなかに、輝くのは原石。


「逃げるのか」


どこからか、声がする。


少年は逃げ続ける。

そして思う。


逃げるに決まってるじゃないか


逃げても逃げなくても、

結末は変わらないのだから


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡



乾いた大陸、ロストダリア

南東部/ニューダズウェル州


そこにある鉱山でひとりの少年が働いていた。名前はルー。歳は16。褐色の肌に艶のある黒髪。つなぎの作業着姿で、仕事用の保護眼鏡をかけて作業に追われていた。


「ルー!そっちの作業終わったか?」

「もうすぐ終わりそうです」

「あんまり無理すんなよ」

「はい。昼休憩までには終わらせます」


ルーはこの鉱山でとれる鉱石を電動カッターに押し当て加工する仕事をしている。


それなりに危険で、粉塵が舞う作業場は快適とは言い難くしかも給料は安い。


でもルーは気にしていなかった。危険でも汚くても仕事もそのものは単純作業の繰り返し。慣れてしまえばなんてことはない。


決して楽しくはないが楽な仕事だ。


『楽しい』より『楽』を選ぶ。

この世は苦労で溢れていて労せず生きていくことはできない。ならなるべく苦労せずに楽でいれるほうを選ぶ。


それがルーの生き方だった。


昼休憩になると、いつも顔を合わせる同僚と一緒に昼飯を食べた。


食堂でつけっぱなしにしてあるラジオからはニュースか流れていた。


『ロストダリア南東部で亡霊の目撃情報が相次いでいます。州政府は亡霊警戒情報を出し、各地区に注意喚起を行っています』


「また亡霊か、怖いねえ」

「気味が悪いよな」


ルーはもくもくと昼飯を食べながら黙ってラジオを聞いていた。


昼飯を食べ終わると、みな胸に手を突っ込み心臓の辺りから手のひらサイズの石ころを取り出した。そして各々の特製のみがき布で石ころを磨きはじめた。


‘石磨き’の時間だ。


ルーが職場でもっとも苦手な時間。みんな一斉に石を磨き始めた。


ロストダリアでは、生き物は例外なく心に石を宿している。大きさも形も重さも様々だがそれぞれ自分だけの石を心に持っている。


心の石は胸に手を突っ込めば掴むことができる。ストレスが溜まると曇ったり欠けたりするので、定期的に取り出して磨がく必要がある。


それが石磨きだ。


「なんだルー?今日も磨かないのか?」

「あっいえ…なんか恥ずかしくて」

「最近の若い子は人前で石だすの恥ずかしがるっていうからねえ」

「でも毎日ちゃんと磨いとかないとあとで医者にかかる羽目になるぜ?」

「家ではちゃんと磨いてますよ」

「昼磨かないなら夜ちゃんと磨いときなさいよ~うちの娘なんかずぼらで二日も磨かないことあるんだから困ったものよ」

「ははっ二日はすげえな」

「まったく親の気も知らないで呑気なんだから」

「ははは…」


ルーはぎこちない愛想笑いで会話をやり過ごした。ルーはある秘密を抱えている。そのせいで今でも職場にうまく馴染めないでいた。


「ルーくん、大丈夫?最近疲れてるみたいだけど」


そんな中、気を許して話せるのは3つ年上の先輩マリナさんだ。ルーが入ったばかりのころから優しく仕事を教えてくれて、今でもなにかと気遣ってくれる。


「だ、大丈夫です!」

「家帰ったらちゃんと石磨いておきなよ」

「はい、ありがとうございます」


マリナさんはにっこりと笑った。美人で、優しくて、スタイルもよくて、仕事もできる。ルーの初恋の人だ。


ラジオからはまだニュースが流れている。


『次のニュースです。隣島ジーランドでセブン・リングスの可能性をもつペアが成立したとの情報が入ってきました。2人は女性とみられ…』


ルーはそのニュースに驚き、続きを聞きたかったが昼休憩の終わりを告げるチャイムと共にラジオは切られてしまった。


「セブン・リングス…ホントにいるんだ」


ルーは誰にも聞こえぬようにポツリと呟くと足早に仕事に戻った。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


「ただいま」

「おかえり」

「父さんは?」

「仕事。ご飯何にする?」

「いいよ、自分でつくるから」

「ルーと2人だと気が楽でいいわ」


帰宅後。家には母だけがいた。ルーの両親は仲が悪い。二人で夕食を食べながら母と他愛ない会話をしているとき、何気なしに昼間聞いたニュースのことを話してしまった。


「ジーランドでセブン・リングスかもしれない人達が見つかったんだって」


言った瞬間まずいと思ったがもう遅かった。


「私たちには関係ないことでしょ」

「…うん、ごめん」

「なんで謝るの?」

「いや別に…ごちそうさま」

「ごはん全然食べてないじゃない」

「残しといてくれれば明日食べるよ」

「そう」

「じゃあ、部屋にいるから」


気まずい雰囲気に耐えきれずルーは夕食を切り上げて自室に籠った。


ドアを閉め、ラジオをつけて公共放送の番組を聞いた。学者がセブン・リングスについて話る番組だった。


※※※※セブン・リングスの真実※※※※


このロストダリアでは人に限らず、全ての生き物が心に石を宿しています。丸石、四角い石、軽石、重石…形も重さも様々ですが全ての生物が心に石を宿している。


通常は単なる石です。しかし稀に、宝石質の『原石』を宿すことがある。我々はその稀なケースを『ジェムス』と呼んでいます。


そしてジェムスよりもさらに稀なのが心に『金属』を宿す『リングス』です。彼らリングスは生まれたときから自分の金属にあった原石、つまりジェムスを探しています。


ジェムスとリングスは、立会人の前で誓いをたてることでペアと呼ばれる特別な関係になることができます。


ペアになることで心の石、ジェムスの原石とリングスの金属とが融合し新しい形になる。いわば精神の融合です。


まるでおとぎ話のようですね。


しかし残念ながらジェムスとリングスはロマンス溢れる運命の相手というわけではありません。むしろその真逆で天敵、宿敵と言っていい間柄です。


金属をもつリングスはジェムスを見つけると自分の金属に合致するよう原石を傷つける性質があります。


またリングス自身もジェムスとペアになることで元の金属の形が大きく歪み精神に異常をきたすことがあります。


ジェムスとリングス。彼らはペアになるとお互い必ず不幸になる。


学術的には相性のいいジェムスとリングスはこの世界には存在しないとされています。

しかしながら、ロストダリアとその周辺地域にはとても有名な伝説がありますね。


‘‘この世には相性のいい『ジェムス』と『リングス』が7つある。その7つの輪が揃ったとき、世界を覆す力を手にするだろう’’


俗に言うセブン・リングス伝説です。


このセブン・リングス伝説を信じ、今日に至るまで数えきれないほどのジェムスとリングスがペアになりました。


傷つき、傷つけ、時にはお互い死に至る。けれど彼らはそうまでしてでもセブン・リングスの存在を信じた。


それは力を欲したからではありません。世界を覆したいわけでもなければ、伝説の真偽を確かめるためでもない。


夢も希望も愛もない

けれど彼らは誓いました。


彼らはそうせざるを得なかったのです。

彼らには信じるものが必要でした。


なぜなら彼らは……


※※※※※※※※


ブチッ


ルーはこの先を聞くのが嫌でラジオを切った。ベットに寝転がり、自らの胸に手を入れ心の石を取り出した。


一見すると大きいだけのゴツゴツした石。


だが光にあてると、普通の石の間に黒く光る不思議な色合いの原石がまじっている。


ルーは『ジェムス』だ。心にブラックオパールの原石を宿している。自分がジェムスであることは、周りの人には隠している。


ルーの両親はジェムスとリングスだ。

父親はジェムスで母親はリングス。


ルーの両親は仲が悪い。

仲が悪くて当然だった。

当然のなり行きだった。


なのに、なぜ?


ルーは考えるのをやめ、そのまま眠った。

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